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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)7933号 判決

原告(反訴被告)

川上博

右訴訟代理人弁護士

井上計雄

被告(反訴原告)

株式会社とうりゃんせフードシステム

右代表者代表取締役

吉元弘機

右訴訟代理人弁護士

吉野和昭

主文

一  原告(反訴被告)の本訴請求を棄却する。

二  反訴原告(被告)の反訴請求を棄却する。

三  訴訟費用は、本訴反訴ともに、これを五分し、その三を原告(反訴被告)の負担とし、その余を被告(反訴原告)の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  本訴請求の趣旨

1  被告(反訴原告。以下「被告」という。)は、原告(反訴被告。以下「原告」という。)に対し、金三八五万四九五一円を支払え。

2  被告は、原告に対し、平成六年三月三一日から同一〇年三月三一日まで、毎年三月三一日が到来したときは、各金三八五万四九五一円を支払え。

3  被告は、原告に対し、平成一一年三月三一日が到来したときは、金五七八万二四二七円を支払え。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

5  仮執行宣言

二  本訴請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

三  反訴請求の趣旨

1  原告は、被告に対し、金三二四四万五〇〇〇円及びこれに対する平成五年五月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  仮執行宣言

四  反訴請求の趣旨に対する答弁

1  被告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  本訴請求原因

1  被告は、昭和五六年頃から、お好み焼きを扱う「とうりゃんせ」という名称の飲食店を自ら経営すると共に、昭和五九年頃からは右名称によるフランチャイズ・チェーン(以下「本件チェーン」という。)を組織している株式会社である。

2  原告と被告は、平成三年五月三一日、次の内容のフランチャイズ契約及び店舗運営業務委託契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

(一) 原告は、本件チェーンに加入し、被告が経営していたとうりゃんせ宝塚小林店(以下「本件店舗」という。)を被告から委託を受けてその名称で営業・運営する。

(二) 被告は原告に対し、とうりゃんせチェーンシステムによる本件店舗を経営する権利を与え、「とうりゃんせ」の名称を使用することを許諾するとともに、店舗の設営、広告宣伝、販売・サービス方法、営業管理など本件店舗の運営・営業につき指導援助を行う。

(三) 原告は被告に対し、本件チェーン加盟金として二〇〇万円、ロイヤリティーとして毎月総売上高の五パーセントを支払うほか、店舗運営業務委託契約に基づき、委託預託金として五〇〇〇万円、店舗使用料として月額一五〇万円を支払う。

3  原告は、平成三年四月頃、被告の取締役総務部長迫あや子(以下「迫」という。)らから、「信頼のおける責任者(店長)さえ派遣すれば、本部で店長教育もして、利益を出して還元します。川上さんは今の勤務を続けても十分経営が成り立ちます。」といわれ、被告の企画開発室課長河村俊生(以下「河村」という。)から「宝塚小林店は売上もいいし、将来的にもどんどん伸びる。この店をやりませんか。」等と勧誘された。

河村は、原告に対し、当初月額七〇〇万円余りの売上があり、全ての費用を差し引いても月額六二万円余りの経常利益がある、四年後からは経常利益は月額一三七万円余りになるという内容の試算表(シミュレーション)など本件店舗の業務委託条件の資料を示し、さらに、本件店舗の平成三年三月分、四月分の売上として七〇〇万円ないし八〇〇万円が計上された資料を示して月額七〇〇万円の売上は確実である旨説明した。

4  原告は、これらの資料から、被告の指導援助の下に経営を行えば、初年度から月額六二万円余り、その後は漸増し、四年後からは一三七万円余りの利益が上がるとの説明を信用し、本件契約を締結した。

5  原告は、平成三年七月一日から本件店舗の営業を開始したが、同年七月分の売上は四一八万円にしかならず、その後の売上も同年中の月額平均三五〇万円程度に止まり、平成三年度の本件店舗の営業収支は、三八九万九八六九円の赤字となった。

翌平成四年度からは、原告は経費の節減に尽力したものの、月額の売上は三〇〇万円を超えることなく、平成四年は年間で一一〇四万七〇八三円の赤字を出すに至り、結局、原告は、営業不振から、平成五年四月四日、本件店舗を閉店した。

