大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

大阪地方裁判所 平成5年(ワ)2219号 判決

原告(反訴被告)

石田妙子

石田正樹

石田秀史

石田智史

浦川信紀

木場義春

増田義一

右訴訟代理人弁護士

斎藤浩

斎藤ともよ

池田直樹

阪田健夫

右代理人斎藤浩復代理人弁護士

河原林昌樹

被告(反訴原告)

吹田市泉商業協同組合

右代表者理事長

村井仁

右訴訟代理人弁護士

杉山博夫

主文

一  被告(反訴原告)は原告(反訴被告)石田妙子に対し金二七五、〇〇〇円、同石田正樹に対し金九一、六六六円、同石田秀史に対し金九一、六六六円、同石田智史に対し金九一、六六六円、同浦川信紀に対し金五五〇、〇〇〇円、同木場義春に対して金一、一〇〇、〇〇〇円、同増田義一に対して金五五〇、〇〇〇円と、それぞれこれに対する平成五年四月一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告(反訴被告)らの被告(反訴原告)に対するその余の請求を棄却する。

三  原告(反訴被告)浦川信紀は被告(反訴原告)に対し、

(一)  別紙図面2に表示する有体動産(符号①ないし⑬)を撤去して、別紙物件目録三記載の建物を明け渡せ。

(二)  別紙図面2に表示する豆腐陳列台(符号⑭)および豆腐パック機(符号⑮)を撤去せよ。

(三)  別紙図面3に表示する有体動産(符号①および②)を撤去して、別紙物件目録六記載の建物を明け渡せ。

(四)  別紙図面3に表示する豆腐冷やし器(符号③)を撤去せよ。

(五)  別紙物件目録七記載の建物を収去して別紙物件目録一記載の土地のうち右建物の敷地部分を明け渡せ。

(六)  金八八〇、二四四円とこれに対する平成五年一一月九日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告(反訴被告)木場義春は被告(反訴原告)に対し

(一)  別紙図面4に表示する有体動産(符号①)を撤去して、別紙物件目録四記載の建物を明け渡せ。

(二)  金二、九四一、六八一円とこれに対する平成五年一一月九日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

五  原告(反訴被告)増田義一は被告(反訴原告)に対し

(一)  別紙図面5に表示する有体動産(符号①ないし⑫)を撤去して、別紙物件目録五記載の建物を明け渡せ。

(二)  別紙図面5に表示する漬物樽二個(符号⑬および⑭)を撤去せよ。

(三)  別紙物件目録八記載の建物を収去して別紙物件目録一記載の土地のうち右建物の敷地部分を明け渡せ。

(四)  金七二八、八三九円とこれに対する平成五年一一月九日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

六  被告(反訴原告)の原告(反訴被告)浦川信紀、同木場義春、同増田義一に対するその余の請求を棄却する。

七  被告(反訴原告)の原告(反訴被告)石田妙子、同石田正樹、同石田秀史、同石田智史に対する請求を棄却する。

八  訴訟費用は本訴反訴を通じてこれを二〇分し、その一を被告(反訴原告)の、その余を原告(反訴被告)らの負担とする。

九  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

〈本訴〉

一  請求の趣旨

1 被告は原告石田妙子に対し金一四、八三二、四六七円とこれに対する平成五年四月一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2 被告は原告石田正樹、同石田秀史、同石田智史に対し、各金四、九四四、一五六円とこれに対する平成五年四月一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

3 被告は原告浦川信紀、同増田義一に対し、各金二九、六六四、九三七円とこれに対する平成五年四月一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

4 被告は原告木場義春に対し金五九、三二九、八七五円とこれに対する平成五年四月一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

5 訴訟費用は被告の負担とする。

6 仮執行宣言。

二  本案前の答弁

1 原告らの訴を却下する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

三  請求の趣旨に対する答弁

1 原告らの請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

〈反訴〉

一  請求の趣旨

1 反訴被告らは反訴原告に対し連帯して金三五〇万円とこれに対する平成五年一一月九日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2 反訴被告浦川信紀は反訴原告に対し

(一) 別紙図面2に表示する有体動産(符号①ないし⑬)を撤去して、別紙物件目録三記載の建物を明け渡せ。

(二) 別紙図面2に表示する豆腐陳列台(符号⑭)および豆腐パック機(符号⑮)を撤去して別紙物件目録二記載の建物を明け渡せ。

(三) 別紙図面3に表示する有体動産(符号①および②)を撤去して、別紙物件目録六記載の建物を明け渡せ。

(四) 別紙図面3に表示する豆腐冷やし器(符号③)を撤去して、別紙物件目録一記載の土地を明け渡せ。

(五) 別紙物件目録七記載の建物を収去して別紙物件目録一記載の土地を明け渡せ。

(六) 金八八〇、二四四円とこれに対する平成五年一一月九日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

3 反訴被告木場義春は反訴原告に対し

(一) 別紙図面4に表示する有体動産(符号①)を撤去して、別紙物件目録四記載の建物を明け渡せ。

(二) 金二、九四一、六八一円とこれに対する平成五年一一月九日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

4 反訴被告増田義一は反訴原告に対し

(一) 別紙図面5に表示する有体動産(符号①ないし⑫)を撤去して、別紙物件目録五記載の建物を明け渡せ。

(二) 別紙図面5に表示する漬物樽二個(符号⑬および⑭)を撤去して、別紙物件目録一記載の土地を明け渡せ。

(三) 別紙物件目録八記載の建物を収去して別紙物件目録一記載の土地を明け渡せ。

(四) 金七二八、八三九円とこれに対する平成五年一一月九日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二  当事者の主張

