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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和34年(う)203号 判決

被告人 二宮基

主文

原判決を破棄する。

被告人を科料五百円に処する。

右科料を完納することができないときは金弐百五拾円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

本件公訴事実の要旨は、被告人は昭和三十四年四月十日午後二時二十分頃敦賀市松島百三十字松原地先道路において池田節夫の運転する二人以上の乗車に適する乗車台、両手握り及び足かけの装置のない自転車に同乗したものであつて、被告人の右所為は道路交通取締法施行令(以下施行令と略称する)第四十一条、福井県道路交通取締規則(昭和三十年三月二十二日福井県公安委員会規則第八号、以下規則と略称する)第七条第一項に違反し、施行令第七十二条第三号に該当するというにあり、之に対し原審は、右公訴事実は証拠によつて認めるに十分であるけれども、規則第七条第一項は「令第四十一条の規定により自転車又は原動機付自転車に二人以上乗車して通行してはならない。但し操縦者が一四才以上の者であつて、二人以上の乗車に適する乗車台両手握りおよび足掛けの装置がある場合は此の限りでない。」と規定し、右遵守事項の義務の主体について乗車させた者と乗車する者とを区別しない規定の仕方をしているが、併し右法条は制限人員を超える乗車をさせた操縦若しくは運転者ないしは二人以上共同して一部が自転車等の操縦、運転に、他の一部が其の推進に関与し、若しくはいずれもが操縦、運転及び推進に関与した者を取締の対象に予定したものであつて、被告人のように操縦推進等に関与しない単なる同乗者は之が義務者に含まれないと解すべきであるとし、其の理由として、施行令の施行に伴い廃止せられた道路交通取締令(昭和二十二年内務省令第四十号、以下旧令と称する)は其の施行当初においては諸車の使用主又は運転者を義務者として規定し、其の第三十五条第一項において乗車積載の方法につき同第二項において乗車積載の位置につき一般的な制限規定を設け、第三十六条において自動車、第三十七条において諸車のうち荷車につき夫々乗車人員、積載重量(又は容量)の面から右第三十五条の一般的制限内容を具体化する構造をとつていたところ、昭和二十四年十月三十一日総理府令第二十七号を以て旧令を改正し第三十五条第三項により、諸車の使用主又は運転者以外に諸車に乗車する者も亦新たに義務者として登場することとなつたが其の乗車する者が遵守すべき義務の内容は第三十五条第一、二項所定の一般的制限事項に止まつて第三十六条第三十七条所定の具体的制限事項にまで及ぶものとは解せられず、更らに昭和二十七年七月十七日総理府令第四十号を以て、新たに其の第三十七条第四項を設け「都道府県知事は自動車(そのけん引する車を含む)及び第一項の荷車以外の諸車につき乗車定員、最大積載量又はけん引の制限を定めることができる。」旨の規定を置いたけれども右条項は第三十六条(自動車)第三十七条第一ないし三項(荷車)と並行して(其の他の諸車)につき使用主又は運転者を義務者とする第三十五条の具体的制限規定を設ける趣旨のものであつて、乗車する者を義務者とする制限立法を都道府県知事に委任したものでなく、右条項は旧令の廃止と共に新たに施行せられた施行令第四十一条において同一内容の規定として置かれているけれども(但し「都道府県知事」とあるを「都道府県公安委員会」と「乗車定員」を「乗車人員」等と改訂した)同条も亦旧令第三十七条第四項と同様に「其の他の諸車」に乗車する者をまで義務者とする制限立法の制定を公安委員会に対し委任したものとは解せられないのであるから、同条に基いて制定せられた本件の規則第七条第一項は根拠法令による委任の範囲を超える制限事項を制定する筈はなく、又制定することもできないのであつて、結局規則第七条第一項は「其の他の諸車」の運転ないし操縦者を義務者として乗車の制限をしたものであつて乗車する者にまで其の遵守を要求しているわけでないから、被告人の本件所為は罪とならないとして無罪を言渡したことは所論のとおりである。

これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。即ち施行令第四十一条の規定は公安委員会が道路における危険防止及びその他の交通の安全を図るため、その管轄地域の道路及び交通の実情に照し必要と認めるときは諸車の使用主又は運転者のみならず之に乗車する者に対しても制限規定を定め得るものと解するを相当とする。其の理由は次のとおりである。

