大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

大阪地方裁判所 平成3年(行ウ)78号 判決

大阪府高槻市郡家新町六〇-二二

原告

服部敏雄

右訴訟代理人弁護士

河村武信

正木みどり

松本七哉

大阪府茨木市上中条一丁目九番二一号

被告

茨木税務署長 小形俊夫

右指定代理人

塚原聡

石井洋一

斉藤恒明

篠塚孝之

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し平成二年七月九日付けでした昭和六二年分、昭和六三年分及び平成元年分(以下「本件各年分」という。)の所得税の各更正処分並びに過少申告加算税の各賦課決定処分(以下、これらの処分を併せて「本件各処分」という。)をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、住所地を本店としてクリーニング業を営む白色申告者である。

2  原告は、本件各年分の所得税につき、被告に対し、別表「課税の経緯」の確定申告欄記載のとおり確定申告をした。

3  被告は、平成二年七月九日、原告の本件各年分の所得税につき、別表「課税の経緯」の更正処分等欄記載のとおり、本件各処分をした。

4  原告は、平成二年八月三〇日、被告に対し、本件各処分につき異議申立てをしたところ、被告は、平成二年一一月二九日、右異議申立てをそれぞれ棄却する旨の決定をした。原告は、さらに、平成二年一二月一八日、国税不服審判所長に対し、右決定につき審査請求をしたところ、国税不服審判所長は、平成三年六月二五日、右審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をし、右裁決書謄本は、平成三年六月二九日ころ原告に送達された。

5  しかし、本件各処分は、原告の営業実態を全く無視し、本件各年分の原告の所得金額を過大に認定した違法なものである。

6  よって、原告は、被告に対し、本件各処分の取消しを求める。

二  請求を原因に対する認否

1  請求原因1ないし4の事実は認める。

2  同5及び6の主張は争う。

三  被告の主張

1  原告の本件各年分それぞれの売上金額、一般経費中の消耗品費等の額、算出所得金額、建物の減価償却費、繰延資産の償却費、利子割引料、地代家賃、事業専従控除額、事業所得の金額は、別表1の〈1〉〈2〉〈5〉ないし〈9〉〈11〉〈12〉のとおりであり、その範囲内で被告がした本件各処分は適法である。

(一) 売上金額

本件各年分について、それぞれ、後記(二)の消耗品費等の額を、別表2の1ないし3の同業者AないしH(ただし、Eを除く。以下「同業者七名」という。)それぞれの売上原価、消耗品費(ただし、燃料費及びガソリン代を除く。)及び材料費の合計額の売上金額に占める割合(以下「消耗品費率」という。)の平均値で除して算出した金額である。

(二) 消耗品費等の額

原告が、本件各年中に株式会社フジコーから購入した材料費及び消耗品費の合計額(乙一の二、乙一一、一二、一四)であり、その内訳は別表3のとおりである。

(三) 算出所得金額

それぞれ、前記の売上金額に同業者七名の算出所得率の平均値をそれぞれ乗じて算出した金額である。

(四) 特別経費

(1) 建物の減価償却費

いずれも、原告が昭和五四年一〇月に取得した高槻市郡家新町六〇-二二所在の店舗兼住居のうち事業の用に供している部分(床面積四二・二二平方メートル)の減価償却費の金額であり、その算式は別表4記載のとおりである。

(2) 繰延資産の償却費

いずれも、原告が昭和六二年に大阪府高槻市西真上町一丁目二六の一所在の営業所(真上店)の開設に伴い、畑仁郎に対し支払った敷金一〇〇万円のうち明渡し時に返還されない四〇万円に係る償却費である。

(3) 利子割引料

別表5のとおりである。

(4) 地代家賃

いずれも、前記真上店の家賃として畑仁郎に支払われた金額である。

(五) 事業専従者控除額

原告の妻服部美恵子及び原告の母松井清子に係るものである。

(六) 事業所得の金額

前記の算出所得金額から前記の各特別経費の額及び事業専従者控除額を控除した金額である

2  原告が営むクリーニング業は、広く一般の顧客を対象とする現金商売であり、被告が反面調査等によって売上金額を把握することは不可能である。また、原告は、被告の部下職員が平成元年一二月一九日原告宅を訪れてした税務調査等に非協力的な態度で終始した。本件各年分の売上金額についても、一般経費の額についても、原告は、現在に至るまで現金出納帳その他の帳簿その他の的確な資料によってこれを明らかにせず、それらの実額は不明というほかないから、これらを推計により認定する必要がある。

3  別表2の1ないし3の同業者七名は、いずれも(1) 青色申告書により所得税の確定申告書を提出していること、(2) クリーニング業を営んでいること、(3) 右(2) 以外の事業を営んでいないこと、(4) ドライ及び水洗いの各機械設備があること、(5) 事業所が茨城税務署管内にあること、(6) 年間を通じて事業を営んでいること、(7) 売上減価、消耗品費及び材料費の合計額が八〇万円以上三五〇万円未満であること、(8)給料賃金及び外注費の各支払があること、(9) 事業専従者が二名以下であること、(10) 対象年分の所得税について不服申立て又は訴訟が係属中でないこと、以上の各条件を充たす者であり、原告と業種、業態、事業場所及び事業規模等において類似性がある。

4  前記1の(二)の消耗品費等の額は、原告の本件各年分の一般経費のうちで売上と密接な対応関係があるものであり、前記の同業者についても、売上原価、材料費及び消耗品費(燃料費及びガソリン代を除く。)は、一般経費のうちで売上金額と密接な対応関係を有するものである。

5  同業者七名は青色申告をした者であるから、その申告内容に基づいて算出された消耗品率及び算出所得率の各数値は、その正確性が担保されており、前記のとおりこれらの平均値を用いて原告の本件各年分の売上金額、算出所得の金額をそれぞれ推計することには合理性がある。

四  被告の主張に対する認否及び反論

1  被告の主張1のうち、

(一) 別表1の〈1〉の売上金額は、後記のとおり、本件各年分とも争う。ただし、昭和六二年分が二一〇一万三三〇〇円、昭和六三年分が二一五三万八三六〇円、平成元年分が二七二七万九八一〇円あったことは認める。

