大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

名古屋高等裁判所金沢支部 昭和33年(う)196号 判決

被告人 松田幸雄

主文

本件控訴を棄却する。

理由

第一点(事実誤認)について。

併し原判決挙示の証拠殊に司法警察員に対する浜田美子の供述調書中「私の隣の機械で松田さんが一生懸命パチンコをして居りました。機械裏のガラスよりよく見ると手に余り持たない様に思つたので二人で宿銭や食事代等を含めて一日六百円かかるので、少しでもこれらの費用に充てようと思い、悪い考を起して当り玉にも入らないのに本当に当り玉に入つた様に見せかけて機械の横に出ている長さ十五糎、幅一糎、厚みのない角形の細長い玉が続いて並んでいる棒の下の方に、右の人指指を入れて、二十回位、一回十五個計三百個を松田さんに流しました。」なる旨の同人の供述記載(記録四十六丁)、検察官に対する同人の供述調書中「私は松田が来ていることが判つたので、私は当り穴に入つて居らないのに(中略)玉を流し出してやりました。之は機械の表でやつておれば、当り穴に入つておらないのに玉が流れ出ますから松田さんでは直ぐ私が流し出しているのだと言う事が判つたと思います」なる旨の同人の供述記載(記録五十三丁裏)、司法警察員に対する被告人の昭和三十三年九月二十六日附供述調書中「私は美子と肉体関係もあり、私がパチンコ機械につながつてパチンコをすると、当り穴に入らないのに、裏側において幾らか流してくれるものと思い、声のした機械の前に行きパチンコを始めました。(中略)そのうちに当り玉に入らないのに続けさまに四、五回流れてパチンコ玉が六、七十個位出て来ました。(中略)これは美子が私のパチンコをしているのを見て、当り玉に入らないのに内妻関係にあるので損をさせてはいけない、少しでも儲けさせてやりたいという考えで流したものと思います」なる旨の同人の供述記載(記録七十九丁裏)を総合すれば、被告人は内縁の妻浜田美子と相互に意思相通じて、原判示の日時、原判示のパチンコ遊技場シローこと江川タカ方店舗において第百三十二号パチンコ機械により、右浜田美子をして右機械裏の通称「イカリ」を押えて玉を流し出させる方法により江川タカ所有のパチンコ玉約三百個を窃取したものであることを認定することができるのである。弁護人は、「(一)被告人と浜田美子との間に共謀関係はない。(二)浜田美子の不正行為により放出された玉は、機械より外部に流出すると同時に何人にも自由に処分し得る状態に置かれるものとみるべく、被告人がかかる状態におかれた玉を取つたとしても、それは遺棄された物の取得にすぎず窃盗罪が成立するものと謂い得ない」旨主張する。併し乍ら二人以上の者が共謀して各自犯罪の全部又は一部を分担実行した場合の共同正犯が成立するためには、其の二人以上の者の間に相互に意思の連絡即ち共同犯行の認識があれば足り、いわゆる謀議又は通謀の存することを要しないと解すべきこと判例の繰返し判示するところである。(大審院大正十一年二月二十五日判決、集一巻七九頁、同大正十五年十二月二十三日判決、集五巻五八四頁参照)。本件について之をみるに前顕証拠によれば(一)前記パチンコ店の店員浜田美子と被告人とは内縁の夫婦関係にあること(二)被告人はかかる身分関係を利用し浜田美子の勤務する前記パチンコ店において同女の働いているパチンコ機械の附近において客としてパチンコ遊技を始めた際、被告人は当り穴に玉が入らなくても同女がいわゆる「イカリ」を押えて玉を流出させてくれることを期待し之を希求していたこと、(三)浜田美子も亦被告人が同店においてパチンコ遊技をしていることを知り、被告人の打ち出した玉が当り穴に入らないにも拘わらず、夫婦間の乏しき生活費の資とすべく、故意に被告人の使用せる第百三十二号機械の裏側より、其の「イカリ」を押えて玉を放出させたこと、(四)同女が被告人のために放出した玉は単に一、二回に止まらず二十回約三百個(一回十五個の割合)の多数に亘り継続してなされたこと、(五)被告人は自己の打出した玉が当り穴に入らない事を認識し乍ら浜田美子の意図を察知し、其の意図に従つて同女の放出した玉を自己に領得したものであつたことを夫々認め得べく、かかる情況のもとにおいては店員たる浜田美子と客である被告人との間における各不法領得の意思は相互に照応しつつ合致し間然するところがないから、両者の主観においては相互に意思の連絡即ち共同犯行の認識があつたものと謂うべきである。従つて所論援用にかかる証拠によれば所論の如く、右両者間に謀議乃至通謀の存した事実は之を認めるに至らないけれども、尚両者間に共謀関係があつたものと認めざるを得ないのである。

又所論(二)について検討するに前段認定の共謀関係を除外し、被告人の打出したパチンコ玉が当り穴に入らないにも拘わらず店員の流出した玉を被告人が取得した場合であつても、その取得以前に於ける流出されたパチンコ玉の占有は依然としてパチンコ店の経営者乃至管理者にあるのであつて、所諭の如く何人にも自由に処分し得る状態に置かれたものではない。従つて斯かる管理者の占有を排除して、不法に玉を領得する行為は矢張り窃盗罪が成立すること多言を要しない。

原判決が被告人の所為を以て前記浜田美子と共謀の上前記パチンコ玉を窃取したものと認定した点につき所論の如き事実誤認はないから論旨は採用し得ない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判官 山田義盛 沢田哲夫 辻三雄)

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

本サイトは報道(不特定かつ多数の者に対して客観的事実を事実として知らせること)を事業としており,掲載された全ての情報は報道等に活用することを目的としています。

©daihanrei.com