大判例

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大分家庭裁判所 昭和49年(家)396号 審判

申立人 津田マサ子(仮名)

相手方 滝沢順子(仮名) 外五名

参加人 小川トシ子(仮名)

被相続人 小川太郎(仮名)

主文

別紙物件目録四の土地の承継者を参加人小川トシ子と定める。

別紙物件目録一ないし三、六ないし九および一一の各物件を競売に付し、その売却代金から競売手続の費用を控除した残額の九分の三を申立人津田マサ子が取得することとし、各九分の一を相手方小川和江、同小川シズ子、同松尾光代、同滝沢順子、同伏木寿、同伏木賢次がそれぞれ取得することとする。

鑑定人株式会社吉田不動産鑑定事務所に支給した鑑定料一六万円は九分し、その三を申立人津田マサ子の負担とし、その余は相手方らの負担とする。

理由

第一申立人は、被相続人小川太郎の遺産について、遺産分割の調停を申立てたが(当庁昭和四七年(家イ)第三四一号事件)、上記調停事件は、昭和四九年五月七日、調停不成立により終了し、家事審判法第二六条、第九条一項乙類一〇号により審判に移行した。

なお、上記遺産分割申立事件の対象になつている別紙物件目録四の土地は、後記のように墳墓に準じて取扱うべきであるから、同物件については、祭具等の承継者の指定の調停申立があつたものと解し、家事審判法第二六条、第九条一項乙類六号により審判に移行した。

第二当裁判所の判断

1  相続人および相続分

申立人が提出した原戸籍抄本、原戸籍謄本、戸籍謄本によれば、被相続人小川太郎は明治四二年一二月三〇日、ミヤと結婚し、その間に長女ヨシ子、二女マサ子(申立人津田マサ子)、長男健司、二男誠、三女カオルが出生したこと、ヨシ子は昭和二年七月一四日伏木勇と結婚し、その間に相手方滝沢順子、同伏木寿、同伏木賢次が出生したこと、健司は昭和一二年五月一二日参加人小川トシ子と結婚し、その間に相手方小川和江、同小川シズ子、同松尾光代が出生したこと、被相続人小川太郎は昭和三七年九月一九日に、ミヤは大正七年一一月一六日に、ヨシ子は昭和一〇年三月六日に、健司は昭和一九年六月二九日に、誠は昭和一三年一二月二七日に、カオルは大正八年二月一三日にいずれも死亡したことが認められ、上記事実によれば、被相続人小川太郎の相続人は申立人津田マサ子、相手方滝沢順子、同伏木寿、同伏木賢次、同小川和江、同小川シズ子、同松尾光代の七人であり、その各法定相続分は、申立人津田マサ子が九分の三、相手方らが各九分の一である。

2  遺産の範囲および状況

関係の土地、家屋登記簿謄本、鶴崎支所長作成の「家屋課税台帳の嘱託について(回答)」と題する書面、大分市農業委員会会長作成の「嘱託書について(回答)」と題する書面、株式会社吉田不動産鑑定事務所作成の不動産鑑定評価書、家庭裁判所調査官岩崎正一作成の昭和四九年九月一四日付および同年一一月二〇日付調査報告書、当裁判所の吉田勝男、松尾英男(一、二回)、小川シズ子、小川和江、小川トシ子に対する各審問の結果によれば、下記の事実を認めることができる。

一  別紙物件目録一、七、八、九の土地および同一一の物置について

別紙物件目録一、七、八の各土地は、登記簿上いずれも被相続人小川太郎の所有名義であつたものであり、いずれも遺産に属する。また同目録九の土地は登記簿上は申立外佐々木進の所有名義になつているが、実質上の所有者は被相続人小川太郎であつたのであり、上記佐々木進も小川太郎の相続人に対して同土地の所有権移転登記手続をすることを承諾している。したがつて、これも遺産に属する

