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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)3232号 判決

原告

矢部一裕

被告

池田誠一

主文

被告は、原告に対し、金一八四六万〇七四七円及びこれに対する平成二年五月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

原告の被告に対するその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、これを四分し、その三を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一請求

被告は、原告に対し、金七四九七万一〇七三円及びこれに対する平成二年五月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、右折普通乗用自動車と直進自動二輪車との衝突事故において、負傷した原告が、被告に対し、自動車損害賠償保障法三条、民法七〇九条により損害の賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実等(証拠及び弁論の全趣旨により明らかに認められる事実を含み、( )内に認定に供した証拠を摘示する。)

1  交通事故の発生

(一) 発生日時 平成二年五月一八日午前七時五〇分ごろ

(二) 発生場所 大阪府寝屋川市石津元町一五―一五先

(三) 加害車 被告が保有し、運転していた普通乗用自動車(登録番号泉五九は九九三八、以下「被告車」という。)

(四) 被害車 原告が運転していた自動二輪車(一大阪す六一八九、以下「原告車」という。)

(五) 事故の態様 交差点を右折しようとした被告車と直進していた原告車とが衝突した。

2  原告の受傷

原告は、右事故により、頭部打撲、外傷性クモ膜下血腫、硬膜下血腫、脳挫傷、左大腿骨頸部及び骨幹部骨折等の傷害を負った。

3  被告の過失

被告には前方不注視の過失がある。

4  原告の後遺障害

自動車損害賠償責任保険の事前認定で自賠法施行令二条別表の第九級三号(以下等級のみを示す。)、第一二級七号の併合八級の認定を受けた(甲第一五)。

5  損害てん補

被告から一三五二万八五七九円、大阪労働基準局より療養補償給付五六五万七八七七円及び療養費用三三〇〇円が支払われている。

二  争点

1  被告の責任及び過失割合

(原告の主張)

被告は、右折する際、対向する四輪車のみに気を取られ、前方不注意により、原告車の接近を見落として本件事故を発生させた過失があるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条、民法七〇九条により、原告が被った後記損害を賠償する責任がある。

被告車の前には右折待ちの車両が二台停車していたが、被告車はその後ろからいきなり原告車の進路に進入してきたもので、原告には過失はない。

(被告の反論及び主張)

原告は本件交差点手前の交差点の信号が青であったことに気を許し、進路前方の安全を十分確認することなく進行した過失がある。

2  損害

(一) 入院雑費 二〇万五四〇〇円

(二) 付添看護費 九七万一四八四円

(三) 通院交通費 八九万八一一三円

(四) 平成七年四月五日の症状固定日以降の治療関係費 一二四万四二二四円

(1) 症状固定後分 一六万四二二四円

上山病院 平成七年五月から平成八年一一月一五日までの分

近畿車輛健康保険組合に対する平成七年八月三〇日から平成八年三月七日までの治療費の支払い分

(2) 将来三年分 一〇八万〇〇〇〇円

(五) 休業損害 一二一二万六六三三円

(六) 後遺障害による逸失利益 四九七九万二二〇三円

原告は、年額五六四万三三六〇円の給与及び一七一万一一九九円の賞与合計七三五万四五五九円を得ていたものであるところ、本件事故により、両目に半盲症、視野狭窄(自賠法施行令二条別表第九級〈以下等級のみ示す。〉)、一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害(第一二級)、嗅覚障害(第九級)の併合八級の障害を残して平成七年四月五日に症状固定し、労働能力喪失率を四五パーセントとみて、新ホフマン式計算法により、年五分の割合による中間利息を控除して、右期間の逸失利益の現価を算定すると右のとおりとなる。なお、原告は、右の他、記憶力減退等の脳神経障害にも悩まされており、四五パーセントの労働能力喪失率は低きに失する。

(七) 慰謝料 一六四六万〇〇〇〇円

入通院慰謝料 二七六万〇〇〇〇円

後遺障害慰謝料 一三七〇万〇〇〇〇円

(八) 物損 二四万二〇〇〇円

(九) 弁護士費用 六八〇万〇〇〇〇円

(一〇) よって、原告は、被告に対し、自賠法三条、民法七〇九条に基づき、右損害額合計八八七四万〇〇五七円から既払い額を控除した残額の内金七四九七万一〇七三円及びこれに対する平成二年五月一九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