一、凡そ道路交通取締法が道路における危険防止及び其の他の交通の安全を図ることを目的とするものであることは同法第一条の規定により明らかなところであり、近時における我国交通事情の著しい変化に即応して其の取締の必要上同法及び其の委任命令ないし附属法規に対しなされた屡次の改正法規も亦右の目的に奉仕するものであることは言を俟たぬところであり、右の諸法規を解釈するにあたり原判決のように規定の沿革を検討することも肝要であるが、これにのみ拘泥することは、法令解釈の正鵠を失するもので、むしろ法の目的を逸脱しないよう留意することこそ必要である。原判決をみるに道路交通取締法の委任命令たる旧令並びに施行令の制定の経過は原判示のとおりであつて、其の制定の経過よりすれば旧令制定の当初において原判示のとおり旧令第三十五条ないし第三十七条はいずれも諸車、自動車、荷車の使用主又は運転者を其の遵守義務者とする規定であつたところ昭和二十四年十月三十一日総理府令第二十七号を以て旧令第三十五条に第三項を新設し「諸車に乗車する者は前二項の規定の違反となるような乗車をしてはならない」旨規定すると共に、旧令第三十八条の二を新設し「第三十六条第二項但書又は前条第二項の規定により貨物自動車に乗車する者は、荷台にすわらなければならず、且つ身体の一部を荷台の外に出してはならない」と規定し、新たに諸車又は貨物自動車に乗車する者に対する取締規定を設けるに至つたのであるが、これは諸車の激増及び乗車する者の態度等に鑑み、単に諸車の使用主又は運転者のみを取締るのみでは不十分で、前記の危険防止及び交通の安全確保のためには乗車する者自体に対する取締の必要が増大するに至つたからである。其の後更らに昭和二十七年七月十七日総理府令第四十号を以て旧令第三十七条第四項に「都道府県知事は自動車(そのけん引する車を含む)及び第一項の荷車以外の諸車につき乗車定員、最大積載量又はけん引の制限を定めることができる」旨の追加規定が設けられるに至つたが、此の追加規定には其の規定の適用を受くべき遵守義務者を諸車の使用主又は運転者にのみ制限しているものとは解せられない。蓋し自動車及び荷車を除く諸車には各種のものがあるのみならず、遵守義務者を諸車の使用主又は運転者にとどめるべきか、其の他の乗車者をも加えるべきか、又乗車定員、最大積載量を如何に定むべきかについては各都道府県知事が各都道府県の交通や道路の状況を仔細に検討した上、実情に即して決する必要があり、其の決定を都道府県に一任するのを相当としたものである。右の旧令第三十七条第四項は、旧令第三十五条第三項において諸車に乗車する者の一般的遵守事項を規定した後に定められたものであるから、諸車の使用主、運転者のみならず、之に乗車する者の遵守事項に関する規定を設けることも都道府県知事に委任する趣旨であると解せられるのである。而して此の規定を受継した施行令第四十一条は、右の「都道府県知事」とあるを「都道府県公安委員会」と改めた外は趣旨において右規定と殆んど同一であつて、自動車荷車を除くその他の諸車の使用主又は運転者は勿論、必要ある場合には之に乗車する者の遵守事項を設けることを都道府県公安委員会に委任した規定であるから、同条に基き福井県公安委員会によつて制定された本件の規則第七条第一項が自転車又は原動機付自転車の使用主又は運転者の外に、之に乗車する者の遵守事項を規定したことは右の委任の範囲を逸脱するものではない。

二、自動車と自転車の構造用途に伴う両者の法規上の区別をみるに、凡そ自動車は道路運送車輛法により「乗車定員、又は最大積載量について運輸省令で定める保安上の技術基準に適合するものでなければ運行の用に供してはならない」(同法第四十二条)と規定され昭和二十六年七月二十八日運輸省令第六十七号道路運送車両法の保安基準により「自動車の乗車装置は乗車人員が動揺、衝激等により転落又は転倒することなく安全な乗車を確保できる構造でなければならない。」(同令第二十条第一項)と定めてある外、運転者席、座席、立席(同令第二十一条ないし第二十三条)等につき技術上の保安基準を設けて万全を期しているのに反し(軽自動車については前記保安基準第五十六条第二項により運転者席以外に乗車装置を備える二輪の軽自動車の乗車定員を二人と定めている)二輪自転車についてはもともと乗車定員がなく、通常一人乗りとして製作されているものであり、自動車におけるが如き乗車装置に関する保安基準がない。二輪自転車には荷台の装置の設けたものと、之を設けていないものがあるが、荷台の装置が設けてあつても、荷台は本来荷物積載場所であつて人を乗車させるためのものではないのである。(旧令第三十五条第二項に関する最高裁判所昭和二十九年二月二十五日第一小法廷判決、刑集八巻二号一六九頁は施行令による改正のため本件に妥当しないものとなつた。)従つて前記の如く厳格な保安上の技術基準に適合し運行の用に供している貨物自動車においてすら、特定の場合を除き其の荷台に乗車させることを禁止されているのであるから(施行令第三十九条第二項但書)二人以上の乗車に適する装置のない二輪自転車に二人以上乗車することはたとえ後部荷台に乗車した場合でも、危険防止又は交通の安全を図る目的に照し、公安委員会が其の運転者及び同乗者の双方を処罰の対象として制限義務者となし得ることは施行令第四十一条の趣旨とするところと解すべきであつて、同乗者を処罰の対象より除外すべき理由はない。

以上の理由により原判決は施行令第四十一条の解釈適用を誤つた結果被告人に対し無罪を言渡したものであり此の誤は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり原判決は破棄を免れない。

よつて刑事訴訟法第三百九十七条第三百八十条に則り原判決を破棄し同法第四百条但書により当審において自ら判決する。

(罪となるべき事実)

被告人は昭和三十四年四月十日午後二時二十分頃敦賀市松島百三十字松原地先道路において池田節夫の運転する、二人以上の乗車に適する乗車台、両手握り及び足掛けの装置のない自転車に同乗したものである。

(証拠)(略)

(法令の適用)

法律に照すに、被告人の所為は道路交通取締法施行令第四十一条第七十二条第三号罰金等臨時措置法第二条福井県道路交通取締規則(昭和三十年三月二十二日福井県公安委員会規則第八号)第七条第一項に該当するから所定刑中科料刑を選択し所定科料額の範囲内において被告人を科料五百円に処し、右科料を完納することができないときは刑法第十八条第二項に則り金弐百五拾円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、当審における訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項但書により被告人に負担させないこととする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 山田義盛 辻三雄 干場義秋)

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