大判例

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大阪地方裁判所 昭和38年(ワ)3256号 判決

原告(脱退) 早野幸雄

引受参加人 喜多ヤスエ

右補助参加人(脱退原告) 早野幸雄

被告 有限会社昭栄工業

右代表者代表取締役 岩崎俊昇

右訴訟代理人弁護士 酒井信雄

主文

被告は引受参加人に対し別紙目録記載(一)及び(二)の建物を明渡せ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、申立

(引受参加人)

主文第一、二項同旨の判決並びに仮執行の宣言。

(被告)

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」

との判決。

第二、引受参加人の主張

一、別紙目録(一)及び(二)の建物部分(以下一括して本件建物という)を含む同目録記載家屋番号第三番及び第二番の建物はもと訴外東洋汽工株式会社(以下訴外会社という)の所有であったが、昭和三七年一〇月二二日原告(脱退)がこれを訴外会社から買受け同年一一月二七日所有権移転登記を経由し、更に昭和四一年四月二二日引受参加人(以下単に参加人という)においてこれを原告より譲受け同年五月二日その所有権移転登記を経由したものである。

二、被告は原告及び参加人に対抗しうるなんらの権限なくして本件建物を占有使用している。

三、よって参加人は所有権にもとづき被告に対し本件建物の明渡を求める。

四、被告が訴外会社から本件建物を賃借したことは否認する。

仮に被告主張のごとく、訴外本田由太郎が訴外会社の専務取締役なる肩書を使用して被告会社代表取締役岩崎俊昇と本件建物の賃貸借契約をしたとしても、本田は被告会社の常務取締役として同会社の経営に従事していたものであるから、岩崎は本田の訴外会社における地位、したがって同会社を代表する権限がないことを知っていた筈であり、善意の取引ということはありえない。

また本田は訴外会社及び被告会社双方の取締役であったのであるから、右取引は商法二六五条により訴外会社取締役会の承認を要するものであるところ、右取締役会の承認はなかったので、以上いずれの理由よりするも右賃貸借契約は無効である。

仮に右参加人の主張が理由ないとしても、右賃貸借契約における賃料の約定は虚偽仮装のものであって右契約は実際上単なる使用貸借である。

第三、被告の陳述

一、参加人主張一の事実中、原告が訴外会社より本件建物を買受けその所有権を取得したことは否認する。したがって参加人も本件建物の所有権を取得しない。その余の事実は認める。

二、参加人主張二の事実中被告が本件建物を占有使用していることは認める。

三、被告は昭和三六年一〇月五日訴外会社より本件建物および別紙添付図面(イ)(ハ)(ヘ)の建物部分を賃料一ヶ月金四万円、毎月末日持参払、敷金三五万円で期間の定めなく借受け、以後被告の営業とするルームクーラーの製造組立工場として使用し賃料の支払いを継続してきた(原告が所有名義を取得してから後は原告及び参加人において賃料の受領を拒否するので供託している)。よって右賃借権をもって参加人に対抗でき、被告は本訴請求に応ずることができない。

四、(イ) 被告が訴外会社と右賃貸借契約を締結したのは、訴外会社の専務取締役である訴外本田由太郎との間にしたものである。本田が仮に訴外会社の代表権を有しなかったとしても、被告は同会社の専務取締役の地位にある本田が当然代表権を有するものと信じて契約をしたのであるから商法二六二条により右契約は有効である。

(ロ) 仮に本田の専務取締役という名称は訴外会社が正式に認めたものでないとしても、代表取締役であった訴外安川信助、北野保らはいずれも早くから会社の業務を本田ひとりに押付け、自分達は個人の業務に専念して本田以外に会社業務に従事する者はない状態が続いたのであって、右代表取締役らは会社建物が何人かに賃貸されていることを知りながらなんらの異議をも述べず、一方本田は右賃貸料をもって訴外会社の借財を逐次返済して行った次第であり、これによると訴外会社は本田が専務取締役なる名称を使用することを黙認したか、又は本田に訴外会社の業務につき一切の代理権を付与していたものというべきである。

