大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

大阪地方裁判所 昭和35年(ワ)3278号 判決

原告 徳山弘子

右訴訟代理人弁護士 南利三

同 山口俊三

右訴訟復代理人弁護士 南逸郎

被告 金村楢治郎

右訴訟代理人弁護士 徳矢卓史

主文

一、被告は原告に対し

(一)  別紙目録記載第二の一ないし三の各物件を収去して、同目録記載第一の一ないし三の各家屋を明渡せ。

(二)  昭和三〇年四月一日以降昭和三五年六月末日まで月額金六八、五七〇円、及び昭和三五年七月一日以降前記(一)の収去及び明渡完了まで月額一二八、五七〇円の各割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

三、この判決は金一〇〇万円の担保を供して仮に執行できる。

事実

≪省略≫

理由

一、原告の主張事実中

(一)  原告の先代徳三郎(昭和三二年四月一一日死亡)は、本件家屋(別紙目録第一の家屋)及びその敷地二五〇坪を所有し、かねて同家屋を被告に賃貸していたところ、徳三郎の死亡により原告がこれを相続し承継したこと、及び被告は同家屋をホテル営業の用に供していること、

(二)  本件家屋の賃料額等について原告主張どおりの確定判決があり、同判決によれば昭和二九年一一月一日以降の賃料は月額六八、五七〇円であつて、被告は、同判決が言渡された昭和三五年五月二三日当時においても、なお、昭和三〇年三月末までの賃料のうち金二一四、九五八円の支払を怠つていたこと、

(三)  原告主張どおり賃料支払の催告、停止条件付契約解除の意思表示、並びに賃料増額の意思表示をそれぞれ記載した内容証明郵便が、昭和三五年六月二九日被告に到達したこと、

(四)  本訴が提起(昭和三五年八月二日)された以後において、本件家屋の敷地上に別紙目録第二の各物件が建築されていること、

はいずれも当事者間に争いがない。

(五)  また、前示争のない賃料増額の意思表示に従い昭和三五年七月一日以降の賃料が月額一二八、五七〇円に増額改訂されたことは、鑑定人中村忠の鑑定の結果と弁論の全趣旨により容易に認定できる。

二、ところで、昭和三〇年四月一日以降の前示賃料(昭和三五年六月一日当時の延滞額は四、二五一、三四〇円)を延滞している旨の原告の主張に対し、被告は、これについては原告代理人南利三弁護士に受領遅滞がある旨を抗弁する。しかし、この抗弁事実を認める証拠はなく、また、昭和三五年五月分以前の延滞賃料債務四、二五一、三四〇円が同年七月九日までに弁済、相殺その他の事由によつて消滅した旨を認める証拠もない。

よつて、原告主張の賃料不払を事由とする本件停止条件付契約解除は有効であり、本件賃貸借は昭和三五年七月九日限り終了しているため、被告は原告に対し、本件家屋の敷地を原状に復した上、直ちに同家屋を返還せねばならぬ義務がある。

三、次に、被告主張の弁済供託及び相殺の抗弁であるが、これに対し原告は、まず、時機に後れた攻撃防禦の方法であり許されない旨を主張する、按ずるに、いわゆる相殺の抗弁は他の抗弁と類を異にし、口頭弁論終結後においてもこれを主張できるから、もしこの抗弁の審判を拒絶するなれば、請求異議の理由となり、引いて確定判決の執行不能を招集し、紛争の終局的解決を遅延させ、当事者双方に著しい損害を与える危険がないでもない。

従つて、相殺の抗弁が重大な過失により時機に後れて提出されたものであるか否かを判別するためには、特に慎重な配慮を必要とするところ、被告は、本件家屋を買取る旨の和解を希望していたため、この抗弁提出を差控えているうちに約一年七箇月を経過したものであること本件記録並びに弁論の全趣旨により明かであるから、このような場合においては、相殺の抗弁に関する限り、未だ「重大な過失によつて時機に後れ提出された」ものと認めるのは相当でなく、これと意見を異にする原告の右主張は採用することができない。なお、本件相殺の抗弁について審判する以上、弁済供託の抗弁について審理しても訴訟完結を遅延させる危険はないから、以下これらの抗弁について判断する。

四、それで、被告の弁済供託の抗弁であるが、原告主張の確定判決が言渡された当時において、なお被告が昭和三〇年三月末日分以前の賃料二一四、九五八円を遅滞していたことは当事者間に争いがないところ、当裁判所の措信できない証人金村善亮(第一回)の証言部分を除き、被告が同年四月分以降の賃料と称して供託した金員が右の二一四、九五八円を超えるものであることを認める証拠はない。従つて、被告が金員若干を弁済供託したことは原告も争わないけれども、これは同年三月分以前の延滞賃料の支払に充てられたものと認むべく、同年四月分以降の賃料が弁済されたという被告の抗弁は未だ採用するに由がない。

五、最後に、被告主張の必要費による相殺の抗弁について審接する。被告主張の必要費がいずれも本件家屋の修繕に要した費用であることは被告も自認しているので、この費用負担者は、結局、本件賃借物件の修繕義務負担者であるということに帰着する。ところで賃貸目的物の修繕義務は原則として賃貸人が負担しており、この場合修繕の必要を生じたときは、先ず賃貸人が自ら修繕する。もつとも、賃借人が賃貸人の負担において修繕するという例外もないではないが、このような場合には、賃貸人に対して、先ず修繕内容を予告し、修繕終了後遅滞なく費用額を報告するのが通例である。従つて、賃借人が賃貸人に対し何らの予告もせず相当長期間に亘つて勝手に修繕を繰返し、しかもその間、修繕費用について何らの報告もなさない場合は、もはや賃貸人に修繕義務はなく、賃借人がその修繕義務を負担する旨の特約が結ばれていたものと推認するのを相当とする。ところで本件の場合、≪証拠省略≫によれば、被告は古く昭和一二、三年頃から本件家屋を賃借しているのに、その間、賃貸人に対し修繕を求めたことは全然なく、また修繕について事前あるいは事後に承諾を求めたことがないのは勿論、修繕内容を予告したこともなく、ほしいままに修繕を繰り返し、その費用の額を賃貸人に通知したこともないことが認められるから、もし、訴訟が提起されなかつたとすれば、賃貸人たる原告は永久に修繕の内容及び費用を識ることができなかつたであろう点をも考慮するとき、本件賃貸借における修繕義務は、通常の場合と異なり賃借人たる被告がこれを負担する旨の特約を結んでいたものと認定するに難くない。なお、これに反する証人金村善亮(第二回)の証言部分は措信できない。

従つて、仮に、被告がその主張の修繕費用を支出したとしても、それは自己の修繕義務を履行した結果にすぎず、これを必要費として賃貸人たる原告から支払を受けることができないから、結局、右相殺の抗弁はその余の判断をまつまでもなく失当である。

六、よつて、賃料不払による契約解除を原因として、賃借人であつた被告に対し

(一)  本件家屋の敷地を原状に復して同家屋の返還を求めるべく、別紙目録第二の各物件の収去並びに同目録第一の各物件の明渡を求めると共に、

(二)  昭和三〇年四月一日以降昭和三五年六月末日まで月額六八、五七〇円の割合による延滞賃料

(三)  昭和三五年七月一日以降契約終了まで月額一二八、五七〇円の割合による賃料並びに契約終了の翌日以降右(一)の収去及び明渡完了まで右同様の割合による賃料相当の損害金の各支払を求める原告の本訴請求は全部正当である。

よつて、これを認容し、訴訟費用は敗訴の被告に負担させ、仮執行を宣言するものとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 山田義康)

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com