6  詐欺

被告の経営状況は、採算を無視した過大な設備投資のため、平成元年頃から赤字経営となり、本件契約締結後の平成三年七月三一日には手形不渡りを出すに至った。

迫、河村らは、右経営破綻状況を秘し、委託預託金名下に高額の金員を取得する目的で、原告に対し、経営に関しては全て被告が指導・援助するので、素人でも経営ができ、利益が上がる旨の説明を行い、十分な市場調査や分析をせず、本来の試算の仕方に違反し、被告が有しているデータに基づかない、架空の数字を記載した内容虚偽の試算表を提示して、経費を全て差し引いても月額六二万円余りの利益が上がる旨の説明をし、原告にその旨誤信させて本件契約を締結させたもので、迫、河村らの行為は詐欺にあたる。

7  契約締結上の過失

(一) フランチャイズシステムにおいては、フランチャイズに加盟しようとする個人は、店舗経営の知識や経験に乏しく、資金力も十分でなく、フランチャイザーによる指導や援助を期待しているから、フランチャイザーは、フランチャイズ契約締結にあたっては、客観的な判断材料になる正確な情報を提供する信義則上の義務を負っている。

(二) 原告は、洋食器等の卸小売販売業を営む訴外株式会社すずか(以下「すずか」という。)の従業員であった者であり、飲食店の経営に関しては全くの素人であった。

これに対して被告は、フランチャイズ店経営のノウハウや情報など専門家としての知識や経験を有していた者であり、原告に対し、右(一)の義務を負っていたところ、これを怠り、十分な市場調査や分析に基づかず、裏付けのない数字を記載した試算表を提示して、経費を全て差し引いても月額六二万円余りの利益が上がる旨の説明をし、原告にその旨誤信させて本件契約を締結させたもので、被告には契約締結上の過失がある。

8  損害

原告は、被告の詐欺あるいは契約締結上の過失により、次のとおり合計九六三七万三七八九円の損害を被った。

(一) 本件契約締結により原告が支出を余儀なくされた費用

(1) フランチャイズ加盟金 二〇〇万円

(2) 委託預託金 五〇〇〇万円

(二) 本件店舗の経営において生じた欠損金

平成三年度 三八九万九八六九円

平成四年度 一一〇四万七〇八三円

平成五年度 一三三万八六三一円

合計 一六二八万五五八三円

(三) 原告が営業利益としてもたらされると信じた利益

平成三年七月一日から同五年四月四日まで

二四六八万八二〇六円

(四) 弁護士費用 三四〇万円

原告は原告訴訟代理人に対し、本訴提起にあたり、本件訴訟追行を委任し、報酬として三四〇万円を支払う旨約した。

9  公序良俗違反(予備的主張)

(一) 本件店舗運営業務委託契約においては、原告は被告に対し、委託預託金として五〇〇〇万円を支払うものとされており、五年未満で契約が解除された場合には全額を被告が没収し、一〇年の契約満了により初めて右委託金が被告から原告に返還されると定められている。

(二) しかし、本件店舗の建物賃借料月額六五万円は原告の負担となっており、それ以外に店舗使用料として月額一五〇万円を被告に支払うことになっているのであり、右の委託預託金は実体のないものである。

(三) 右の様に多額の委託預託金を五年未満で契約が解除された場合には没収するとの契約は、フランチャイズ契約におけるフランチャイジーの無知及び経済的に脆弱な立場を利用した暴利行為であり、右契約は公序良俗に反し無効である。

10  和議

被告は、平成三年一二月一七日、大阪地方裁判所に和議開始の申立をなし、平成四年五月一八日、左の和議条件で和議開始決定が出された。

(一) 債務者は和議債権者に対し、和議債権元本のうち三〇パーセントを左のとおり支払う。

(1) 平成五年三月末日から同一〇年三月末日まで毎年三月末日限り各四パーセント。

(2) 平成一一月三月末日限り六パーセント。

(二) 和議債権者は、和議債権元本の七〇パーセント及び利息、損害金全額を免除する。

11  よって、原告は、被告に対し、第一次的に不法行為による損害賠償請求として、第二次的に契約締結上の過失責任に基づく損害賠償請求として九六三七万三七八九円の、第三次的に公序良俗違反を理由とする不当利得による返還請求として五〇〇〇万円の各債権を有しているので、10の和議条件によって修正した上、本訴請求の趣旨記載の金員の支払を求める。