3  損害てん補(上山病院分) 一三四万五一五〇円

第三争点に対する判断

一  被告の責任及び過失割合

1  証拠(甲第六、第一三、第一七の一、第三二の一、原告、被告)によれば、

本件事故現場は、別紙現場見取図のとおり、ほぼ南北方向の、歩車道の区別がある北行四車線、南行二車線の幅員約一九メートルの道路(以下「南北道路」という。)と幅員八メートルの道路(以下「東行道路」という。)とが交差する丁字型交差点であって、本件交差点は、その北側の信号機により交通整理の行われている十字型交差点(以下「北側交差点」という。)と接していること、南北道路の付近は市街地に位置し、付近の道路はアスファルト舗装され、路面は平坦で、本件事故当時は乾燥していたこと、南北道路の最高速度は時速五〇キロメートルに制限されていること、

原告は、南北道路を南進してきて、本件交差点で被告車と×で衝突したこと、

被告は、被告車に乗り、東行道路沿いにある会社に出社する途中で、南北道路の北行車線を最高速度を若干超えるくらいの速度で走行し、右折の合図をして、最も右の右折用車線に車線変更し、時速約二〇キロメートルに減速したこと、本件交差点の北側の交差点の対面信号が赤色で右折用車線には信号待ちの車が数台あったこと、被告は右折の合図をしたまま、右折用車線を走行し、対向車がないので、右折できるものと考え、一時停止することなく別紙図面のような経路で右折を開始したこと、被告車が右折を開始して、中央線を少し超えた辺りで、北側交差点の対面信号が青色に変わったが、そのまま走行したところ、南行車線の中央付近を走行してくる原告車を約一〇メートルの距離に発見し、ブレーキをかけたが、これと衝突したこと、

以上の事実を認めることができる。

2  右の事実によれば、被告は交差点で右折するに際し、北側の交差点の対面信号が青色に変わったのであるから、南行してくる原告車を発見することが可能であり、かかる車の有無を十分に確認して進行すべき注意義務が存したのにこれを怠って右折し、本件事故を発生させた過失があるというべきである。

他方、原告には、交差点を走行するに際し、右折車等他の車両の動静に注意すべきところ、進路右前方には右折の合図をしながら右折中の被告車があったにもかかわらず、これを見落とした過失があるものといわざるを得ず、本件事故に関する原告及び被告の過失割合は、本件事故の態様、車両の速度等を総合考慮すれば、原告の一、被告の九と解するのが相当である。

二  損害

1  入院雑費 二〇万五四〇〇円

証拠(甲第五、第二七)によれば、原告は平成二年五月一八日から同年九月二八日まで及び平成三年一一月二五日から同年一二月一八日まで合計一五八日間大阪府寝屋川市所在の山弘会上山病院(以下「上山病院」という。)に入院したことが認められ、右入院期間中、一日当たり一三〇〇円の雑費を要したものと認められる。

(算式) 1,300×158

2  付添看護費 九七万一四八四円

前記争いのない事実等及び証拠(甲第七、第二五、証人矢部由美子)によれば、原告は、右事故により、頭部打撲、外傷性クモ膜下血腫、硬膜下血腫、脳挫傷、左大腿骨頸部及び骨幹部骨折等の傷害を負い、当初は意識不明の時期もあり、平成二年五月一八日から数日間は集中治療室に入室していたこと、原告が入院していた病院は基準看護病院であったが、原告の妻は、同病院の脳外科の看護婦から会話をしたり刺激を与えた方が記憶は早く回復する旨告げられたり、原告が回復するにつれ不安を感じ始めたためその援助のためもあり、平成二年五月一八日から平成三年一二月一八日まで合計一六四日間付添看護をしたこと、平成二年六月四日から同年七月一四日までの間の三四日については職業付添人を付し二六万〇四八四円を要したこと等の事実を認めることができ、原告は、右の期間につき付添看護を要し、妻の付添い看護の費用については一日当たり四五〇〇円をもって相当と解するので、原告の付添看護費として九七万一四八四円を要した旨の原告の主張はその限度で理由がある。

