大判例

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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)7270号 判決

原告

株式会社A

右代表者代表取締役

甲野太郎

右訴訟代理人弁護士

森薫生

大西賢一

秋山謙二郎

被告

株式会社B

右代表者代表取締役

乙山春男

右訴訟代理人弁護士

山本毅

主文

一  被告は原告に対し、金五七〇万円及びこれに対する平成七年八月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

主文と同旨

第二  事案の概要

一  本件は平成七年三月三日に産業用及び工業用機械・工具の販売並びに仲介、金型製造及び加工等を業務とする株式会社である原告を売主、硝子製造同機械同金型同部品の製造等を業務とする株式会社である被告を買主とするセイコー電子株式会社(以下「セイコー電子」という。)製のUNIGRAPH・CAM・CADシステム一式(以下「本件機械」という。)を売買代金二一四〇万円(消費税六四万二〇〇〇円は別途)、支払方法を現金一括払い、納入場所を被告工場内、納入期限を契約後一ヶ月とする旨の売買契約(以下「本件売買契約」という。)について、原告が被告の債務不履行を理由として損害賠償を求めているもの

二  争点

1  本件売買契約が成立したか否か。

2  仮に本件売買契約が成立しているとすると、原告に生じた損害額はいくらか。

第三  判断

一  争点1について

1  被告は、本件機械に関する交渉は最初からリース契約を前提としたものであるところ、リース契約においては、売買契約はリース会社と販売者(本件では原告)が締結するものであり、ユーザー(本件では被告)と販売者との間には直接の契約関係はなく、本件で問題となっている註文書(甲三)はユーザーと販売者間の物件の特定、納期、代金額の合意を記載した書面に過ぎず、従って、原告と被告間におよそ売買契約が成立する余地はないと主張するのでまずこの点について判断する。

2  乙第一一ないし一三号証によると、一般にリース契約は

(一) ユーザーはメーカーあるいは販売者と折衝して物件や納期等を決める。

(二) ユーザーがリース会社にリース契約を申し込む。

(三) リース会社がユーザーの信用調査のうえ契約条件を示し、リースの可否を決定し、適格と判断されれば、ユーザーにリース料の見積を提示する。

(四) ユーザーが納得すればリース会社とユーザーがリース契約を締結する。

(五) リース会社はユーザーの指定に基づいてメーカーあるいは販売者に物件を発注し、当該物件の売買契約を締結する。

(六) メーカーあるいは販売者は所定の納期に指定された物件をユーザーに納入する。

(七) ユーザーは物件購入後できるだけ速やかに物件が指定したとおりのものかどうかをチェックし、問題がなければ借受証をリース会社に交付する。

(八) リース会社はこの借受証を確認のうえ、メーカーあるいは販売者に物件購入代金を支払う。

(九) ユーザーは毎月決められた日に所定のリース料をリース会社に支払う。という過程を経て行われるものと認められ、本件機械については被告とリース会社間においてリース契約は締結されていない(争いない事実)ので、リース会社が本件機械の買主となっていない。

3  リース会社の関与がなかった場合の原告、被告間の関係については、本件機械に関する交渉が行われた当時の当事者の意思解釈によって決すべきものと考えられる。

甲第七号証、乙第二号証、原告及び被告代表者尋問の結果によると、平成七年二月下旬、被告は従前リース契約をしていたNC自動プログラミング・システムTOOL―1フレックスBプラン一式について、リース期間が切れるので被告は同二月末に再リースする旨を原告に伝えた。その際、原告代表者は被告代表者に対し、本件機械の購入を勧め、同人は右機械の購入を検討することとした。

平成七年三月三日セイコー電子から原告に対して本件機械の値段の提示があり、同日原告代表者は被告方へ行き本件機械のカタログを見せて、金額についても概略を説明し、リース料は大体三五ないし三六万円となる旨話した。そして、見積書(甲一)を被告代表者に渡した。

同年三月六日、原告代表者は吹田市江坂にあるセイコー電子の商品展示場に被告代表者及び被告会社従業員平尾を案内し、本件機械のデモを見せ、その終了後に原告代表者は被告会社に立ち寄った事実が認められる。

被告は、原告代表者は本件機械のリース料は従前リースしていた機械のリース料とほとんど変わらない旨説明していたと主張するが、原告代表者としては本件機械は後日リース契約の対象となり、リース料(本件機械の代金二一四〇万円を前提にする)について実際と異なる説明をしたりしておれば被告とリース会社のリース契約の締結について後日問題が生ずることは明らかであるので、原告代表者はこの点を説明したと考えるのが合理的であり、また、被告代表者としても従前からリース契約を締結しているのであるから、本件機械の金額を知れば大体のリース料がわかるはずであるから、被告の右主張は採用できない。