二  本訴請求原因に対する認否

1  本訴請求原因1、2は認める。

2  同3、4は否認する。

3  同5のうち、原告が平成三年七月一日から本件店舗の営業を開始し、同五年四月四日閉店したことは認め、その余は否認する。

4  同6は否認する。

5  同7(一)は争う。同7(二)のうち、原告がすずかの従業員であったことは認め、その余は否認する。

6  同8は否認する。

7  同9(一)は認める。同9(二)のうち、本件店舗の建物賃借料月額六五万円は原告の負担となっており、それ以外に店舗使用料として月額一五〇万円を被告に支払うことになっていることは認め、その余は否認する。同9(三)は争う。

8  同10は認める。

三  反訴請求原因

1  本訴請求原因1、2と同じ。

2  原告は、平成三年七月分から同五年三月分までの本件店舗の使用料を支払わない。

3  よって、被告は、原告に対し、右店舗使用料合計三二四四万五〇〇〇円及びこれに対する平成五年五月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

四  反訴請求原因に対する認否

全て認める。

五  抗弁

1  公序良俗違反

(一) 本件店舗運営契約では、本件店舗の家賃月額六五万円のほか、店舗の維持・管理費等の経費は全て原告の負担とされており、店舗使用料の実体は何もない。

(二) 被告は、フランチャイジーである原告の無知に乗じて店舗使用料名下に月額一五〇万円もの多額の金員の給付を義務づけたものであり、右は暴利行為である。従って、店舗使用料に関する合意は公序良俗に反し無効である。

2  条件不成就

(一) 平成三年八月二〇日頃、被告は、原告に対し、「店舗使用料の支払はそれを支払えるだけの十分な収益が上がった場合に支払えばよい。」と店舗使用料の支払に停止条件を付する意思表示をなし、原告はこれを了承した。

(二) 平成三年七月から同五年四月までの間、本件店舗の営業により店舗使用料が支払えるだけの十分な収益は上がらず、原告は、平成五年四月四日、本件店舗を閉店したため、右条件の不成就が確定した。従って、原告の支払債務は発生していない。

3  相殺

(一) 本訴請求原因1ないし8と同じ

(二) 原告は、被告に対し、平成七年五月一九日の本件口頭弁論期日において本訴請求にかかる損害賠償債権と右店舗使用料支払債務とを対当額で相殺する旨の意思表示をした。

六  抗弁に対する認否

1  抗弁1(一)のうち、本件店舗運営契約では、本件店舗の家賃月額六五万円のほか、店舗の維持・管理費等の経費は全て原告の負担とされていることは認め、その余は否認する。同1(二)は争う。

2  抗弁2(一)は否認する。同2(二)のうち、原告が平成五年四月四日、本件店舗を閉店したことは認め、その余は争う。

3  抗弁3(一)に対する認否は、本訴請求原因1ないし8に対する認否と同じである。

第三  証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

第一  原告の本訴請求について

一  本訴請求原因1、2、同5のうち、原告が平成三年七月一日から本件店舗の営業を開始し、同五年四月四日閉店したこと、同7(二)のうち、原告がすずかの従業員であったことは当事者間に争いがない。

二  右争いのない事実に証拠(甲一ないし四、九、一〇の1ないし6、一一、一二の1ないし4、乙一八の1、2、一九、二〇の1、2、二二、証人大塚英昭、同迫あや子、原告本人)を総合すれば、以下の事実が認められる。

1  被告の本件店舗の出店に至る経緯

(一) 平成元年七月頃、被告は、訴外住友信託銀行株式会社から、宝塚市小林五丁目二三七番一、二三八番一の土地につき、被告の直営店の出店候補地として検討してほしいとの依頼を受け、当時、被告の出店開発部門を担当していた訴外大塚英昭(以下「大塚」という。)は、右の場所に出店が可能か否かを調査することになった。

