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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)3354号 判決

原告

甲野花子

右訴訟代理人弁護士

齋藤護

被告

オリオン交易株式会社

右代表者代表取締役

戸舘勇幸

右訴訟代理人弁護士

後藤次宏

主文

一  被告は、原告に対し、金三六六万三九二七円とこれに対する平成五年四月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その一を被告の、その余を原告の各負担とする。

四  この判決は、主文第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  原告の請求

被告は、原告に対し、一一三三万六三七七円とこれに対する平成五年四月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、原告が、被告に対し、被告自身の不法行為(原告に対して商品先物取引の違法勧誘などが組織的に行われたとする。)を理由に、同取引による差損金一〇三〇万六三七七円、弁護士費用一〇三万円及びこれらに対する訴状送達日の翌日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を支払うように求めた事案である。

一  基礎となる事実(証拠摘示のないものは、当事者間に争いがないか、あるいは、明らかに争われることがなかった事実である。)

1  当事者

(一) 原告は、昭和九年生まれの主婦である。原告は、夫から、株には手を出さないようにアドバイスを受けていたが、原告の父が株取引を行っていたことから興味を持ち、昭和五〇年ころから株式の売買を行うようになった。そして、昭和六一年にNTT株を購入したころから、日興証券と頻繁に取引をするようになり、日興証券では、株式を一〇銘柄程度、転換社債を五、六銘柄程度購入し、さらに、証券会社に勧められてワラントを購入したりした。また、その後、山一証券に友人が勤めていた関係で、取引先を、徐々に、山一証券に変更し、山一証券では、株式を一〇銘柄程度を買い、国債ファンドなどを買ったりもした。また、友人と共同で、ゴルフ会員権の購入を行ってもいた。

〔甲第二四号証、原告〕

(二) 被告は、商品先物市場での売買及び売買の受託などを業とする株式会社であり、被告会社大阪支店の支店長坂元好夫、同外務員(いずれも当時)の先間や村尾は、被告の従業員であった。

2  被告の勧誘と原告の委託

(一) 先間は、平成四年二月ころに一度、同年三月に一度、原告に対し、電話で、商品先物取引を勧誘した。原告は、同年三月下旬に、喫茶店で待ち合わせ、先間及び村尾と会ったが、その際に、商品先物取引(大豆)を行うことを承諾し、契約書を作成した。

(二) ところが、原告は、委託証拠金を支払う段になり、被告会社が信用のおける会社かどうかが心配となり、大阪穀物取引所に電話した。すると、同取引所の職員から、「被告会社は取引所の会員である。しかし、家庭の奥さんなどは商品取引をしてはいけないことになっているので、やめておきなさい。」と忠告されたため、原告は、すぐに村尾と会い、その旨を伝えて、右委託を行う旨の意思を撤回した。

(三) しかし、村尾は、その直後、原告に電話をよこし、「すでに注文を受けたものとして先間の三月分の成績としてしまっている。協力してほしい。それが無理なら、実際の売買は行わないので、一〇〇万円だけ、名前とお金を貸してほしい。」旨求めてきた。原告も、単に、名前とお金を貸すくらいなら、少しは取引をしてもよいと考え、結局、五〇万円だけとの限定をつけ、商品先物取引(輸入大豆)を委託することとした。

〔甲第二四号証(一部)、乙第三六号証、証人村尾、原告(一部)(一部の事実は争いがない。)〕

3  原告のした商品先物取引とその結果

(一) しかし、その後も、被告からは、商品先物取引を増やすように勧誘がされ、原告もこれに応じていったことから、取引の内容や量は拡大していった。

(二) 原告が、被告に委託して行った商品先物取引の内容は、別表記載1ないし21(但し、別表記載12、13の各取引は、春川夏子名義でなされている。)のとおりである。