〈本訴〉

一  請求の原因

1 原告浦川信紀、同増田義一、同木場義春はいずれも泉マーケットの商人であり被告の組合員である。

故石田正利は被告組合の組合員であったものであるが、平成四年一一月一七日に死亡し、同日被告組合を脱退した。

原告石田妙子、同石田正樹、同石田秀史、同石田智史が故石田正利の被告に対する持分払戻請求権を相続した。相続分の割合は原告石田妙子が二分の一、その余の相続人が各六分の一である(以下原告石田妙子、同石田正樹、同石田秀史、同石田智史を「原告石田ら」という)。

2 原告らは被告に対し、平成四年一二月二日到達の書面で平成五年三月末日を以て被告組合を脱退する旨意思表示をし、同日限り原告らの被告組合の持分払戻しをするよう催告した。

よって原告石田らを除く原告らは平成五年三月末日の経過を以て被告組合を脱退した。

3 被告組合の定款には組合員の脱退時において脱退組合員に対してその持分の全額を返戻する旨の定めがある。

原告石田らは四名全員で五五口の、同浦川、同増田はそれぞれ五五口の、同木場は一一〇口の被告組合の出資持分を有する。

4 原告らが有する持分の一口当たりの金額は金539,362.5円である。従って原告石田らは金二九、六六四、九三七円の持分払戻の権利を有し相続分に応じた各自の払戻金は原告石田妙子について金一四、八三二、四六八円、原告石田正樹、同石田秀史、同石田智史についてそれぞれ金四、九四四、一五六円である。原告浦川信紀、同増田義一はそれぞれ金二九、六六四、九三七円の、原告木場義春は金五九、三二九、八七五円の持分払戻請求権を有する。

5 よって原告らは被告に対し、被告組合脱退にかかる持分払戻としてそれぞれ請求の趣旨に記載の金額の支払いを求めると共に、これの支払期である平成五年四月一日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  本案前の主張

原告らは被告組合を脱退する前に本訴提起をしているから本訴は不適法である。

三  請求の原因に対する答弁

請求原因1ないし3は認める。同4以下は否認する。

被告組合においてはその設立から今日に至るまで脱退者の全員についてその持分払い戻しをすべて出資額によって行ってきた。被告組合においては、被告組合の脱退者に対する持分払戻しは出資額によって行うとする事実たる慣習が成立している。従って原告らのする請求は原告らのした出資の額の限度においてのみ正当である。

被告組合においては組合加入時において加入者から持分調整金を徴収する扱いはしていない。持分払戻において原告らがする計算式が妥当するためには持分調整金を徴収していることが絶対の前提条件である。

四  抗弁

1 原告増田義一は平成五年三月分の経費の支払いをしない。

被告組合の定款には脱退組合員が組合に対する債務を完済するまで組合はその持分の払戻を停止することが出来る旨定めがあり、被告は同経費の支払いがされるまで持分払戻を停止する。

2 被告組合においては脱退組合員に対する持分の払戻は、当該組合員のした出資の額をもってする旨の事実たる慣習が存在する。

原告石田らを除く原告ら並びに原告石田らの先代である故石田正利は被告組合の理事若しくは監事として被告組合の職務を行うにあたり、組合からの脱退者に対し例外なく出資額と同額の持分払戻を慫慂し且つ実施、関与してきた。すなわち原告らは持分の払戻について生じた前項の事実たる慣習の成立に重要な役割を果たしてきたものであるにもかかわらず、自らがする持分払戻請求においてのみ定款に基づく全部の払戻を請求するのは権利を濫用し若しくは信義誠実の原則に反するものである。

3 原告らが役員の職務行為として成立させた抗弁2の事実たる慣習に従い、過去の脱退者が出資額と同額の払い戻ししか受けていないのに、原告らだけが自ら関与し成立させた事実たる慣習によらず全部の払戻を受けるのは中小企業等協同組合法五条二項に言う公平の原則に反する。

五  抗弁に対する認否

抗弁1について原告増田が被告主張の経費の支払いをしていないことは認めるがその余は争う。

抗弁2について被告組合が持分調整金を徴収していないものであることは認めるがその余は否認する。抗弁3以下は全部争う。

〈反訴〉

一  請求の原因

1 反訴原告は相互扶助の精神に基づき組合員のために必要な共同事業を行うことを目的に、いわゆる泉マーケットとして昭和三二年一〇月五日設立された中小企業等協同組合法上の協同組合である。

反訴被告らはいずれも反訴原告組合の組合員であったものである。

2 反訴被告らは平成四年一二月二日反訴原告に到達した書面で反訴原告から脱退する旨の意思表示をし、平成五年三月三一日をもってその脱退の効力が生じたものであるが、この頃以降間断なく泉マーケットが平成五年三月三一日に閉鎖するかのような広告宣伝を組合施設の内外で繰り返した。また反訴被告らは反訴原告に加入したときに反訴原告から賃借した反訴原告の所有にかかる別紙物件目録三ないし五に記載する建物を、反訴被告らが反訴原告を脱退する効力が生じた平成五年三月三一日以降も継続して占有している。