(二) 大塚は、まず、宝塚市における昭和五七年及び同六一年の外食支出を統計資料から調査し、昭和五七年から同六一年までの五年間に外食支出が25.6パーセント増加しているとの結果を得たことから、平成元年当時の宝塚市の一人あたりの外食支出を約六万円と推定した。

次に大塚は、宝塚市の住民台帳を閲覧し、出店予定地の一キロメートルの範囲内の人口が約一万一〇〇〇人であるとの調査結果を得た。

さらに大塚は、出店予定地を現地調査し、周辺に競合するナショナル・チェーン(全国規模の外食店舗)がないこと、しかし他方、阪急電鉄系の「阪急そば」が出店しており、小規模の飲食店があることから一定の外食需要はあることを確認した。

そして、本件店舗の前にスーパーマーケット「イズミヤ」が出店しており、本件店舗で扱う商品が主婦や子どもに人気のあるお好み焼き、甘党、ジュース類等であることから、買い物客の入店が見込まれると判断した。

(三) 被告は、これらの調査結果から出店は可能と判断し、当時、既に営業していた被告の直営店で、本件店舗に比較的類似していると考えられる中百舌鳥店、浜寺店、富田林店等の実績も参考にして、本件店舗の営業計画を次のとおり立案した。

営業日数 三〇日

営業時間 午前一一時から午後一一時まで一二時間

客席数 六四席

客単価 一一〇〇円

回転率 三回

平均日販 二一万一二〇〇円

平均客数 一九二名

右のうち、客単価は、顧客一人の飲食する商品が通常約一一〇〇円であること、被告の直営店の売上を客数で除した額が一一〇〇円から一三〇〇円程度であることから設定したものであり、回転率は、本件店舗の営業時間が午前一一時から午後一一時までの一二時間であること、お好み焼きは関西地方では間食ともされていること、他の直営店等の実績から、昼食時と夕食時にそれぞれ客席が一杯になるほか、それ以外の時間帯の延べ来客数でほぼ客席が一杯になることが予想されたため、一日三回転と設定した。

(四) さらに被告は、右営業計画を前提に月額の売上が六三三万六〇〇〇円、年間の売上は初年度が七六〇三万二〇〇〇円で、以後漸増し、五年後には年間八六三四万三八円の売上が上がるとの試算表を作成した(以下「第一次試算表」という。)。

右試算において年々売上が増加するとの試算を行ったのは、前記(二)の外食支出の増加傾向に照らし、今後も年約五パーセントの割合で外食支出は増加すると推定したことによるものである。

(五) 被告は、平成三年二月二四日から、本件店舗の営業を開始した。

被告が営業を開始してから、原告に営業を引き継ぐまでの本件店舗の売上は次のとおりであった。

平成三年二月(五日間)  一六五万三九七〇円

同年三月 八三二万一六六〇円

同年四月 六六四万二一五〇円

同年五年 六四五万二三八〇円

同年六月 五六六万九九九〇円

2  本件契約締結までの事情

(一) すずかは、被告が経営する各店舗で使用する食器類を納入する業者であり、原告は、すずかの従業員として、被告が営業を開始した昭和五六年から被告が経営する全店舗に出入りし、月に一、二回、被告の本社事務所にも出入りしていた。原告は、迫らに対し、各店舗の効率や経営状態について自分なりの意見を述べることもあった。

(二) 原告は平成二年七月頃から、迫らに対し、すずかを退職して飲食店の経営を始めたいなどと洩らすようになった。そして、被告は、同年一二月頃、原告を通じて、すずかの代表者飯島から本件店舗をフランチャイズ経営したい旨の申出を受けた。飯島が右申出を行った動機は、自己の経営するすずかが平成二年頃に訴外上島コーヒーに企業買収され、自らは経営の実権を奪われたこと、自宅が本件店舗の近くであること等であった。被告では、右申出を受けて、同年一二月頃から数回、被告代表者と飯島との間で本件店舗のフランチャイズ契約についての交渉がなされ、その際、被告から飯島に対し、第一次試算表を交付して説明を行った。右交渉の現場には原告も常に同席していた。しかし、同年三月頃、飯島は、自分が高齢であったことや家族に反対されたことなどを理由に、本件店舗の経営を断念した。