また、被告が、原告に対して送付した残高照合通知書の値洗損益金額(春川夏子名義分を含む。)は、平成四年四月二八日時点でプラス一五万円であったが、同年五月二八日時点でマイナス三三万七五〇〇円(各取引のトータルの金額である。以下、同じ)、同年六月二九日時点でマイナス三〇四万円、同年七月三〇日時点でマイナス六〇二万円、同年八月二八日時点でマイナス六八四万円となっていた。

〔甲第五号証、乙第二一号証の1ないし11、第四号証の1ないし7、弁論の全趣旨〕

(三) 原告がこれら取引によって受けた損失であるが、

(1) 原告が、これら取引のために出損した委託証拠金及び手数料は、①平成四年四月七日の五〇万円、②同月三〇日の一〇〇万円、③同年八月二一日の一三五万六一九〇円、④同月二五日の一五〇万円、⑤同月三一日の九万五〇〇〇円、⑥同年九月七日の七万三六三一円、⑦同月八日の六〇万円、⑧同月一七日の一一〇万円、⑨同年一〇月一日の二九二万七四一九円、⑩同月八日の二四三万七五四九円の合計一一五八万九七八九円である。

(2) 他方、原告は、被告から、①平成四年四月三〇日に六万五九四七円、②同年六月九日に二〇万七四六五円を受け取り、さらに、③同年一〇月八日に時価一〇一万円相当の株券を交付された。

(3) よって、原告がこれら取引によって受けた損失は、右差額の一〇三〇万六三七七円である。

二  争点

1  原告に対する勧誘に違法があったかどうか。

(一) 原告の適格性の有無

〔原告の主張〕

原告は、定年退職者の夫と暮らす五七才(当時)の主婦であり、一定の所得のない者であった。このような者に対し、積極的に勧誘すること自体、許されないものである(取引所指示事項1、日本商品取引業協会の「受託業務に関する規則」五条(1)など)。

(二) 断定的判断の提供や執拗な勧誘の有無

〔原告の主張〕

ア 村尾及び先間は、平成四年三月に、取引の基本的な仕組みや危険を知らせないまま、原告に対し、「大豆はこれから値上がりするので、いま買うのが一番いいタイミングです。必ず儲かります。」と述べ、断定的判断を示して勧誘した。

イ また、村尾は、同年四月初旬、一旦、取引を断った原告に対し、「主婦がやっても全く問題がない。取引所に抗議する。すでに先間の成績として報告してしまった。取引を行うことが無理なら、名前とお金を貸してほしい。」と述べ、強引かつ執拗に勧誘した。

(三) 新規委託者の保護義務違反の有無

〔原告の主張〕

ア 原告は新規委託者であり、新規委託者の保護育成のため、三ケ月内の売買枚数は二〇枚以内とする旨の制度が定められている(前記受託業務規則七条一項により各取引員が定める管理規則)。原告の行った売買枚数は、前記のとおり、短期間に、累進的に増えているが、これは、被告が、原告の保護を一顧だにせず、むやみに取引を拡張したものであって、違法である。

イ また、被告は、原告の取引の一部を長女春川良子名義で行わせているが、仮名もしくは他人名義による売買は、建玉規制などの潜脱につながるため、取引として認められていない(取引所指示事項3(2)、前記受託業務規則五条(6))。たとえ、委託者本人の了解があったとしても、違法である。

2  被告の業務遂行に違法があったかどうか。

(一) 事実上の一任売買といえるか。

〔原告の主張〕

ア 一任売買は法によって禁止されている(取引所法九四条)。ところで、原告は、十分な商品先物取引の知識を持たない者であった。そして、被告の外務員らは、かかる原告に対し、「我々がちゃんとやりますから任せてください。」と言って説得し、その後も、「ゴムが面白い動きになってきた。」「ここで売りましょう。ここで買いましょう。」などと述べて、原告に売買を行わせている。

