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大阪地方裁判所 昭和29年(ワ)4618号 判決

原告 藤田安太郎 外一名

引受参加人 野久保嘉市 外三名

主文

原告ら両名の本件訴を却下する。

訴訟費用は、原告ら両名の連帯負担とする。

事実

当事者双方代理人の主張、提出援用した証拠及びこれに対する認否はつぎのとおりである。

第一、本案の申立

一、原告ら両名

1  引受参加人ら四名は、原告並びに株式会社駒川青果卸売市場に対し別紙目録〈省略〉記載の土地につき大阪法務局中野出張所昭和三〇年七月一四日受付第一五八四一号をもつてなされた同年同月一三日付右会社と引受参加人ら四名間の売買を原因とする所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

2  引受参加人ら四名は原告に対し別紙目録記載の建物を明渡せ。

3  引受参加人ら四名は原告に対し昭和三〇年七月一五日から前項の建物明渡し完了に至るまで一ケ月金三万円の割合による金員を不可分的に連帯して支払え。

4  訴訟費用は引受参加人ら四名の負担とする。

との判決並びに右二、三項につき担保を条件とする仮執行の宣言を求める。

二、引受参加人ら四名

原告ら両名の請求を棄却する

との判決を求める。

第二、事実上及び法律上の主張

一、原告ら(請求原因)

1  株式会社駒川青果卸売市場(以下訴外会社という)は、昭和二四年七月三一日に資本金三〇万円一株の金額五〇円として設立された青果物販売を目的とする会社で、原告ら両名は同社設立以来いずれも一二〇〇株の株式を有している株主である。

2  別紙目録記載の土地及び建物(以下本件不動産という)は、昭和二三年一二月か翌二四年一月ごろ、原告ら両名、訴外塩川己之蔵、尾谷鹿造、谷野貞三ら計五名を組合員とする青果物荷受組合のため、同人らが前所有者上田市太郎から買受け、右組合員らの共有となり、その後尾谷、谷野の組合脱退によりその余の組合員三名の共有となつていたのであるが、同二四年九月に組合を組織変更し訴外会社を設立した際、同会社が所有権の移転をうけてこれを取得したものであり、仮にそうでないとしても、昭和二七年七月ごろには右会社が前主上田市太郎から所有権の移転をうけて同会社の所有に帰したものである。ところが同社代表取締役塩川己之蔵は昭和三〇年七月一三日これを引受参加人ら四名に売渡し、土地については同月一四日その旨の登記を経て、翌一五日いずれも引渡しを終え、その後現在に至るまで右同人らがこれを占有し、同所において青果物のせり売業を営んでいる。

3  ところで本件不動産は、青果物せり売業を営んでいた訴外会社の営業場所であるとともに殆んど全財産ともいうべき重要財産であり、商法第二四五条によればその譲渡には同法第三四三条に定めるとおりの株主総会決議を要するはずなのに、前記塩川は右決議を経ることなくほしいままに会社財産を処分したものであるから、訴外会社と引受参加人らとの間の右売買は無効で、同人らは、本件不動産の所有権を取得せず、従つてその占有は不法であり、同人らは訴外会社に対し毎月三万円の損害を与えている。

4  そこで、訴外会社は、引受参加人らに対し本件不動産につきなされている請求の趣旨記載の移転登記の抹消、その占有の返還および損害賠償を求める権利がある。

また同会社の代表者としての前記塩川(個人としての塩川ではない)は、引受参加人らに対し右同様の権利を有するとともに、他面訴外会社に対しては、右の引受参加人らに対し有する権利を行使すべき義務を負うのであり、従つて訴外会社は、右塩川に対して、同人が引受参加人らに対し右の権利を行使するよう要求する権利を有するわけである。

5  よつて、前記のとおり六ケ月前から株主であつた原告らは、商法第二六七条にもとづき、昭和三四年一一月一七日に訴外会社に対して、同社が塩川に対して有する前述4の末尾で述べた権利を行使するための訴を提起するよう請求したが、同社は右同日から三〇日以内に右訴を提起しなかつた。そこで、原告らは、訴外会社に代つて直接塩川に対し、同社が塩川に対して有する権利(塩川が引受参加人から本件不動産を取戻し移転登記の抹消等の実現に努力すべき旨の請求権)を行使し得るに至つた。