上記四筆の土地は合体して、別紙図面記載のように東西に長いほぼ長方形の形をしており、その南側が道路に接している。

上記四筆の境界は不明確であり、上記長方形の宅地の西側に参加人小川トシ子(被相続人小川太郎の長男亡健司の妻で本件遺産について相続権はないが、後記のような利害関係があるので本件に参加させた。)所有の木造瓦葺平家建居宅床面積七八、五二平方メートル(昭和四五年七月二〇日新築)が存在し、その中央部にかなり老朽した被相続人所有名義の別紙物件目録一一の物置が存在し、その東側に相手方小川和江所有の木造厚型スレート葺二階建居宅、床面積一階約七六平方メートル、二階約二三平方メートル(昭和四五年四月新築)があり、参加人小川トシ子と相手方小川和江がほぼ二分した形(小川トシ子の方がやや大)で利用している。

二  別紙物件目録三の土地について

別紙物件目録三の土地は、登記簿上被相続人小川太郎の所有名義であつたものであり、遺産に属する。

同土地については、相手方松尾光代の夫である松尾英男が昭和四六年一〇月頃、八五万円の費用をかけて土盛造成を行ない、その上に、非木造厚型スレート葺二階建店舗兼居宅床面積計二三四、六一平方メートル(未登記であるが、課税台帳上は松尾光代の所有になつている。)を建てて、松尾夫妻がストアを営んでいる。

三  別紙物件目録二六の土地について

別紙物件目録二六の各土地は、登記簿上いずれも被相続人小川太郎の所有名義になつていたものであり、遺産に属する。

上記各土地は、いずれも市街化調整区域に属しており、参加人小川トシ子が田および畠として戦時中から現在に至るまで耕作している。

四  別紙物件目録四の土地について

別紙物件目録四の土地は、登記簿上被相続人小川太郎の所有名義になつていたものであり、遺産に属するものであるが、同土地上には被相続人の妻ミヤ(大正七年一一月一六日死亡)、被相続人の長男健司(昭和一九年六月二九日死亡)、三女フミエ(大正八年二月一三日死亡)、二男誠(昭和一三年一二月二七日死亡)等の墓や、被相続人の死後参加人小川トシ子が建てた小川家の墓が存在し、全体として小川家の墓地を形成している。

五  別紙物件目録五の土地について

別紙物件目録五の土地は、登記簿上被相続人小川太郎の所有名義になつていたが、同人は生前、これを申立外新谷サツキに売却し、現在は道路敷になつている。したがつて同土地は遺産には属しない。

六  別紙物件目録一〇の土地について

別紙物件目録一〇の土地は、登記簿上被相続人小川太郎の所有名義になつていたものであり、同人の遺産であつたが、申立人および相手方らは、昭和四四年一〇月頃、これを申立外中央芝浦電気株式会社に対して金九七万五〇〇〇円で売却し、同会社に対して各相続人の持分移転登記が完了している。

そして上記売却代金は参加人小川トシ子において受領し、家屋の新築や仏壇および墓石等の購入に費消ずみである。

3  以上により、現存する遺産は別紙物件目録一ないし四、六ないし九および一一の各物件であるが、このうち、別紙物件目録四の土地は、前記のように、全体として小川家の墓地を形成しており、民法第八九七条のいわゆる境墓に該当するものと考えられるので、同条によりその承継者を決定すべきものと考えられる。そして、家庭裁判所調査官岩崎正一作成の昭和四九年九月一四日付調査報告書および当裁判所の松尾英男(二回目)および小川トシ子に対する各審問の結果によれば、参加人小川トシ子は、被相続人小川太郎の長男健一の妻として、小川家に嫁入りして以来、被相続人とともに同居生活を続け、健司が昭和一九年六月二九日に戦死した後も、被相続人小川太郎とともに同人の財産の管理や農業等に従事して、小川家の中心的な役割を果し、被相続人小川太郎が死亡した後は、小川家の墓を建てたり、仏壇を新調する等して小川家の祖先の祭祀を主宰してきたものであり、同人においてその承継を希望していることが認められるので、別紙物件目録四の土地は参加人小川トシ子に承継させるのが相当である。