(二) 別表1の〈2〉の消耗品費等の額は、昭和六二年分につき一四〇万三五八〇円、昭和六三年分につき一五〇万八二〇円、平成元年分につき二〇〇万〇九〇二円あったことは認めるが、本件各年分とも右各金額を超える部分は争う。被告主張額には、一年内に買い換えが必要にならない備品、真上店の開業に伴って購入した備品、更には、ドライ機の買い替え、店内の配置替えに伴うアイロン等の購入も含まれている。また、原告の使用するフッ素機から出る汚泥の処理代、フィルターの廃棄処理代も売上との対応関係が密接でないもので、除外すべきである。

(三) 別表1の〈3〉〈4〉〈5〉については、後記のとおり、本件各年分とも、被告主張の同業者の平均消耗品費率(〈3〉)、平均算出所得率(〈4〉)を用いて算出所得金額(〈5〉)を推計するのは合理性がない。

(四) 別表1の〈6〉、(四)(1)、別表(建物の原価償却費)は争う。被告の主張は、固定資産税評価額を基準として算出したものであるが、建物の実際の取得額で算出すべきであり、そうすると、次のとおり、本件各年分ともに、二二万六八〇〇円になる。右建物の取得価額について原告は被告主張額を認めると主張したことがあるが、これは真実に反し、錯誤によるものである。

(600万円-60万円)×0.042=22万6800円

(五) 別表1の〈7〉(繰延資産の償却費)は本件各年分とも認める。

(六) 別表1の〈8〉(利子割引料)は、昭和六二年分、昭和六三年分については少なくとも同表記載の金額あることは認めるが、それ以上あり、昭和六二年分は一四〇万九三七六円、昭和六三年分は一二五万七六二三円である。平成元年分については同表記載の金額であることは認める。

(七) 別表1の〈9〉(地代家賃)は、昭和六二年分は争い、昭和六三年分、平成元年分は認める。昭和六二年分は一二万円である。また、地代家賃に加えて共益費も特別経費として、昭和六二年分につき一万円、昭和六三年分につき六万円、平成元年分につき少なくとも五万円を更に控除すべきである。

(八) 別表1の〈11〉(事業専従者控除額)は本件各年分とも認める。

(九) 別表1の〈12〉(事業所得の金額)は本件各年分とも争う。

2  被告の主張2ないし5は争う。原告は、被告の部下職員による税務調査に応じて帳簿類を提示した。被告主張の本件各年分の売上金額の推計、算出所得金額の推計は、いずれも、その必要性を欠く上、次のとおりその合理性を欠き、また、それを裏付ける資料も証拠価値のないもので到底採用できない。

(一) クリーニング業においては、製造業と異なり、厳密な意味での売上原価、すなわち売上げ金額に対応する商品等の仕入原価の観念をいれる余地がない。したがって、被告が売上原価の一部であると主張する原告の消耗品費等の金額からその売上金額を推計し、更にその売上金額から算出所得金額を推計するのは合理性を欠く。また、被告は、右各推計の基礎となった同業者七名の消耗品費等の額、その他の一般経費の額及び売上金額の資料である青色申告決算書を書証として提出しない。被告主張の金額自体これを裏付ける証拠はない。

(二) クリーニング業界においては極めて多様な業態があり、営業所や外交の有無、乾燥機やボイラー、ドライ機にどのような機械、材料を用いるか、ワイシャツ・白物を自店下で処理するか外注に出すかなどによって、その店の利益率は決定的に異なる。原告は、顧客宅を訪問するいわゆる外交をせずに、たちばな店、山田店、古曽部店などの営業店を設け、そこへ委託費等を支払っている。また、原告は、トリオのドライ機(代金は約九〇〇万円)に高価なフッ素溶剤を用い、ワイシャツ、敷布・包布等の白物は本件各年中は外注先に処理を委託し、ドライ機等をリースするなど、大阪府クリーニング環境衛生同業組合茨木支部組合員の他の同業者の業態形態と比較しても、経費の割合が大きくなる業務形態であった。被告は、これら原告の業態を何ら考慮せずに同業者の抽出基準を設けたもので、このような基準で抽出された同業者七名は原告と類似性がない。むしろ、同業者七名の業務の態様は、原告のそれと著しく異なるもので、また、被告主張の「消耗品率」「算出所得率」は別表2の1ないし3によっても明らかなとおりいずれも同業者間で偏差が著しい。現に、原告が偶然知り得たB、Cの昭和六三年分、平成元年分の各売上金額、売上原価等、必要経費の金額等は別表6の1、2のとおりであり、Bは本店と営業所一箇所でワイシャツ等の白物も自店で処理しており外注先には委託していない。また、Cは、本店のみで、ワイシャツ等の白物は自店で処理するのが中心で、商品取扱単価が比較的高い高級店の部類に入る業者である。

(三) 被告は、本訴係属後、異議申立の段階で抽出していた六名の同業者のうち原価率が高く所得率が低い原告に有利な数値の三名を除外し、代わりに被告に有利なACDHの同業者を加えて、本件訴訟における同業者七名を選出しており、その抽出基準の設定が恣意的である。

(四) ACDHは、燃料費及びガソリン代を除く消耗品費等の合計額が八〇万円以上三五〇万円未満という基準であれば、これを満たしていないか、又は満たしているかどうか疑問のある同業者である。

(五) 被告は、原告のフジコーからの購入商品を比較的売上と密接な対応関係にある消耗品費等と「広告宣伝費や備品に属するもの」とに区別するが、これらは截然と区別できるものではない。その区分において、後者に該当する費用を前者に分類しているものがある。

(六) 被告主張の推計は、外注費を含む雇人費や建物以外の機械類の原価償却費及びリース代を一般経費に含めてしたものである。しかし、これらは、事業主の個別の事情に左右されるもので、本来特別経費として計上すべきものである。原告が、偶然知り得た昭和六三年分と平成元年分のBCの外注費を含む雇人費の売上に占める割合も原告のそれと大きく異なる。

五  原告の主張

原告の本件各年分の事業所得の認定方法としては、被告の主張の方法によるよりも、次の方法による方が、より合理的である。すなわち、

1  一般経費の一部を実額で認定する方法(以下「A方式」という。)

原告主張の「消耗品費等」の額を同業者七名の消耗品費率(被告主張と同じ)で除して売上金額を求め(ただし、これが原告主張の売上金額より少ないときは、原告主張の売上金額を採用する。)、必要経費を右の「売上原価等」とその他の必要経費に区分して、後者を別表7の1ないし3のとおりの実額で認定する。