反訴被告らの右不法行為によって反訴原告は市場としての信用を失墜し売り上げが極度に低下したほか、組合としての活性化(店舗を編成替えして移動すること)が妨げられ、電気料の負担増も強いられていることなど一ヶ月金五〇万円を下らない損害が発生した。反訴原告は反訴被告らに対し、この損害の内、平成五年三月三一日から同年一〇月三一日までの期間の損害金三五〇万円と、これに対する反訴状送達の日の翌日である平成五年一一月九日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

3(一) 反訴原告は反訴被告浦川信紀に対し、昭和四八年四月二九日、別紙物件目録三、六記載の建物を賃貸し引き渡した。

右賃貸借契約は右反訴被告が反訴原告組合を脱退した平成五年三月三一日に終了した。

(二) 反訴被告浦川は別紙物件目録三記載の建物内において、別紙図面2に記載の動産(符号①ないし⑬)を、別紙物件目録六記載の建物において別紙図面3記載の動産(符号①および②)を、いずれも所有している。

同反訴被告は別紙図面2に記載の豆腐陳列台(符号⑭)を所有して別紙物件目録二記載の建物を占有し、別紙図面3に記載の豆腐冷やし器を所有して別紙物件目録一記載の土地を占有している。

(三) 同反訴被告は右建物の引渡しをうけて後、同建物に外部煙突、換気ダクト、内部腰タイル張り、壁スパンドール、天井スパンドール、垂壁スパンドール、看板灯を設置した。

(四) 反訴被告浦川は別紙物件目録一記載の土地上において別紙物件目録七記載の建物を所有して、別紙物件目録一記載の土地を占有している。

4(一) 反訴原告は反訴被告木場義春に対し、昭和三二年一一月一二日並びに同四三年一一月に別紙物件目録四記載の建物を賃貸し引き渡した。

右賃貸借契約は右反訴被告が反訴原告組合を脱退した平成五年三月三一日に終了した。

(二) 同反訴被告は別紙物件目録四記載の建物において別紙図面4記載の動産(符号①)を所有している。

(三) 同反訴被告は右建物の引渡しをうけて後、天井、壁、土間、道路面仕切、犬走り、タイルハツリ、陳列物入、試着室、整理棚を設置した。

5(一) 反訴原告は反訴被告増田義一の先代に対し、昭和三二年一一月一二日別紙物件目録五記載の建物を賃貸し引渡した。反訴被告増田義一は相続によって右賃借権を承継した。

右賃貸借契約は右反訴被告が反訴原告組合を脱退した平成五年三月三一日に終了した。

(二) 同反訴被告は別紙物件目録五記載の建物において別紙図面5記載の動産(符号①ないし⑫)を所有している。同反訴被告は別紙図面5に表示する漬物樽二個(符号⑬および⑭)を所有して別紙物件目録一記載の土地を占有している。

(三) 反訴被告増田は右建物の引渡しをうけて後、外部シャッター、内部建具及枠材、壁プリント合板、壁巾木、天井ボードを設置した。

(四) 反訴被告増田は本件土地上において別紙物件目録八記載の建物を所有している。

6 反訴被告らは各賃借建物の賃貸借契約の終了により、本件建物を原状に回復するべき義務がある。

(一) 反訴被告浦川がした3(三)の改造の原状回復のためには、撤去工事並びに復元工事をあわせて金五三〇、二四四円を要する。

(二) 反訴被告木場がした4(三)の改造の原状回復のためには、撤去工事並びに復元工事をあわせて金二、二四一、六八一円を要する。

(三) 反訴被告増田がした5(三)の改造の原状回復のためには、撤去工事並びに復元工事をあわせて金三七八、八三九円を要する。

7(一) 反訴被告浦川は賃貸借契約の終了後、平成五年一〇月三一日に至るも別紙物件目録三記載の建物を占有している。

右建物の賃料相当金は一ヶ月金五万円を下らない。

(二) 反訴被告木場は賃貸借契約の終了後、平成五年一〇月三一日に至るも別紙物件目録四記載の建物を占有している。

右建物の賃料相当金は一ヶ月金一〇万円を下らない。

(三) 反訴被告増田は賃貸借契約の終了後、平成五年一〇月三一日に至るも別紙物件目録五記載の建物を占有している。

右建物の賃料相当金は一ヶ月金五万円を下らない。

8 よって反訴原告は反訴被告らに対し2の不法行為による損害として各自金三五〇万円の支払を求め、反訴被告浦川に対しては本件土地建物の所有権に基づいて別紙図面2、3に記載する動産の撤去と別紙物件目録三、六記載の建物の明渡、本件土地所有権に基づいて七記載建物の収去と同建物敷地部分の明渡、別紙物件目録三記載の建物の原状回復に要する費用金五三〇、二四四円と同建物の賃貸借契約が終了した平成三年三月三一日から平成三年一〇月三一日までの賃料相当損害金三五万円の合計金八八〇、二四四円、並びにこれに対する反訴状送達の翌日である平成五年一一月九日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、反訴被告木場に対しては本件建物の所有権に基づいて別紙図面4に記載する動産の撤去と別紙物件目録四記載の建物の明渡、本件土地所有権に基づいて別紙物件目録七記載建物の収去と本件土地の明渡、別紙物件目録四記載の建物の原状回復に要する費用金二、二四一、六八一円と同建物の賃貸借契約が終了した平成三年三月三一日から平成三年一〇月三一日までの賃料相当損害金七〇万円の合計金二、九四一、六八一円、並びにこれに対する反訴状送達の翌日である平成五年一一月九日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、反訴被告増田に対しては本件土地建物の所有権に基づいて別紙図面5に記載する動産の撤去と別紙物件目録五記載の建物の明渡、本件土地所有権に基づいて別紙物件目録八記載建物の収去と本件土地の明渡、別紙物件目録五記載の建物の原状回復に要する費用金三七八、八三九円と同建物の賃貸借契約が終了した平成三年三月三一日から平成三年一〇月三一日までの賃料相当損害金三五万円の合計金七二八、八三九円、並びにこれに対する反訴状送達の翌日である平成五年一一月九日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めて反訴を提起する。

