大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

大阪地方裁判所 平成8年(ワ)7929号 判決

甲事件原告、乙事件被告

森薗容堂

甲事件被告

深瀬明

乙事件原告

三井海上火災保険株式会社

主文

一  甲事件被告は、甲事件原告に対し、三〇万九九四六円及びこれに対する平成五年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  乙事件被告は、乙事件原告に対し、一二四万〇一二〇円及びこれに対する平成五年一一月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  甲事件原告及び乙事件原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、甲事件・乙事件を通じてこれを二〇分し、その一九を甲事件原告・乙事件被告の、その余を甲事件被告及び乙事件原告の負担とする。

五  この判決の第一、第二項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  甲事件被告は、甲事件原告に対し、六二四万七七四五円及びこれに対する平成五年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  乙事件被告は、乙事件原告に対し、一七七万一六〇〇円及びこれに対する平成五年一一月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、甲事件原告・乙事件被告(以下「甲事件原告」という。)の運転する自動車と甲事件被告の運転する自動車との接触事故に関し、甲事件原告が甲事件被告に対し民法七〇九条に基づき損害賠償を求めるとともに、甲事件被告との間で自動車保険契約を締結していた乙事件原告が、甲事件原告に対し、商法六六二条に基づき求償債務の支払を求めた事案である。

一  争いのない事実等

以下のうち、1は当事者間に争いがなく、2は乙第一号証により、3は乙第四号証及び甲事件被告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨により認めることができる。

1  甲事件原告は、平成五年八月一日午前六時四〇分ころ、普通貨物自動車(泉四五に六二六五、以下「原告車両」という。)を運転して大阪府富田林市旭ケ丘町三―一〇先道路(以下「本件道路」という。)を南から北へ進行中、後方から進行してきた甲事件被告の運転する普通乗用自動車(和泉三三ぬ四八二八、以下「被告車両」という。)に衝突された(以下「本件事故」という。)。

2  本件道路は南北に通ずる片側各二車線の直線道路で、見通しはよく、歩車道の区別があり(以下、北行車線のうち、歩道側の車線を「第一車線」、中央線側の車線を「第二車線」という。)、最高速度は時速六〇キロメートルとされている。北行車線の幅は第一車線と第二車線あわせて七・五メートルである。

3  甲事件被告は、本件事故当時、乙事件原告との間で、被告車両につき自動車総合保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結しており、乙事件原告は、平成五年一一月一七日、本件保険契約に基づき、甲事件被告に対し、本件事故による車両保険金として一七七万一六〇〇円を支払つた。

二  争点

1  本件事故態様

(甲事件原告の主張)

本件事故は、原告車両を運転して第一車線を走行していた甲事件原告が、右サイドミラーで第二車線を走行する車両を確認した後、第一車線から第二車線へ徐々に進路変更を行い、車線変更を完了して車道に対し車体がほぼ平行になつた時点から約五秒後に突然被告車両に後方から追突されたもので、乙事件被告の一方的な過失によつて発生したものである。

(甲事件被告、乙事件原告の主張)

本件事故は、甲事件被告が被告車両を運転して第二車線を進行していたところ、折りから被告車両の前方で第一車線を進行していた原告車両が突然第二車線に進路変更をしたため、甲事件被告がクラクシヨンを鳴らし、更に制動措置を講じたものの、間に合わず被告車両左前部が原告車両右後部と接触したというものである。本件事故は被告車両の直前に割り込んだ甲事件原告の過失によつて発生したものであり、本件事故の責任の七割は甲事件原告にある。

2  甲事件原告の損害

3  甲事件被告の損害

第三当裁判所の判断

一  争点1(本件事故態様)について

甲第一号証、第二二号証、乙第一号証及び甲事件原告、甲事件被告各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、甲事件被告は、本件事故当時、被告車両を運転して時速約七〇キロメートルの速度で第二車線を進行していたところ、前方で第一車線を進行していた原告車両が被告車両よりかなり低速度で第二車線に進路を変更しようとし、被告車両の前方約一〇・五メートル前で原告車両が被告車両の進路を塞ぐ状態となつたので、危険を感じクラクシヨンを鳴らしこれとほぼ同時に急制動の措置を講じたものの、間に合わず被告車両左前部を原告車両右後部に衝突させたこと、甲事件原告は、被告車両のクラクシヨンの音に気付いたが、不用意に動いてはかえつて危険であると思い回避措置を採らなかつたところ、クラクシヨンの音を聞いた直後に被告車両に衝突されたこと、甲事件原告は、被告車両に衝突された後、進路左側に歩道の切れ目がありその横が空き地であつたことから、右空き地へ原告車両を進入させようとしたところ、止まりきれず空き地の北側にあつたコンクリートの壁に原告車両を衝突させ、右衝撃で原告車両は停止したことが認められる。

