大判例

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大津地方裁判所 昭和32年(行)2号 判決

原告 正司愛

被告 滋賀県知事

主文

被告が原告に対し昭和二十二年三月三十一日別紙目録記載の農地につきなした買収処分は無効であることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文第一、二項と同旨の判決を求め、その請求原因として、原告は昭和十六年頃より別紙目録記載の各農地を所有してきたところ、被告は原告を不在村地主として昭和二十二年三月三十一日自作農創設特別措置法(以下自創法と略記する)第三条第一項第一号によりこれらすべてを買収する旨の処分を為した。しかしながらこの買収処分には次のような重大な瑕疵がある。即ち大津市農地委員会は原告を不在村地主と誤認して本件農地の買収計画を樹立したのであるが、原告はこれを知り同委員会に対し原告が在村地主であり、買収計画が不当である旨を申入れた。調査の結果同委員会に於ても原告の申入が真実であることを知つたのであるが、進行中の右買収計画を取消すことをせず、その弥縫策として一応原告より右買収計画どおり買収した上改めてこれを原告の夫たる訴外正司博美に売渡すことによつて原告の抗議を和らげることとしてその買収を実行し、同日右博美に売渡処分したのである。かような買収処分は自創法の精神に反するところで無効という他はない。よつてこれが確認を求めると陳述した。(立証省略)

被告指定代理人等は、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、原告主張事実中別紙目録記載の農地を自創法第三条第一項第一号に基きその主張の日に原告より買収したこと、同日附を以て訴外正司博美に売渡したことはこれを認めるが、その余の主張事実は否認する。昭和二十二年三月十五日大津市農地委員会に於て別紙目録記載の農地につき買収計画を樹立した当時、原告は大津市内に居住しておらず不在村地主であることが明らかであつたので、右買収計画に基き買収処分を為したのであつて本件買収処分には何等違法はない。而して同日これを当時買受の申込をしていた訴外正司博美に売渡処分をしたが、右訴外人が原告の夫であるとの事実は右売渡処分当時被告には判明していなかつたことであり、況して原告主張の如き本件買収処分の違法を弥縫せんが為に右の如く売渡処分を為したとの事実は全くない。買収処分自体が適法であることは前記の如くであり、これと別異の売渡処分に仮りに違法がありとしても、本件買収処分の効力に影響をもたらすものではないと述べた。(立証省略)

理由

別紙目録記載の各農地が原告の所有であつたところ、大津市農地委員会が右各農地につき原告を不在村地主として自創法第三条第一項第一号に基き昭和二十二年三月十五日買収計画を樹立し、同年三月三十一日附を以て被告に於て買収処分を為したこと、而して右買収農地のすべてを同日附を以て訴外正司博美に対し売渡処分したことは当事者間に争のないところである。証人浅野善一郎、同青木長三郎、同久保庄五郎、同八木二郎の各証言に成立に争のない甲第一、第九、第十号証、乙第一号証を綜合すれば、原告はもと兵庫県西宮市霞町三十三番地に居住していたが、昭和二十年二月頃には大津市石山南郷町六百七十九番地正田晴一郎方へ疎開の為移住し、爾来本件買収処分当時も引続き大津市内に居住していたこと、大津市農地委員会に於て昭和二十二年三月十五日本件各農地につき原告を不在村地主として自創法第三条第一項第一号に基き買収計画を樹立したが、同年四月十五日付を以て原告より、原告が大津市内に居住している在村地主である旨の異議の申立を受け、同委員会に於て再調査したところ、原告が右買収計画樹立以前より前記石山南郷町に居住していることが明らかとなり、右買収計画の違法であることが確認されたが、同委員会では何故かこれを取消すことなく買収計画を維持し、他面同時に原告の不服を和らげ右買収計画の違法を糊塗せんがため本件各農地につき買受資格ある耕作人が存したに拘らず、即日原告の夫である正司博美に対しこれを売渡すことを決定しその結果前記の如く遡つて昭和二十二年三月三十一日附を以て買収並売渡処分が行われるに至つたことが認められる。而して右認定に反する証拠は存しない。さすれば右買収計画は当時違法として取消さるべきこと明白であつたに拘らずその挙に出でず右認定の通り妻から買収して夫に売渡すという奇異な方法を採り敢てこれを維持したものであつて夫れ自体農地委員会が自らその違法を知り居りたることを表白するものであり自作農創設を目的とする同法の趣旨に背くところというべくその違法を承継せる本件買収処分は当然無効と解すべきである。

よつて原告の請求を認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 小野沢龍雄 林義雄 石田登良夫)

(別紙省略)

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