大判例

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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和45年(う)39号 判決

被告人 加藤和公

主文

原判決を破棄する。

被告人を罰金五、〇〇〇円に処する。

被告人において、右罰金を完納できないときは、一日を金五〇〇円に換算した期間被告人を労役場に留置する。

当審における訴訟費用は、被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、福井区検察庁検察官鈴木信男作成名義の控訴趣意書に記載されているとおりであるから、これを引用するが、その要旨は、労働基準法(以下、単に法と略記する)四二条、四五条、労働安全衛生規則(以下、単に規則と略記する)六三条一項の規定によつて、使用者が危害防止のため必要な措置を講ずべき対象とされている機械、器具その他の設備は、使用者の使用する労働者が、作業場において直接取扱うものであることを要しないのは勿論、そのものが使用者の所有または管理に係るものに限ると解すべきでもない。当該使用者の労働者が作業場において直接取扱わず、かつ、当該使用者の所有、管理する機械、器具その他の設備でない場合であつても、その労働者が作業上接触する危険がある限り、当該使用者は、これに危害防止の措置を講じなければならないことを規定しているものと解すべきであるのに、本件公訴事実記載のとおりの事実を認定しながら、前記とことなる見解をとり、本件動力用シヤフトは、使用者である被告人において危害防止のため必要な措置を講ずべき機械、器具、その他の設備には該当しないとして無罪の言渡をした原判決は、法令の解釈適用を誤つたもので破棄を免れないというのである。

まず、原審で取調べた証拠を綜合すれば、本件公訴事実記載の事実は十分認められ、右認定を覆すに足る証拠は全くない。

そこで以下案ずるに、法四二条は、「使用者は、機械、器具その他の設備、原材料若しくは材料又はガス、蒸気、粉じん等による危害を防止するために必要な措置を講じなければならない。」と規定し使用者がいかなる危害防止措置を講ずべきかについては、法四五条がこれを命令で定めるとし、これを受けて、規則がその第二編において、いかなる設備等にいかなる危害防止措置を講ずべきかを具体的に定めているものであるが、法及び規則は、規則一〇九条の二の一項六号、一二七条の八、一六三条の七等明文をもつて定めている特殊な場合を除けば、右危害の発生する危険のある設備およびこれに対する使用者、労働者の関係については一般的に何等明らかにしていない。確かに、法、規則を通観するとき、使用者が講ずべき危害防止の措置の対象とされるものは、原則として労働者が、当該使用者の所有或は使用、管理する工場、事業場等の作業場において直接取扱い、または接触する危険のある機械、器具その他の設備であり、従つて当該機械、器具その他の設備を所有或は管理する使用者に対して危害防止の措置を命じているものと解される余地がないではないが、法及び規則制定の趣旨は、使用者が、その使用する労働者を作業上の危害から防護するために講ずべき措置を設け、使用者はその遵守を命ずることによつて、労働者の作業上より生ずる危害の発生を最少限度にとどめようとすることにあり、規則一〇九条の二の一項六号、一二七条の八、一六三条の七等が、当該危険な設備を所有管理する者のみを対象として設けられたものではなく、労働者をして右のような危険な設備に接近して作業をさせる場合の使用者に対しても、その設備等による危害防止のために講ずべき措置の基準を定めていると解されること等に徴すれば、法四二条、規則六三条一項により使用者が講ずべき危害防止の措置は、当該動力伝導装置の所有或は管理する使用者が、その労働者をしてその作業場において直接これを取扱わせている場合に限定されるものではなく、また、当該物件の所有管理が何人に帰属するかを問わず、広く労働者をして右のような危険な設備に接近して作業をさせる場合の使用者に対しても、これを要求されるものと解するのが相当である。

従つて、右の見解と異り、当該危険設備の所有或は使用、管理者でない被告人に、法四二条、四五条、規則六三条一項の違反は成立しないとして無罪の言渡をした原判決は、右法令の解釈適用を誤つたものであるといわざるを得ず、その誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから破棄を免れない。論旨は理由がある。

なお、本件足場板が、規則六三条一項にいわゆる「床面」に該当することは、規則一〇八条の三の一項の規定に照らして明らかである。

よつて、本件控訴は理由があるので刑事訴訟法三九七条一項、三八〇条に則り原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により直ちに裁判できる場合であると認められるので、当裁判所において更に判決する。

(罪となるべき事実)

被告人は、家屋建築請負業を営み、昭和四四年二月はじめ以来、石川県加賀市分校町リ一一番地甲所在小原産業株式会社分校第二工場の増築工事を請負い、配下労働者を、右工事現場で働かせていたところ、同月一八日、配下労働者たる高野善雄、前田克也ほか二名に天井下地作業、および既設工場と増築工場との境をなす間仕切下見板取り外し作業を行なわせるに際し、天井下地作業のための足場板の上方約六五糎のところに、右間仕切下見板を貫き一、〇七米突出し回転している右既設工場の織機動力用シヤフトに、右高野、前田らの配下労働者が作業中接触する危険があるにもかかわらず、囲、覆、又はスリーブを設けなかつたものである。

(法令の適用)

被告人の判示行為は、労働基準法四二条、四五条、労働安全衛生規則六三条一項、労働基準法一一九条一号に該当するので所定刑中罰金刑を選択し、所定罰金額の範囲内で被告人を罰金五、〇〇〇円に処することとし、換刑処分につき刑法一八条、訴訟費用の負担につき刑事訴訟法一八一条一項本文を各適用し、主文のとおり判決する。

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