大判例

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大阪地方裁判所 昭和34年(レ)317号 判決

控訴人 細川朝市

被控訴人 野村弥永

主文

本件控訴を棄却する。

原判決の主文第一項は被控訴人の請求の趣旨訂正並びにその減縮により次のとおり変更された。

控訴人は被控訴人に対し大阪市都島区東野田町一丁目中野町工区3ブロツクの6宅地六八坪八合及び同工区3ブロツクの8宅地一四坪一合三勺(但し従前の土地である、(イ)大阪市都島区東野田町一丁目四五番地宅地九三坪及び同区同町二丁目五二番他の一五宅地三坪一合七勺、(ロ)同区同町一丁目四七番地宅地四九坪に対する各換地予定地)のうち、南側の一部約四〇坪(別紙図面に表示した部分)の土地を同地上に、

存在する木造ルーヒング葺平家建倉庫一棟(バラツク建)建坪二八坪五合五勺を収去して明渡し、かつ、昭和二九年三月一日以降右明渡済まで一ケ月金二八三円の割合による金員を支払え。

控訴費用は控訴人の負担とする。

原判決(但し主文第一項は本判決主文第三項のとおり変更されている)は被控訴人において金五〇、〇〇〇円の担保を供することを条件に仮りに執行することができる。

事実

控訴代理人は「原判決はこれを取消す。被控訴人の請求はこれを棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文第一、三、四項同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、なお損害金の請求は一ケ月につき金二八三円の割合に減縮する旨申立てた。

当事者双方の事実上の主張は、

被控訴代理人において、「本件係争土地はもと被控訴人の所有である大阪市都島区東野田町一丁目四五番地宅地九三坪の一部であつたところ、昭和二三年一〇月二三日、大阪市復興特別都市計画事業に基く土地区画整理の換地予定地として、大阪市長から、右の宅地九三坪及び同じく被控訴人所有の同市同区東野田町二丁目五二番地の一五宅地三坪一合七勺(被控訴代理人は昭和三六年四月四日付準備書面においてこの土地の所在番地を大阪市都島区東野田町二丁目五番地の一五と表示しているが、被控訴代理人提出にかかる甲第一号証(大阪市都島区長作成にかかる土地補充課税台帳登載証明書)及び原審における訴状添付の同様な土地補充課税台帳登載証明書の各記載によれば、この土地の所在番地は同市同区同町二丁目五二番地の一五であつて、前記準備書面における表示は明白な誤記と認められる。)の二筆の土地に対して同区東野田町一丁目中野町工区3ブロツクの6宅地六八坪八合が、また同じく被控訴人所有の同市同区東野田町一丁目四七番地宅地四九坪に対しては同区東野田町一丁目中野町工区3ブロツクの8宅地一四坪一合三勺が、それぞれ指定され、本件係争土地は右二筆の換地予定地にまたがることとなつた。従つて本件係争土地の表示を、従前の土地(イ)大阪市都島区東野田町一丁目四五番地宅地九三坪及び同市同区同町二丁目五二番地の一五宅地三坪一合七勺、(ロ)同市同区同町一丁目四七番地宅地四九坪、に対する各換地予定地同市同区東野田町一丁目中野町工区3ブロツクの6宅地六八坪八合及び同工区3ブロツクの8宅地一四坪一合三勺のうち南側の一部約四〇坪(別紙図面に表示した部分。以下本件土地と略称。)と訂正する。被控訴人は右指定処分の頃、大阪市長から右指定処分の通知を受け、それ以来本件土地に使用収益権を有するところ、控訴人は昭和二九年三月頃から右土地上に本件倉庫を所有して被控訴人の右土地に対する使用収益権を妨げているのである。なお、損害金の請求については、本件土地約四〇坪の昭和二九年三月以降の賃料相当額は一ケ月につき金二八三円であるから、損害金の請求を右の限度に減縮する。控訴代理人は被控訴代理人の右賃料相当額に関する主張を争うが、控訴代理人はかかる主張を原審はおろか当審においても昭和三五年五月二四日の当審第三回口頭弁論期日に口頭弁論が終結するに至るまで提出せず、再開後の昭和三五年一〇月八日第五回口頭弁論期日に至つてかかる主張をなしたのは、まさに時機に遅れた防禦方法を提出したものに外ならないから右申出の却下を求める。」と述べ、

控訴代理人において、「被控訴人の賃料相当額に関する主張は否認する。」と述べたほかは原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