二  請求の原因に対する答弁

1 請求原因1は認める。

2 請求原因2の第一段中、反訴被告らが反訴原告組合を脱退したこと、反訴原告組合所有にかかる建物を占有することは認めるがその余は否認する。

同第二段は否認する。

3 請求原因3、4、5は認める、若しくは明らかに争わない。

4 請求原因6は否認する。同7は建物占有の事実は認めるがその余は否認する。

三  抗弁

1 反訴原告組合が組合脱退者に対して営業店舗の原状回復を求めたことは過去に一度もない。反訴原告のこのような反復的態度は反訴被告らに対する原状回復請求権を黙示的に放棄したものと評価すべきものである。

2 反訴原告組合と組合員との間には、組合員の脱退に際して組合は組合員に対して営業店舗の原状回復を求めないと言う慣行が成立していたものである。反訴原告組合の反訴被告らに対する原状回復請求は、右の慣行に反し、これまで原状回復を求められなかった組合員との間の公平を著しく損なうものであるから、信義則に反する権利の濫用として許されない。

四  抗弁に対する認否

否認する。

理由

〈本訴〉

一  被告は原告らの訴が不適法のものであるとして訴の却下を求めるので、まずこの点について判断する。

被告が原告らの訴を不適法のものであると主張する理由は、原告らは本件訴を、原告らの被告組合脱退の効果の発生以前に提起したものであるところ、組合員の持分払戻請求権は脱退の効力が発生する以前は存在しないものであるから、その性質上将来の給付の訴になじまず訴の提起自体が不適法であると言うにある。

ところで本件訴が提起された時点においては、原告らの主張によっても原告らの被告脱退の効果がいまだ生じていなかったものであることは被告の主張のとおりであるけれども、原告らの右脱退の効果は本訴審理中の平成五年三月末日の経過をもって発生し、被告においてもこの脱退の効果を格別争うものでないことは記録に徴して明らかである。

そうすると本件訴訟の口頭弁論が終結した平成七年一二月一三日の時点においては既に本件訴は将来の給付の訴から現在の給付の訴に変容していたものと言うべきであって、本件訴が将来の給付の訴であることを前提とする被告の主張はその前提において既にとるを得ないものと言うほかない。よって被告の本案前の抗弁は失当である。

二  請求原因1ないし3については当事者間に争いがない。

請求原因4について以下判断する。

1  本件の最大の争点は、被告組合を脱退した者に対して被告組合が払戻をなすべき持分の具体的な計算方法のいかんである。甲第一号証によれば被告組合は定款において組合員が脱退したときはその持分の全額を払い戻す旨を定め(一四条)、組合員の持分は組合の正味財産(未払込出資金額、納税積立金および職員給与引当金を除く)につき、その出資口数に応じて算定するものとの定めがある(二三条)。原告らが右定款の定めによって原告らに払戻がされるべき持分の数額を算定するべきものと主張するのに対し、被告組合は右のとおりの定款の定めがあることを認めながら被告組合においては脱退組合員に対する払戻金の数額は脱退組合員の出資額を限度とする旨の事実たる慣習が成立しているので、原告らの持分払戻の請求は原告らの出資額の限度においてのみ正当であるとして原告らの主張を争っている。よって以下においてはまず本件における払戻金額の算定方法について、いずれの主張を是とするべきかについて判断する。

2  中小企業等協同組合法二〇条一項は、組合員は、脱退したときは、定款の定めるところにより、その持分の全部又は一部の払戻を請求することが出来ると規定し、同条二項は前項の持分は、脱退した事業年度の終における組合財産によって定めるものと規定している。ここで持分とは組合の純財産に対して組合員が有する分け前を言うものと解されるが、持分算定の方法並びに払戻の限度については法は全く規定するところではなく協同組合の性質に反しない限り、定款でどのように定めても差し支えないものと解せられる。

ところで持分の払戻を定める定款の規定が存在する場合において、これと異なる慣習の成立を認める余地があるかどうかについて案ずるに、脱退組合員が持分の払戻を請求しうるのは「定款の定めによって」であること(中小企業等協同組合法二一条一項)に鑑みて、その余地は存在しないものというほかはない。中小企業等協同組合法はその三三条一項六号において組合員の加入および脱退に関する事項を定款の絶対的記載事項とした上で、協同組合設立に際しての行政庁による定款に関する監督を及ぼすと共に、設立後の定款の変更についても行政庁の認可を受けなければその効力を生じないものと規定している(同法五一条二項)。定款の明文規定が存在する場合にこれと異なる慣習の存在によって定款規定の実質的変更を認めることは、中小企業等協同組合法の予定する協同組合に対する公的規制の潜脱を容認する結果となり相当でない。