4  なお、別紙物件目録一〇の土地は、本件相続開始後、相続人ら全員の意思により中央芝浦電気株式会社に売却され、その旨の所有権移転登記も完了しているので同土地を遺産分割の対象とすることはできないが、同土地の売却代金九七万五〇〇〇円は、同土地の相続人らである申立人および相手方らが各人の相続分に応じて分割取得すべきものである。しかるに、上記売却代金は、前述したように参加人小川トシ子においてすでに費消ずみであるから、各相続人は、上記参加人に対し別途の手続により、それぞれが取得すべき売却代金の請求をすべきであつて、本件遺産分割申立事件において上記売却代金の分割をすることはできない。

5  遺産の分割についての検討

そこで、次に本件遺産の分割の方法について検討することにするが、まず本件遺産の評価額について検討するに、株式会社吉田不動産鑑定事務所作成の不動産鑑定評価書および当裁判所の吉田勝男に対する審問の結果によれば、別紙物件目録一、七、八、九の各土地の合計価額は七六二万七〇〇〇円(平方メートル当り更地単価一万円に公簿面積合計七六二、七四平方メートルを乗じたもの、ただし一〇〇〇円未満は切捨て。なお、本件各土地の実測面積は不明であるが、吉田勝男に対する審問の結果によれば公簿面積はほぼ実地の面積に合致しているものと考えられる。以下同じ。)、同三の土地の価額は二八八万円(平方メートル当り更地単価九七〇〇円、公簿面積二九七平方メートル)、同二の土地の価額は二三二万六〇〇〇円(平方メートル当り更地単価五七〇〇円、公簿面積六二八平方メートル、ただしこの土地は参加人小川トシ子の耕作権づきであるから、更地価額の六割五分とする。)、同六の土地の価額は一〇四万三〇〇〇円(平方メートル当り更地単価三六〇〇円、公簿面積四四六平方メートル、ただし、この土地は小川トシ子の耕作権づきであるから、更地価額の六割五分とする。)とみることができ、以上の合計額は、一三八七万六〇〇〇円である。なお、別紙物件目録四の土地は前記のように墳墓として参加人小川トシ子に承継させることにするので、遺産分割の対象とすべき財産の評価額には加えず、また、同目録一一の物置は老朽化が甚しいので評価額に加えない。

そして一応この価額(一三八七万六〇〇〇円)を遺産総額とみて、各人の具体的相続分を計算すると、申立人津田マサ子の相続分は四六二万三三三三円、その他の相続人らの各相続分はそれぞれ一五四万一七七七円(一円未満切捨て)となる。

そこで本件遺産の具体的な分割の方法について検討するに、まず別紙物件目録一、七の土地上には参加人小川トシ子所有の建物が存在し、同人が居住しており、また同目録二六の土地はいずれも同人が耕作しているので、これらの土地(合計評価額七二〇万七〇〇〇円)は遺産分割に先立つて、同人に買取らせた方が好都合であると考え、その旨同人に提案したが、同人は、被相続人の長男亡健司の嫁として、本件遺産の実質的な承継者であると考えており、また申立人が本件遺産分割の申立をしたことについて著しく感情を害しているところから、上記各土地を買取る意思は全くない。また同人の支払能力などの面からも、同人が上記各土地を上記金額で買取ることは極めて困難であると考えられる。そして、上記各物件を参加人小川トシ子の希望する相手方小川シズ子に分与するとしても、同人には上記金額を支払うだけの資力がない。

つぎに、別紙物件目録八、九の各土地には、相手方小川和江所有の建物が、同三の土地には相手方松尾光代所有の建物が存在し、それぞれが使用しているので、上記各土地は、相手方小川和江、同松尾光代にそれぞれ分与するのが相当であると考えられるところ、上記八、九の土地の合計額は三七九万四〇〇〇円であるから、これを相手方小川和江に分与すると、同人の取得分は前記具体的相続分を二二五万二二二三円超過することになり、同額の金銭の支払を負担しなければならないことになる。また上記三の土地の価額は二八八万円であるから、これを相手方松尾光代に分与すると、同人の取得分は前記具体的相続分を一三三万二二三円超過することになり、同額の金額の支払を負担しなければならないことになる。