証拠として、被控訴代理人は甲第一号証を提出し、控訴代理人は原審における控訴人本人尋問の結果を授用し、甲第一号証の成立を認めた。

理由

被控訴人が大阪市都島区東野田町一丁目四五番地宅地九三坪を所有していることは当事者間に争いがなく、同じく被控訴人が同市同区同町二丁日五二番地の一五宅地三坪一合七勺、同市同区同町一丁目四七番地宅地四九坪を各所有していること、昭和二三年一〇月二三日大阪市復興特別都市計画事業による土地区画整理の換地予定地として大阪市長から(イ)前記九三坪及び三坪一合七勺の宅地及び(ロ)前記四九坪の宅地に対して大阪市都島区東野田町一丁目中野町工区3ブロツクの6宅地六八坪八合及び同工区3ブロツクの8宅地一四坪一合三勺がそれぞれ指定されたこと、被控訴人がそのころ右指定処分の通知を受けたこと、本件土地が右二筆の換地予定地のうち南側の一部約四〇坪(別紙図面に表示した部分)にあたることは、いずれも控訴人において明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。ところで、換地予定地の指定がなされた場合、該指定通知を受けた者は通知を受けた日の翌日から、右換地予定地につき従前の土地について有した権利の内容である使用収益と同一の使用収益をする権利を有するものとされるから(特別都市計画法第一四条。同法は昭和二九年法律第一二〇号土地区画整理法施行法第一条により廃止されたが、同法第六条により特別都市計画法による換地予定地指定処分は土地区画整理法第九八条に基く仮換地指定処分とみなされることになつているのでこの関係に変りはない。)、前記当事者間に争いない事実及び争いないとみなされる事実によれば、被控訴人は本件土地について、前記指定処分の通知を受けた日の翌日から、従前の土地に有していた権利たる所有権と同一内容の使用収益権を有しているものということができる。

そして控訴人が本件土地上に本件倉庫を所有して本件土地を占有していることについては当事者間に争いがない。

そこで進んで控訴人の本件土地に対する占有権限の有無について判断すると、控訴人は本件土地を訴外長谷川貞三より賃借している旨抗弁するが、被控訴人に対する関係で本件土地占有につき正当権原ありと主張せんがためには右訴外長谷川貞三と被控訴人間の関係を明らかにしなければならず、仮りに訴外長谷川貞三に対して賃借権を有する事実が認められたとしても右の事実のみをもつてしては被控訴人に対する関係で本件土地占有につき正当権原ありということができないこと言うまでもないから、右の抗弁は主張自体理由がなく、その他弁論の全趣旨に徴しても何等本件土地占有についての正当権原の主張ありとは認め難いばかりか、原審における控訴人本人尋問の結果によれば、控訴人は、右訴外長谷川貞三の兄である訴外原田某を本件土地の所有者と信じて、その管理人と自称する右訴外長谷川貞三より本件土地を賃借していたが、その後被控訴人が真の所有者であることが判明したので、同人に対し本件土地を借受けもしくは買受けたい旨申込んだが、いずれも被控訴人の承諾を得られず、そのまま現在に至つていることが認められるから、証拠によるも控訴人の本件土地占有が正当な権原に基くものとは認め難い。してみると、控訴人は本件倉庫を所有し、その敷地たる本件土地を占有することによつて、前記被控訴人の本件土地に対する使用収益権を妨害していることは明らかである。そして、特別都市計画法第一四条の法意からすれば、被控訴人が本件土地上に有する使用収益権は所有権と同一内容の権利であつて、本件土地に対する使用収益を妨害する者に対してはその妨害の排除を求め得るものと解されるから、控訴人は被控訴人に対し、本件建物を収去して本件土地を明渡す義務を負うものというべきである。