2  原告の算出所得金額を雇人費率と機械類の減価償却費を除いたものに修正し、このように修正された原告の算出所得金額から、原告の外注費、雇人費及び機械類の減価償却費を特別経費として実額で控除する方法(以下、「B方式」という。)

(一) 昭和六三年分、平成元年分について、同業者七名の雇人費、減価償却費の合計金額を算出し、右金額を同業者七名の算出所得金額に加えた額を同業者七名の「修正された算出所得金額の合計額」とし、これを同業者七名の売上金額の合計額で除して同業者七名の「修正された算出所得率」(原告はこれを「より合理的な一般経費率」と称する。)とし、原告の売上金額(その算出についてはA方式と同様)に「修正された算出所得率」を乗じて原告の算出所得金額を推計する。

(二) 昭和六二年分については、原告の売上金額(その算出についてはA方式と同様)に右(一)のとおり昭和六三年分、平成元年分の「修正された算出所得率」の平均値を乗じて原告の算出所得金額を推計する。

(三) その上で、被告主張の特別経費の項目を含め別表8の1ないし3のとおり特別経費を実額で控除する。

(四) 原告の事業形態である営業所委託方式においては、窓口業務が多く、各営業所への委託費及び外注費は、各年分の売上金額との対応関係は強いとはいえず、むしろ、各事業者の個別性が強い。また、原告が使用する高額のドライ機のリース料金又は減価償却費についても同様で、これらは、同業者率による推計で算出所得金額を算出した後に、個別に実額で控除すべきである。

六  原告の主張に対する認否

1  原告の主張1、2は争う。

2  推計の合理性とは、真実の所得金額を認定する方法としての合理性ではない。推計による事業所得の金額に対し、経費についてだけ実額を主張するのは、全く対応関係のないものの間において差引計算をして所得金額を算定することに帰し、意味がない。原告が推計課税に対して所得の実額を主張するには、その主張する収入金額が売上のすべてを含む総収入金額であること及びその経費がその収入と対応するものであることを、それらを正確に記載した会計諸帳簿及び原始資料で立証する必要がある。しかし、原告はそれらを十分にしていない。

3  被告が特別経費として主張しているのは、経費のうちで、売上金額との相関関係が少なく、事業主の個別の事情に左右される経費である。ところが、クリーニング業における売上金額は、いわゆる加工賃に属するもので、その多寡は労働力の投下量と密接に関連している。そして、一般に給料賃金と外注工賃との関係は、一方が多くなると他方が少なくなるという相関関係があり、その支出は、事業主の個別の事情に左右されることはない。また、原告が使用するフッ素系の溶剤を使用するドライ機は、石油系の溶剤を使用するドライ機に比較して機械の価格が高額であるが、その性能からするとより効率的であって、売上金額との相関関係が強い。したがって、原告が主張する外注費を含む雇人費やドライ機のリース料金又は減価償却費は一般経費とすべきであって、特別経費とすべきではない。

4  別表1の〈6〉(建物の減価償却費)については、原告は一旦その取得価格を認めると主張した。この点についての原告の主張は自白の撤回である。

理由

一   請求原因1ないし4の各事実、被告の主張1のうち、別表1の〈7〉(繰延資産の償却費)、〈8〉(利子割引料)の昭和六二年分及び昭和六三年分につき少なくとも被告主張額であること、平成元年分は被告主張額であること、〈9〉(地代家賃)の昭和六三年分及び平成元年分、〈11〉(事業専従者控除額)、以上は、当事者間に争いがない。

二  本件各処分に至る経緯については、前記一の事実、甲一一、一二、証人袋井隆司、原告本人尋問の結果の一部及び弁論の全趣旨によれば、以下のとおり認められる。

1  原告は、別表「課税の経緯」のとおり本件各年分の所得税の確定申告をしたが、その各申告書は収入金額等の記載をせず、同表記載のとおりの各所得金額しか記載しなかった。

2  被告の部下職員は、平成元年一〇月三日、事前に連絡せずに原告宅を訪れ、所得税の調査に来た旨告げ、原告に協力を求めた。しかし、原告が夏物で忙しいから待って欲しいと希望したので、同年一〇月の後半ころに再び訪れることにし、原告から都合の良い日時を連絡することになった。部下職員は、その際、原告に「帳簿、請求書控、経費に関する領収書等、その他申告の基になった計算書」と記載した用紙(甲一一)を原告に渡し、それらの書類を予め準備しておくように原告に指示した。

3  部下職員は、平成元年一二月一九日、原告宅を訪れた。その際、原告とその妻のほか、民商事務局員と原告の友人と称する男性がいたため、部下職員は、右の者らの退席を求めた。しかし、原告は、これに応じなかったので、部下職員は、結局、調査を進めることができなかった。

4  部下職員は、その後も、平成二年一月一八日、同年四月一七日、同年五月一七日、同月二四日及び同年六月一二日に、それぞれ原告宅に赴き、原告に対し、第三者の立会いなしで調査に協力するよう求めたが、結局、原告はこれに応じず、部下職員は、更に、同月二八日、原告宅に赴き、原告に対し推計により算出した本件各年分の所得金額を示して、修正申告の慫慂をしたが、原告はこれに応じなかった。

5  被告は、平成二年七月九日、原告に対し、本件各処分をした。

三  次に本件各年分の原告の所得税の各課税要件について検討する。

1  被告は、原告がフジコーから本件各年中に購入した各品物のうち原告の売上金額と密接な対応関係のあるものを「消耗品費等」として、その購入金額を実額で主張し(別表1の〈2〉)、右金額を、同業者七名の青色申告決算報告書の経費の中の「消耗品費」「材料費」「売上原価」の額の合計金額(ただし、燃料費及びガソリン代を除く。これが同業者七名の消耗品費等の額である。)がそれぞれの売上金額に占める割合の平均値で除する方法により原告の本件各年分の売上金額(同表の〈1〉)を推計により主張する。その上で、被告は、右の売上金額から同業者七名の平均算出所得率(同表の〈4〉)を乗じた額を原告の保険各年分の算出所得金額(同表の〈5〉)であると主張する。

