大判例

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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和29年(う)328号 判決

控訴人 被告人 北村善六

検察官 宮崎与清

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人正岡正延の控訴趣意は、昭和三十年一月十一日付控訴趣意書記載の通りであるから、此処にこれを引用する。

論旨第一点について。

原判決挙示の証拠を綜合すれば、原判示の事実、すなわち、「被告人は、法定の除外事由がないのに、昭和二十八年十一月下旬頃肩書居宅に於て、政府以外の者である岡田孝義から、営業の用に供する目的で、粳玄米約四十俵を代金二十万円で譲受けたものである。」ことを肯認するに十分である。論旨援用の資料に依れば被告人は右玄米を購入するに際し、必ずしも其の悉くを、醸造の用に供する意図をもつてしたものでなく、其の一部については、杜氏、蔵男等滞在中の酒造職人の食料に、これを充当費消すべき企図をも抱懐して居たものであつたことを認め得べく、従つて、この意味に於て、本件玄米中には、飯米用として購入された部分をも包含するものであること、まことに所論の通りであるけれども、しかしながら、また、論旨援用の資料に依れば、被告人は、醸造用の部分と食料用の部分とを区別した上、別個の行為をもつて、各これを買受けたものでなく、一個の売買契約に基き、一回の履行行為により、しかも、一括してその全部の引渡しを受けたものであることが明白であるから、該事実に徴しこれを被告人の意思より推論すれば、本件玄米は包括的な意義に於て、悉く醸造用として購入されたものと観察するを至当とするのみならず、さらに、酒造を業とする被告人に於て、自己の買受けた粳玄米を、酒造職人の食料に充当するが如きは、畢竟、これによつて自家営業上の需要を満足するに帰着し、所論の如く自家の消費を補填するものとは認め難く、従つて、被告人の本件所為は、叙上いずれの観点よりこれを判断するも、営業の用に供する目的をもつて、玄米を購入したものと認定せざるを得ないから、原判決は事実を誤認したものでなく、論旨はその理由がない。

論旨第二点について。

被告人が譲受けた玄米の数量、対価、その他諸般の事情を斟酌して案ずるに、被告人に対する原判決の量刑は決して所論のように重きに失するものとは認められない。論旨は採容し難い。

よつて、刑事訴訟法第三百九十六条に則り、主文の通り判決する。

(裁判長判事 水上尚信 判事 成智寿朗 判事 沢田哲夫)

弁護人正岡正延の控訴趣意

第一、原審判決には裁判に影響を及ぼすべき事実認定に誤りがある。

原審が被告人に対し認めた罪となるべき事実は「被告人は酒造の業務を営むものであるが昭和二十八年十一月下旬頃自家で法定の除外事由がないのに岡田孝義から営業の目的で使用するため粳玄米約四十俵を金二十万円で買受けた」と云うにあつて右約四十俵を買受けた事実は争のない所であり約と云うは右四十俵中に一俵中一、二合過不足があるかも知れないから此の意味を表はすために使用した文字であることは第一回公判に於て検察官の釈明する所で明である。而して右約四十俵が「悉く酒業の営業の目的で使用する」と認られているが果して左様であろうか。

引用する証拠の宇野泰二の副検事への供述に被告人は「職人に食はす飯米もないので米を四五十俵心配して貰えんか」と云うた(記録二一丁目裏八行目以下)とあり同人の公判廷での証言に北村方で「飯米として米が足らんで世話してくれ」と云われた(同八一丁裏)「酒を造る男達が来るので飯米が要るのだと思いました(同八二丁)その職人は二十人位で滞在期間は十一月から四月頃迄」と述べて居り証人北村静子(被告人の妻)は「職人は七名で十二月初から四月かかり迄約四ケ月間一日平均七、八人が寝泊りする配給米を持て来る人も持て来ない人も居ります」と証言していて、被告人の購入米が悉く酒造業務の目的ばかりに使用するために買入れたものでなく又現実に使用されるものでないことが立証される。