イ しかし、原告を含め、素人は、外務員からそれらしい根拠を示して勧められると、それを確実な情報として受けとめてしまうものである。このような勧誘は、結局、一任売買を行っているのと変わらない実情にある。かかる事実上の一任売買は一任売買の脱法行為というべきであり、違法である。

(二) 両建てが違法かどうか。

〔原告の主張〕

ア 両建ては、一般委託者にとって有害、無益である。

イ しかるに、被告は、原告から多くの委託保証金を引き出し、手数料稼ぎを行うことを目的として、平成四年六月二日以降、取引終了まで、原告に、多くの両建てを行わせた。

(三) 無意味な反復売買が含まれているかどうか。

〔原告の主張〕

ア 受託者の充分な理解を得ないまま、短期間に、頻繁な売買取引を勧めることは許されない(取引所指示事項2(1))。

イ 原告は、頻繁に、小豆取引の売り直し、買い直しをさせられているが、家庭の主婦は、このような売買を充分に理解することができない。これらは、被告が、自らの手数料稼ぎのために行わせたものであって、違法なものである。

3  違法な向い玉の有無

〔原告の主張〕

ア 商品取引員が、もっぱら投機的利益の追求を目的とし、受託にかかる取引と対当させて、過大な数量(総建玉の一〇パーセント又は一〇〇枚)を取引することは禁止されている(取引所法規則三三条二号。但し、具体的な右の数字は業界の自主規制による。)。

イ 被告は、本件でも、原告からの受託取引に対当させ、自己玉を建てているのであり、違法である。

三  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

第三  裁判所の判断

一  争点1について

1  原告の適格性の有無

(一) 商品先物取引は、元本の保証がなく、かつ、投機性がきわめて高いものであることは、当裁判所にも明らかである。

そこで、取引業者がかかる取引を勧誘する場合、勧誘を受ける者にかかる取引を行うに足りる適格が備わっているかどうか、たとえば、取引の仕組みに対して理解する力があるかどうか、投機を行うだけの余裕のある者であるかどうかなどを検討し、その結果に応じて、委託者にとって相応しい方法で勧誘を行っていくべき義務があると認められる。

(二) ところで、原告は、本件取引の当時、主婦であったことは、前認定したとおりである。しかし、主婦であるということだけで、原告が右理解力を欠いていたとか、取引を行うだけの経済的な力がなかったとまでいうことはできないから、原告に適格性が備わっていたかどうかの判断は個別に検討いかざるをえないものである。

そこで、検討するに、原告の投資に関する経歴は前判示したとおりであるところ、証拠(甲第二四号証、証人村尾、原告)によれば、①原告は、本件取引当時、家事のかたわら、生命保険相互会社で保険契約者への面談調査の仕事をしていたこと、②原告は、山一証券で行った株式投資に関し、自ら、株式の銘柄を選んでいたこと、③株式及びワラントの投資ではともに何百万円単位の損失を出していたこと、④原告は、営業マンの話は信用できないものと考えるようになっていたこと、⑤他方、原告は、投資による損失を取り戻したいとも考えており、被告の従業員らから取引の勧誘を受けたときに興味を持ったこと、⑥原告にとって、商品取引はイコール豊田商事事件のイメージが強く、被告会社の信用度に関心があったことなどが各認められる。また、別の証拠(乙第一、二号証、第五号証、第七ないし九号証、第一一号証、第一三ないし一五号証、第三六号証、証人村尾、原告〔一部〕)によると、⑦原告は、被告と契約を結ぶ前に、村尾から商品先物取引の仕組みの説明を受け、自らも先物取引に関する委託ガイドに目を通して、取引の仕組みにつき一応の理解を得ていたこと、⑧原告は、商品先物取引は元本保証がないことを理解し、被告に対してもその旨理解している旨の書面を提出していること、⑨原告は、平成四年五月、被告の管理総括責任者に対し、「自分は主婦であるが、自己資金の積極的な運用を行いたく、商品先物取引について十分理解した上で、自己の責任と判断において取引する。」旨の申出をなしていること、⑩原告は、平成四年四月二二日、同年六月一六日及び同年七月二九日に、被告からのアンケートに答え、その中で、「毎月の残高照合書を確認し、返還可能額も確認している。担当社員の連絡状況は充分だし、値動きに対する資料提供やアドバイスも今のままでよい。」旨の回答をしていること、が各認められる。甲第二四号証の陳述書や原告本人尋問の結果中、原告は商品先物取引の仕組みなどの説明を受けたが、まったく理解できなかったとある部分は、前記の各証拠にてらして採ることができず、他に右認定に反する証拠はない。

