大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

大阪地方裁判所 昭和39年(ワ)6513号 判決

原告 辰野隆作

右訴訟代理人弁護士 金森健二

被告 株式会社弥谷商店

右代表者代表取締役 辻内泰

〈ほか二名〉

右三名訴訟代理人弁護士 川上主一

同 片岡勝

被告 杉浦速雄

主文

被告杉浦は、原告に対し、別紙目録記載の物件について、大阪法務局天王寺出張所昭和三八年一二月二四日受付第三四二九五号所有権移転請求権保全仮登記に基き、同三九年一〇月一七日代物弁済を原因とする所有権移転本登記手続をせよ。

被告会社三名は、前項の本登記手続をすることについて同意せよ。

訴訟費用は被告等の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文と同旨の判決を求め、その請求の原因として、

「一、原告は、昭和三八年九月一三日から同年一二月二三日までの間に、別紙貸金表記載の通り、被告杉浦に対し、合計金六、〇〇〇、〇〇〇円を貸与し、右貸金債権担保のため、最終貸付日に、同被告から、その所有にかかる別紙目録記載の物件につき抵当権の設定を受けるとともに、同被告との間に、同被告において利息の支払を一回でも遅滞したとき、若しくは、他から強制執行の申立等を受けたとき、或いは、原告に無断で住居所を変更したときは、右貸金債権について期限の利益を失い、直ちに原告において、右貸金の代物弁済として本件物件の所有権を取得し得る旨の代物弁済予約を締結し、主文第一項掲記の仮登記をしたところ、同被告は、一回も利息(年一・五割)を支払わないばかりでなく、同三九年八月一八日、他から強制競売開始決定を受けるに至ったので、同年一〇月一七日、同被告に対し、本件代物弁済予約完結の意思表示をした。

二、被告会社三名は、原告が仮登記をした後である同三九年六月四日、本件物件につき、主文掲記の法務局出張所同日受付第一五〇五五号をもって所有権移転請求権保全の仮登記(各持分三分の一)をしているが、右は原告の仮登記より後順位であるから、原告に対抗することができない。

三、よって、ここに、被告杉浦に対し、本件物件につき本件仮登記に基づく所有権移転本登記手続を求めるとともに、被告会社三名に対し、右本登記手続をすることに同意を求める。

四、原告が、被告会社主張の通り、既に、本件物件について所有権移転登記を受け、現在登記簿上本件物件の所有名義人となっていることは認めるが、右は、本来本件仮登記に基づく本登記としてなすべきであったのにかかわらず、原告の錯誤により、仮登記と関係ないものとしてなされたのであって、原告は、本訴提起後右錯誤を理由に右所有権移転登記の抹消登記手続の申請をしたけれども、被告会社三名の申請による仮処分のため、原告が本件物件の処分をすることを禁止されていたため、右原告の申請が却下された。原告としては、右仮処分の取り消しを求めるために要する保証金の調達ができないので、やむなく本訴を維持しているものである。」

と述べ(た)。≪証拠省略≫

被告会社三名訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

「一、原告主張の事実中、原告及び被告会社三名が、本件物件について原告主張の通りそれぞれ仮登記をしていることは認めるが、その余の事実はすべてこれを争う。

二、原告は、既に同三九年一〇月二六日、本件物件につき、前記法務局出張所同日受付第三一〇〇〇号をもって、原告主張の仮登記と関係のない別個の代物弁済契約(甲第三号証)に基づき、所有権移転登記を受けており、従って、自己の所有名義となっている物件につき更に所有権移転登記手続を求めることは許されない。

又、原告が右所有権移転登記を完了したことにより、既に、原告の被告杉浦に対する債権は消滅しているのみならず、原告において仮登記による権利を放棄したとみなされるから、いずれにしても原告の本訴請求は失当である。

三、被告会社三名が、原告を債務者として、原告の本件物件に対する処分を禁止する旨の仮処分を得たことは、これを認める。」

と述べ(た。)≪証拠省略≫

被告杉浦は、「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、答弁として、「原告主張の事実は、代物弁済予約についての特約の点を除き、すべてこれを認める。」と述べた。

理由

(被告杉浦に対する請求について)

原告主張の事実は、代物弁済予約中の特約部分を除き、すべて当事者間に争いがなく、右除外部分については、≪証拠省略≫によってこれを肯認することができ、右認定を覆えすに足る証拠がない。