6  以上の事実にもとづき、原告らは、引受参加人ら四名に対して、つぎのとおりの請求をする。

(一) 原告らは、訴外会社に対する株主権にもとづき、同社が引受参加人らに対して有する本件不動産についての前記移転登記の抹消登記手続請求権及び本件不動産の明渡請求権ならびに不法占有にもとづく損害賠償請求権を代位行使して本訴に及ぶ。前述のとおり原告らは訴外会社の株主であるが、株主権すなわち議決権、配当請求権は債権の一種であるから、株主が会社に代つてその権利を行使することについては、民法第四二三条の適用があり、仮にそうでないとしても、会社の債権者が会社の有する権利を代位できる以上は、会社財産の経済上の共有者である株主も、右同条の精神からみて、会社の権利の代位行使が許されるべきである。なお、会社財産が株主の共有に属すること、不動産の共有者は単独で保存行為として無権利者に対する登記抹消や物の返還を求められることも、本件において債権者代位を許すべき根拠となり得る。このように解さないと、多数株主の横暴により少数株主の利益がそこなわれても少数株主としてはとるべき手段がなく、結果がはなはだ不当である。

(二) 5で述べた原告らの塩川に対して有する商法第二六七条による請求権にもとづき、塩川が引受参加人らに対して有する請求趣旨記載の登記抹消手続、明渡し、損害賠償等の請求権を民法第四二三条により代位行使する。商法第二六七条は、取締役の職務懈怠の場合株主から取締役に対し、単に損害賠償請求のみに限らず、広くその職務の遂行を求めることを包含しているものと解すべきであるから、右株主代表訴訟により認められた原告らの訴外塩川に対する権利にもとづき塩川の引受参加人らに対する権利を代位することも許されるはずである。

二、引受参加人ら四名(請求原因に対する答弁)

1  訴外会社が原告らの主張するような内容及び目的をもつて設立された会社であることは認めるが(但し、設立年月日は、昭和二四年九月一三日である)、

原告ら両名が訴外会社のいずれも一二〇〇株の株主であることは否認する。原告ら両名は、いずれも訴外塩川己之蔵の使用人であつたが、右塩川が訴外会社を設立するに際し、形式上原告ら両名において株式を引受けたことにしただけで、株金はすべて塩川が払込んだものにすぎない。

2  引受参加人らが、本件不動産中土地につき、原告らの主張するとおりの経過で、その主張のとおりの登記名義を有しており、原告主張のころから現在に至るまで本件不動産を占有し原告らの主張するとおりの営業をしていることは認める。本件不動産の所有権の帰属移転等に関する原告らの主張はすべて否認する。本件不動産中土地は、昭和二三年九月八日ごろ塩川己之蔵が阪和商事株式会社から買入れ、その代金中不足分を上田市太郎から借りて支払つたので、塩川の上田に対する貸借上の債務を担保するため登記名義を右上田としておいたのであるが、同二四年一月一五日までに塩川は上田に対する債務の弁済をすませているし、同建物は、上田が塩川らと共同して青果市場を営む目的をもつて建築したものを、その後塩川が買取つているのである。従つて、本件不動産は、いずれも塩川個人の所有であつたのであるが、原告ら両名は、同二七年六月ごろ塩川の文盲に乗じ勝手に訴外会社名義の登記をしたものである。

3  その余の原告の主張中、請求原因5の前段の原告らが訴外会社に対しその主張のとおりの請求をしたとの点を除く他の主張は争う。

商法第二六七条により株主が取締役の責任を追及するいわゆる株主代表訴訟の対象となるのは、取締役の損害賠償責任及び資本充実の責任に限られ、本件で原告が主張するような会社の取締役に対する請求権のごときを株主が会社に代位して行使することは許されない。また債権者代位権は、債権者に認められているのであつて、株主権(社員権)は債権ではないから、株主権にもとづく債権者代位は認められない。

第三、証拠〈省略〉

理由

一、本訴請求は、さきに株主権にもとづく債権者代位または株主の代表訴訟の規定により、原告ら両名が訴外会社に代位しまたは同会社を代表して提訴した訴外塩川己之蔵(取下前の被告)に対する訴外会社の本件不動産所有権確認請求及びその他の請求のうち、右確認請求の部分を引受けた引受参加人らに対し、原告らが土地所有権取得登記抹消、建物明渡及び損害賠償の各請求を追加し、ついで右塩川に対する請求の全部及び引受参加人らに対する請求中の右確認請求の部分を取下げた結果、残存する請求であることが明らかである。