五、本田は本件賃貸借契約締結の頃被告会社の取締役ではあったが、右契約は被告会社の代表取締役岩崎俊昇がその衝にあたったものであって、本田には被告会社を代理ないし代表する権限がなかった。したがって訴外会社の代理又は代表権を有する本田と被告会社代表者岩崎との間に契約が締結せられたのであるから、本田が双方の会社の取締役であることは本件賃貸借契約の成立になんらの影響を及ぼすものでない。

第四、証拠≪省略≫

理由

一、本件建物がもと訴外会社の所有であり、これにつき参加人主張のごとく原告次で参加人名義に順次所有権移転登記がなされたこと、並びに被告が本件建物を占有していることは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫を総合すると、原告は昭和三八年八月ないし一〇月頃訴外会社の代表取締役高谷貞雄から本件建物をその敷地と共に代金約六〇〇万円で買受けその所有権を取得したことが認められる。もっとも成立に争いない乙第二号証によると、その頃訴外会社は解散決議により既に解散し高谷は清算人であったところ、昭和三七年一一月一日神戸地方裁判所伊丹支部の仮処分決定により高谷は清算人としての職務執行を停止せられその職務代行者として訴外河野順一が選任せられたことが明らかであるけれども、≪証拠省略≫によると、その後右解散決議は無効であり、高谷は依然訴外会社の代表取締役である旨の判決が確定し右仮処分は失効したことが認められるので右乙第二号証の記載は右認定を左右する資料とならず、その他前記認定に反する証拠はない。したがってまた原告から本件建物を譲受けたものであることにつき当事者間争いない参加人が現在本件建物の所有者であることは明らかである。

二、≪証拠省略≫を総合すると、訴外本田由太郎が昭和三六年一〇月五日訴外会社の専務取締役として被告会社代表取締役岩崎俊昇との間に被告主張のような約旨で本件建物の賃貸借契約を締結したことが明らかでありこれに反する証拠はない。参加人は右契約における賃料の約定は実際には存在せず該契約は単なる使用貸借であった旨の主張をするけれども、これを認めるに足る証拠はなく右主張は採用することができない。

三、ところで本田由太郎が当時訴外会社を代表する権限を有しなかったことは≪証拠省略≫により明らかであるが、≪証拠省略≫を総合すると、訴外会社は早くから本田が事実上殆ど一切の業務を管掌し、同人が専務取締役の名称を使用するのを訴外会社は黙認していたこと、並びに、被告会社を代表して本件賃貸借契約を締結した岩崎俊昇は本田が訴外会社の代表権を有するものと信じていたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

よって参加人の商法二六五条違反の抗弁につき考えるのに、≪証拠省略≫によると登記簿上、本田は昭和二八年一二月一五日訴外会社の取締役を退任したがその際他の取締役全員も共に退任した旨の記載となっており、また同記載によると、その後新たに取締役が選任せられたのは昭和三六年一一月二〇日であってその間取締役選任についての記載はないので、これにより本田は取締役退任後も昭和三六年一一月二〇日まではひき続き取締役の権利義務を保有していたものと推認するのが相当であり、また≪証拠省略≫によると、本田は昭和三六年一〇月五日当時被告会社の取締役をも兼ねていたことが明らかである。そして商法二六五条の規定は、かように取締役を退任した者が商法二五八条一項によりひきつづき取締役の権利義務を保有する場合においても適用せられると解するのが相当であるから、本件賃貸借契約は訴外会社の取締役会の具体的な承認がない限り無効であるところ現在まで右承認があったと認めるに足る証拠はないので右賃貸借契約はその効力を有しないものといわなければならない。

もっとも≪証拠省略≫によると、本田は予て訴外会社の代表取締役安川信助から訴外会社を代理して同会社所有建物を他に賃貸する権限を付与されており本件賃貸借契約も右代理権限にもとづいてなしたものと認められる(証人高谷貞雄の証言は右認定をくつがえすに足りない)けれども、商法二六五条の規定は当該取締役が代表取締役から会社の代理権を付与されている場合にも適用せられるものと解すべきであり、右事実があるからといって本件賃貸借契約が無効であることにかわりはない。

したがって被告は本件建物の占有につき賃借権をもって参加人に対抗することができず参加人に本件建物を明渡す義務がある。

四、よって参加人の請求を認容し民訴法八九条一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 加藤孝之)

〈以下省略〉

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