以上、認定してきたところからすると、原告には、商品先物取引を行うに足りる一応の理解力があったと認めることができるし、また、これまでの投資経歴にてらして、経済的にも特に問題になるとまでいうことはできないと認められる。結局、原告に、商品先物取引を行う適格性がないとまで認めることはできず、被告外務員らが、平成四年二月から四月初旬に、原告に対してなした勧誘は、原告の理解力、経済力、取引数量などにてらして適法なものであったと解される。

2  断定的判断の提供、執拗な勧誘の有無

(一) 証拠(甲第二四号証、証人村尾、原告)によれば、村尾は、平成四年三月に、原告に勧誘した際、原告に対し、「専門的なデータ、研究に基づいて取引を勧めており、お客に喜んでもらっている。」「株が値下がりしているときは、商品取引にお金が集まる。」「今がチャンスです。」「大豆はこれから上がる。ダイミングがいい。」「儲けてお客さんに喜んでもらうようにする。」などと述べたことが認められる(他に右認定に反する証拠はない。)。

そして、村尾がした右の説明は、これを聞いた者の理解力次第ではあるけれども、相手方に対し、「今、商品先物取引をすると確実に利益が出る」旨の誤解を招きかねないものであるように認められる。しかし、前認定したとおり、原告は、右時点で、商品先物取引の仕組みに関して一応の説明を受けており、同取引で元本保証はされていないとの認識を得ていたこと、原告自身、営業マンの話は必ずしも信用できないと思っていたうえ、商品取引業者全体に対して不信感を持っていたというのであるからして、村尾に右のような発言があったからといって、そのことで、原告が、「今、商品先物取引をすれば必ず儲かる。」旨誤解したと認めるわけにはいかない。

そこで、原告の本件請求のうち、断定的判断の提供を理由とする部分は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がない。

(二) また、執拗な勧誘として主張されている点についても、事実関係は、前判示のとおりである。すなわち、原告の主張する事実中、村尾が「主婦が取引をしてもまったく問題がない。取引所に抗議する。」と発言したとする部分は、これを否定している村尾証言などにてらし、なお認めることが困難であるが、その余の部分は、ほぼ、原告主張のとおりであると認められ、他に右認定に反する証拠はない。

しかし、右勧誘がなされた時期は、原告が一度取引を承知しながら、後にこれを撤回したときのことであり、取引を始めるかどうかについて全く白紙であったときになされたものではない。右勧誘の方法など、諸般の事情を考慮すれば、村尾がした勧誘にも理解できる部分があるというべきであるから、村尾の右勧誘をもって直ちに違法であるとすることはできない。

3  新規委託者保護義務の違反

(一) 証拠(甲第八号証、証人坂元好夫)及び弁論の全趣旨によると、全国商品取引所連合会が定める受託業務指導基準では、「新規に取引を開始した委託者の保護育成期間を三ケ月と定め、同期間内の建玉枚数は原則として二〇枚を超えないものとし、これを超える建玉の注文があったときは、右規則の趣旨を十分に説明したうえ、的確に審査して、過大な取引となることがないようにする。」旨定められており、また、被告会社でもこれと同様の基準が設けられていたことが認められる(他に右認定に反する証拠はない。)。しかるに、原告は、商品取引に関して新規委託者であるのに、被告との取引を始めてから三ケ月以内に二〇枚をはるかに超える建玉を委託していること、そして、これらの建玉はいずれも被告の勧誘によって行われたものであったことは、いずれも前認定したとおりである。