2  そこで、まず、推計の必要性、課税要件の推計の意味、実額の主張との関係について検討する。

推計課税は、実額課税とは別個の類型の課税処分ではなく、課税要件の中の、例えば、売上金額、経費、あるいはその一部を、同業者の比率や本人の比率等の間接的な資料と経験則、さらには納税者(原告)の立証態度等を総合判断して推計あるいは推認する認定方法の一つにすぎない。売上金額や経費の全額が実額で主張されているといわれる課税処分取消訴訟においても、実は課税要件の一部についてはある程度の推認あるいは推計による事実認定がされることもしばしばあり得ることである。このように、推計といっても、結局は、真実の課税要件の事実上の推定の問題、認定の仕方の問題にすぎないというべきである。

また、課税処分取消訴訟においては、課税庁側は、処分時の処分理由とは別に、それと異なる課税要件を訴訟で始めて主張・立証して課税処分を維持することも許容されている(総額主義)。したがって、推計の必要性といっても、それは、課税処分の適法要件というよりも、税務調査の経緯、異議申立てや審査請求の段階、更には、課税処分取消訴訟の口頭弁論終結時までの原告の立証態度に照らして、個々の課税要件について、原被告双方から提出された全部の証拠を検討し、ある課税要件については直接の資料・証拠により得ず、間接的な資料や経験則による推認あるいは推計によりその課税要件を認定するのが相当である場合の状態をいうものにすぎないというべきである(同趣旨と解される下級審の裁判例として大阪地判平成二年四月一一日・判時一三六六号二八頁)。

そうすると、課税処分取消訴訟において、売上金額の内容をなす事実にしても、経費の内容をなす事実にしても、原被告のいずれにおいても、相手方の推計方法に対して、実額又はより合理的な、すなわちより真実の課税要件に近似する推計方法を主張・立証することは、原告側について国税通則法一一六条による制約がある場合や原告が申告納税制度の趣旨に照らして著しく信義に反すると認められるような特段の事情のある場合を除いて、原則として可能というべきである。言い換えれば、課税要件を算出するいくつかの推計方法がある場合には、右のような特段の事情のある場合を除いて、原則として最も合理的と認められる推計方法による算出によって課税要件を認定すべきものと考えられる(前記の大阪地判平成二年四月一一日、大阪地判昭和五九年一一月三〇日・判時一一五一号五一頁参照)。

被告は、推計の合理性とは、真実の所得金額を認定する方法としての合理性ではないとか、被告側の推計課税の主張に対し、原告側が一般経費を実額で主張するには、個々の収入金額と個々の経費との対応関係を完全に主張・立証しなければならないなどと主張するが、この点に関する被告の主張はいずれも採用できない。

3  以上の判示の考え方に従って、原告の本件各年分の売上金額(別表1の〈1〉)及び算出所得金額(同表の〈5〉)について検討する。

前記一の争いがない事実、前記二の認定事実、それに甲九、一二、一三、一四、検甲一ないし二四、乙一の二、乙二ないし一八、証人袋井隆司、同佐藤里香、同岡崎恵三の各証言、原告本人尋問の結果の一部及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一)  原告は、大阪府高槻市内においてカドヤクリーニングの名称でクリーニング業を営む者である。原告は、同市郡家新町にクリーニング処理をする本店のほか、本件各年中、クリーニングの取り次ぎを委託している営業所として、同市紺屋町にたちばな店、大阪府吹田市内に山田店、高槻市古曽部町に古曽部店(網野トシ子)、それに昭和六三年二月以降は同市西真上町に直営の真上店を有していた。

原告の業務形態は、本店のほか右各営業所から持ち込まれる一般顧客からの洗濯物を本店で処理するいわゆる持込み方式であり、顧客宅を訪問するいわゆる外交方式はとっていなかった。原告は、各営業所に対し、主として、注文の多寡に応じた歩合部分と固定部分とからなる委託料を支払っていた。

原告は、本店において、自らクリーニング作業を行い、妻及び母親に手伝ってもらっていたが、そのほか三人のパートタイマーの従業員を雇用していた。原告は、本店においては、ドライクリーニング作業ののためのフッソ系とパーク系の溶剤を用いるトリオのドライ機、プレス機、包装機、立体包装機、水洗械(ミレー)を使用し、ワイシャツ・敷布・白衣等の白物の水洗い作業、それに着物、毛皮等の特殊なものの作業は自ら行わず、それぞれの外注先に委託していた。

(二)  原告と同様に大阪府の茨木税務署管内に事業所を有するクリーニング業者の中で、青色申告書により所得税の確定申告をしている、クリーニング業以外の兼業はなく、ドライクリーニング及び水洗いの各機械設備があり、年間を通じて事業を係属して営んでいる、本件各年分の売上原価、消耗品費及び材料費(燃料費及びガソリン代を含む。)の合計額等が八〇万円以上三五〇万円未満である、給料賃金及び外注費の各支払があり、青色事業専従者が二名以下である。不服申立や訴訟が係属中でない、という各条件を充たす者をすべて抽出すると、別表2の1ないし3のAからHまでの八業者である。右の各基準は、被告側において、本件訴訟において売上金額及び算出所得金額を推計するための同業者を選出するために設定された基準である。

右の八業者のうち燃料費及びガソリン代の合計額が不明であるEを除く残りの同業者七名の本件各年分の売上金額、売上原価、消耗品費、燃料費及びガソリン代の合計額、材料費、一般経費の額は別表2の1ないし3のそれぞれの該当個所記載のとおりであり、それぞれについての算出所得率も右各表記載のとおりである。

(三)  クリーニング業は、現金取引でその売上の相手が一般の顧客であるため、被告において反面調査等により売上金額の実額を把握するのは極めて困難である。被告は、原告の本件各年分の所得税についても、反面調査等によってその売上金額を直接把握することはできなかった。ただし、原告は、本件各年中、クリーニング材料等の卸業をしている大阪府吹田市の株式会社フジコー(以下「フジコー」という。)からそのクリーニング材料等等を仕入れており、そのうちで、原告の売上金額と密接な対応関係があるものは、洗剤、助剤、糊剤あるいは溶剤、ソープ等の直接の加工材料費及びポリ袋等の包装材料費、使用可能期間が一年未満或いは取得価格が一〇万円未満の小額の工具、器具、備品等であり、その合計金額は昭和六二年分が一六六万二一八〇円(被告主張中にはヒノシ布二二五〇円も含まれるが、売上金額と密接な対応関係があるとは証拠上認められない。)、昭和六三年分が一六九万五五四四〇円、平成元年分が二二四万〇八六五円であった。右の各品物の購入代金は、いずれも本件各年分の売上金額と密接な対応関係のある必要経費であるが、これにはガソリン代及び燃料費は含まれていない(なお、原告は、消耗品費等から更に除外すべき購入費があると主張するが、乙一の二の購入頻度等に照らし、右主張は採用できない。)。

