大判例

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大津地方裁判所 昭和37年(行)2号 判決

原告 佐藤信由

被告 大津労働基準監督署長

訴訟代理人 杉内信義 外五名

主文

被告が昭和三四年一一月九日付をもつて原告に対して為した休業補償費支給に関する処分中平均賃金の変更を求める原告の訴を却下する。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

一、原告は第一次的に被告のした行政処分の変更を求めるのであるが、被告は右訴は不適法であり却下さるべきであると主張するので、先ずこの点について判断する。そもそも行政事件に関して裁判所の有する権限は、三権分立の精神に照らし法律に特別の定めのある場合を除き行政行為の適法不適法を審査して違法な行政行為の是正をなし得る消極的作用を有するにとゞまり裁判所が積極的に行政庁に対し処分を命じ、行政庁に代つて処分をし、あるいはこれと同様の効果を生ずる判決をなすことは許されないものと解すべきである。本件についてこれをみると原告は被告のした労働者災害補償保険法による休業補償費算定の根拠となるべき平均賃金五五五円八三銭との決定を金七七八円一六銭に変更する旨の判決を求めるというのであり、これは裁判所に対し行政庁に代つて処分をし、あるいはこれと同様の効果を生ずる裁判を求めるものであり、前記説示の理由により特別の定めのない本件にあつては原告の右訴は不適法として却下するほかはない。

二、よつて進んで原告の第二次的請求をみるに、原告が本件労働者災害補償保険法第一二条による休業補償費の根拠となるべき平均賃金につき当時毎月約金二五、〇〇〇円か少くとも毎月金二三、三四五円を下らなかつたと主張する部分を除き原告の請求原因事実はすべて当事者間に争いがないので、右唯一の争点たる平均賃金額に関する原告の主張の当否について判断する。

同法第一二条によれば同条にいう休業補償費は、休業一日につき労働基準法第一二条の平均賃金の一〇〇分の六〇に相当する額とされ、労働基準法第一二条によれば平均賃金とはこれを算定すべき事由の発生した日以前三ケ月間にその労働者に支払われた賃金の総額をその期間の総日数で除して得た金額であり、前記の期間は賃金締切日が定められている場合には、直前の締切日から起算するとしている。また平均賃金算定事由の発生した日とは労働基準法施行規則第四八条によれば、災害補償を行う場合には死傷の原因たる事故発生の日又は診断によつて疾病の発生が確定した日をいうとされている。

そこで本件についてみると、さきに認定したとおり本件傷害の原因たる事故が発生したのは昭和三三年四月一五日であるところ、成立に争のない乙第三号証の五および七、証人横山美樹の証言を総合すると、前記中村建設工業所における賃金締切日は毎月一〇日であることが認められるのであつて、原告の平均賃金算定事由の発生した直前の賃金締切日は昭和三三年四月一〇日であるというべく、したがつて本件平均賃金算出の根拠となる期間は同年一月一一日から同年四月一〇日までとなるわけである。

ところで成立に争いない乙第三号証の九、支払(支給決定)決議書欄及び診療担当者の証明欄につき成立に争いがなく事業主の証明欄及び平均賃金内訳欄は証人横山美樹の証言によりいずれも真正に成立したものと認められ、爾余の部分も原告の記名捺印であることは争いないので真正に成立したと推定される乙第一号証に右横山証人の証言を総合すると、被告が査定した前記期間中の原告の平均賃金(早出残業手当、休日出勤手当、運転手当を含む)は同年一月一一日から二月一〇日まで(二月分)は金一七、三五二円、二月一一日から三月一〇日まで(三月分)は金一五、七五八円、三月一一日から四月一〇日まで(四月分)は金一六、九一五円であることがそれぞれ認められる。そして証人横山美樹、同中村一夫の証言に原告本人尋問の結果を総合すると、前記中村建設工業所においては原告ら自動車運転手が長距離の貨物運送に従事するときは、その距離の長短に応じ前記賃金のほかに現金一、〇〇〇円ないし二、〇〇〇円位を交付していたこと、右現金はほんらい油代、食費、パンク修理費用にあてるための実費として支給していたものであるが、運転手がこれら出費を要しなかつた場合でも返還を要しないこととしていたので右支給現金は一般に手当と呼ばれていたが、前記中村建設工業所はこれを賃金ないしこれと同視すべき手当として支給していたものではなく、同工業所における計理面でも給与項目ではなく一般経費として処理していたことが認められ、右認定に反する証拠はない。してみると右現金の支給分はいわゆる労働の対価として使用者が労働者に支払うものとはいえないので、労働基準法にいう賃金ではないというべく、もとより前記平均賃金に加算さるべきものではない。また前記工業所が昭和三三年九月ごろ、原告に交付した原告の給料計算書(成立に争いない甲第一号証の二)によると「四月度」の原告の本給諸手当として合計金二三、三四五円との記載がある。しかし右甲第一号証の二、前掲乙第三号証の九に証人横山美樹の証言を総合すれば、右金額には同年三月一一日以前における原告に対する未払手当等が加算されていることも考えられるのみでなく、前記計算書(甲第一号証の二)と賃金台帳(乙第三号証の九)とを対比してみると右計算書中の基本賃金額一六、五〇〇円は同年三月一一日から原告が受傷した同年四月一五日までのものを合算した額と解する余地もあるのであつて、右計算書に記載された金二三、三四五円が原告の同年三月一一日から同年四月一〇日まで(四月分)の賃金とはにわかに断定し難く、右金額が四月分の賃金であつたとの原告本人の供述も措信できない。さらに同年二月分及び三月分の原告の賃金が金二三、〇〇〇円または金二四、〇〇〇円であつたとの原告本人の供述も前記乙第三号証の九、証人横山美樹の証言に照らし信用できない。そして他に原告の同年二月一一日から同年四月一〇日までの賃金が被告の査定した前掲平均賃金額を越え原告主張の金額であることを認めるに足る証拠はなく却つて前掲各証拠を総合すれば、被告のした右平均賃金の決定は正当であることがうかゞわれるので原告の第二次的請求も理由がなく失当として棄却すべきである。

三、よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 畑健次 首藤武兵 広川浩二)

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