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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)6691号 判決

主文

一  被告株式会社丁原住建は、甲事件原告らに対し、それぞれ金五五万円及びこれに対する平成六年三月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  甲事件原告らの被告株式会社丁原住建に対するその余の請求及び被告甲田建設株式会社に対する請求を棄却する。

三  被告株式会社丁原住建は、乙事件原告に対し、金二七万円及びこれに対する平成八年七月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  乙事件原告の被告株式会社丁原住建に対するその余の請求及び被告甲田建設株式会社に対する請求を棄却する。

五  訴訟費用は、甲事件につき、甲事件原告らに生じた費用の二分の一と被告株式会社丁原住建に生じた費用を被告株式会社丁原住建の負担とし、甲事件原告らに生じたその余の費用と被告甲田建設株式会社に生じた費用を甲事件原告らの負担とし、乙事件につき、乙事件原告に生じた費用の四分の一と被告株式会社丁原住建に生じた費用を被告株式会社丁原住建の負担とし、乙事件原告に生じたその余の費用と被告甲田建設株式会社に生じた費用を乙事件原告の負担とする。

六  この判決は、第一項及び第三項に限り仮に執行することができる。

理由

一  請求原因1(一)のうち、原告甲野、同乙山及び同丙川が原告ら建物及びその敷地をそれぞれ所有し居住していること、原告ら建物が木造瓦葺二階建て住宅で南面に窓や物干場があることは当事者間に争いがなく、《証拠略》により、その余の事実が認められる。同1(二)のうち、本件建物が原告ら建物の南側隣接地に建設された鉄骨造五連棟三階建て(高さ九・七メートル、長さ三六・四メートル、幅七・二八ないし四・五五メートル)の建物であることは当事者間に争いがなく、《証拠略》によれば、本件建物は原告ら建物のほぼ真南に隣接し、原告ら建物との位置関係は概ね別紙図面のとおりであり、本件建物と敷地境界線との距離は〇・六五ないし〇・六九メートル、本件建物と原告ら建物との距離は、約一・五メートルであることが認められる。同1(三)の事実は当事者間に争いがない。

同2の事実のうち、被告丁原住建が被告甲田建設に請負わせて本件建物を建築したことは当事者間に争いがなく、《証拠略》によれば、遅くとも平成六年二月二八日には、本件建物の躯体が建ち上がり、外壁工事もほぼ終了していたことが認められる。

二1  そこで、請求原因3(本件建物建築による原告らの日照被害)につき検討するに、《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

(一)  本件建物建築以前は、本件建物敷地は更地で、そのさらに南側は農園であり、原告ら建物の南面の日照状態は良好であった。

(二)  原告ら建物は敷地境界線から約〇・三五ないし約〇・六九メートルの距離に建てられているが、各二階の居室部分と敷地境界線の距離は、原告甲野宅が約二・四メートル、原告乙山宅が約一・八〇メートル、原告丙川宅が約一・六五メートルで、それぞれ居室の南側はベランダないし物干しとして利用されていたものである。本件建物は、前述のように敷地境界線から〇・六五ないし〇・六九メートルの距離にあるが、その境界線側は高さが九メートルを超え長さは三〇メートルを超える壁面を形成している。そこで、本件建物建築後、冬至の午前八時から午後四時までにおける原告ら建物の日照状況は、二階に相当する地上四メートルの高さで、敷地境界線から水平距離五メートルの地点においても、原告甲野宅については午前一〇時三〇分すぎから一部が、午後〇時すぎには全部が日影になり(日影時間約四時間から五時間三〇分)、原告乙山宅については午前八時すぎから(日影時間約八時間)、原告丙川宅については午前八時から日影になる(日影時間八時間)。日照条件が比較的よい夏場においても、原告ら建物の二階南側の物干場の一部に一時間以内の日照があるにすぎないため、原告らは日中も電灯をつけなければならず、洗濯物が乾かない、湿気が多い等の被害を受けている。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