よって事実たる慣習の存在を根拠に原告らの持分払戻数額を出資額とするべきとする被告の主張は、かかる慣習の存否を問うまでもなく採用することが出来ない。

3  被告は、払戻持分の数額を組合の正味財産価格を出資総口数で除することにより算定する方法(いわゆる改算式)を是とするには、その前提として出資払込にあたって持分調整金を徴収する必要があるものであるところ、被告組合においては組合員加入に際して持分調整金を徴収する扱いをしていないので、払戻持分の算定に原告主張の方法を採ることは不当であると主張するので判断する。

確かに払戻持分の数額を組合の正味財産価格を出資総口数で除することにより算定する方法によるときは、設立後の加入並びに出資口数の増加にあたっては、その時点における組合財産の数額が組合設立時点における組合財産の数額と一致しないことから、加入時期を異にする組合員相互において持分単位あたりの負担が平等でない事態になり、この不平等を解消するためには設立後加入若しくは出資口数の増加の時期において持分調整金を徴収する必要があると一般に論ぜられるところである。

しかしながらそのような持分の調整に関する規定は、基本的に当該組合の内部において自治的に決すべき事項に属すると言うべきであって、一方で持分の算定方法として改算式を採用しつつ他方で持分調整金を徴収しないと言う扱いをすることもあり得ないものと言うべきではない。もし本件において持分調整金の徴収の定めがないことを理由として定款の定めによる持分算定方式を採用しないとすれば、結局組合員の脱退における払戻持分の算定方法の基準がどこにも存在しないと言う事態になるが(改算式を採用しない場合に、当然出資限度額の持分払戻がされるべきことにはならない)、そうであるからと言って定款に持分払戻をする旨の定めがあるのにこれを全く行わないなどと言うことは到底容認することが出来ず、結局被告組合においては持分調整金の徴収をしないままに改算式を根拠とする持分払戻を行う趣旨において、定款の定めがされているものと解するほかない。

よってこの点に関する被告組合の主張も失当である。

4  甲第一号証によれば被告組合の定款においては脱退組合員にはその持分の全額を払い戻すものとの定めがあること前認定のとおりであるが、この持分の価額を具体的に算定するにあたっては、協同組合の事業の継続を前提としてなるべく有利にこれを一括譲渡する場合の価額を標準とするべきものである。

ところで石田正利の脱退については平成四年一一月一七日の死亡による法定脱退であり、原告石田らを除く原告らの脱退は同年一二月二日到達の書面による自由脱退であるが(但し脱退の効果は平成五年三月三一日の経過をもって生じたもの)、中小企業等協同組合法二〇条二項によると脱退組合員に払い戻すべき持分の算定は脱退した事業年度の終における組合財産によって定めるものとされているから、本件原告らの払戻持分の算定はいずれも被告組合の三六期事業年度の終である平成五年三月三一日の組合財産によって算定されるべきである。

(一) 原告らは甲第七号証によって出資一口当たりの持分価額を金五三九、362.5円と主張しているが、この根拠は平成四年三月三一日の貸借対照表を基本として、組合資産のうち別紙物件目録一記載の土地(以下この土地を「本件土地」という)並びに別紙物件目録二記載の建物(以下この建物を「本件建物」という)以外の資産並びに負債については帳簿価格をそのまま、本件土地並びに本件建物については相続税の評価額に準拠して行ない、これによって得られた価格を1.5倍して導いたものであることが明らかであるが、前記のとおり原告らの持分価格の算定にあたっては平成五年三月三一日の組合財産によるべきものであるから、原告の主張をそのまま採用することは出来ないと言うべきである。

(二) 乙第七号証によれば平成五年三月三一日における組合財産額は流動資産について金九、九九八、一七六円、本件土地建物を除く固定資産について金六、一七七、七六三円であると認められ、本件土地建物を除く資産の総額は金一六、一七五、九三九円であると認められる(貸借対照表)。ところで資産評価については帳簿価格によるべきものではなく、なるべく有利にこれを一括譲渡する場合の価額を基準とするべきこと前掲のとおりであるが、そもそも原告ら自身本件土地建物を除く財産の価格については帳簿価額を基礎とした主張を一貫して行っているところであり、被告も敢えてこれに対する反論を行わず、一方帳簿価額以外に財産の譲渡価額を明らかにするべき証拠も存在しないので、本件土地建物以外の財産については右の帳簿上の価額を以て一括譲渡価額に一致するものと認める。

(三) 次に本件土地建物の価額については一括譲渡価額を認定するべき資料は甲第七号証以外に存在しないので同証によって価額を認定することとするが、まず本件土地については同証によればその価額は金四一二、五七一、六六三円であるというのであるが、同証においては固定資産税が非課税とされている99.17平方メートルの私道部分を含めて本件土地の価格評価がされている点において相当でなく、時価評価の基礎とすべき土地面積は私道部分を控除した1,139.97平方メートルとされるべきである。そうすると相続税評価額を基準とした本件土地の時価評価額は金三七九、二一一、〇二〇円となる(一平方メートルあたりの単価金三三二、九五〇円)。

ところで本件土地上には本件建物が存在し、この建物は被告組合員のために建物賃貸借契約が締結され、現に組合員が建物内で営業を行っているものであることは弁論の全趣旨に鑑みて明らかであるところ、このような土地の評価は自用地としての価格から、その宅地にかかる借地権とその借家にかかる借家権との相乗積を乗じて計算した価額を控除した金額を以てするのが相当である。乙第一六号証によれば借地権割合は七〇パーセント、借家権割合は三〇パーセントとするべきであるから、結局本件土地の価額は金二九九、五七六、七〇五円であると認める。