(四)  原告の所属する大阪府クリーニング環境衛生同業組合茨木支部の組合員である四〇名の業者についてみると、扱う品物の一部を外注に出しいてる業者が少なくとも九店舗あり、また、本店のほか営業所を有するものが一〇店舗以上、外交を全くしていないところが少なくとも七名以上はある。

(五)  原告が使用しているフッ素系の溶剤の価格は、ゾール系(石油系)の溶剤に比較して割高であるが、本件各年中、ゾール系の溶剤との価格差も本件各年中は著しく大きいとまではいえない程度であった(原告は、平成四年ころ、フッ素系の溶剤は一リットル当たり一三三円、フッ素系の溶剤は一リットル当たり一一七二円であると主張するが、乙一の二と原告本人尋問の結果の一部及び弁論の全趣旨よれば、本件各年当時は、原告が使用していたフッ素系の溶剤の価額は一リットル当たり約五四七円であったと認められる。)。しかも、フッ素系の溶剤による処理は、洗浄力、油脂溶解力、浸透力などの点においてゾール系の溶剤に比較して優れており、そのため、処理に伴う衣料の損傷事故が少なくなり、汚れた洗浄液の再利用も効率的に進み、乾燥に要する時間も短くなり燃料代も節約できることになる。

(六)  同業者七名において、昭和六三年分の売上げ金額に対する雇人費の割合は、高いものから順にそれぞれ三〇・三七パーセント、三〇・二一パーセント、二五・一四パーセント、二一・〇五パーセント、一五・三二パーセントであった(乙一三)。

(七)  クリーニング業は、物品販売業などとは異なり、商品の仕入れと売上額が顕著な対応関係を示す業種ではなく、その売上金額は加工賃の性質を有するもので、純然たる売上原価を観念し難い業種である。しかし、売上金額と密接な対応関係のある経費を把握することは前述のとおり可能である。営業形態として外交方式と原告のような営業所方式を比較すると、一般的には、営業所方式の方が注文を受ける品物の数は多くなって大量処理が可能になり、機械設備の効果的な利用が図れるので、それに応じて売上金額は高くなる傾向がある。また、店舗の維持の費用、備品等の経費の負担が多くなる傾向はあるが、反面、配達に係る車輛関係の経費や外交員に係る人件費が不要となる。これに対して、外交方式は、顧客にとって利便性の高い反面、商品の単価は高く設定される傾向があり、配達に係る車輛関係の経費や外交員に係る人件費が多くなる傾向がある。

(八)  原告は、所得税法二三一条の二の規定によって帳簿書類の記帳、保存義務があるにもかかわらず、これに反して本件各年分の売上伝票との他の帳簿書類を保存していなかった。

4  なお、原告は、その本人尋問の結果及び陳述書において、売上金額の直接の資料となる売上伝票につき、概要、本店及び各営業所(ただし、フジコーは除く。)で品物一件の取引毎に売上伝票(預伝票)を作成し、そこに記載された売上金額を、月毎に集計してこれをカレンダーの裏に記載し、一年分を翌年の正月休みに集計する、カレンダーに記載した段階で、それらの売上伝票は、各営業所の分も、本店の分も原告の方でいずれも廃棄し、これを保存することはしなかった、原告は営業店から売上金の交付を受ける前にその営業所に電話で金額を聞いていたが、その際に伝票と照らし合わせて金額の確認をすることもなかった。本店にはレジはなかった、本件各年分については、フジコー以外の各営業所の売上伝票についてはその営業店の控えの分が営業所で保存されていたが、本店分はすべて既に廃棄した、などと供述している。

しかし、自営業者である原告が売上金額に関する資料を右の供述のように廃棄するのは不自然であるといわざるを得ないし、また、右の供述どおりの処理をしていたのであれば、原告は、原告主張の所得金額を前提としても、その時点で、前記のとおり所得税法二三一条の二の規定による帳簿書類の備付と保存の義務に違反していることになる。

5  原告は、売上金額については原告主張額(ただし、被告主張額と大差はない。)を前提として、A方式として、経費を実額で把握できるとして、別表7の1ないし3のとおりの各必要経費があったと主張し、その証拠として甲一〇一の一から一一四の二五、甲二〇一の一から二一五の八、甲三〇一の一から三一四の一四までを提出する。

しかしながら、原告の右主張の中には書証のない部分があって、その部分は原告の主張を認めることはできないし、右の甲号各証からも原告主張どおりの経費をそのまま認めることはできない。まず、右の甲号証を検討すると、例えば、甲一〇四の二、三、一〇五の一ないし三、七、八、甲一〇九の三七、三八、甲一一四の一〇ないし二一、甲二〇五、二〇九の三七、三八、二一五の一、四、甲三〇九の一等のように、単なるメモの記載にすぎずその書証のみで果たして原告主張のような支出があったかどうか判然としないもの、仮に支出があったとしてもその性質上事業のための支出ではなく家事関連費ではないかとの疑いがあるもの、その支出が何故必要経費となるのかその根拠が不明であるもの、また、書証相互間で住所氏名以外の部分の筆跡が酷似しているもの、住所氏名とそれ以外の部分の筆跡が異なるもの、作成年月日の記載がないもの等がある。このように右の各書証の中には少なくとも直ちに原告の事業の必要経費の支出とは認められないものが少なからず混在する。その上、このように原告が主張する経費の全額から、被告が特別経費に区分している建物の原価消却費(原告主張額)、利子割引料(昭和六二年分、昭和六三年分につき被告主張額)、地代家賃(原告主張額)を控除した経費の総額(これは、被告の区分に従えば、概ね、一般経費の合計額になる。)の売上金額(原告主張額でも被告主張額でもその結果は大きく異ならない。)に占める割合を検討してみると、昭和六二年分が約六八・八パーセント(算出所得率約三一・二パーセント)、昭和六三年分が約七三・四パーセント(算出所得率約二六・六パーセント、平成元年分が約六九・五パーセント(算出所得率約三〇・五パーセント)であり、いずれにしても、被告主張に係る同業者七名には、これと同程度の算出所得率の同業者は存在しないだけでなく、それらとあまりにもかけ離れて経費割合が過大になるといわざるを得ない。のみならず、前記のとおり、売上伝票等の資料を提出しなかった原告が、本件訴訟においてこのような経費の点についてのみ提出した右各書証の証拠価値は極めて低いといわざるを得ない。してみると、A方式による原告の主張には多大の疑問が存在するといわなければならない。