2  右認定事実からすれば、原告ら建物は本件建物により、少なくとも冬至ころには明らかな日照被害を受けているものと認めることができる。

三1  そこで、請求原因4(被告らの責任原因)につき検討するに、《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

(一)  被告丁原住建は、平成三年ころ本件建物敷地を宅地化して更地のまま所有していたが、本件建物を建築して敷地とともに分譲することを企図し、平成五年九月一七日に建築確認申請し、同年一〇月七日に右確認を取得し、同年一一月九日ころ被告甲田建設を請負人として建築工事に着手した。これに先立つ同月一日、原告ら付近住民は、被告ら担当者らと話し合いの機会を持ち、住民側の日照被害を問題にして本件建物の通路を原告ら建物側に設置することや、本件建物を二階建てにすることを求めたが、被告らはその場でこれを拒否した。その後、住民側は弁護士を通じて被告らと交渉したが、被告らの姿勢は変わらず、設計の変更や住民側に対する金銭補償には一切応じない旨回答した。なお、被告丁原住建は、住民側の右要望に対し、設計変更を社内で検討したことがあるが、その検討内容は設計変更による分譲価格及び分譲可能性等にとどまり、原告ら住民側の要求する日照についての検討は何らなされなかった。被告丁原住建は、原告ら住民側が同年一二月二二日に本件建物建築続行禁止の仮処分を申し立てた後になって初めて本件建物の日影図を作成したが、建築自体は続行し、平成六年二月二八日、本件建物が立ち上がっていることを理由に右仮処分申立は却下され、同年五月一〇日、本件建物が完成した。

(二)  仮に、原告ら住民側の右要望を容れて本件建物の通路を原告ら建物側に設置し、かつ、二階建て(高さ六・八メートル)にした場合、冬至における原告ら建物の日照状況は、高さ地上四メートル、敷地境界線から水平距離五メートルの地点において、原告甲野宅については午後三時すぎから(日影時間約一時間)、原告乙山宅及び原告丙川宅については午後三時三〇分前から日影になるにすぎない(日影時間約三〇分)。また、通路は現況どおりで、高さのみ二階建てにした場合は、同様の地点において、原告甲野宅については午後一時四〇分ころから(日影時間約二時間二〇分)、原告乙山宅については午後二時ころから(日影時間約二時間)、原告丙川宅については午前八時すぎに約一〇分間と午後二時すぎからが日影になるにすぎない(日影時間約二時間)。

(三)  本件建物所在地は、近鉄藤井寺駅から徒歩二〇分程度の距離に位置し、周辺一帯は住宅地域に指定されており、一戸建て、二階建て以下の建物が多い低層の住宅地であって、三階建て建物も存在するが、その数は少なく、本件建物のように連棟(長屋)構造のものは非常に少ない。本件建物の存する住宅地域における日影規制は、高さが一〇メートルを超える建物を建築する場合、境界線から五メートル以上北側の部分につき、地上四メートルの高さで敷地境界線からの水平距離一〇メートル以内の範囲において五時間以上日影となる部分を生じさせてはならないとされているところ、高さ九・七メートルの本件建物にはかかる日影規制は適用されない。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

