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大阪地方裁判所 昭和27年(ワ)2249号 判決

原告 紀州毛織物有限会社

右代表者 大家米太郎

右代理人 牧野敬次

被告 日本通運株式会社

右代表者 早川慎一

右代理人 木村順次郎

主文

被告は、原告に対し金七千百五十円及びこれに対する昭和二十七年七月十一日から右支払ずみまで年六分の金員の支払をせよ。

原告その余の請求は、棄却する。

訴訟費用は、五分して、その一を被告その余を原告の負担とする。

この判決中原告勝訴の部分は、仮に執行することができる。

理由

被告が物品運送取次等を営業とする会社であること、原告がその主張の日に被告会社高野口営業所に対しその主張のような商品在中の梱包四個を送先泉大津市旭町大津毛織合資会社と定めて運送取次を委託し、右荷物を被告に引き渡したこと、右荷物の内三個は被告から右訴外会社に引渡を了したが、残一個は粉失したためその引渡をしていないことは、いずれも当事者間に争がなく、原告が毛織物の製造加工を業とし、紛失荷物の在中品たる未整理品肩掛十二打が紡毛四割羊毛六割の毛織物半製品であることは、原告代表者本人の供述によつて認めることができる。現在なお右物件の所在が判らないことは、双方とも明らかに争わないところであるから、本件運送取次契約に基く被告の物件引渡義務は、運送品の滅失により履行不能に帰したものと解して妨げがない。そこで、右履行不能につき、被告が原告に対して損害賠償義務を負担すべきかどうかについて、以下順次に双方の争点を判断する。

(一)  被告は、本件荷物は一旦目的地たる泉大津市に到達した後に紛失したのであるから、右到達の時に前記契約上の委託者の権利は荷受人たる訴外大津毛織合資会社にすべて移転し、原告が損害賠償請求権を取得するいわれがないと抗弁するけれども、右物件が泉大津市に到達したとの証拠がないばかりでなく、商法第五百八十三条(第五百六十八条により運送取扱営業に準用される)は運送品の目的地到達時から荷受人にも契約上の権利を付与したにとどまり、それによつて当然に荷送人ないし運送取次委託者の権利を喪失させる趣旨ではなく、荷受人がまだ引渡を受けない以前に運送品が滅失した場合の如きは、委託者において契約不屡行による損害請求権を行使し得るものと解すべきであるから、右抗弁は失当である。

(二)  次に被告は、本件荷物は運送の途中において紛失したのであるが運送人の選任監督について被告に過失はないから、損害賠償の責任がないと主張するけれども、本件紛失事故が運送の途中運送人が右物件を保管中に生じたとの事実を確認し得る証拠はなく、その他被告援用の証拠によるも被告において商法第五百六十条所定の運送上の注意を怠らなかつた事実を証明するに足りないから、右抗弁も採用することができない。

(三)  さらに被告は、毛織物は貨物運送規則(昭和二四年国鉄告示第一二五号)の定める高価品として、綿織物に比し十割の割増運賃を課せられるところ、原告は右割増運賃の支払を免れるため本件荷物の内容を綿製品と偽つて委託し、不法に契約を成立させたのであるから、被告に対し損害賠償を請求し得べき筋合ではないと抗争するので按ずるに、右規則別表貨物等級表によれば毛織物については綿織物等一般の織物に比し十割の割増運賃を徴する旨を定め原告が本件荷物の運送取次を被告に委託するに際して毛織物製品であることを明告しなかつたことは、証人前田俊助の証言により成立を認められる乙第二号証の記載及び同証言によつて認められるけれども、原告が割増運賃の支払を免れる目的から積極的に本件荷物が綿製品である旨虚偽の申告をした事実は、これを認めることができないばかりでなく、仮に割増運賃の支払を免れる意図に出たものとしても、本件運賃の高低は運送の難易運送における安全の担保等運送人側の反対給付と対価的に決定さるべき性質のものであるから、運送の安全を犠牲にして運賃の出費を節約するという純経済的考量に出たと認められるような場合には、財政上の収入を目的とする運賃法規に違反するにせよ、直ちにこれを公序良俗を害する行為に当ると断定し得ないものと考えるから、本件荷物の滅失による損害賠償の請求が民法第七百八条の精神に照し許されない。という被告の主張は、採用できない。もつとも、委託者が商法第五百七十八条(第五百六十八条により運送取扱営業に準用される)に定める明告義務に違背した場合には運送取次人において全面的に損害賠償責任を免れるとの解釈を容れる余地があるけれども、本件混紡毛織半製品の如きは、取引通念に照し同法にいう「高価品」に該当しないと解すべきであるから、結局賠償義務の全部的免脱を主張する被告の抗弁は、失当といわなければならない。