これらの点を総合すると、原告主張のA方式により、右の各甲号証から原告主張の経費の額をそのまま認定することはできないといわなければならない。

6  前記二の認定事実、前記3の事実関係、それに4、5の諸点を考慮すると、各売上金額は、原告の本件各年中のフジコーからの消耗品費等の購入代金から推計する必要があり、また、一般経費についても、これを同業者の平均所得率により推計する必要があるというべきである。

7  ただ、被告の右の推計の主張は、結局、原告の経費を、一般的に売上げ金額と対応関係のある一般経費と、売上との対応関係は必ずしもなく各業者の個別性の強い特別経費とに区別した上、一般経費のうちで更に売上金額と密接に対応している経費を特に「消耗品費等」として区分し、その消耗品費等について原告の実額を把握した上、右金額を基礎として同業者七名の経費の中の材料費、消耗品費、売上原価で計上される経費の売上げ金額に対する割合の平均値を基にして売上金額を推計し、さらに、売上金額に同業者七名の平均算出所得率を乗じて原告の算出所得金額を推計するものであるところ、かような推計には次のとおりの問題点がある。

(1)  被告は、原告の消耗品費等は売上金額と密接な対応関係にあると主張するが、その中には売上金額と密接な対応関係にある経費であることが明かな燃料費やガソリン代は含まれておらず、また、被告が主張する原告の消耗品費等はフジコーからの購入に限ったものであるためそれが原告の事業において一般経費の中で燃料費とガソリン代を除いた売上金額と密接な対応関係にあるものの全部ではない可能性が高い。また、同業者七名の消耗品費等の中には、その売上金額との対応関係が比較的希薄な広告宣伝費などの消耗品費等も含まれている可能性も否定できない。さらに、そもそも、一般経費のなかでこのような区分を明確にできるものかどうかも不確かであり、同業者七名においては消耗品費等と一般経費との区分が不明確なものが存在する可能性がある。被告は、消耗品費等を「売上原価等」と称しているが、別表2の1ないし3の材料費、消耗品費、売上原価の欄の記載からも、各年分ともに、同業者七名のうち、材料費を計上しているのはAのみで他の七者はこれを全く計上しておらず、売上原価についても、これを計上しているのはBFGのみで他の五名はこれを計上しておらず、同業者七名の帳簿への記載方法もまちまちであることが窺われる。

(2)  同業者七名の消耗品費率を別表2の1ないし3に従って検討すると、昭和六二年分においては最も低いのはAで四・三八パーセント、最も高いのはGで一三・〇六パーセント、昭和六三年分においては最も低いのはAで四・八六パーセント、最も高いのはGで一一・三二パーセント、平成基年分においては最も低いのはCで五・五九パーセント、最も高いのはGで一〇・三二パーセント、であり、各同業者の間でも相当の幅の偏差がある。更に、同様に算出所得率を検討すると、昭和六二年分においては最も高いのはAで五九・七二パーセント、最も低いのはFで三九・七三パーセント、昭和六三年分においては最も高いのはAで五八・七一パーセント、最も低いのはFで三九・二四パーセント、平成元年分においては最も高いのはCで五九・六六パーセント、最も低いのはFで四一・九五パーセントであり、算出所得率においても、同業者七名の間で相当の幅の偏差がある。このことも考慮すれば、原告が主張するように、同業者といっても、その業務形態は様々であって、それにより消耗品費率や算出所得率が相当に異なるもので、被告側が設定した同業者の抽出規準はやや大雑肥であることは否めないと考えられる。

(3)  乙二、証人佐藤里香の証言及び弁論の全趣旨によると、被告が設定した同業者の選定基準の一つは、本件各年分の原告の消耗品費等のうちで最も低額である昭和六二年分のそれの約二分の一の八〇万円を下限とし、最も高額てある平成元年分のそれの約一・五倍の三五〇万円を上限とするその間の金額を消耗品費等とするものであったことが認められるが、右の基準の消耗品費等の中には燃料費及びガソリン代が含まれており、同業者七名のうちで、燃料費とガソリン代を除いた消耗品費等について形式的に同じ基準を適用すると、ADHが選定の同業者から除外され、その選定基準を充たす同業者はBCFGのみとなる。

8  このように、被告が主張する消耗品費等の内容、それが右各同業者の各青色申告決算報告書から別表2の1ないし3に正確に反映されているかどうかについてやや曖昧な部分があるのは否定できない。しかも、同業者七名の消耗品比率及び算出所得率にはいずれも相当の偏差があり、これらがそれぞれの業務態様の相異に起因してある程度定型的に生じるものであるなら、本来であれば、原告の業務態様との類似性の厳密な比較が問題になり、結局、被告が採用した同業者の選定基準自体の当不当という形で、推計の合理性が更に厳密に検討されなければならない。そして、被告は、自らの主張内容の直接の証拠となるべき同業者七名の青色申告決算書を証拠として提出せず、そのため、原告の業務形態と同業者のそれとのより厳密な比較検討もできない状態となっている。

しかしながら、前記の3の事実関係及び4、5の諸事情によれば、原告の算出所得金額は、結局のところ、フジコーからの消耗品費等の額を基礎に、被告主張の方法で同業者率により推計する以外に、他に有効適切な認定方法はなく、また、売上金額と密接な対応関係のある消耗品費等を基礎に売上金額を推計すること自体は合理的であるといえる。また、被告が設定した前記の同業者の選定基準についても、ドライクリーニング及び水洗いの各機械設備があること、給料賃金及び外注費の各支払があること、青色事業専従者が二名以下であることの要件もあって、同業者七名と原告の営業形態の類似性は最低限度確保されているともいえる。また、前記7の(1)の問題点については、被告主張の各推計による売上金額が真実の売上金額と離れる可能性が高くなることは否定し難いが、その点は、どちらかといえば、売上金額の推計に当たって原告の売上げ金額をより少なく算定する関係にあり、原告の算出所得金額を控え目に認定することになる。

