大判例

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大阪地方裁判所 昭和41年(む)212号 決定

被告人 田平十四郎

決  定 〈被告人氏名略〉

右の者に対する当庁裁判官渡辺一弘のした保釈却下の裁判に対し、弁護人山本敏雄から準抗告の申立があつたので当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件準抗告はこれを棄却する。

理由

一  刑事訴訟法八九条三号該当の有無について

申立人は、本件傷害等の公訴事実が刑事訴訟法八九条三号にいわゆる「常習として」なされたものにあたると認めた原裁判には、その前提事実及び同条項の適用を誤つた違法があると主張し、その理由として、本件傷害等が常習としてなされたと認めうるためには、単に同種前科が若干存在するだけでは足りないと主張する。

即ち、「常習」であるためには、(1) 本人の生い立ち、経歴、性行等の複合から、同種の犯罪を容易に犯しうる一つの犯罪者的傾向が人格の重要な素成部分として融合、構成され(主観的メルクマール)、かつ、(2) そのような犯罪性向の具現として、現実に数多の同種犯罪が敢行され(客観的メルクマール)ていることが必要であり、また、「常習性」ありと認められるためには常習窃盗における「盗癖」といつたような「性癖」ともいうべき犯罪者傾向が形成されていなければならないが、傷害罪の場合、そういつた「性癖」が形成されていることは稀であり、本件の場合も、右のような意味での常習性を認めうるだけの資料がなく、さらに、検察官が本件公訴事実について常習傷害等でなく、単純傷害罪等として起訴した点からも「常習性」のないことが窺われると主張する。

なるほど申立人のいうごとく、二、三同種前科が存在することから直ちに「常習性」を認め、刑事訴訟法八九条三号に該当すると判断することが当をえないことはいうまでもない。同条項にいわゆる「常習として」行われたといえるためには、当該犯罪について、犯罪の性質、態様及び犯人の環境、生活態度等から、その犯罪を反覆する習性が客観的に認められる場合であることが必要であり、そのためには、通常は当該犯罪を数多反覆している場合が多いであろう。しかし、右の「常習性」を認定するためには、必ずしも同種犯罪が繰返し行われていることが必要なわけではなく、上記の犯罪の性質、態様及び犯人の環境、生活態度等から当該犯罪反覆の習性が認められるならば、仮に初回の犯行であつても差支えないわけである。

翻つて、本件傷害等の事実について考察するに、一件記録によると、被告人は、同種前科として、昭和三八年一二月一一日から昭和三九年一二月二二日の間に三回にわたつて当時犯した暴行罪または傷害罪により罰金五、〇〇〇円ないし一〇、〇〇〇円に処せられており(いずれも確定)、その犯行日時において近接し、かつ、いずれも飲酒の上、ささいな事実に因縁をつけて暴力を振い、傷害を与えているのであり、犯罪の性質、態様及び被告人の環境、生活態度等において本件犯行もこれらの前科各事実と軌を一にしていると見うるのであつて、右事実から被告人には当該犯行を反覆する習性が客観的に認められると見るのが相当であり、また、検察官が本件傷害等を「常習傷害」等として起訴しなかつたことは、原裁判が刑事訴訟法八九条三号にいわゆる常習性の認定をする妨げとなるものではない。

よつて、この点に関する原裁判の認定には違法はなく、刑事訴訟法八九条三号に該当しないとする申立人の主張は採用することができない。

二  刑事訴訟法八九条四号該当の有無について

次に申立人は、本件公訴各事実が、刑事訴訟法八九条四号にも該当しないと主張し、その理由として、公訴事実は、いずれも同一日時に、同一場所で行われたもので、目撃者も多く、被害者も複数であり、供述調書も多数作成され、また、傷害という過去の事実自体一つの罪証であつて隠滅できるものでないとし、仮に以上の点はさて措くとしても、被告人が罪証隠滅を図りうるとすれば、同法八九条五号のような方法しかないが、被告人は、妻と勤務先の寮に居住し、まだ二二才の若年者であつて、以上の諸点と、捜査もすでに結了している事情とを勘案すれば、被告人が右のような方法で罪証隠滅を図りえないことが明らかであり、かつ、同法八九条四号にいわゆる「相当の理由」とは「相当高度の蓋然性」をいうのであつて、単なる想像、推測では足りないから、同条項に該当しないと主張する。

なるほど申立人が主張するように、捜査は一応完了しているが、未だ第一回公判期日前の状態にあり、しかも、以下にみるような本件犯行の態様及び犯行後被告人がとつた行動に照らすと、申立人のいうごとく目撃者が多数存在し、関係者の書証も多数作成されているとしても、公判審理の状況如何によつては、被告人に罪証隠滅のおそれがあるといわなければならない。即ち、一件記録を精査すると被告人は酔余ささいなことに因縁をつけて暴行、傷害さらに庖丁をもつて脅迫をなした経緯や、飲食代金のかたに預けた背広上衣を取り戻そうとした態度、さらに後刻、自己の行為は棚に上げて、自分の負うた傷に対する慰藉料を被害者側に電話で請求している事情等を総合して判断すると、被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当の理由が原裁判当時なかつたと考えることは妥当ではなく、原裁判の右の点についての判断を単なる想像、推測に基づくものであるとの申立人の主張は採ることができない。

三  職権保釈の是非について

申立人はさらに、仮に、本件事案が権利保釈の例外事由に該当するとしても、なお職権保釈の余地があると主張し、加えて、近時当庁令状部において、訴訟の促進を図り、かつ、否認事件を減少させるため保釈の許可を絞る運用をするとの申合せがなされているかのごとく主張している。しかし、「申合せ云々」の主張は何らの根拠に基かない想像、推測によるものであつて、その採ることのできないのはいうまでもなく、また刑事訴訟法八九条三号のみに該当する場合はともかく、同条四号にも該当する本事案においては、保釈を相当とすべき格別の理由を見出しがたい。従つて、この点についての申立人の主張も採用の限りではない。

四  結論

以上の次第であつて、本件保釈請求を却下した原裁判には申立人の主張するような違法、不当はなく、その主張はいずれもこれを採用することができないから、本件準抗告は理由なしとして棄却することとし、刑事訴訟法四三二条、四二六条一項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 古川実 和田功 吉田昭)

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