そうすると、本件代物弁済予約完結による代物弁済を原因として、同被告に対し、本件仮登記に基づく本件物件の所有権移転本登記手続の履行を求める原告の本訴請求は正当であるから、これを認容すべきである。

(被告会社三名に対する請求について。)

一、原告主張の事実の内、原告及び被告会社三名が、それぞれ原告主張の通り本件物件につき所有権移転請求権保全仮登記をしていることは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、官署作成部分について成立に争いがなく、その余の部分については≪証拠省略≫を考え合わせると、その余の原告主張事実を肯認することができ、右認定を左右するに足る的確な証拠がない。

二、被告会社三名は、原告において、本訴提起前本件物件につき所有移転登記を受けており、登記簿上本件物件の所有名義人となっているから、この点において本訴請求は失当であると主張し、原告が右の通り登記手続を了していることは当事者間に争いがなく、右登記が、本件仮登記に基づくものとしてなされたものでなくこれと無関係のものとしてなされたことは、弁論の全趣旨によって明らかである。

三、ところで、仮登記権利者が、仮登記に基づかないでこれと関係なく別個の所有権移転登記をした場合においても、(1)それが仮登記の原因たる契約――例えば代物弁済予約――と関係のない別個の契約――例えば代物弁済契約――に基づいてなされる場合と、(2)本来、仮登記に基づく本登記をすべきであるのにかかわらず、しかも仮登記権利者もその趣旨で本登記をする意思であったのにかかわらず、誤って、仮登記と別個に本登記をしたような場合の二つがあると考えられ、(1)の場合には、仮登記権利者において、仮登記による順位保全等の効力を放棄したものと認むべく、従って、爾後仮登記に基づく本登記を請求することができないというべきであるけれども、(2)の場合には、不動産登記法第一四六条、第六七条による本登記の抹消、仮登記抹消の回復登記手続をした上(右本登記後新たに利害関係人が生じたときは、その者の承諾書を添え、若しくは、これに対抗し得る裁判の謄本を添えることを要する)、改めて仮登記に基づく本登記手続をすることができ、登記義務者及び利害関係人がこれに応じないときは、前者に対しては仮登記に基づく本登記手続を、後者に対しては本登記をすることについて承諾を求める訴訟を提起することができると解すべきである。そして、右本登記の抹消及び仮登記抹消の回復登記手続が、その後なされた利害関係人からの仮処分によって妨げられているような特別の事情があるときにおいては、右抹消回復登記手続をしないでも、仮登記に基づく本登記手続ないしこれについての利害関係人の承諾を求める訴を提起し得べく、裁判所も右抹消、回復登記がなされた場合と同視して仮登記に基づく本登記手続ないしこれについての利害関係人の承諾を命じ得ると解すべきである(尤も、このような判決がなされても、これに基づく登記が実現されるのは、仮処分が取り消され、若しくは、その効力を失い、前示抹消、回復登記手続がなされた後であることはいうまでもない。)

四、これを本件について考えてみるに、≪証拠省略≫を考え合わせると、原告が既に受けている所有権移転登記は、本件仮登記に基づく本登記としてなすべきであったところ、原告と、右登記手続の依頼を受けた訴外中野耕一との間に意思の疏通を欠いたために、仮登記と関係のないものとして本登記手続がなされたこと(この認定に反する証人中野の証言の一部は信を措き難い)、原告が本件本登記の抹消登記手続の申請をしたところ、本訴提起後被告会社等が原告を債務者として発令を受けた処分禁止の仮処分が存することを理由に、右申請が却下されたこと、右本登記をした後、新たに本件物件について利害関係人が生じていないことが、それぞれ認められるところである(右各認定に反する証拠がない。)から、現在本件物件について登記簿上の所有名義人であるにかかわらず、原告が、本件仮登記に基づく本登記手続を被告杉浦に対し求めるとともに、被告会社三名に対し、右本登記手続をすることについて同意を求めることが許されるといわねばならないことは、前示理由により明らかであるから、被告会社三名に対し、これが同意を求める原告の本訴請求も(その余の点について判断するまでもなく)又正当として認容さるべきである。

(結論)

以上の理由により、原告の本訴請求を全部正当として認容し、民事訴訟法第八九条を適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 下出義明)

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com