(四) 次に本件建物の評価については固定資産税の評価額に準じ、金六、一七五、五四九円とするのが相当である。

(五) 右において本件土地建物の評価についてはいずれも平成四年三月三一日現在の評価明細書(甲第七号証)の数値を引用したが、同数値は平成五年三月三一日時点での評価を行うにあたっても妥当するものであると認める。

そうすると本件土地建物を除く被告組合の財産評価額が金一六、一七五、九三九円であると認められることは前認定のとおりであるから、平成五年三月三一日時点における被告組合の資産の総額は、これに本件土地評価額並びに本件建物評価額を加算した金三二一、九二八、一九三円となる。

(六) 一方乙第七号証によれば、被告組合は平成五年三月三一日時点において金一九、四五八、九八三円の負債を有するものと認められるから純資産額の評価にあたっては前認定の資産額から右負債額を控除するべきである。

そうすると右時点における被告組合の純資産額は金三〇二、四六九、二一〇円となるが、計算に不便な端数を切り捨てて(甲第一号証二三条)純資産額は金三〇〇、三〇〇、〇〇〇円であると認める。

被告組合における出資の総口数は一一五五口であるから出資一口当たりの評価額は金二六〇、〇〇〇円であると認める。

なお原告らは、実勢純資産額を算出するにあたっては右のとおり算出された額をさらに1.5倍すべきことを主張するが、かかる操作をすべき理由は認められない。

(七) そうすると五五口の出資を有する石田正利、原告浦川、同増田はそれぞれ金一四、三〇〇、〇〇〇円の、一一〇口の出資を有する原告木場は金二八、六〇〇、〇〇〇円の持分払戻請求権を取得したこととなり、石田正利の請求権については法定相続分に従って原告石田妙子において金七、一五〇、〇〇〇円、原告石田正樹、同石田秀史、同石田智史においてそれぞれ金二、三八三、三三三円をいずれも相続したものと認める。

三  被告の抗弁について判断する。

1  抗弁1について、甲第九号証によれば原告増田は平成五年九月四日に平成五年三月分の経費支払いを済ませているものと認められるから、同抗弁は理由がない。

2  抗弁2について以下のとおり判断する。

証拠によれば原告らの本訴請求に至る経過は以下のとおり認められる。

(一) 被告組合は組合員相互扶助の精神に基づき組合員のために必要な共同事業を行い、組合員の公正な経済活動の機会を確保し、もって組合員の自主的な経済活動を促進し、且つその経済的地位の向上を図ることを目的として昭和三二年一〇月五日に設立された中小企業等協同組合法上の協同組合である。被告組合は右の目的を達するために、商店街および組合員の商店設備近代化の推進、販売価格の調整その他事業に関する協定、組合又は組合員の取扱商品についての商品券の発行、組合員に対する事業資金の貸付(手形の割引を含む)および組合員のためにする借入、その他多角的な事業を行っている。被告組合の加入資格者は被告組合の地区(吹田市泉通り一円)内において商業を行う小規模の事業者である。平成五年三月三一日における組合員数は二一名である(甲第一号証、乙第七号証)。

(二) 被告組合において、これまでの脱退者は出資金に相当する持分払戻をうけて被告組合を脱退している。昭和四六年以降の脱退者について脱退の時期、持分払戻の額は以下のとおりである。払戻金額はすべて当初の出資金額に一致する。昭和四六年以前においても脱退者は存在したが、以前の脱退者も全て出資金額相当の持分払戻をうけて被告組合を脱退している(但し持分払戻金とは別に功労金を被告組合とは別人格の商人会から受領した例はある)。

(脱退日) (脱退者) (持分払戻額)

昭和四六年五月二一日 湯浅務

金二五万円

昭和五四年一〇月四日 川口正和

金二五万円

昭和五五年八月二〇日 三枝多喜子

金三五万円

昭和五六年一二月五日 増田スエ

金三五万円

昭和五八年五月三一日 湯浅務

金三五万円

昭和五八年一〇月一六日 三枝弘

金三五万円

昭和五九年二月二八日 中原孝夫

金三五万円

昭和五九年七月七日 境昌子

金三五万円

昭和五九年一二月一日 山谷恵美子

金五五万円

昭和六〇年五月九日 高島徹

金五五万円

昭和六一年三月二二日 衣川幸代

金五五万円

昭和六一年三月二二日 衣川幸代

金五五万円

平成二年七月一七日 杉本良一

金五五万円

平成二年一二月八日 有井弘幸

金五五万円

(三) 被告組合には総会の選挙で選ばれる八名の理事と二名の監事がおかれる。理事の中一名が理事長とされ、理事長は組合を代表し組合の業務を執行する。理事は理事会を構成し、総会の提出する議案を議決するほか業務の執行に関する事項で理事会が必要と認める事項を議決する。監事はいつでも会計の帳簿及び書類の閲覧若しくは謄写をし、理事に対して会計に関する報告を求めることが出来る。理事及び監事は法令、定款、規約の定め並びに総会の決議を遵守し、組合のために忠実にその職務を遂行しなければならないとされている(甲第一号証)。

原告石田らの被相続人である石田正利は昭和四九年四月一日から平成元年三月三一日までの間、被告組合の理事の職にあり、この間昭和六〇年四月一日から平成元年三月三一日までは理事長を務めた。