(三) 飯島が最終的に本件店舗の経営を断念した後、今度は原告の方から本件店舗をフランチャイズ経営したいとの申出があった。そこで、被告は、原告に対し、売上月報等の資料を示して本件店舗の売上の実績を説明した。

そして、本件店舗の現実の売上が当初の予想を上回っていたことから、被告は、同年四月初め頃、右実績を考慮して第一次試算表を若干修正した試算表(以下「第二次試算表」という。)を作成し、これを原告に交付してその内容を説明し、同時に第一次試算表も示して修正した理由についても説明した。

(右認定に対して、原告本人は、平成三年四月頃、迫らから、月額約一〇〇〇万円の売上が見込まれる、店長さえ派遣すれば、本部で店長教育もして、利益を出して還元するので、原告は今の勤務を続けても十分経営が成り立つ等と説明された旨供述するが、被告が作成交付した試算表では、売上は月額七〇〇万円余りとされており、被告が試算表と異なる売上一〇〇〇万円との説明をしたというのは不自然であるし、他方において原告は、後記(四)で認定したとおり、被告に対し、委託預託金の減額を求めたり、契約条項の一部削除や特約条項の追加を求める等主体性をもって本件契約の交渉を行っており、契約締結にあたっては、契約書を自宅に持ち帰ってその内容を十分検討し、疑義のある点は迫らに質問し、会計士にも相談する等慎重な対応をしているのであって、契約を締結するか否かについての重要な判断材料であり、原告も大いに関心を寄せていた本件店舗の売上予測について、それが確実なものであると信じたというのは不自然であり、原告本人の右供述は信用できない。)

(四) 被告は、当初、委託預託金の額を六六〇〇万円としていたが、原告から異議が出たため、五〇〇〇万円に減額された。原告は、本件契約締結にあたり、契約書を自宅に持ち帰ってその内容を十分検討し、疑義のある点は迫らに質問し、会計士にも相談した上、被告に対し、店舗使用料の前払いを定めた条項等の削除を求めたり、特約条項を定めることを要求し、さらに自ら「覚書」と題する書面を作成してこれを契約の一部とするよう求めた。被告はこれらの要求に応じ、本件契約が締結された。

3  本件契約締結後の事情

原告は、平成三年七月一日から本件店舗の営業を開始したが、同年七月分の売上は四一八万円余りにしかならなかった。本件店舗の売上は、いったん全て被告に入金し、被告が右売上金からロイヤリティーや店舗使用料などの経費を差し引いて、残額を原告に交付するシステムとなっていたところ、被告は、右七月分の売上から店舗使用料を差し引かず、原告に七六万円余りを交付した。また、被告が原告に交付した七月分の支払通知書の控除明細の欄には店舗使用料の金額が0と記載されていた。翌八月分の売上も四四〇万円余りであったが、被告は、八月分についても店舗使用料を差し引かず、八月分の支払明細書の控除明細の欄には、店舗使用料について(三か月据置)との記載とともに金額が0と記載されていた。しかし原告と被告との間では店舗使用料を三か月据え置くとの話はなされておらず、右記載は被告が一方的にしたものであった。その後の売上も月額平均三五〇万円程度に止まり、平成三年度の本件店舗の営業収支は、三八九万九八六九円の赤字となったが、店舗使用料については同年一二月分まで八月分と同様の処理がなされていた。

翌平成四年度からは、各納入業者に対する支払は原告が直接行うこととなったが、被告から店舗使用料の支払を求められることはなかった。そして、平成四年度も月額の売上は三〇〇万円を超えることなく、年間で一一〇四万七〇八三円の赤字を出すに至り、結局、原告は、営業不振から、平成五年四月四日、本件店舗を閉店した。

三  詐欺について

原告は、被告の経営が破綻し、委託預託金名下に高額の金員を取得する目的で、内容虚偽の試算表を提示して欺罔した旨主張するが、前記二で認定した事実に徴すると、被告が原告から高額の金員を取得する目的で本件契約を締結したと認められないのみならず、前記二1(二)ないし(四)、2(三)で認定したとおり、被告は調査に基づいて作成した試算表や売上月報等を示して原告に売上の予測等を説明しており、原告が主張するように虚偽の数字を記載した試算表を提示したり、売上や利益を保証する旨の説明をした事実は認められない。そして、お好み焼き店の経営においてそもそも売上や利益が保証できる性質のものでないことは原告も十分理解していたと考えられるから、原告は、右試算はあくまで予測に基づくものであり、試算表に記載された数字は売上や利益を保証するものではないことは十分認識して本件契約を締結したと認められるのであって、原告主張の詐欺の事実は認められない。