ところで、相手方小川和江、同松尾光代および同人の夫松尾英男は、参加人小川トシ子とともに、申立人津田マサ子に対して感情的に激しく対立し、また上記各土地の鑑定評価額に対しても強い不満を示している状態であつて(別紙物件目録一、七、八、九の土地の平方メートル当り鑑定評価額は一万円であるが、これとほぼ同条件の近傍住宅地の昭和五〇年一月一日現在における地価公示の公示価格は平方メートル当り五九〇〇円である。また別紙物件目録二六はいずれも市街化調整区域内の農地であるが、いずれも宅地見込地としての鑑定評価がなされている。さらに、前記鑑定価額はいずれも更地価額であるが、別紙物件目録一、三、七、八、九の各土地上には、本件相続開始後、相続権者全員の承諾なしに建物が建築されており、これらの土地について更地価額を適用することは問題がないわけではない。いずれにしても前記鑑定評価額は現実の取引価額を上まわつているものと考えられる。)、上記各金額の支払に応じる気配は全く認められない。

一方申立人津田マサ子は、昭和一六年頃から北九州に居住し、長男陽介(米、酒、煙草販売業)と同居生活を送つているものであるが参加人小川トシ子、相手方小川和江、同松尾光代らが、前記のように本件相続開始後本件相続物件上に勝手に自分の家を新築したり、別紙物件目録一〇の土地の売却代金を分配してくれないこと等について強い不満を持ち、あくまで鑑定価額を基礎にして計算された法定相続分の取得を希望している状態である。

当裁判所としては、本件各土地の利用状況を考慮するとともに、当事者の資力をも考え、当事者の金銭的な負担がなるべく軽くてすむように考え、なるべく現物による分割を考えてみたが、そのためには本件各土地の分筆測量、土地価額の再鑑定などが必要である。しかしながら当事者は本件遺産分割についてこれ以上の費用と労力をかけることを嫌い、相手方小川和江、同松尾光代、同トシ子らは、むしろ本件土地を競売に付し、その売得金を分割する方が現実的に公平であると考え、競売もやむをえないと考えている状況である。なお相手方滝沢順子、同伏木寿、同供木賢次らは、本件遺産分割についてはむしろ無関心であったが、申立人津田マサ子が本件遺産の分割を要求する以上、自分達も相続の権利を主張するという態度である。

以上のような本件各土地の形状および利用関係、相続人および参加人らの資力ならびに鑑定評価額についての問題点、申立人と他の相続人らとの対立関係、当事者の意向等を考え、本件遺産は、これを競売に対し、売却代金から競売手続費用を控除した残額を申立人および相手方らの各相続分により分割するのが相当であると考える。

6  よつて別紙物件目録四の土地の承継者を参加人小川トシ子に指定し、同目録一ないし三、六ないし九および一一の各物件は競売に付し、その売却代金から競売手続費用を控除した残額を申立人および相手方らの各相続分に応じて分配することとし、費用の負担につき、家事審判法第七条、非訟事件手続法第二七条、第二八条を適用して主文のとおり決定する。

(家事審判官 高橋正)

別紙

物件目録

大分市大字松岡字士井ノ内3814番2

23平方メートル

同所字上堺前3609番

628平方メートル

同所字筒井ノ下3519番2

原野

297平方メートル

同所字戸崎3497番

46平方メートル

同所字亀井5212番2

39平方メートル

同所字池向2913番

446平方メートル

同所字中園3883番1

宅地

360.33平方メートル

同所3882番1

宅地

350.41平方メートル

同所3881番2

29平方メートル

10

同所字惣垂4438番1

495平方メートル

11

同所字中園3883番1所在

木造瓦葺平家建物置

(登記薄上附属建物 床面積23.14平方メートル)

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