これに対し、甲第一三号証には、甲事件原告は、原告車両の右サイドミラーで第二車線を走行する車両を確認した後、第一車線から第二車線へ進路変更を開始し、徐々に第二車線に進入して行つた後、車線変更を完了して車道に対し車体がほぼ平行になつた時点から約五秒後に突然被告車両に後方から追突されたとの記載がある。しかし、本件道路の北行車線の幅は第一車線と第二車線あわせて七・五メートルであるから、一車線の幅は概ね三・七五メートルであると考えられるところ、甲第二三号証、乙第七号証の一、二によれば、原告車両、被告車両とも全幅一六九センチメートルであることが認められ、被告車両の左前部が原告車両の右後部に衝突したことに照らすと、衝突当時、原告車両はその大部分は第二車線内に入つていたが、車体左側はまだ第一車線に跨つた状態であつたと考えるのが自然であり、原告車両が車線変更を完了していたとは認められないというべきである。しかも、甲事件原告は、方向指示器を出した地点でサイドミラーで後方を確認したところ車両はなく、車線変更を始めてから完了するまでの間もちらちらと後方を確認し、四、五秒後に車線変更を完了したと供述するが、本件道路は見通しのよい直線道路であるから、後方を進行する被告車両を容易に発見できたはずであり、かえつて、甲事件原告は、クラクシヨンの音を聞くまでは後方から車両が来ていることには気付かなかつたとも供述しており、甲事件原告が、後方の確認を確実に行つたとする点も信用できないというべきである。

そうすると、本件事故は、甲事件原告が、後方の安全確認を怠り、被告車両が接近しているのに気付かないまま被告車両の直前で漫然と第一車線から第二車線に進路を変更した過失により発生したものであるというべきであるが、反面、甲事件被告にも、前方を進行する原告車両の動静に対する注視を欠き、原告車両が被告車両の進路を塞ぐ状態となるまで回避措置をとらなかつた過失があるというべきであり、その過失割合は、甲事件原告を七割、甲事件被告を三割とするのが相当である。

二  争点2(甲事件原告の損害)について

甲事件原告は、本件事故により次のとおりの損害を受けたものと認められる。

1  休業損害 六六万三六一三円(請求四〇八万九三三六円)

(一) 甲第二ないし第七号証の各一、第八号証、第一三号証、乙第五号証の一、二及び甲事件原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

(1) 甲事件原告は、本件事故により頸背部捻挫の傷害を負い、平成五年八月二日から平成六年一月三一日まで岡本外科に通院した(実日数六五日)。甲事件原告は、平成五年八月二日の岡本外科での初診時には、両頸部から両肩、両肩甲部にかけての疼痛を訴えたが、岡本外科では、同月六日には甲事件原告に対して牽引を開始し、更に同月九日にはリハビリも開始し、以後、理学療法を主とした治療が続けられた。

(2) 本件事故当時、甲事件原告は、養鶏業及び魚腸骨運搬業を営んでおり、平成四年には養鶏業により二四九万五〇〇〇円、負膓骨運搬業により一九一万七〇〇〇円の合計四四一万二〇〇〇円の所得があつた。甲事件原告は、養鶏業については、飼料として利用するための病院の残飯の回収及び鶏卵の配達等に従事するほか、帳簿の整理等経理全般にあたつており、生産した卵は、毎日従業員や家族の者が鶏卵小売業者等に出荷していた。また、魚腸骨運搬業については、スーパーマーケツト等から魚腸骨を回収し、その一部を養鶏場で飼料として使用し、残りを肥料、飼料等の製造を行う化製場に持ち込んで販売するというもので、魚腸骨の回収は河内長野及び羽曳野方面を甲事件原告が自ら担当し、毎日約三〇箇所から回収していたが、堺方面は平野雄士に委託して行つていた。また、甲事件原告は、概ね一日おきに回収した魚腸骨を化製場に運搬するほか、経理全般についても全面的に処理にあたつていた。

(3) 甲事件原告は、平成六年三月ころまでは前記の回収業務には従事せず、富濱栄一にこれを行わせていたが、本件事故の翌日から従業員に指示し、帳簿を付けるなどの業務は行つていた。

(二) 右によると、甲事件原告の所得には、従業員や家族の労働に基づく部分が相当程度含まれていることが認められるところ、これらは甲事件原告自身が行つていた回収業務等とは無関係であるうえ、甲事件原告は、本件事故の翌日から従業員に指示したり、帳簿を付けるなどの業務を行つていたのであるから、甲事件原告が自動車の運転を控えたとはいつても、これによりその期間の甲事件原告の所得のすべてが失われたものとは到底認められない。そして、甲事件原告の所得のうち五割以上は養鶏業によるものであること、養鶏業においては従業員や家族によつてその業務のうちの多くが支障なく行い得たと認められること、魚腸骨運搬業についても平野雄士に委託して行つていた部分についてはなんら支障なく行い得たと認められること等に照らすと、甲事件原告が本件事故による治療期間中に受けた減収は、平成四年の所得の三割とするのが相当であり、右を基礎に甲事件原告の休業損害を算定すると、次のとおり六六万三六一三円となる(円未満切捨て)。