よつて、以下現存する請求(債権者代位訴訟においては会社の引受参加人らに対する権利、代表訴訟による代位については、前記塩川の引受参加人らに対する権利が審判の対象である。)の適否につき審及することとする。

二、まず、原告ら両名は、本訴においては、民法第四二三条の適用ないし類推により、原告らが株式会社駒川青果卸売市場の株主であることにもとづき、右会社が引受参加人らに対して有する本件不動産中土地についての移転登記抹消登記手続請求権、建物の明渡請求権、損害賠償請求権等を代位行使する旨主張するので、右請求の適否につき考えよう。

およそ民法第四二三条の債権者代位権は、通常の場合は一般の金銭債権者が、その債権の満足を得るため債務者の一般財産を引当てにする関係にあるとき、債務者の右財産を保全するために認められているものであることはいうまでもない。ところで、株主の会社に対する地位を考えてみると、株主は会社に対する出資者であり、会社という団体の構成員として、その運営等に関与するのであつて、会社の財産の減少は終局においては株主自身の損失に帰し、会社に利益があがれば配当等によつてその利益を享受し得る地位を有するにすぎない。これを敷衍してみると、株主権のうち共益権は、社団の構成員としてその運営等に関与するいわば団体法上の地位にすぎないのであるから、一般の金銭債権者の債務者に対する関係とははなはだ異なるものといえる。また株主の自益権の面に着眼してみても、すでに配当決議を経て具体的に金額支払期等が確定し現実化した特定の配当請求権は別として(原告らは、本訴においてこのような具体的請求権の存在を何ら主張していない)、株主権の一面である抽象的な配当請求権は、会社に利益があつてその配当決議がなされれば、それにあずかり得るという未必不確定な期待ないし可能性の表現にほかならないのであり、これをもつて民法第四二三条の代位の基礎となるべき債権とみることはとうていできないものというべきである。

さらに、金銭債権以外の権利たとえば賃借権や特定物引渡請求権または登記手続請求権等にもとづき、右権利に対応する義務を負う者の他人に対して有する権利を代位することもわが判例上認められているけれども、それらは、代位権者が自己の有する請求権の本来の内容を実現するためその権利の目的物につき、債務者が第三者に対して有する同種の請求権を行使する必要がある場合に限り例外的に認められるべきものである。ところが、株主権はは、上述したとおりの内容を有するにすぎず、何ら特定の目的物に関する請求権を内容とするものではないのであるから、株主権にもとづいては会社が第三者に対して有する特定物に関する物権的請求権や登記手続請求権の代位行使を許すことはできないものといわなければならない。

なお、原告らは、共有持分権者は、単独で共有物の保存行為としてその不法占有者に対し明渡しや登記抹消請求をなし得るところ、株主は会社財産の実質上の共有者であると主張し、右をもつて株主に債権者代位権を認めるべき根拠としているが、会社財産は、株主とは別人格者である会社に帰属し、株主は、法律上会社財産の共有者ではないのであるから、民法第二五二条の存在をもつてしては、原告らが主張するような株主権にもとづく債権者代位権を根拠づけるには足りない。

原告らは、株主の債権者代位権を認めないと多数株主の横暴により少数株主の利益がそこなわれると主張するが、株主としては、会社がその意思決定にもとづき、第三者に対する権利行使をしないでいる場合において、それが株主の利益に反すると考えるときは、会社の意思決定に関与するための正当な手続により、その内部的意思を決定させた上、会社みずからがその意思にもとづいて権利行使をなすべきものである。もしこのように解さず、株主権にもとづく債権者代位を肯定すれば、結局会社という団体の構成員の多数意思に反した行為を少数株主のみの意思によつてとり得ることとなり、社団の意思決定に関する原則を逸脱した不当な結果を生ずることになるであろう。

よつて、右に説示したところ異なる見解を前提とした原告らの主張は、失当であり、原告らが、訴外会社の株主であるというだけでは、訴外会社の引受参加人らに対する権利を右会社に代つて管理行使し、同社のため本件訴訟を追行する原告適格を認めることができない。

三、つぎに、原告ら両名は、本訴において、商法第二六七条の株主代表訴訟の規定により原告らが訴外会社の代表取締役である訴外塩川に対して有する権利にもとづき、右塩川の引受人らに対して有する権利を、民法第四二三条の債権者代位の規定により代位行使すると主張するので、以下この点を判断する。