(四)  被告はさらに、本件荷物の内容品たる毛織物は重量一瓩につき価格金二百円を超え、小運送業者営業規則(小運送業法第三条に基き主務大臣の認可を得た運送取扱約款)に定める「高価品」に該当するところ、原告はその明告をしなかつたから、同規則に定める免責規定により、右割合による価額の限度で賠償責任を負担すれば足りる旨主張するので、その当否につき考察する前記前田俊助の証言及び同証言により成立を認められる乙第一号証の記載によれば、右規則は小運送事業法(昭和一二年法律第四五号、昭和二五年二月一日施行通運事業法により廃止)第三条の規定に基き被告会社が定めた運送取扱約款であつて、同規則第七条には、「運輸省貨物等級表上の貴重品」及び「容器荷造を加えた実量一瓩の価格が二百円を超える物」を高価品とし、「高価品」については委託者は送状に荷物の種類を明記すべき旨、同第三十四条には「高価品」で小運送業者の請求する割増運賃の支払がなかつたものについては、上記の割による金額を限度として損害実額を賠償すべき旨の各規定が存することを認めることができる。同規則の規定は、いわゆる普通契約条款として当事者間にこれと異なる特約をなす等格別な事情のない限り被告会社と運送取次契約する場合に適用せらるべく、特段の事情の主張立証がない本件において、前示の規定は本件運送取次契約の内容をなすものと解して妨げない。しかして、乙第二号証の記載によれば、本件荷物一梱の重量は三五・七五瓩と認められ、原告自らその価格なりと主張している本件請求額に従えば本件荷物が右規定にいわゆる「高価品」に該当することは、計数上明らかである。運送状の代用物と認められる乙二号証(貨物通知書)の品名欄に「肩掛」と記載されているところからみて、原告が本件荷物の委託に際して内容品が肩掛であることを被告会社の係員に告げたことは明らかであるが、上記規則第七条により明記を要する「荷物の種類」とは、右規定の趣旨から考えて同規則にいう「高価品」に当るかどうかを識別できる程度の種別を意味し、本件について云えば毛織物製品たることをも明示することを要するものと解すべきところ、原告がその旨を明告しなかつたことは前認定の通りであり、同規則第三十四条にいう「小運送業者が請求した割増運賃の支払がなかつた」場合とは、「高価品」たることの明告がなかつたため小運送業者が割増運賃を請求しなかつた場合をも含む趣旨と解するのが相当であるから、被告は同条の免責規定に従い、一瓩につき金二百円を限度として損害を賠償すれば、足りるものといわなければならない。この点について原告は、右規則の「高価品」に関する規定は、当時の物価を無視したもので効力に疑があると主張し、同規則に定める「高価品」の基準価格が終戦後の物価騰貴の事情に即応しないものであることは原告のいう通りであるが、当時の鉄道運輸規程(昭和一七年鉄道省令第三号)には一瓩の価格金八十円を超えるものを高価品として右規則とほぼ同趣旨の免責規定を設け(同規程第二十八条、同七十三条)鉄道運送人の責任を法的に規整しているのであつて(私企業の自治約款たる同規則には右規程のような当然の法的拘束力を認められないことはもちろんであるが)。前記規則の定は同様の場合における運送人の責任と対比して権衝を失するものではないこと、依託者が当初から正規の割増運賃(毛織物について、十割の割増運賃を支払うべきことは、現行規定においても変りがない。)を支払いさえすれば、右免責規定の適用を免れ得る関係にあつたこと、さらに普通契約条款が企業の合理的運営を裏づける一括した制度的な性質のものであること等を考え合わせると、同規則の前示規定が取引における信義公平に著しく違背する無効のものとは考えられない。原告は、被告会社係員において職務上本件荷物の内容品たる肩掛未整理品が毛織物製品であることを当然知りながら割増運賃を請求しなかつたもので、事故が生じて後に免責を主張することは信義に反するというけれども、当該係員が右事実を知りながらあえて割増運賃を請求しなかつたと認められる確証はないし、本件にあらわれた資料においてこれを推認するにも不十分である。むしろ、毛織物製造業者たる原告において製品の運送に割増運賃の支払を要すること位はあらかじめ承知していて然るべきであり、その支払を免れることによつて利得する反面、これに伴う運送上の危険は自ら甘受するのが公平にかなうともいえよう。原告の右主張は、採用の限りでない。そうだとすれば、被告は原告に対し、本件荷物三五・七五瓩に対し上記一瓩金二百円の割合で算定した金七千百五十円(紛失物件の実額がこの価格を超えるものであることは、弁論の趣旨から被告の明らかに争わないところと認められる。)の限度において損害賠償義務を負担するにすぎないものというべく、この点に関する被告の抗弁は、理由がある。

(五)  さらに右損害賠償義務ありとするも昭和二十五年十二月四日以降一ヶ年の経過により商法第五百六十六条による消滅時効が完成した旨の被告の抗弁について按ずるに、成立に争ない乙第五号証の一、二及び原告代表者本人尋問の結果によれば、昭和二十六年三月頃、同年五月頃の二回に被告会社泉大津営業所営業係長白井六三郎が原告会社に赴き、原告側の金七万円程度の損害賠償請求に対し金三万円程度で示談解決するよう交渉していること、さらに成立に争ない甲第二号証の一ないし四及び証人白井六三郎、前田俊助の各証言によると、同年十二月十九日に右白井が被告会社岸和田支店外渉係長神藤登、同車輪課員前田俊助を伴い、原告から右紛争の解決を受任していた本件原告訴訟代理人の事務所を訪ねて前同旨の示談解決を申し入れていることをそれぞれ認めることができる。それによると被告は原告に対し右三回にわたる交渉に際して金三万円の程度まで損害賠償債務があることを承認したものというべく、右示談の交渉は、前記白井、前田等が被告会社係員の資格ではなく個人としてした旨の前記白井、前田の証言部分は、信用できない。すなわち、前記損害賠償債務の時効は、昭和二十六年三月、五月、十二月、債務の承認によりその都度中断され、その後一年以内に本訴が提起されていることは訴訟上明らかであるから、原告の時効中断の再抗弁を容れ右時効の抗弁を排斥すべきである。

よつて、本訴請求は、被告に対し金七千百五十円及びこれに対する訴状送達の翌日たること記録上明らかな昭和二十七年七月十一日以降商法所定の年六分の遅延損害金の支払を求める限度において認容すべきであるが、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十二条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 橘喬)

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