計算式 4,412,000÷365×0.3×183=663,613

(三) 甲第一三号証には、甲事件原告が本件事故により仕事ができなくなつたので、富濱栄一を回収業務にあたらせ、賃金として一日二万円を支給したところ、その合計は約三五〇万円になるとの記載があるが、右のとおり、甲事件原告が回収業務に従事できなかつたことを損害として認める以上、代替労働者に対して支払つた賃金を重ねて損害として認めることは相当でないから、右をもつて本件事故による損害と認めることはできない。

なお、甲事件原告は、本件事故により休業中の固定経費である従業員給料三七〇万円相当の損害を受けたと主張するが、右算定の根拠が不明であるばかりでなく、本件事故により前記養鶏業又は魚腸骨運搬業の全部又は一部の業務を行うことができなくなつたため従業員に余剰が生じた等の事情も窺われないから、甲事件原告が休業したことによつて従業員給料相当額の損害額が生じたと認めることはできず、右主張は採用できない。

2  慰藉料 六〇万円(請求七〇万円)

本件に顕れた一切の事情を考慮すれば、甲事件原告が本件事故によつて受けた精神的苦痛を慰藉するためには、六〇万円の慰藉料をもつてするのが相当である。

3  車両損害 五九万円(請求どおり)

甲第九号証及び弁論の全趣旨によれば、原告車両の本件事故当時の時価は五九万円であり、本件事故による修理費用はこれを上回る七四万五九〇〇円程度と見込まれることが認められるから、右時価額である五九万円の限度で本件事故による損害と認める。

4  レツカー費用 五万〇九八五円(請求どおり)

甲第一〇号証及び甲事件原告本人尋問の結果によれば、本件事故により原告車両はレツカー移動を必要とし、そのために五万〇九八五円の費用を要したことが認められる。

5  代車費用 六〇万円(請求どおり)

甲第一一、第一二号証及び甲事件原告本人尋問の結果によれば、甲事件原告は、本件事故により原告車両が使用できなくなつたため、全大阪魚蛋白事業共同組合から平成五年八月一日から三〇日間代車を借用し、そのために六〇万円を支出したことが認められる。

三  争点3(甲事件被告の損害)について

1  車両修理費用 一七二万五二五〇円(請求どおり)

乙第二号証及び甲事件被告本人尋問の結果によれば、甲事件被告は、被告車両の修理代として一七二万五二五〇円を要したことが認められる。

2  レツカー代 四万六三五〇円(請求どおり)

乙第二、第三号証及び甲事件被告本人尋問の結果によれば、本件事故により被告車両はレツカー移動を必要とし、そのために四万六三五〇円の費用を要したことが認められる。

四  結論

1  甲事件原告の損害は二五〇万四五九八円となるところ、これより過失相殺として七割を控除すると七五万一三七九円になり、更に甲事件被告から支払を受けた三五万〇五五二円(争いがない。)を控除すると、四〇万〇八二七円となる。ところで、甲第二ないし第七号証の各二、乙第六号証の一ないし三、五ないし八によれば、甲事件被告は、甲事件原告に対し、治療費として一七万二六八八円を支払つたことが認められるところ、前記甲事件原告の過失割合に照らせば、右のうちの七割にあたる一二万〇八八一円については、更に右金額から控除するのが相当であるから、そうすると、甲事件原告の損害残額は二七万九九四六円となる。

本件の性格及び認容額に照らすと、弁護士費用は三万円とするのが相当であるから、結局、甲事件被告は、甲事件原告に対し、三〇万九九四六円及びこれに対する本件事故の日である平成五年八月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。

2  甲事件被告の損害は一七七万一六〇〇円となるところ、これより過失相殺として三割を控除すると一二四万〇一二〇円となる。したがつて、乙事件原告は、甲事件被告に対して支払つた一七七万一六〇〇円のうち、右の一二四万〇一二〇円の限度で甲事件被告が甲事件原告に対して有する損害賠償請求権を取得することになるから、結局、乙事件原告は、甲事件原告に対し、一二四万〇一二〇円及びこれに対する乙事件原告の甲事件被告に対する保険金支払の翌日である平成五年一一月一八日から支払済みまで民法所定年五分の割合に遅延損害金の支払を求めることができる。

3  よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 濱口浩)

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com