四  契約締結上の過失について

1 フランチャイズシステムにおいては、フランチャイズに加盟しようとする個人は、店舗経営の知識や経験に乏しく、専門家であるフランチャイザーの提供する資料や説明内容に大きな影響を受けるのが通常であるから、フランチャイザーは、フランチャイズ契約締結にあたっては、フランチャイジーの意思決定に際しての客観的な判断材料になる適正な情報を提供する信義則上の義務(以下「情報提供義務」という。)を負っているものと解される。とりわけ、売上や利益の予測等に関する事項は、フランチャイジーがフランチャイズ契約を締結するか否かの意思決定において重要な要素となるから、右の点についての説明や資料が十分な調査に基づかず、フランチャイジーの判断を誤らせる虞のある内容である場合には、フランチャイザーは、右情報提供義務の違反により、フランチャイジーが被った損害を賠償する責任を負うと解すべきである。

2  そこで、本件において被告に右義務の違反があったか否かについて判断するに、前記二2(二)ないし(四)、二2(三)で認定したとおり、被告は、宝塚市全体の外食支出の動向や人口調査、本件店舗付近の競合店の有無等の調査の結果を踏まえ、さらに既に営業を行っている他の直営店の実績を考慮して、本件店舗の営業計画及び第一次試算表を作成し、本件店舗が営業を開始してからは、現実の売上等を考慮して第一次試算表を修正した第二次試算表を作成し、原告に対し、売上月報等の資料を示して本件店舗の売上の実績を説明するとともに、第一次及び第二次試算表を示してその内容を説明し、試算表を修正した理由についても説明したのであって、これらの資料や説明は、十分な調査と合理的な根拠に基づくものといえ、原告の判断を誤らせる虞のあるものとは認められないから、本件において、被告に情報提供義務の違反があったとは認められない。

原告は、被告が試算表等の作成にあたって比較検討したとする中百舌鳥店等はいずれも幹線道路に面し、客席数も一〇〇席以上と規模も大きく、本件店舗とは立地条件等が異なるから、比較の対象にならないと主張するが、証人大塚英昭の証言によれば、被告は、営業計画や試算表の作成にあたっては、本件店舗の立地条件等の調査に基づき個別に算定しており、中百舌鳥店等の実績は、あくまで参考にした程度であることが認められるのであって、不当な点は認められない。

次に原告は、本件店舗と立地条件の異なる岸和田店の回転率や経費等が本件店舗とほぼ同じであり、試算表作成にあたって本件店舗の地域的特性を考慮していないと主張するが、客席回転率が立地条件によってどの程度変動するか明らかではないし、証人大塚英昭の証言によれば、原材料費や水道光熱費等は、立地条件よりむしろ主として店舗の設備内容によって決定されるものであることが認められるから、原告の右主張は理由がない。

さらに原告は、被告が試算表を修正した点につき、開店当初は一時的に通常より売上が多くなるのが一般であるから、開店当初の売上は売上予測の基礎にすべきでないのに、被告は、本件店舗の開店当初の売上を基礎に試算表を修正している、また、右修正において、被告は、店舗使用料を差し引いてもなお利益が上がるかのように見せるため、何らの根拠にも基づかず、回転率を三回転から3.3回転に増加させ、逆に経費を圧縮していると主張するが、営業計画や第一次試算表が現地の調査や他の店舗の実績など間接的な資料に基づくものであり、第一次試算表の売上高は、客単価、客席数、回転率、営業日数を乗じて算定されているにすぎないことからすれば、本件店舗の売上等の実績のもつ意味は大きいと考えられ、右実績を考慮して試算表を修正することは何ら不当ではないといえる。確かに、証人迫あや子の証言によれば、開店当初の売上が通常の月よりも多くなる傾向にあることが認められ、開店当初の実績を過度に重視することは避けるべきであるが、証拠(証人大塚英昭、同迫あや子、甲四)によれば、被告は、開店当初の売上が通常の月よりも多くなる傾向にあることを勘案し、加えてフランチャイジーである原告が営業することを考慮して、売上を本件店舗の平均より若干低めに算定し、それに基づいて回転率や原材料費等を修正したことが認められるのであって、原告が主張するように開店当初の実績のみから試算したものではなく、また、何らの根拠にも基づかずに修正したものではないから、原告の主張は理由がない。