もっとも、右の基準はいわば業界内の内部基準であり、被告が右の基準に違反したからといって、それが、直ちに社会的に違法なものと評価されるわけではない。しかしながら、右規定が設けられた趣旨、すなわち、新規委託者が商品先物取引を行うことに関する適格性判断をより慎重に行い、委託者の保護と育成を図り、ひいては、商品先物取引市場の健全な発展をめざすという趣旨は、今日、社会が、各商品取引員らに対して要請しているところというべきである。そうだとすれば、商品取引員らが、明らかに右規定の趣旨に違反し、委託者の能力等を無視したやり方で、追加取引の勧誘を行ったような場合には、そのことが社会的に違法な行為と認められる余地はあるのである。

(二)  ところで、原告が被告を通じてなした取引の時期、内容等は、前認定したとおりである。そして、証拠(甲第二四号証、証人村尾、同坂元、原告)によれば、①村尾は、取引開始後一ケ月余りを経過した時点で、原告に多量の取引を行うよう勧誘し、その商品も村尾において選択し、推薦したものであったこと、②村尾が、右勧誘を行うまでの時期は、原告において別表1ないし3の取引を委託し、わずかな売買益を得ていたにすぎず、原告が商品先物取引を習熟する機会としては少ないものであったこと、③被告は、右益金が出たことを契機とするように、右勧誘を行って、原告から、平成四年五月一一日に粗糖二〇枚、同月一二日に大豆一〇枚、同月一九日にゴム三五枚、同月二〇日にゴム二五枚、同月二一日にゴム二五枚、同月二六日に小豆一〇枚、六月二日に小豆一〇枚、同月一六日に小豆一〇枚、同月二三日に大豆二〇枚という大量の委託を受けていること、④村尾のかかる勧誘は被告大阪支店長の坂元も承知のうえでなされたものであったことが各認められ、他に、右認定に反する証拠はない。

(三)  このように、被告は、取引開始一ケ月余りした時点で、原告に対し、多量の商品先物取引を勧めているのである。かかる勧誘行為は、原告に証券取引等の経験があり、商品先物取引を行うことに一応の適格性が認められているにせよ、前記の新規委託者の保護、育成をめざす趣旨に明らかに反したものであり、原告にそこまで多量の取引を行うに足りる適格性があったとも認められないから、社会的に違法な勧誘行為であったというべきである。

そして、前記各証拠によれば、仮に、村尾において右違法な勧誘を行わなかったならば、原告も、右の時期に、短期間に、このように多量な取引を委託することもなかったように認められ、他に、右推認を左右する証拠もない。

(四) なお、原告は、被告が原告の取引の一部が長女春川良子名義でなされていたことを知っていたとし、争点の一つとするが、しかし、本件損害賠償請求との関連からして、右の主張事実から、右(二)で認定したところとは別の意味での不法行為が認められるという関係にはない。その意味で、原告の右主張は認めることができない。

二  争点2について

1  事実上の一任売買

証拠(甲第二四号証、乙第五ないし一五号証、証人村尾、原告)によると、原告は、商品先物取引を委託する際には、その都度、被告と連絡をとりあっていたことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

そして、本件各証拠によっても、これらの取引を行うにつき、原告の意思がまったく入っていないとか、事実上の一任売買であったとまで認めることはできない。

2  両建て

本件でいわゆる両建てが行われていたことは前記認定した事実から明らかである。

ところで、両建ては、建玉に値洗損が生じたときに損失を固定できるメリットがある一方で、そのために余分な手数料の負担が増え、委託者にとっては経済的負担となる方法である。しかし、両建ては、損失を一旦固定して市況の様子をみたり、先物取引委託証拠金を捻出する時間を得たり、あるいは、損失の発生を後日に繰り延べるために使われることがあり、商品取引市場で禁止されているというものでもない。両建てが委託者にとってまったく無意味であるとはいえない。