3  通院交通費 七六万八〇七〇円

原告は、通院交通費として八九万八一一三円を要した旨主張するところ、証拠(甲第九の一、証人矢部由美子、弁論の全趣旨)によれば、原告は、上山病院に平成二年九月二九日から平成六年二月三日までの間に七五回、大阪府寝屋川市香里所在の関西医科大学附属香里病院(以下「関西医大香里病院」という。)耳鼻咽喉科に平成二年一二月三日から平成三年六月二七日までの間に一六回、同病院眼科に平成二年八月六日から平成六年一月七日までの間に三回、同病院脳神経外科に平成二年九月二九日から平成七年四月五日までの間に九〇回通院したこと、被告から交通費として七五万一六九〇円が支払われたこと、平成七年一月から同年四月五日までの通院交通費として一万六三八〇円を要したこと等の事実が認められ、原告の右主張は合計額七六万八〇七〇円の限度で理由がある。

4  症状固定日以降の治療関係費 一六万四二五四円

(一) 平成七年五月以降平成八年一一月一五日まで

原告は、平成七年四月五日の症状固定後も治療費を要した旨主張し、証拠(甲第一二の一から四まで、第二八の一から一八、甲第二九の一から六まで、証人矢部由美子、弁論の全趣旨)によれば、原告は、症状固定後も上山病院に通院し、デパケン等の薬の処方を受け、その服用をやめることができないこと、治療費として合計一六万四二五四円を要したことを認めることができ、右の事実によれば、原告の主張する治療の必要性及びそれに伴って費用を支出したことを認めることができる。

(二) 将来三年分 〇円

原告は、将来三年間分の治療関係費として一〇八万〇〇〇〇円を要する旨主張し、証人矢部由美子及び原告は、原告がデパケンを止めることができない旨供述するけれども、右供述のみをもってしては、原告主張にかかる治療の必要性、相当性を推認することはできないといわざるを得ない。

5  休業損害 一一二六万四三八五円

原告は、休業損害一二一二万六六三三円が発生した旨主張するところ、証拠(甲第八の一から一四まで、第一一、第二六、乙第一の一、近畿車両株式会社勤労部に対する調査嘱託の結果、原告、弁論の全趣旨)によれば、原告は、本件事故当時、近畿車両株式会社に勤務していたが、本件事故により負傷し、平成二年五月一八日から平成三年一月二〇日まで欠勤し、右期間に支払われるべき給与二二九万八九〇一円は全額支払われず、賞与は九万五二九九円減額されたこと、復職後症状固定に至るまでの期間についても、原告は治療等のため欠勤し、給与及び賞与を合計八八七万〇一八五円減額されたこと等の事実を認めることができ、右の事実によれば、原告の休業による損害は合計一一二六万四三八五円となり、原告の主張は右の限度で理由がある。

6  後遺障害による逸失利益 一四〇一万〇六七四円

(一) 証拠(甲第三から第五まで、第一四、第二六、乙第一の二から七まで、原告、弁論の全趣旨)によれば、

原告(昭和二五年九月七日生まれ、男性)は、昭和四四年に府立工業高校を卒業し、同年四月に近畿車両株式会社に入社し、本件事故当時は車両のぎ装の設計に従事していたこと、

本件事故後、原告につき、関西医大香里病院耳鼻咽喉科の医師は、平成五年一二月二七日の診断に基づき同日付け自賠責保険後遺障害診断書を作成し、傷病名「嗅覚障害(脱失)」、自覚症状「嗅覚が全くない」旨診断したこと、

同病院の眼科の医師は、平成六年一月七日の診断に基づき同日付け自賠責保険後遺障害診断書を作成し、傷病名「両右上四分の一半盲」、自覚症状「両眼とも視野の右上四分の一象眼の欠損を感じる。」旨診断したこと、