2  被告丁原住建の責任について

以上の事実に鑑みるに、原告ら建物における日照被害は著しいといえるところ、それは被告丁原住建が敷地境界線から一メートルも隔てない位置に高さ九メートルを超える長大な壁面をもつ三階建て五連棟の建物を建築したことによるものであるが、その近隣は、一戸建て二階建て以下の低層住宅が多い地域で、原告ら建物に従前十分な日照が得られていたことが、たまたま本件建物敷地部分が更地であったことによるもので、将来これに建物が建築されることは予想できたとしても、近隣と同程度の建物が建築されると期待するのが通常であって、本件建物はその期待を大きく裏切るものである。そして、被告丁原住建は、本件建物建築着工前後に原告ら住民側から、本件建物建築によって日照被害が生じることを告げられ、その改善のため、本件建物の南側に設置予定の通路を原告ら建物側に移し、あるいは、本件建物を二階建てにすること等の要望を受けながら、二階建てにすれば前記のとおり原告らの受ける日照被害を軽減することは十分可能であったし、そうでなくても、境界線の位置や建物の構造を考慮することで、右日照被害を軽減できたのに、右要望を真摯に受け止めて日照状況を検討することもせず、自己の企業収益の必要性有効性のみの見地から本件建物の分譲価格等の検討結果に基づき当初の設計のとおり本件建物の建築を強行したものといわざるを得ない。してみれば、被告丁原住建による本件建物の建築は、原告らとの関係では、受忍限度を超える日照被害をもたらすものとして不法行為を構成するというべきである。

なお、被告丁原住建は、本件建物は建築基準法等の日影規制に適合する適法建物であるから原告らに対する不法行為にはならない旨主張するが、日影規制に関する法令は建物建築に関する行政上の取締監督基準を示すものであり、当該建物の建築主と第三者との間の私法関係を規制するものではないから、公法上の日影規制に適合しているからといって直ちに私法上も適法であり不法行為を構成しないとはいえないから、被告丁原住建の右主張は失当である。

また、被告丁原住建は、自己の資金繰りの関係で本件建物を現況どおり建築せざるを得なかったにすぎず、原告らに対する悪意や害意はなかったことや、宅地の高度有効利用の要請に鑑みれば原告らがかつて享受した日照は反射的利益にすぎない等と主張するが、居宅における日照は単なる反射的利益ではなく、快適で健康的な生活を営むのに必要な生活利益であり、法的にもできるだけ保護が与えられるべきであるところ、隣接地所有者は互いに他の生活利益を尊重して生活環境を維持すべき責任があり、地域性等に照らし受忍限度を超える日照被害を生じさせた場合には、積極的な悪意や害意がなくても不法行為となるというべきであるから、被告丁原住建の右主張は失当である。

3  被告甲田建設の責任について

被告甲田建設が被告丁原住建から本件建物の建築を請負い、これを完成させたことは当事者間に争いがない。請負人については、注文者との契約内容に従って仕事を完成する義務があるが、第三者との関係では、当該建物が日影規制に反することが明らかな違法建築であるにもかかわらず、当該建物により受忍限度を超える日照被害が生じることを知り又は容易に知り得たのに、あえて当該建物を建築したような特段の事情がある場合には、注文者との共同不法行為が成立することがあると解されるものの、本件建物は日影規制には適合しており、他に右特段の事情を認めるに足る証拠はなく、したがって、被告甲田建設の不法行為を認めることはできない。

四  そこで、請求原因5(損害額)について検討するに、前記のとおり、原告らは本件建物建築により受忍限度を超える日照被害を受けており、原告ら建物所在地の地域性、日照被害の程度、本件口頭弁論終結時までの右被害の継続期間等諸般の事情を考慮すれば、本件被害により被った精神的肉体的苦痛に対する慰藉料は、甲事件原告らそれぞれにつき各五〇万円、乙事件原告丙川冬子につき二五万円が相当である。

また、原告らが本件訴訟追行を原告ら訴訟代理人に依頼したことは記録上明らかであり、本件事案の内容などに照らし、被告丁原住建の前記不法行為と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害金は、甲事件原告らそれぞれにつき各五万円、乙事件原告につき二万円が相当である。

五  結論

以上の次第であるから、甲事件原告らの請求は、被告丁原住建に対し、原告一人当たり五五万円及びこれに対する本件建物による日照被害が生じた後の日である平成六年三月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、乙事件原告丙川冬子の請求は、被告丁原住建に対し、二七万円及びこれに対する乙事件訴状送達の日の翌日である平成八年七月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、甲乙事件それぞれにつき、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言について同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本哲泓 裁判官 奥田哲也 裁判官 廣瀬千恵)

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