そして、同業者七名についてさらに検討を加えると、Aについては、昭和六二年分及び昭和六三年分については、消耗品費率が他の同業者に比較して際立って低く、逆に算出所得率が他の同業者に比較して際立って高く、同業者の中では原告の算出所得を最も高くする関係にある。さらに、Aのみは、別表2の1ないし3のとおり、他の同業者と異なり消耗品費等で計上される経費のうち材料費を計上しており、経費の仕訳が他の業者と異なるのではないかとも考えられる。次に、Cは、平成元年分につき、その消耗品費率が最も低く、算出所得率が同業者の中で最も高く、同業者の中では、Aと同様に、原告の算出所得を高くする関係にある。Cは、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告がその店を特定し得たもので、本店のみで営業所がなく、白物も外注先に委託せずに自店で処理しており、商品取り扱い単価が比較的高めの高級店に属する店で、原告とは営業形態が相当に異なることが認められる。

前記の3の認定事実および4、5の事情のほか、以上の点を更に総合考慮すると、原告の本件各年分の売上金額及び算出所得金額の認定については、同業者七名のうちからAとCを除外して控えめに認定すべきであり、その余のBDFGHの同業者五名の別表2の1ないし3の記載による被告主張の各推計の方法により原告の売上金額及び算出所得金額を推計するのが相当である。推計についての被告の主張は、右の限度で合理性があると認められる。

以上の方法によって原告の本件各年分の売上金額を推計すると、別表9のとおり、昭和六二年分が一九二三万八一九四円、昭和六三年分が二〇九〇万六七八一円、平成元年分が二九一三万九九八六円であると認められる。そして、同様に原告の算出所得金額を推計すると、同表のとおり、昭和六二年分は九三五万七四五七円、昭和六三年分は九九七万〇四四三円、平成元年分は一三九六万〇九六七円であると認められる。

9  原告は、被告の推計の主張に対し、そもそも、被告は、同業者七名の青色申告決算書を書証として提出しないから、その主張の同業者七名の売上金額や消耗品費等の金額を裏付ける証拠はない、クリーニング業においては厳密な意味での売上原価の観念がないし、被告が設定した同業者の選定基準には、営業所や外交の有無、白物を外注に出しているかどうか、ドライ機などの使用している機械の種類等に関するものはなく、原告の営業形態はこれらの点において同業者七名と比較して著しく経費割合が大きい、さらに、被告主張の同業者七名の消耗品費率、算出所得率を相互に比較しても、最大のものと最小のものとその偏差が著しく、結局、被告主張のように、同業者の平均の消耗品費等、算出所得率から原告の算出所得率を推計するのは合理性がないなどと主張する。

確かに、被告が乙二の通達に基いて作成したとする乙三の内容自体は、訴訟の一方当事者が本件訴訟追行のために作成したもので、その裏付けとなる同業者の青色申告決算書が書証として提出されていない以上、その証拠価値が高いとはいえない。また、被告が主張する原告の売上金額や算出所得の推計には前判示のような問題点があることも否めない。

しかしながら、乙三のほかに、被告の提出する乙二、乙四ないし一一、乙一三、証人佐藤里香の証言、原告本人尋問の結果の一部及び弁論の全趣旨を総合すると、同業者七名は、被告が、本件訴訟の追行のために、大阪国税局長の通達に基づいて前記の基準に従ってその管内で所得税の青色申告をしているクリーニング業者から抽出した同業者であり、前記認定のとおり、本件各年分のそれぞれの売上金額、売上原価、消耗品費、燃料代及びガソリン代の合計金額、材料費、一般経費の額は別表2の1ないし3のとおりであることが認められる。

そして、原告の本件各年分の売上金額、算出所得金額については、フジコーからの消耗品費等の購入金額を基礎として同業者率によって推計する方法以外に認定方法がなく、原告がフジコーから購入した消耗品費等の額については、業務の性質上、売上金額と密接な対応関係にあるものであり、この金額を基礎に同業者率により売上金額を推計すること自体に合理性があることは前記のとおりである。さらに、被告主張の推計は、その正確性という点においては、前記のとおりの問題点があるけれども、それは、どちらかといえば、原告の売上金額の推計に当たっては、それをより低く推計する関係になって控え目な認定になる。そして、前記3の事実関係によれば、原告と大阪府クリーニング環境衛生同業組合茨木支部所属の同業者と比較しても、原告の業務形態が際立って特殊であるともいえないこと、原告が使用しているフッ素系の溶剤のドライ機は、その他の機種の機械に比較して機械代金は高額になるが、その機械による処理効率は前記のとおり優れていること等をも考慮すると、少なくとも、同業者七名のうちで、昭和六二年分及び昭和六三年分について原告の算出所得金額を最も高くする関係になるA、平成元年分につき同様の関係にあるCを除外して原告の売上金額及び算出所得金額を認定した当裁判所の前記判断は、原告が挙げる同業者の営業形態とその相異、原告の業務形態の特殊性によって左右されるものではないというべきである。

10  原告は、売上原価及びそれ以外の経費を実額で主張するが(A方式)、結局、当裁判所の前記判断を左右するに足りるような一般経費の額について、その立証があったといえないことは、前判示のとおりである。

11  次に、原告は、クリーニング業における外注費を含む雇人費及び機械類の原価消却費は、本来、一般経費とは別の特別経費であって、被告主張のように、同業者及び原告についてこれを一般経費として売上金額及び算出所得金額を推計するのは誤りであり、仮に被告主張のような推計をするにしても、同業者につきこれらを除外して消耗品費率、算出所得率を算出すべきであり、原告の算出所得金額を認定した後に、その金額からそれらの実額を控除すべきであるとも主張する(原告主張のB方式)。

確かに、一般に、必要経費の項目のうちで、売上金額との対応関係が比較的明かな経費の項目を一般経費とし、これに対して売上金額との対応関係が必ずしも明らかではなく、事業主の個別事情に左右される経費の項目を特別経費として区別することができ、前者については推計による場合でも、後者については、できるだけ実額で認定すべきである。被告は、本件についても、この区別に従って主張している。