捜索差押を受けた数量は三十八俵と三斗五升であり(捜索差押調書記載)原審引用証拠の鷲津勝一郎(被告人方杜氏)の副検事への供述書にも「一俵は蔵男が食べたので押えられたのは三十九俵でなかつたかと思います」「此ような闇米は蔵男の食べるのにも要ります」(同三七丁十一行以下)とあつて本件約四十俵が悉く酒造の目的に使用するものでないことは明かである。然るに原審は之を悉く右の目的に使用するために買受けたと認めたのは誤りである。

第二、原審は審理不尽の譏りを免れない。

即ち右第一に述べた如く右約四十俵が悉く酒造営業の目的に使用するものでなく職人(蔵男)の飯米に充当する分もあるわけで之について前叙証言中少数人員を述べる証人北村静子の証言によるも七人が四ケ月米食するとせば、百二十日間で延べ八百四十人となり之が一人一日五合と観れば計四石二斗が飯米用となるわけであるから本件審理には右飯米用に所用の量を明確にすべく審理を尽さねばならぬが、それが為されて居らないので果して本件罪となるべき購入米の量が何程か明確でない。飯米用は酒造営業の目的に使用する米とは云へぬ而して之を生産者でない岡田孝義(仮りに生産者であつても本件では被告人は生産者でない宇野泰二から購入したと信じているので岡田孝義の生産者であることは問題でない)から購入は罪にならないので飯米用か酒造米用かその量を明確にすることは重要事項である。

第三、科刑が重きに失している。

(1) 前記第一第二の理由は是非容認を仰ぎたいことで事実の審理を受けたい事項であるが不幸容れないとしてもそれは本件科刑に情状として酌量を仰ぐ資料である。

(2) 本件犯行の動機は又次で情状酌量を仰ぐ資料である。即ち飯米用の四、五石を除外しても他の十一、二石(約四十俵は約十六石となる)は酒造の補充米であつて増酒用米でない。業者としては所管税務署督励の良酒(一級酒)醸造に副いたく顧客の愛飲を受けたく同業者間の良酒醸造の競争に敗者たらざるよう念願するのは当然であつて所用米の精白度を高めるため配給量では搗減りのため不足するので其の補充を必要としたのである。右十一、二石を使用するだけでは造石高を増すことは不可能である。それは、税務署員の臨検頻繁と云うだけでなく被告人が副検事に供述する如く仮りに米十石を使用した場合之を六石三斗に搗上げ同量の水を混して十二石六斗のもろみを造り之を絞て九・二の割合の十一石五斗余の源酒を得るわけで税務署は二割五分の搗減を認めているが督励されている良酒を得んには三割七分乃至四割の搗減を予定せねばならず税務署の認むる搗減の差一割二分乃至一割五分は之を配給の玄米以外に求めねばならぬ。右差は一割二分としても夫れは百石の造石高に対して消費されるものであり被告人方の許可造石高三百石に対しては此購入米十一、二石は決して増酒資材にならぬのである。只管良酒を得んとしての犯行として其の情は酌量を仰ぐ筋合であつて決して悪質な犯行でない。

(3) 原審で被告人は懲役四月に処せられ二年間刑の執行を猶予する旨の言渡を受けていて寛大な取扱を受けたようであるが被告人としては仮令執行は猶予されるとも懲役刑の言渡は何より苦痛とする所で敢て明察を仰ぎ金刑を希うのである。それは被告人の周辺に於ける立場であつて地方では酒の醸造家といえば名望家であり資産家であつて公職就任に懲役刑に処せられたとあつては痛苦此上もないのである。被告人は若く二十五才で今庄産業組合理事となり二十六歳時同組合長三十一歳時村長戦時中村会議員等の栄職に就く場合業界の代表に選ばれる場合を考えれば何としても懲役刑は堪えられない。既に本件購入米は没収(換価で)され既に米代の金二十万円は損失して居る関係もあるので其の事情をも汲取賜りたい。

以上のわけで懲役刑を取消して金刑に処せられたいのである。

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