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大阪地方裁判所 平成元年(ワ)10549号 判決

原告

山家昭子

被告

井中三男

ほか一名

主文

一  被告井中三男は原告に対し、金七二万円及びこれに対する昭和六〇年一〇月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告株式会社長崎屋に対する請求、被告井中三男に対するその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用のうち、原告と被告株式会社長崎屋との間に生じたものは原告の負担とし、原告と被告井中三男との間に生じたものはこれを一〇分し、その九を原告の負担とし、その余を同被告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

被告らは連帯して原告に対し、金六七一万五二九四円及びこれに対する昭和六〇年一〇月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、スーパーマーケツトである被告株式会社長崎屋(以下「被告長崎屋」という。)瓢箪山店の駐車場内で、営業時間終了後に、その出入業者である被告井中が普通貨物自動車(以下「被告車」という。)を運転して後退中、被告長崎屋の従業員であつた原告の乗車する自転車と衝突し、原告が負傷した事故について、原告が被告井中と被告長崎屋に対して、民法七〇九条、七一九条に基づく損害賠償(後遺障害分を除く。)を請求したものである。

一  争いのない事実

1  交通事故の発生

日時 昭和六〇年一〇月一八日午後七時三五分ころ

場所 大阪府東大阪市神田町二一番 被告長崎屋瓢箪山店駐車場

態様 被告井中が普通貨物自動車を運転して後退中、原告が乗車していた自転車と衝突した。

2  損害の填補

原告は、労働者災害補償保険法に基づき、次の支払を受けた。

(一) 療養補償給付 五二三万八二五円

(二) 休業補償給付 二九六万四六二円

(三) 休業特別支給金 一〇六万三七九四円

二  争点

1  被告長崎屋の民法七〇九条、七一九条に基づく責任の存否(原告は、本件駐車場の照明設備が不十分であつたため、本件事故が発生したと主張する。これに対し、被告長崎屋は、営業時間終了からしばらく後には本件駐車場の照明を消灯すべき必要性があつたうえ、本件事故当時、本件駐車場は消灯していてもかなり明るく、また、原告が駐輪禁止場所に自転車を置き、来客用駐車場であるため従業員の立入りが禁止されていた本件駐車場を無灯火で走行していたとして、被告長崎屋に過失がないと主張する。)

2  原告の損害額(休業損害、入通院慰謝料、入院雑費及び通院交通費等)

3  過失相殺(被告井中は、本件駐車場は自転車の通り抜けが予定されている場所ではないのに、原告が自宅への近道をするため、あえて本件駐車場を通り抜けようとしたものであるうえ、原告が被告車の後退を認めながら、被告車が方向を変えるものと速断し、進行方向を変えることなく漫然と進行したため本件事故が発生したとして五〇パーセントの過失相殺を主張する。また、被告長崎屋は、仮に被告長崎屋に過失があるとしても、原告に九〇パーセントの過失があると主張する。これに対して、原告は、被告長崎屋が駐車場の管理、安全指導をしたことはなく、本件事故が被告井中の一方的過失に基づくものであると主張する。)

第三争点に対する判断

一  証拠(甲一ないし一〇、一五の1ないし7、一七ないし二〇、検甲一ないし九、一七ないし一九、二八ないし三六、丙三、五、一四、検丙一の1ないし3、二の1ないし3、三の1ないし9、四の1ないし7、証人大出一美、原告、被告井中各本人)によれば、以下の事実が認められ、原告本人尋問の結果のうち右認定に反する部分は採用できない。

1  本件事故状況

本件事故現場は、被告長崎屋瓢箪山店の駐車場のうち、別紙図面記載の赤線で囲まれた駐車区域(以下「第四駐車場」という。)である。本件事故当時、被告長崎屋の出入業者で、和菓子の催事販売をしていた被告井中は、本件事故当日、営業時間の午後七時が過ぎたため、第四駐車場の南東角付近に南側に向けて駐車していた被告車に乗り込み、右斜め後方に向けて時速一〇ないし一五キロメートルの速度で後退を始めた。そして、被告車が後退を始めてから約一〇・一メートル進行したところで、被告車の右側後部と原告の自転車前部とが衝突し、被告井中は、右衝突のシヨツクで初めて事故に気付き、ブレーキをかけ、右衝突地点から約二・二メートル後退した地点で停止した。他方、原告は、本件事故当時、被告長崎屋での勤務終了後、第四駐車場の北西角付近に置いていた自転車に乗つて帰宅しようとした。そして、原告は、右駐輪地点から第四駐車場を南東に横切つて第四駐車場の南東角付近の方へ進行しようとして、右駐輪地点付近から一方の足をペタルにかけ、もう一方の足で地面を蹴りながら無灯火で進行した後、サドルに腰をかけ南東方向に走行していたところ、前記のとおり、被告車が後退してきたので、おどろいて自転車から降りるとほぼ同時に被告車と衝突した。右衝突の結果、原告は、右衝突地点から約三・三メートル離れた地点に転倒した。本件事故当時、第四駐車場には、被告車のほかに、右駐車場の中央部やや北寄りの地点に清掃車が一台東向きに駐車しているだけであつた。