原告増田は昭和四七年四月一日から昭和五七年三月三一日まで被告組合の理事に就任し、平成二年四月一日から平成五年三月三一日までは被告組合の監事に就任していた。

原告木場は昭和四一年四月一日から昭和五一年三月三一日まで被告組合の理事に就任し、平成二年四月一日から平成五年三月三一日までは被告組合の監事に就任していた。

原告浦川は昭和五七年四月一日から昭和五九年三月三一日まで被告組合の理事に就任し、昭和六三年四月一日から平成五年三月三一日までは被告組合の監事に就任していた(争いがない)。

(四) 被告組合に加入しようとするものは出資口数に応じて他の組合員の払込出資額と同一の払込をしなければならない。出資一口の金額は一万円である。組合設立時における当初の加入者出資額は二五口金二五万円であったところ、その後改訂され現在は五五口五五万円となっている。

組合に加入を認めるにあたって、組合は出資金のほかに総会で定める加入金を徴収することが出来ることになっているが、現実に総会において加入金について議論がされたことはなく、組合が出資金と別に加入金を徴収した実例もない。

前記の通りこれまでの被告組合脱退者は例外なく出資限度額の持分払戻をうけることによって組合を脱退しており、組合構成員はこの扱いを全員が知っていた。脱退組合員が定款の定めによって持分全額の払い戻しを請求した例は存在しない(証人村井)。

(五) 被告組合においては定款上脱退組合員には持分全額の払い戻しをするべき旨が定められており、出資額相当金を払い戻すという被告組合の扱いは形式上定款の定めに反するものであった。

被告組合における組合員の脱退にあっては、まず脱退希望者から理事長に対して脱退届が提出される。脱退者には出資金額を払い戻すことが慣行となっており、以後の処理は主に会計担当者によって事務的にされた。脱退希望者から出資金額を超える払戻要求があったこともないし、理事者から脱退希望者に対して出資金額を超える持分払戻請求権があることを教示したこともない。

被告組合において行われていた実際の扱いと定款の定めを整合させるためには、新規加入者に対して持分調整金を徴収する扱いとするか、又は定款上脱退にあたっての持分の払戻においては払戻額を出資額とする旨の規定をおくか、いずれかの方策を採るべき必要があったところ、地元の零細な商人を加入者とする被告組合において高額の持分調整金を徴収することは事実上組合に加入する者を制限する結果となり、組合加入者が減ずることになればひいて組合自体の衰退が避けられないことから持分調整金の徴収は断念された経緯があり、定款上持分払戻の額を出資金限度額とすることを明文化するについては組合員個人においてはその必要を感じていたものも存在したが、前認定のとおり現実に組合員の全員が事実上出資額を上限とする持分払戻をうけるという扱いを容認している現状においては、表だって総会又は組合員相互において議論されることはなかった(証人村井)。

(六) 二の4において既に認定したとおり被告組合の積極財産の総額は金三二一、九二八、一九三円にのぼるが、この内約九五パーセントを占めるのは組合が所有する本件土地並びに本件建物であり、組合員は右建物において小売商店を開設して営業を行っている。平成五年三月末日時点の被告組合の財産中現金預金は金一、七六七、九四四円、一年間の予算の規模も二、〇〇〇数百万円に過ぎないものである(乙第七号証)。

本件訴訟において原告らの主張する持分払戻請求が容認されるときは被告組合は倒産が避けられない。この状態は原告らが脱退を表明した時期において初めてそうなったものではなく、組合設立の時点から同様の状態であった。

3  以上を前提にすれば、被告組合においては脱退組合員に対する持分の払戻は、脱退組合員の出資金額を上限とする旨の事実たる慣習ないし慣行が存在したものと認められ、かつ組合員はかかる慣習の存在を認識していたものと認められる。かかる慣習と現実の定款の定めの間にある齟齬は、一部組合員の間において認識されることはあったものの、脱退組合員が定款の定めによる持分の払戻請求を行うことは現実にはないであろうとの期待のもとに、定款の定めは変更を加えられることなく今日に至ったものと認められる。

原告らがする持分の払戻請求は被告組合における組合設立以来の慣行に反するものであって、ことに原告らが長く被告組合の理事又は監事の職にあったものであることに鑑みると、原告らが本件訴訟において求める現実の出資額を超える持分の払戻請求は、信義に反し、権利を濫用するものであると認める。

そうすると原告らが行使できる持分払戻請求権は各原告についてその出資額を限度とするものと言うべきであって、その具体的な数額は石田正利の相続人である原告石田妙子については金二七五、〇〇〇円、原告石田正樹、同石田秀史、同石田智史について各金九一、六六六円、原告浦川信紀について金五五〇、〇〇〇円、原告木場義春について金一、一〇〇、〇〇〇円、原告増田義一について金五五〇、〇〇〇円であるものと認める。

よってその余の抗弁に対する判断をするまでもなく、原告らの本訴請求は右数額を超える部分については失当である。

〈反訴〉

一  請求原因1については当事者間に争いがない。

二  請求原因2について判断する。

反訴原告は反訴被告らの不法行為として「泉マーケットが平成五年三月三一日閉鎖するかのような広告宣伝を組合施設の内外で繰り返した」こと、並びに「反訴原告の所有にかかる組合建物を脱退後も継続して占有している」ことの二点をあげる。ところでこの内の後者の行為については、もしそれが不法行為に該当するとしても、それによって生ずる損害は当該建物の賃料相当金であるものというべく、売り上げ低下等の損害は行為との相当因果関係が存在しないものと言うべきである。また建物占有による損害は、反訴原告は現に反訴請求原因の3項以下において請求してもいる。従ってここでは前記二つの行為のうち前者の行為のみについて不法行為の成否を判断する。

