大判例

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大阪地方裁判所 昭和30年(ワ)3126号 判決

原告 中井信市

被告 松岡春江

主文

被告は原告に対し、大阪市生野区新今里町四丁目一九番地上の家屋番号同町八四の一木造瓦葺二階建店舗付住宅の内階下部分を明け渡し、且つ、金五、二七五円及び昭和三〇年一二月一日以降右明渡完了に至るまで、一ケ月金一八、〇〇〇円の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は金八万円の担保を供するときは仮に執行することが出来る。

但し、被告において、金一五万円の担保を供すれば、右仮執行を免れることが出来る。

事実

一、当事者双方の申立

原告は主文第一、二項と同旨の判決並に仮執行の宣言を求め、被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求めた。

二、請求の原因

(一)  原告は請求の趣旨記載の家屋の所有者であるが、昭和二八年六月二四日被告に対し、右家屋の階下部分喫茶店営業のために期間を向う二ケ年間、賃料一ケ月一万八千円の約束で賃貸したが、被告は昭和三〇年五月分の賃料の内金七千円を支払つたのを最後に爾後、賃料の支払をしなかつた。ところが、その後昭和三〇年一二月二三日原被告合意の上原告がさきに右賃貸借契約締結の際、被告より受領していた保証金一〇万円と被告の供託金一三、七二五円此合計金一一三、七二五円を以て、同年一一月分の賃料の内金五、二七五円を残し、その余の同月分迄の延滞賃料(月額金一八、〇〇〇円の割)の弁済に充当することにした。

(二)  ところが、被告は右昭和三〇年一一月分の賃料未払分及び爾後の賃料の支払を為さないので、原告は昭和三一年四月二八日被告に到着の内容証明郵便を以て、右昭和三〇年一一月分残金五、二七五円及び昭和三〇年一二月一日以降昭和三一年三月末日迄の延滞家賃金合計金七七、二七五円を向う三日以内に支払うべき旨催告した。然るに被告は右催告に応じないので、原告は同年五月二四日、本件口頭弁論において、被告に対し、本件賃貸借契約解除の意思表示をなした。

(三)  よつて、右契約終了を原因とし、原告は被告に対し本件家屋の階下部分の明渡、並びに昭和三〇年一一月分の賃料未払残額五、二七五円と同年一二月一日以降右解除の日まで一ケ月一八、〇〇〇円の割合による延滞賃料、右解除以後、明渡完了迄右賃料相当損害金の支払を求める。

三、被告の答弁並に抗弁

請求原因(一)、(二)の事実はいづれも認めるが本訴請求は以下のべる如く失当である。すなわち

被告の賃借部分たる本件家屋の階下部分は店舗の用に供する部分と居住の用に供する部分とが結合した併用住宅であつて、住宅部分は六畳、四畳の二室で五坪余りであり、店舗部分は七坪弱である。従つて本件家賃金については地代家賃統制令の適用を受けるものである。而して右統制賃料額は昭和三〇年四月以降月額金二、七〇〇である、然るに本件約定賃料は右統制額をこえる不当な額で、原告のなした本件賃料の催告はこの不当な統制額超過の家賃の支払を請求するものだから、催告としての効力を生じない。従つてこの不当な催告を前提とする原告の賃貸借契約解除の意思表示は無効である。而して被告の催告期間内に右統制額をこえる月額金一万円の割で賃料を送金支払つたが、原告はこれが受領を拒んだので被告に不履行の責はない。

四、原告の反論

被告の抗弁事実を否認する。本件家屋階下店舗の部分の床面積は、原告が被告に賃貸した当時は一一坪五合であつたので、本件家賃金については統制は解除されている。而して被告主張の右階下四畳の間は、被告が右一一坪五合の店舗部分に借受後、原告の承認を得ることなしに、勝手に新設したものであるから本件家賃について統制が解除されていることに変りない。

五、証拠

原告は甲第一号証の一、二、甲第二号証、甲第三、四号証の一、二を提出し、証人大黒万蔵の証言及原告本人尋問の結果を援用し、乙第六号証は不知、その余の乙号各証はいづれも成立を認めると述べ、

被告訴訟代理人は乙第一号証、乙第二号証の一、二、乙第三乃至七号証を提出し、証人南新太吉の証言、被告本人尋問の結果、検証の結果を援用し、甲第一号証の一、甲第三号証の一、甲第四号証の一は、いづれも不知、なるも、官署作成部分のみ成立を認める。その余の甲号各証はいづれも成立を認めると述べた。

理由

一、請求原因第一、二項記載の事実は当事者間に争ない。

二、被告は、被告の本件賃借部分は所謂併用住宅であつて、その店舗部分は七坪弱であるからその賃料は地代家賃統制令の適用を受けると主張し、原告は、被告に賃貸した店舗部分は一一坪五合であるから、右統制令の適用を受けないと主張抗争するのでその点について判断する。