そこで更に損害賠償請求の点について判断する。

まず本件土地占有の始期の点についてみると、被控訴代理人は、控訴人が昭和二九年三月頃本件土地上に本件倉庫を建設して本件土地を占有するに至つたと主張するが、損害金請求の始期を同年三月一日に求めている趣旨からすれば、被控訴代理人は、昭和二九年三月一日以降控訴人が本件土地を占有していると主張しているものと解するのが相当であり、しかしてこの始期の点を控訴人は明らかに争わず弁論の全趣旨によるも争うものとは認められないのでこれを自白したものとみなす。次に損害額についてであるが、被控訴代理人は、控訴代理人が当審に至つて初めて被控訴人の賃料相当額に関する主張を否認したのは時機に遅れて防禦方法を提出したものであるとして右否認の主張の却下を求めるので、まずこの点についてみると、相手方当事者の主張する事実を単純に否認することも、その結果その事実の有無について立証の必要を生ぜしめ、訴訟の終結を遅延させるに至り得る点で、抗弁を新たに主張することと何等変りがない。従つてかかる否認も一つの防禦方法の提出として民事訴訟法第一三九条の制限を受けると解すべきこと勿論であり、かかる否認が原審においては言うまでもなく当審においても控訴提起後六月と一三日を経過した昭和三五年五月二四日の当審第三回口頭弁論期日に一旦口頭弁論が終結するに至るまで控訴人もしくは控訴代理人によつてなされることなく、右の口頭弁論終結後、昭和三五年九月五日付をもつて口頭弁論再開の申立をするとともに、再開後の同年一〇月八日、第五回口頭弁論期日においてはじめて主張されるに至つたことは当裁判所に顕著な事実であつて、右の事実からすればこの否認の主張が控訴人の少くとも重大な過失に基き時機に遅れて提出されたことを認めるに難くないのみならず、従来賃料相当額の点に関して何等の立証がなされていなかつた本件においては、かかる否認の結果訴訟の終結が遅延するに至ることも明らかであつたといわなければならない。しかしながら、当事者の故意又は重大なる過失に基いて時機に遅れて攻撃又は防禦の方法が提出され、これがため訴訟の終結が遅延すると認められる場合にも、当該訴訟の経過全般に照らしてかかる攻撃又は防禦の方法の提出を制限すべきでない事情が認められる場合にはこれを却下しないことも許されると解すべきところ、本件訴訟の経過をみると、控訴人は原審において賃借権の存在の点の主張のみに防禦の重点を置き、賃料相当額についての被控訴人の主張を争わなかつたため、原判決において賃料相当額の点については自白をしたものとみなされるに至つたことが弁論の全趣旨から明らかであつて、この事実からすれば、控訴人は当審においてもその抗弁が容れられない場合あるを慮つて賃料相当額に関する被控訴人の主張を争うに至つたものと推認すべく、かかる事情の下にあつて直ちに民事訴訟法第一三九条第一項を適用して賃料相当額を争う旨の主張の提出を却下することは相当でないと思料されるので、被控訴人の申立は却下すべきものである。

そこで被控訴代理人が損害額として主張する本件土地の昭和二九年三月以降の賃料相当額について判断すると、昭和二九年三月当時本件土地を家屋所有の目的で第三者に賃貸したとすれば、地代家賃統制令第二三条第一項第二号により昭和二五年七月一一日以降新築に着手する建物の敷地の賃料については地代家賃統制令の適用がなく、同令の適用なき場合の土地賃料が統制賃料より高額であることは公知の事実であるから、被控訴人は右賃貸により少くとも統制賃料相当額の地代を得ることができた筈であり、従つて被控訴人は控訴人の本件土地占有により少くとも右統制賃料相当額の損害を蒙つたものということができる。そして成立に争いない甲第一号証によれば、本件土地の大部分を含む前記六八坪八合の換地予定地の昭和二九年度固定資産評価額は金二二七、〇〇〇円であることが認められ、本件土地は前記六八坪八合の換地予定地と一四坪一合三勺の換地予定地のそれぞれ一部をなしているが、右両換地予定地は隣接している上、本件土地の大部分が六八坪八合の換地予定地に含まれていることは弁論の全趣旨から明らかであるから(原判決末尾添付図面参照)、本件土地全体につき前記六八坪八合の換地予定地の評価額によつて統制賃料を算出することを相当とすべく、右によれば、本件土地の地代家賃統制令に基く統制賃料は、都市計画税額を加算せずに計算しても一ケ月約三九五円になる(227,000円×40(坪)/68.8(坪)×3/1,000 ≒ 395.93円 )。そして昭和二九年以降の土地賃料が年々増加こそすれ減少することがないのは公知の事実であるから、控訴人は本件土地占有により被控訴人に与えた損害の賠償として、昭和二九年三月一日以降本件土地明渡済まで一ケ月につき、少くとも金三九五円の金員を支払う義務を負うことは明らかであり、右の範囲内で昭和二九年三月一日以降本件土地明渡済まで一ケ月につき金二八三円の割合で損害金の支払を求める被控訴人の請求が相当であるのは勿論のことである。

以上のとおり、被控訴人の本訴請求は正当であるから認容すべきものと言うべく、これと同旨に出でた原判決は相当であり、控訴人の本件控訴は理由がないから棄却を免れないが、被控訴人は当審で請求を減縮し、かつ本件土地の表示を訂正したので、その趣旨を主文において明らかにすることとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九五条、第八九条を、担保を供することを条件に仮執行の宣言をすることを相当と認めるので同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 宅間達彦 安芸保寿 稲守孝夫)

別紙

図〈省略〉

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