五  公序良俗違反について

原告は、委託預託金は実体のないものであり、五〇〇〇万円という多額の委託預託金を五年未満で契約が解除された場合には没収するとの契約は、フランチャイズ契約におけるフランチャイジーの無知及び経済的に脆弱な立場を利用した暴利行為であり、右契約は公序良俗に反すると主張するが、証拠(乙五ないし七、証人大塚英昭、同迫あや子)によれば、被告は、本件店舗を開店するにあたって、訴外住友信託銀行株式会社と建物賃貸借契約を締結し、保証金として三一二〇万円を預託するとともに、訴外川鉄リース株式会社と本件店舗設備について割賦販売契約及びリース契約を締結し、割賦代金月額二〇八万四〇〇〇円、リース料月額八七万七四五七円を負担し、さらに本件店舗の設備工事代金として四六三万五〇〇〇円、広告宣伝費として五〇万円を負担したことが認められるのであって、本件委託預託金は実体のないものとはいえない。

そして、五〇〇〇万円という金額は、右の投資金額に比して特に多額とはいえないし、また、前記認定のとおり、原告は、契約内容を十分検討した上で本件契約を締結しており、被告が原告の無知に乗じて契約を締結させたとは到底いえないから、右契約が公序良俗に反するとは認められない。

第二  被告の反訴請求について

一  反訴請求原因は当事者間に争いがない。

二  次いで抗弁について判断する。

1  公序良俗違反について

原告は、店舗使用料の実体は何もなく、被告は、フランチャイジーである原告の無知に乗じて店舗使用料名下に月額一五〇万円もの多額の金員の給付を義務づけたもので、右は暴利行為であり、店舗使用料に関する合意は公序良俗に反し無効であると主張するが、前記第一の五で認定したとおり、被告は、本件店舗設備について月額二九六万一四五七円の割賦代金及びリース料を負担しており、右設備使用の対価として店舗使用料が定められたのであるから、本件店舗使用料は実体のないものではなく、右約定が公序良俗に反するとは認められない。

2  条件不成就について

原告は、平成三年八月二〇日頃、被告から原告に対し、「店舗使用料の支払はそれを支払えるだけの十分な収益が上がった場合に支払えばよい。」と店舗使用料の支払に停止条件を付する意思表示がなされ、原告はこれを了承した旨主張するところ、被告から右のような明示の申出があったことを認めるに足りる証拠はないが、前記第一の二3で認定したとおり、被告は、本件店舗の平成三年七月分の売上から店舗使用料を差し引かず、原告に七六万円余りを交付したこと、被告が原告に交付した七月分の支払通知書の控除明細の欄には店舗使用料の金額が0と記載されていたこと、被告は、八月分についても店舗使用料を差し引かず、八月分の支払明細書の控除明細の欄には、店舗使用料について(三か月据置)との記載とともに金額が0と記載されていたこと、原告と被告との間では店舗使用料を三か月据え置くとの話はなされておらず、右記載は被告が一方的にしたこと、同年一二月分まで店舗使用料については八月分と同様の処理がなされていたこと、翌平成四年度からは、各納入業者に対する支払は原告が直接行うこととなったが、被告から店舗使用料の支払を求められる事はなかったことが認められ、これらの事実を総合すれば、本件店舗の売上が少なかったことから、原被告間において原告に利益が出た時点で店舗使用料を支払ってもらう趣旨の合意があったものと推認するのが相当である。

よって、原告の右抗弁は理由がある。

第三  結論

以上によれば、原告の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がないからこれを棄却し、被告の反訴請求も理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官將積良子 裁判官浦上文男 裁判官中桐圭一)

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