2  本件事故現場の状況等

被告長崎屋瓢箪山店の店舗建物は、別紙図面の青斜線部分であり、駐車場は、別紙図面記載のとおり、第一駐車場から第六駐車場まであつて、合計約三三〇台の収容能力がある。右各駐車場の周囲はフエンスで囲われ、閉店後の午後八時一五分から午後八時四五分ころまでに警備員が施錠して閉鎖していた。本件事故当時における同店の駐車場の管理方針のうち、第四駐車場については、来客用であり、従業員には原則として使用させず、同店の出入業者には商品の搬入、搬出の場合に限つて商品の搬入口に近い第四駐車場に一時停車することを認め、右業者が店内に在店している場合には別紙図面の南東側駐車場を使用させることにしていた。また、従業員の自転車については、別紙図面の南北二か所の駐輪場に置くよう指導していた。このような駐車場、駐輪場の管理方針にもかかわらず、本件事故当時、右管理方針が十分に徹底しているとはいえない状態であつた。また、本件事故当時における第四駐車場の夜間照明設備は、別紙図面の店舗建物西側壁面の二重丸記載の位置に設置されている水銀灯と、第四駐車場の西端沿いのひし形記載の位置に設置されている蛍光灯等であつたが、閉店の約一五分後には消灯していた。本件事故当日の同店の営業時間は、午前一〇時から午後七時までであつた。ところで、本件事故当時、第四駐車場のすぐ西側にある道路(通称外環状線)を隔ててパチンコ店があり(第四駐車場の南西側)、右パチンコ店の照明が、ある程度第四駐車場に届いていた。

3  原告の受傷及び治療経過

本件事故当日、原告は、若草第一病院に通院して治療を受けたが、右初診時において、意識は明瞭であり、頭部のレントゲン検査、CT検査の各結果に異常はなく、病的反射もなかつたことから、右病院の医師は、頭部外傷Ⅰ型、皮下血腫、左肘打撲、外傷性頸部症候群の病名で、約一〇日間の通院加療見込みであるとの診断をした。そして、原告は、本件事故の翌日である昭和六〇年一〇月一九日には、吐き気、項部通、両手指のしびれ感、頭痛を訴えたため、同月二一日から右病院に入院して治療を受けた結果、右症状が軽減し、ほとんど問題がなくなつたため、同年一一月一八日に退院した。しかし、原告は、その後も頭痛、項部痛、めまい、四肢のしびれ感等の症状を訴えて右病院に通院し、理学療法、両肩部疼痛点への注射等による治療をしたが、症状は一進一退であつた。原告は、右病院に通院中の昭和六一年六月二七日に大阪大学医学部附属病院で受診した結果、保存的対症療法をする方が適切であるとの結論であつた。さらに、原告は、同年八月六日から原告の希望で関西医科大学附属病院のペインクリニツクで神経プロツクの治療を受けたが、その後も症状が継続した。そして、原告は、昭和六三年五月一八日から原告の希望で南労会松浦診療所に通院して、理学療法、針、灸、運動療法等の治療を受けたが、右通院中、原告には、頭痛、めまい、吐き気を伴う頸肩部痛、上肢のしびれ感などの多様な症状があり、右各症状の増悪、軽減を繰り返していた。ところで、原告は、若草第一病院で通院治療中の昭和六二年五月二六日ころと、平成元年五月一六日ころに、それぞれ町内会の日帰りバス旅行に参加し、右各旅行中に、原告はカラオケで歌い、宴会で飲酒した。また、原告は、昭和六二年九月二一日ころ、日本舞踊の会に出席した。

二  被告長崎屋の民法七〇九条、七一九条に基づく責任の存否

前記一1(本件事故状況)、2(本件事故現場の状況等)で認定したところによれば、本件事故当時、被告長崎屋瓢箪山店の駐車場、駐輪場に関する前記管理方針が従業員、出入業者に対して十分に徹底していなかつた点は認められるものの、本件事故現場である第四駐車場は、本来スーパーマーケツトの来客用駐車場であり、この点は、被告長崎屋の従業員であつた原告も認識していたはずであるうえ、営業時間が終了後、来客が駐車場を出るまである程度の時間は、来客の安全のために駐車場の照明設備を点灯しておく必要性があると解されるが、営業時間が終了し、来客が駐車場から出るのに通常必要とされる時間が経過した後は、駐車場としての役目を終え、照明設備を消灯し、施錠して閉鎖することが、不法侵入車による事故の発生等を防止する見地から必要であると解され、また、本件事故当時、原告が駐輪していた場所は、本来従業員が駐輪すべき場所ではなく、さらに、本件事故以前から、営業時間終了後に従業員が第四駐車場を通過して帰宅することが日常化していたとは解されず、また、第四駐車場は付近のパチンコ店等からの明かりである程度の明るさがあつたと解される(この点は、本件事故当時、原告が無灯火で走行していたことからも窺える。)ことからすると、本件事故当時、被告長崎屋が第四駐車場の照明設備を消灯していた点について、被告長崎屋に過失があるとは解されない。そうすると、原告の被告長崎屋に対する請求は理由がない。