従って、被告代表者は右時点において、被告代表者はリース料が大略いくらになるかを念頭に入れたうえで、本件機械をリース契約を利用して、使用するかどうか検討していたものと考えられる。

また、原告としても本件機械につきリース契約が締結できないときは、本件機械の代金を早期に一括して支払を受けることができなくなるので、本件機械について被告とリース会社においてリース契約が可能かどうかについては後に述べる註文書を受取るまでに確認し、それを前提として交渉を被告代表者と交渉していたものと考えられる。右事実は註文書(甲三)の代金支払い条件が現金一括払いになっているところからも窺える。

4  次に問題となるのは註文書(甲三)がいかなる法的効果を生ぜしめるものと評価すべきかという問題であるが、その前提として、右註文書の成立について争いがあるのでこの点を検討する。

(一) 註文書(甲三)の被告の記名の右横の印影が同社の会社印によるものであることは当事者間において争いがない。従って、反証のない限り、右印影は被告の意思に基づいて顕出されたものと推定され、右書証は真正に成立したものと推定される。

(二) 被告は反証の事実として以下のとおり主張している。

平成七年三月七日に原告代表者は被告方を訪れた際、被告代表者が「本件機械のリース料がどれくらいになるか見積もってもらおうか。」と告げたところ、原告代表者は既に原告の方で作成し準備をしていた書面を取り出し、「これに判を下さい。」と被告代表者に対して申し出た。この書類は見積のための書類であるとの説明であった。被告代表者はその書面を受け取り簡単に目を通した。その書面は「承諾書」と題する書面であった。同人はこれは本件機械のリース料の見積を依頼する承諾書であると理解した。そして、被告代表者は会社の事務員に対し、「これに判を押して。」と原告代表者から受け取ったその書類を渡しながら、指示をし、事務員が押印したのち、その書類を再度事務員から被告代表者が受け取り、原告代表者に手渡したものである。被告代表者は承諾書と題する書面には押印したが、註文書(甲三)と題する書面には押印していないし、押印した書面には「下記物品下記条件をもって買約致しましたので本証を差し出します。」との記載もなかった。

(三) 原告代表者及び被告代表者尋問の結果によると、平成七年三月七日に原告代表者が被告方を訪問し、原告の方であらかじめ作成しておいた註文書(甲三)を持参して行ったこと、その日本件機械の取引について、他に被告代表者が押印した書類はなかったこと、被告代表者が押印した書類は原告代表者から被告代表者へ手渡され、さらに被告方事務員に手渡され、押印され、再度被告代表者から原告代表者に手渡されていることからすると、被告代表者が押印したと主張している承諾書を註文書(甲三)にすり替えることは不可能であり、また、被告代表者が押印したとしている承諾書は、その表題の下の表の左側には機械の名称、横には金額の記載があったことが認められ、右は註文書(甲三)の記載と似かよっていること、本件機械のリース料の見積りの承諾を得るためだけの書類を原告代表者があらかじめ作成して持参するということは考えられず、また被告代表者も見積の承諾書を作成したことはないと供述していることから、同人が押印したのは註文書(甲三)であったことが認められ、被告の右主張は採用できず、註文書は真正に成立したものと認められる。

(四)  以上から、平成七年三月七日、原告と被告間において形式上本件機械についての売買契約が成立したことになるが、その法的効果について検討すると、前記3認定の事実によると、被告代表者が註文書に記名、押印したのは被告が本件機械を代金二一四〇万円でリース契約を利用して使用する旨の意思を表示したものと考えられ、これを受けて原告もそれに協力するという関係が生じたものと考えられ、あとは被告がオリックス株式会社と本件機械についてのリース契約を締結するという事後処理的な問題が残っていたと考えられるところ、本件において右リース契約が成立しなかったのは被告代表者がその後翻意してリース料が高いと主張してリース契約をすることを拒否したためと認められ(被告代表者)、被告はリース会社に一旦本件機械を買受けてもらい、これを賃借するという形式をとることによって、実質的には長期分割払いの方法で代金を支払うことができる利益をみずから放棄しているものであること及び被告の一方的な意思によって原告は本件機械についてリース会社からその代金を一括して支払を受ける利益を失ったのであるから、原告被告間の本件機械の売買契約上の権利、義務として、被告がその代金を支払うべき義務を負担すると解するのが相当である。

二  争点2について

原告は本件機械をセイコー電子から一五七〇万円で購入する旨の契約を締結しており(甲七)、被告が本件機械についてリース契約を締結すれば、原告は本件機械の代金二一四〇万円との差額五七〇万円の利益が得られたと認められる。

この点について、被告は原告がセイコー電子との間で本件機械について売買契約を締結していないとして、それを証明するものとして、乙八号証を提出しているが、原告から注文書はもらっているが、正式契約までには至っていないとするものであり、右のことをもって、右売買契約が締結されていないとはいえない。

(裁判官今中秀雄)

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