そこで、両建てが行われたということだけで、直ちに、違法なものであるとはいえないし、また、本件各証拠によっても、本件の両建てが、被告の手数料稼ぎのために行われたとはできない。

3  無意味な反復売買

前記認定したとおり、別表記載1と2の建玉、同じく3と4の建玉とは反復売買であると解されるが、しかし、本件各証拠をみても、いかなる事情のもとで右反復売買がされることになったのかは、なお、事情が明らかでない。

結局、被告が右の反復売買を勧誘したことが違法であるとまで認めるに足りる証拠はない。

三  争点3について

証拠(甲第二六号証の1、2)によれば、被告会社では、顧客からの委託を受けた場合に、取引所法規則等による総建玉の一〇パーセント又は一〇〇枚という制限の範囲内で、その時の相場観とは関係なく、委託玉にほぼ対当する形で、自動的に、自己玉を建てていたことが認められる。他に右認定に反する証拠はない。

しかし、そうであるからといって、被告の原告に対する商品取引の勧誘が、いわゆる「客殺し」を目的として行っていたものとまで認めることはできず、他に、かかる事実を認めるに足りる証拠もない。

第四  不法行為の成立

一  被告の不法行為

前認定のとおり、被告が原告に対し、平成四年五、六月に行った勧誘は、被告会社の組織的な勧誘とみられるところ、右勧誘がなされた時点では、原告の商品先物取引に関する経験が浅く、短期に、大量の取引を委託するには、原告になお十分な適格性が備わっていなかったと認められる。被告は、かかる時期に、商品を指定して推奨し、多量の取引をさせたというものであって、違法なものと認められる。

よって、被告は、不法行為にもとづき、右違法な勧誘をしたことにより、原告に与えた損害を賠償すべきである。

二  原告の損害額

1  右勧誘によって原告が委託した取引は、別表記載4、5、7ないし10、12、14ないし16の各取引であるが、これらの取引によって原告が受けた損失は、前認定したとおり、同表の手数料欄及び差引損益金欄に各記載した合計七八八万五三一九円であると認められ、他に右認定に反する証拠はない。そして、原告が、被告から、平成四年六月九日に二〇万七四六五円、同年一〇月八日に一〇一万円相当の株券交付を受けている事実は、原告もこれを自認するところである。

2  そこで、被告の右違法な勧誘によって、原告が商品先物取引を委託し、それにより原告が受けたと見られる損失額は、右損失額合計七八八万五三一九円から、原告が自認しているこれらの金額を控除した六六六万七八五四円となる。

もっとも、前判示にかかる残高照合通知書の値洗損益金額にてらせば、右差損金の額は、原告がその後も手仕舞いをしなかったために増加した分も含まれたものであることが推認されるので、被告に、右差損金の全部を損害としてその賠償義務を負わせることはできない。さらに、原告も、被告からの違法な勧誘を受けたことが本件取引を行った直接の原因であるとはいうものの、原告自身、商品先物取引の仕組みにつき説明を受け、元本保証もないことを知りながら、株式投資等による損失の穴埋めをしようとして、安易に、委託を行っているものといわざるをえないから、原告自身の落度も大きいものがあったと解される。

3  よって、過失相殺の規定の趣旨にてらし、本件における諸般の事情を考慮して、原告が受けた右損失のうちの半分につき過失相殺を行うことが相当である。そこで、原告が被告に対して請求できる損害額を、右過失相殺後の三三三万三九二七円とこれに弁護士費用三三万円を加えた三六六万三九二七円と認める。

(裁判官上原裕之)

別紙〈省略〉

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