上山病院の上川英正医師は、平成六年二月三日の診断に基づき自賠責保険後遺障害診断書を作成し、傷病名「左大腿骨骨折」、自覚症状「左股関節痛、特に重い物を持ったり走ると痛む、左股関節の動きが悪い、手術瘢痕部の疼痛」、精神・神経の障害、他覚症状および検査結果「左股関節可動域制限及び運動時を認める。左股関節痛によるものと思われる左下肢筋萎縮を認める。大腿周囲径、右四七センチメートル、左四六センチメートル、下腿周囲径、右三八センチメートル、左三八センチメートル、XP骨癒合良好」、関節機能障害「股関節、屈曲(自動)右一二〇度、左九〇度、(他動)右一二〇度、左一〇〇度、外転(自動・他動とも)右六〇度、左三〇度、外旋(自動)右四五度、左五五度、(他動)右四五度、左六〇度、内旋(自動)右四五度、左一五度、(他動)右四五度、左〇度」、障害内容の憎悪・緩解の見通しなど「受傷後四年経過しており左記症状不変と考える」旨診断したこと、

同病院の加古誠医師は、平成七年四月五日の診断に基づき同年五月九日付け自賠責保険後遺障害診断書を作成し、症状固定日「平成七年四月五日」、傷病名「外傷性クモ膜下出血、脳挫傷、左大腿骨骨折」、自覚症状「嗅覚脱失、右四分の一半盲、月に二回くらい頭痛、気分不良、冷汗あり、記名力障害、反応がにぶい、ふらふらする」、精神・神経の障害、他覚症状および検査結果「WAIS―RでIQ一一三(VIQ一一五、PIQ一〇七)MMS記憶検査で有意味二五分の二五、無意味二五分の一八、長谷川式DRS三〇分の二七(以上、関西医大精神科にて検査)、脳波(九三・五・七)は正常範囲内と考えます。頭部CT(九三・三・一二)、左側頭葉に脳挫傷の跡、左脳室の軽度の拡大、嗅覚脱失、右四分の一半盲」、障害内容の憎悪・緩解の見通しなど「受傷後約五年経過しており症状固定と考えます」旨診断したこと、

平成七年一二月一八日付けで、自動車保険料率算定会大阪第三調査事務所長は、原告の後遺障害につき、第九級三号、第一二級七号の併合八級である旨認定したこと、

原告は症状固定後も通院し、復職後も、視野の欠損のため資料を捜したりするのに不便が生じ、記憶力、集中力、判断力等の衰えで仕事に支障を感じ、残業も減っていること、平成六年に配置変更により、見積もり、応札仕様設計書作成、技術資料作整理等を行う車両設計部内の計画見積グループに異動したこと、原告の給与所得は、平成二年分が三三六万〇四九二円、平成三年分が三八一万四九二〇円、平成四年分が四八一万四七六五円、平成五年分が五二二万八六一九円、平成六年分が五四九万七〇九六円、平成七年分が五七六万八一九〇円であること、近畿車両株式会社は五八歳が定年で、それまでラインからはずれることはなく、定年後は何も問題がなければ皆二年程、嘱託社員になり、更に、三年から五年延長される者もいること、原告が平成六年に配置された部署では定年後嘱託社員にならない者もいること等の事実が認められる。

(二) 右の事実によれば、

(1) 原告は本件事故により、視野障害、嗅覚障害、股関節可動域制限等の後遺障害を残して症状固定し、その内容及び程度を勘案すれば、嗅覚障害(脱失)は第一二級に相当し、視野障害は第九級三号に、股関節の可動域制限は第一二級七号にそれぞれ該当し、併合八級というべきである。

なお、原告は、記憶力減退等の脳神経障害は第七級四号ないし第九級一〇号に該当する旨主張するけれども、右の事実によっては原告の主張を認めるに足りない。

(2) また、原告は事故前に比べて減収が生じておらず、むしろその収入額は増加しているのであって、原告主張にかかる程度の逸失利益が生じていることを推認することはできない。

しかし、原告の後遺障害の内容及び程度、職務の内容等に鑑みれば、原告は、就労可能上限年齢である六七歳までの間に、昇進や昇給の遅れ、定年後の嘱託及びその延長の可否等の点で原告に不利益を生じる蓋然性は高く、その労働能力の概ね二〇パーセントを失ったものと解するのが相当である。