二  損害

1  休業損害 六一万六八九三円(請求四九八万四〇二円)

前記一3(原告の受傷及び治療経過)で認定したところによれば、原告については、頭部のレントゲン検査、CT検査の各結果に異常はなく、病的反射もなかつたうえ、入院治療の結果、原告の症状が軽減し、ほとんど問題がなくなつて退院したのであり、右退院後も通院治療を長期間にわたつて継続したが、その間、症状は一進一退であり、右通院中の昭和六一年六月二七日に大阪大学医学部附属病院で受診した結果では、保存的対症療法をする方が適切であるとの結論であつたほか、同年八月六日から関西医科大学附属病院のペインクリニツクで神経プロツクの治療を受けたが、その後も症状が継続しており、昭和六二年五月には町内会の旅行に参加していることからすると、原告は、本件事故から一年後の昭和六一年一〇月一八日には症状固定したと解するのが相当である。そして、右に認定した原告の症状、治療経過等からすると、原告は、本件事故当日から右退院までの一か月間は、本件事故のために一〇〇パーセント就労することができず、右退院から昭和六一年四月一七日までの間は五か月間は五〇パーセント就労することができず、同年四月一八日から右症状固定日までの六か月間は三〇パーセント就労することができなかつたと解すべきである。

ところで、原告は、昭和六〇年二月六日から被告長崎屋瓢箪山店に勤務し、同年八月と同年九月の二か月間に一か月平均一〇万二一七九円(年間一二二万六一四八円)の給与を得ていた。また、原告が右勤務先から支給される賞与の予定額は、昭和六〇年が八万九六〇〇円、昭和六一年が一七万六〇〇円である。原告は、本件事故の翌日である昭和六〇年一〇月一九日から休業している(甲一一、一二、一六、原告本人)。右事実によれば、原告は、本件事故当時、年間一三九万六七四八円(前記年間給与額一二二万六一四八円に賞与として年間一七万六〇〇円を加えたもの。平均月収一一万六三九五円、円未満切り捨て、以下同じ。)の収入を得る高度の蓋然性があつたと解される。

そうすると、本件事故と相当因果関係のある休業損害は、六一万六八九三円(前記平均月収に前記就労不能期間と就労不能率を適用)となる。

2  入通院慰謝料 八〇万円(請求四二九万七八〇〇円)

前記一3(原告の受傷及び治療経過)で認定した原告の症状、治療経過に、前記二1(休業損害)の判示内容、本件事故状況、その他一切の事情を考慮すれば、入通院慰謝料としては八〇万円が相当である。

3  入院雑費、通院交通費等 三万七七〇〇円(請求五〇万円)

前記一3(原告の受傷及び治療経過)で認定したところによれば、原告は、若草第一病院に二九日間入院したのであるから、本件事故と相当因果関係のある入院雑費は、三万七七〇〇円(一日当たり一三〇〇円の二九日分)となる。

さらに、若草第一病院は大阪府東大阪市若草町にあり、右病院に通院中の原告宅は同市神田町にあり、原告は、右病院へ徒歩で通院が可能である(甲四、五、弁論の全趣旨)。そうすると、通院交通費に関する原告の請求は理由がない。

三  過失相殺

前記一1(本件事故状況)、2(本件事故現場の状況等)で認定したところによれば、被告井中は、閉店後のスーパーマーケツトの駐車場で、通過車両がないものと軽信し、本件事故現場が比較的暗かつたにもかかわらず、後方を十分注意することなく被告車を運転して後退中に本件事故を発生させたものでその過失は重大であるが、他方、原告も、無灯火で、被告車の動きに十分注意することなく、近道をするため駐車場を横切つて走行していた点で過失があるといわなければならず、右の諸事情を考慮すれば、本件事故発生について、被告井中には九〇パーセントの、原告には一〇パーセントのそれぞれ過失があると解される。そうすると、原告の右過失割合を適用した過失相殺後の金額は、前記休業損害と入院雑費、通院交通費等につき五八万九一三三円(前記二1、3の合計額六五万四五九三円に前記過失割合を適用)、前記入通院慰謝料につき七二万円(前記二2の八〇万円に前記過失割合を適用)となる。

四  以上によれば、原告の請求は、七二万円(前記休業損害と入院雑費、通院交通費等の損害合計五八万九一三三円については前記第二の一2(一)(二)により全額填補ずみであり、前記第二の一2(一)(二)は前記入通院慰謝料七二万円を填補するものとは解されず、また、前記第二の一2(三)はその性質上、損害の填補を目的とするものとは解されないので、前記入通院慰謝料額から控除するのは相当でない。)とこれに対する本件交通事故発生の日である昭和六〇年一〇月一八日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 安原清蔵)

瓢箪山店 敷地図

〈省略〉

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