各成立に争のない甲第二号証、乙第七号証に証人南新太吉、原告本人、被告本人の各供述に検証の結果を綜合すると次の事実を認めることが出来る。本件建物は大阪市生野区新今里町四丁目一九番地にある木造瓦葺二階建店舗付住宅であつて、幅員四間の比較的交通量の多い道路に面し、附近一帯は通称今里新地と呼ばれ、本件賃貸借の目的となつた部分はその階下全部でその総床面積は約一八坪ある。而してその現況は南北に通ずる表道路に東面した部分にカウンター、調理場を含む喫茶店用客室(土間、部積二五・一尺×一三・五尺)があり、その奥に通路(土間)を隔てて、その北側に客用(客室向)テレヴイジヨン設置部分を含む四帖の畳敷の間(一三・三尺×七・四尺)があり同通路の南側に手洗、階段下便所があり、右通路の突当りに押入等を含む奥六帖の畳敷の間(一二・九五尺×一三・五尺)がある。ところで右四帖の間は本件賃貸契約締結後(昭和三〇年二月頃)被告が原告の承認を得ず、勝手に新設したものである。而して本件賃貸当初被告は原告より右奥六帖の間以外の部分はこれを店舗用として借入れたのであり、右四帖の間はもと前記喫茶店用客室同様土間であつて、当時その営業用床面積は一〇坪以上あつた。すなわち、賃貸当時は建物の構造も右奥六帖の間以外は階下の殆どは店舗用に出来ていた。而して被告はこの階下において喫茶店営業をする目的でこれを借入れ、現にこゝで被告名義で喫茶店を営んでいる。果してそうだとすれば、本件賃貸借契約締結当時は、営業用床面積は一〇坪以上あつたので本件家賃についての統制が解除されていたことは地代家賃統制令(昭和三一年法律第七五号による改正以前のもの。以下同じ。)第二三条第二項第六号によつて明かである(本件賃貸の目的たる建物は同条但書、同条第三項、地代家賃統制令施行規則第一〇条第一一条のいずれにも該当しない)。

ところが右現況によれば、新設の四帖間が営業用かどうかによつて営業用床面積が狭められるか否かに影響あり、従つて、もし、それが非営業用であり、これを除いた営業用床面積が一〇坪以下になるものとすれば、統制令の適用を受けることになるのか、この点が問題となる。そこでこの点について考えてみるに、仮に右四帖の間が現に非営業用として使用されているとしても前認定のとおり、右四帖の間は本来営業用部分として賃貸された土間を偶々借主において貸主の承諾なく資意に縮少して新設したものであるから、その結果たとえ本件家屋の被告の営業用部分が一〇坪以下となつたとしても、これがため本件賃貸借の目的家屋が地代家賃統制令施行規則第一一条に該当する併用住宅となるものと解することはできない。けだし、同規則の解釈上は賃貸借契約締結当時の構造、当該賃借人の使用目的を規準としてその営業用床面積を算定するのを相当とし、その後の賃借人の一方的な無断改造、使用目的の変更等により影響されないといわねばならぬ。果してそうであつてみれば、本件家賃については依然統制が解除されているものといわねばならない。従つて、本件家賃について地代家賃統制令の適用があることを前提とする被告の抗弁は爾余の判断をなすまでもなく、失当といわねばならない。

三、以上認定事実によれば、本件賃貸借契約は、契約締結時たる昭和二八年六月二四日より二ケ年を経た昭和三〇年六月二四日、従前と同じ条件(賃料は月額金一八、〇〇〇円)の賃貸借契約として更新されていたところ、被告は昭和三〇年一一月分の賃料未払分五、二七五円並に同年十二月以降の賃料を支払はなかつたので、原告はその主張の日時、その主張のような催告をしたところ被告は依然これが支払をしなかつた。そこで原告は昭和三一年五月二四日の本件口頭弁論期日に被告に対し本件賃貸借契約を適法に解除したものというべきである。そうすれば、被告は原告に対して、本件建物階下部分の明渡義務並びに契約が解除されるまでの延滞賃料及び解除後明渡済に至るまでの賃料相当の損害金を支払う義務を負担することは明らかである、(昭和三一年七月一日より地代家賃統制令並びに同令施行規則の一部を改正する法令が施行されたところ、右改正によつても、被告の負担する解除後の損害金支払義務には何等の消長も来さない。)よつて原告の本訴請求は全部理由があるものとして認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言及びその免脱につき同法第一九六条第一項、第二項を適用し、主文の通り判決する。

(裁判官 増田幸次郎)

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