また、原告は、症状固定当時満四四歳で、近畿車両株式会社では五八歳が定年であるが、同社では、何も問題がなければ定年後も二年程は嘱託社員として就労が可能であり、その後も原告は、就労可能上限年齢である六七歳までの七年間は平成七年度賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計・男子労働者・旧中・新高卒の六〇歳から六四歳の平均年収額四四五万〇六〇〇円程度の収入を得る蓋然性があるということができ、平成七年の年収及び右平均年収額を算定の基礎とし、前記労働能力喪失率を乗じて、新ホフマン式計算法により、年五分の割合による中間利息を控除して、右期間の逸失利益の現価を算出すると、右のとおりである(円未満切り捨て。以下同じ。)

(算式) 5,768,190×0.2×(14.103-4.364)+4,450,600×0.2×(17.221-14.103)

7  慰謝料 九〇〇万〇〇〇〇円

原告が本件事故により負った傷害の内容及び程度、後遺障害の内容及び程度等一切の事情を考慮すれば、慰謝料は入通院分二五〇万円、後遺障害分六五〇万円をもって相当とするというべきである。

8  物損 二一万七四〇〇円

原告は本件事故により物的損害が生じた旨主張し、証拠(甲第二一、証人矢部由美子、弁論の全趣旨)によれば、本件事故により、原告車が全損状態になったこと、本件事故後に原告と保険会社との間で物的損害について話し合いがもたれ、保険会社から原告に対し、原告車一六万円、その他の物的損害につき、原告請求額八万二〇〇〇円から「使用分差し引き」五万七四〇〇円と評価する旨回答がされたこと等の事実を認めることができ、右の事実によれば、原告は本件事故により、概ね二一万七四〇〇円の物損を被ったものということができる。

三  過失相殺による減額及び損害てん補

1  前記争いのない事実等及び証拠(乙第二、第三の一及び二、東大阪労働基準監督署に対する調査嘱託の結果)によれば、原告は、本件事故の損害てん補として、被告から一四八七万三七二九円(上山病院分一三四万五一五〇円を含む)、大阪労働基準局より療養補償給付五六五万七八七七円及び療養費用三三〇〇円の支払いを受けたことを認めることができる。

2  政府が労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づく保険給付をしたときは、被害者が取得した損害賠償請求権は、右保険給付と同一の事由(労災保険法一二条の四)については損害のてん補がされたものとして、その給付の価額の限度において減縮するものと解されるところ、右にいう保険給付と損害賠償とが同一の事由の関係にあるとは、労災保険給付の対象となる損害と民事上の損害賠償の対象となる損害とが同性質であり、保険給付と損害賠償とが相互補完性を有する関係にある場合をいうものと解すべきであるところ、本件における原告の損害のうち、治療費、入院雑費及び付添看護費は療養補償給付と右の同一の事由の関係に立つが、その他の損害は右の関係には立たないというべきである。

そうとすると、前記二で認定した原告の損害額のうち、二の1の入院雑費二〇万五四〇〇円、同2の付添看護費九七万一四八四円及び同4の治療関係費一六万四二五四円の合計一三四万一一三八円については、療養補償給付によりてん補されることとなるから、前記一で認定した割合に基づき過失相殺による減額をした残額から、前記1の療養補償給付の額を控除すると残額はなく、全額てん補されていることとなる。

3  前記二で認定した原告の損害額のうち、入院雑費、付添看護費及び治療関係費を除いた人身損害分の合計額三五〇四万三一二九円に、前記一で認定した割合に基づき過失相殺による減額をした残額から、前記1の被告から支払われた既払額を控除すると残額は一六六六万五〇八七円となる。

4  また、前記二の8で認定した物損二一万七四〇〇円に一で認定した割合に基づき過失相殺による減額を行うと残額は一九万五六六〇円となる。

四  弁護士費用 一六〇万〇〇〇〇円

本件事案の性質、認容額その他諸般の事情を考慮すると、本件不法行為による損害として被告に負担させるべき弁護士費用は、一六〇万円とするのが相当である。

五  以上のとおりであって、原告の請求は、金一八四六万〇七四七円及びこれに対する不法行為の後の日である平成二年五月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 石原寿記)

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