成立に争いのない乙第八号証、原告(反訴被告)木場義春本人尋問の結果によれば、反訴被告木場義春は平成五年三月中に二度にわたり「泉マーケット内ユリヤ、三月二八日にて完全閉店」との趣旨のチラシを顧客向けに配布したことが認められる。しかしそのチラシは、その体裁からみて泉マーケット自体が当該日に閉店する趣旨を表したものとは必ずしも認められないし、他に反訴被告らにおいて泉マーケットが閉鎖するかのような広告宣伝を繰り返したものと認めるべき証拠も存在しない。よってこの点に関する反訴原告の不法行為の主張は理由がない。

三  請求原因3、4、5については当事者間に争いがないか、反訴被告はこれを明らかに争わないところである。

請求原因6について反訴被告らは建物の原状回復義務の存在を争うが、およそ建物賃貸借契約においては、賃貸借契約が終了して賃借人が賃貸人に対して建物の返還をする際には、賃借人が原状回復義務を負うのは契約の性質上当然のことであって、原状回復特約の不存在を理由に原状回復義務が存在しないとする被告の主張はこれを採用することが出来ない。

被告(反訴原告)村井仁本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第九号証の一ないし三によれば、反訴被告浦川の占有部分の原状回復に要する費用は金五三〇、二四四円、反訴被告木場の占有部分の原状回復に要する費用は金二、二四一、六八一円、反訴被告増田の占有部分の原状回復に要する費用は金三七八、八三九円であると認められる。

四  請求原因7について、反訴被告らが各自賃貸借契約の終了の日の翌日である平成五年四月一日から平成五年一〇月三一日までの七ヶ月間建物を占有していたものであることは当事者間に争いがなく、そうするとこの期間反訴原告は建物賃料相当の損害を被ったものと認められるところ、一ヶ月の賃料相当金の額は弁論の全趣旨によって反訴被告浦川並びに増田の建物に関しては金五万円、反訴被告木場の建物に関しては金一〇万円であるものと認める。

五  反訴被告らの抗弁について判断する。

1  成立に争いのない乙第二号証の二、乙第三号証の二、乙第四号証によれば、反訴被告石田らの先代である石田正利、反訴被告浦川の先代である浦川治紀、反訴被告浦川らは反訴原告の店舗を賃借するにあたって、賃貸物件返還時には物件を原状に回復する旨を約束していることが認められる。反訴原告村井の代表者本人尋問の結果によれば、過去反訴原告組合を脱退した者等に対しても店舗の原状回復を求め、これを履行させてきたことが認められる。

従って、反訴原告が組合脱退者に対して営業店舗の原状回復を求めたことが過去に一度もないことを前提に、反訴原告が原状回復請求権を黙示的に放棄したものという反訴被告らの抗弁は理由がない。

2  右に説示したところからすると反訴原告の原状回復請求を信義則違反あるいは権利の濫用とする反訴被告らの主張も、理由がないものであることは明らかである。

六  なお反訴原告は反訴被告浦川が別紙図面3に表示する豆腐冷やし器(符号③)、別紙物件目録七記載の建物を所有して別紙物件目録一記載の土地の全部を占有し、反訴被告増田は別紙図面5に表示する漬物樽二個(符号⑬および⑭)、を別紙物件目録八記載の建物を所有して別紙物件目録一記載の土地の全部を占有していることを前提に別紙物件目録一記載の土地全体の明渡を求めているがこれら動産、不動産の占有によって右反訴被告らが別紙物件目録一記載の土地の全体を占有しているものとは認めることが出来ないので、別紙物件目録一記載の土地の関係においては、動産についてはその撤去のみを命じ、不動産については建物の収去と建物敷地部分の明渡のみを命ずることとする。また反訴原告は反訴被告浦川に対して、同反訴被告が別紙図面2に表示する豆腐陳列台(符号⑭)を所有して別紙物件目録二記載の建物を占有しているとして同建物の明渡を求めるが、右豆腐陳列台の所有によって同反訴被告が別紙物件目録二記載の建物を占有しているものとは解せられないので、これについては同豆腐陳列台の撤去のみを命ずることとする。

〈まとめ〉

以上の次第であるから原告らがする持分払戻請求は、石田正利の相続人である原告石田妙子については金二七五、〇〇〇円、原告石田正樹、同石田秀史、同石田智史について各金九一、六六六円、原告浦川信紀について金五五〇、〇〇〇円、原告木場義春について金一、一〇〇、〇〇〇円、原告増田義一について金五五〇、〇〇〇円の限度で理由があるので認容し、その余は失当として棄却し、反訴原告がする反訴被告らに対する請求は、反訴被告らの所有する動産の撤去並びにその占有する建物の明渡、別紙物件目録一記載の土地上の建物の収去とその敷地部分の明渡、反訴被告らが占有する建物の原状回復費用の請求と平成五年四月一日から同年一〇月末日までの間の賃料相当損害金の支払を求める部分は理由があるので認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法九二条、九三条、仮執行宣言について民事訴訟法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官川谷道郎)

別紙物件目録、図面〈省略〉

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com