しかしながら、以上の区別はあくまで、個々の事業者毎にその課税要件を認定する場合の課税庁側の認定の仕方の問題であって、会計上、あるいは租税法上の区別があるわけではない。クリーニング業においては、他の業種に比較しても、売上金額の多寡は労働力の投下資本と比較的関連性があるといえる。そして、給料賃金と外注工賃との関連は、一方が多くなると他方が少なくなる関係にあり、その支出が事業主の個別的な事情に左右されることが必ずしも常に多いとはいえない。それに、原告は、前記認定のとおり、各営業所に対し、洗濯物の取次を委託する報酬として、固定部分の委託料のほか、その売上金額に応じた歩合による委託料を支払っており、この歩合による委託料の支払は、売上金額と密接な対応関係にあることも明かである。このようにみてくると、外注費及び雇人の費用は、必ずしもこれを特別経費と扱われなければならないものではないというべきである。さらに、原告は、原告の本件各年分の雇人費の証拠として、甲一五、甲一〇九の一ないし三八、甲二〇九の一ないし三八、甲三一〇の一ないし三六を提出するが、右の各証書をそのまま採用できないことは前記のとおりである。原告のこの点の主張も採用できない。

次に、ドライ機の減価償却費又はリース料金については、確かに、甲一五、甲一一二の一ないし六、甲二一二及び弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和六二年一〇月ころドライ機を東芝クレジット株式会社から総額約一三一八万円のリース契約により使用し始め、以後月額一五万七〇〇〇円のリース料を支払っていること、原告は、昭和六一年四月ころズボンプレスの機械を総額約一五九万円で東芝クレジット株式会社からリース契約により使用し始め、以後月額三万三三〇〇円を支払っていること、原告は、昭和六三年二月ころ立体包装機を総額四八万円で日立クレジット株式会社からのリース契約で使用し始め、以後月額八〇〇〇円を支払っていることが認められる。しかし、かような機械設備は、その機種や性能等の差異はあるとしても、クリーニング業において通常使用されているものと考えられ、その規模、個数、したがってリース料の多寡も売上金額と対応関係がないとはいえない。また、前記3の認定事実によれば、同業者七名は、いずれもドライ機及び水洗機の機械設備を有する業者であり、ズボンプレス機、立体包装機についても大半が使用しているのではないかと考えられる。そうすると、被告主張のように、機械のリース料を一般経費として同業者七名の推計の中に含めて原告の算出所得金額を認定することも特に不合理であるとはいえず、むしろ、前記のとおり原告に有利に控目に原告の算出所得金額を認定し、この金額から機械類のリース料を特別経費として実額で控除しない扱いの方がより合理的であるというべきである。また、原告の使用するフッ素系の溶剤のドライ機が、他の石油系の溶剤のドライ機に比較して、その価格が比較的高額であるとしても、かような機械の価格は、その性能や使用可能年数によって大きく左右されるものであり、機械の性能面からみると前記のとおりフッ素系の溶剤のドライ機の方がより効率的でかつ使用可能年数が長いと考えられる。この点についても、原告の主張は採用できない。

12  被告主張の特別経費のうちで、別表1の〈6〉の建物の減価償却費については、甲四の一ないし六及び弁論の全趣旨によれば、原告が昭和五四年一〇月一五日に大阪府高槻市郡家新町所在の店舗兼住宅を取得したことは認められるが、右各甲号証によっても、居住用の部分と原告が事業に使用する事業用の部分との区別が明かでなく、事業用の部分の取得価格を的確に認めるに足りる証拠がない。そして、原告は、右の建物部分の取得価格が固定資産税評価額を基準とする一六七万四四九一円であることは一旦自白したものでそれが真実に反するとの証拠がないことに帰するから、本件各年分の右建物の減価償却費は、いずれも被告主張のとおり六万三二九六円と認められる。別表1の〈8〉の利子割引料について、原告は昭和六二年分及び昭和六三年分は被告主張額以上あると主張するが、その具体的な主張・立証は不明確であり、これらを認めるに足りる証拠がない。したがって、本件各年分とも、同表〈8〉のとおりの金額である。別表1の〈9〉の地代家賃については、昭和六三年分及び平成元年分の家賃については争いがないが、さらに、甲一五、甲一〇一の一、二、甲二一〇、甲三一一、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は、真上店(畑仁郎)の賃料及び共益費として、昭和六二年中に二月分一三万円の、昭和六三年中、平成元年中に各七八万円の支出をしたことが認められる。

13  以上のとおりであるから、原告の本件各年分の事業所得金額は、別表9のとおり、昭和六二年分が六七二万六九三三円、昭和六三年分が六七七万四三〇六円、平成元年分が一〇四五万七二七五円であると認められる。

四  以上のとおりであり、本件各処分は、本件各年分につき、いずれも原告の事業所得金額の範囲内でされたもので適法であることが明かである。原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 八木良一 裁判官 北川和郎 裁判官小林康彦は、差支えのため署名・押印することはできない。裁判長裁判官 八木良一)

別表

課税の経緯

〈省略〉

別表1

原告の事業所得金額

〈省略〉

別表2-2

同業者一覧表(昭和63年分)

〈省略〉

別表2-3

同業者一覧表(平成元年分)

〈省略〉

別表3

フジコーとの取引一覧表

〈省略〉

別表4

建物の減価償却費

〈省略〉

1 建物の取得価額

取得時における建物(店舗部分)の固定資産評価額……………1,674,491円

2 耐用年数

当該建物は、木・鉄骨造瓦葺であるが、その法定耐用年数は木造店舗用の24年とした。

3 償却率 0.042(24年)

4 償却費の計算

(〈1〉取得価額-〈2〉残存価額)×償却率=償却額

(〈1〉×0.1)

昭和62年分(1,674,491-167,449)×0.042=63,296円

昭和63年分(1,674,491-167,449)×0.042=63,296円

平成元年分(1,674,491-167,449)×0.042=63,296円

別表5

利子割引料

〈省略〉

表6-1

「同業者B・C」との対比 昭和63年度

〈省略〉

表6-2

「同業者B・C」との対比 平成元年度

〈省略〉

別表7-1

より合理的推計 昭和62年分

〈省略〉

別表7-2

より合理的推計 昭和63年分

〈省略〉

別表7-3

より合理的推計 平成元年分

〈省略〉

別表8-1

より合理的推計 その2

〈省略〉

別表8-2

より合理的推計 その2

〈省略〉

別表8-3

より合理的推計 その2

〈省略〉

別表9

原告の事業所得金額

〈省略〉

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com