まず、一般に、商法第二六七条により株主がその有する権利にもとづき、会社取締役が第三者に対して有する権利を民法第四二三条により代位行使することが許されるかどうかを考えると、商法第二六七条は、株主が会社のためその取締役に対する責任を追及する訴を提起することを認めているだけで、民法第四二三条と異なり、株主に実体法上の権限を認めるような表現をしていない。しかし、現代わが国における一般法理上から考えても、株主の差止請求に関する規定のし方からみても、株主の代表訴訟を認める根拠としては、当然これに対応する実体法上の権限を肯定してしかるべきものである。

そうだとすると、商法の規定が株主に訴の提起を認めているにすぎないからというだけの理由で、常に同条の権利にもとづいては民法第四二三条により取締役の第三者に対する権利を代位行使することが許されないというべきものではない。しかしながら、会社が、取締役に対して有する権利にもとづき、民法第四二三条により、取締役の第三者に対して有する権利を代位行使するのは、会社が取締役に帰属しているその第三者に対する権利につき管理権を取得しこれにもとづき、みずから第三者に対し給付を請求し得る実体法上の権能を有することによるのであるが、もし株主から前記のような商法第二六七条と民法第四二三条とを結合した請求を第三者に対してすることを認めるときは、結局会社が債権者代位の規定により第三者に対し有している実体法上の権能を株主において株主権にもとづき代位行使すること、または取締役以外の第三者に対する株主の代表訴訟を認めることと異ならない結果を来すことはいうまでもないであろう。そうだとすると株主権にもとづく債権者代位を許すべきでないこと前述のとおりであることからみても、また代表訴訟の制度が株主において会社の第三者に対する権利を代表行使することを認めていない現行法の趣旨からみても、原告らの主張するような請求の形態は、法律の趣旨に反するものとして許されないというべきである(けだし代表訴訟の対象となる会社の取締役に対する請求権を保全するために必要であるにせよ、会社が民法第四二三条により取締役の第三者に対して有する権利を行使しうる代位権についてまで株主の代表訴訟を認めることは、第三者が取締役と異なり、会社の提訴懈怠の可能性のない相手である点、ならびに右のような訴訟が取締役の責任を直接追及するものでない点より考えて行き過ぎであり、商法第二六七条の趣旨を逸脱するものと解されるからである。)従つて、たとえば、会社が取締役に対し損害賠償債権を有し、株主がこれを代表行使し得る場合でも、右取締役の資力を保全するため、その第三者に対する財産権を代位行使することは、会社にのみ認められるべきものである。以上のとおりであるから、原告らが本訴で主張しているような形態すなわち株主から第三者に対し、商法第二六七条と民法第四二三条との結合による請求をすることは一般的に否定されるべきであり、そうしてみると原告らは、右の請求についても、訴外塩川を代位して、その引受参加人らに対する権利を行使し、訴訟を追行する適格がないのである。

また、原告らが、本訴において代表訴訟の内容としているところの訴外会社が訴外塩川に対してその責任を追及する権利は、右塩川が、会社代表者として、引受参加人らに対し、同人らが本件不動産中土地についての所有権取得登記の抹消登記手続をして登記名義を訴外会社に回復するとともに本件不動産中建物の占有を同会社に移転し、かつ損害賠償を支払うよう、訴の提起その他の方法をとることによつて会社のため努力すべき旨を請求する権利であることが明らかであるが、右のような会社の塩川に対する請求権は、同人が取締役に選任されることによつて委任の規定に従い会社に対して負担する善管義務ないしは忠実義務の履行請求権(商法第二五四条、同条の二)であり、これらが代表訴訟によつて追及しうる取締役の責任内容に含まれるものと解するのは相当でない。けだし、商法が代表訴訟の制度を設けた所以は、会社の取締役に対する責任追及の懈怠を是正するため、株主が会社に代つて提訴することを許容したに止まり、提訴懈怠という忠実義務自体の不履行を是正するため右義務自体の強制的実現を意図したものではないからである。すなわち、訴外会社が、前記の登記抹消、占有移転等の請求につき訴を提起しない場合において、その訴の相手方が取締役(本件では取締役が相手方でない点はしばらく措く)であるとき、株主が会社に代つて右請求訴訟を提起することを認めるのが、いわゆる株主の代表訴訟であつて、訴外会社の右提訴懈怠その他右請求権行使の懈怠が、代表取締役である訴外塩川の会社に対する善管義務ないしは忠実義務の不履行にもとづく場合であつても(もつとも会社の提訴については取締役会においてその意思決定をし会社を代表すべきものを定めるのであるから、提訴懈怠が必ずしも塩川のみの義務不履行とはいえない点はしばらく措く。)株主が会社に代つて訴外塩川を相手方とし善管義務ないしは忠実義務の履行、すなわち前記請求訴訟の提起ないしは請求実現への努力といつた作為義務の履行請求をなしうることを認めたものではない。これは、取締役に対する権利を行使して会社財産の回復維持をはかる点において前者の請求が後者よりも直さい、端的であることもその理由の一つであるが、一般に取締役の善管義務ないしは忠実義務のうち会社内部の業務執行として特定の行為をなすべき義務や、対外的に会社を代表しまたは代理して会社の取締役あるいは第三者に対する特定の権利の行使をなすべき義務のごときものを代表訴訟によつて追及しうる取締役の責任に含めるときは、株主の行き過ぎ干渉のため、取締役の会社運営に関する裁量の自由が不当に奪われ取締役制度の趣旨に反するおそれがあることにもとづくものというべきである。商法第二七二条が、会社取締役の善管義務ないしは忠実義務に違反する積極的行為につき、会社が差止権を行使せず、そのため会社に回復し難い損害を生ずるおそれがあるときには、代表訴訟とは別個に株主の差止権ないしは差止めの訴えを認めながら、善管義務ないしは忠実義務に違反する消極的行為(不作為)については、株主の取締役に対する作為義務の履行請求権を認めていないのは、この間の消息を物語るものであり、前記取締役の業務執行等に関する作為義務の如きは、代表訴訟によつて追及しうる取締役の責任に含まれないことを当然の前提とするものであるといわなければならない。そうだとすると、株主が代表訴訟により取締役に対してなし得る請求の内容は、右取締役の義務履行により、直接に会社財産が維持保全され又は回復されるようなものに限られると解するのが相当である(もとより代表訴訟の目的となる取締役の義務内容は、同人の会社に対する損害賠償義務ないし不当利得返還義務等の金銭給付義務に限られることなく、特定物の返還義務、登記移転義務をも含むものといつてよいであろう。)

従つて、会社の第三者に対する登記抹消等の請求権が、代表訴訟の対象にならないからといつて、会社の代表取締役を被告として、第三者に対し右請求の訴えを提起すべきこと、あるいは、右請求権の実現に努力すべきことを求める訴の如きが代表訴訟として許される道理もないことは明らかである。

してみると、原告らが主張する訴外会社の塩川に対する請求権は、株主代表訴訟の目的となり得ず、原告らは、結局訴外塩川の引受参加人らに対する原告主張の請求権(塩川が引受参加人らに対し、前記の登記抹消等の請求権を有するとはいえないのであるが、この点はしばらく措く。なお原告は、右の請求権は塩川個人のものでなく、会社代表取締役として有する権利であるかのような主張もするのであるが、そうであれば訴外会社の請求権を指すこととなり、無意味である。)を代位行使すべき基礎となる訴外塩川に対する代表訴訟上の権利を有しないのであるから、この点においても、引受参加人らに対する請求につき、原告適格を有しないわけである(のみならず、会社が塩川に対して有する原告主張の忠実義務の履行請求権を保全するために、原告らにおいて、塩川が引受参加人らに対して有すると主張する右登記抹消等の請求権を行使する必要があるとは考えられず、民法第四二三条の債権者代位の要件を欠いている点においても、原告主張の代表訴訟に基く代位は許されないのであつて、この点からみても原告適格を欠いているものというべきである。)。

四、これを要するに、原告らの株主権にもとづく会社の引受参加人らに対する権利の代位行使及び株主代表訴訟の規定から認められる訴外塩川に対する請求権にもとづく塩川の引受参加人らに対する権利の代位行使は、いずれも原告らに当事者として訴訟を追行する権能が欠けているということにならざるを得ない。よつて、その余の判断をするまでもなく、原告らの請求は、不適法として却下することとし訴訟費用の負担につき、民訴法第八九条第九三条第一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 金田宇佐夫 羽柴隆 小田健司)

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