大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

大阪地方裁判所 昭和41年(わ)4562号 判決

本店

大阪市西成区津守町東七丁目一九五番地

被告会社名

株式会社津守自動車教習所

右代表者代表取締役

中谷春雄

本籍

大東市大字吉原九四

住居

大阪市住吉区帝塚山西三丁目七六番地

会社役員

中谷春雄

昭和六年八月二五日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官緒方政昭出席のうえ審理をとげ、つぎのとおり判決する。

主文

被告人株式会社津守自動車教習所を罰金四〇〇万円に処する。

被告人中谷春雄を懲役八月に処する。

この裁判確定の日から一年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社津守自動車教習所は、肩書地に本店を置き大阪府公安委員会指定の自動車教習所を営むものであるが、右会社の代表取締役である被告人中谷春雄は右会社の業務に関し法人税を免れようと企て、

第一、昭和三七年九月一日から同三八年八月三一日までの事業年度において、所得金額が一〇、〇二一、三三三円、これに対する法人税額が三、七〇八、〇九〇円であるのに拘らず、公表経理上売上収入金の一部を除外する不正行為により、右所得金額の全額を秘匿した上、昭和三八年一〇月三〇日、大阪市西成区西成税務署において、同署長に対し、右事業年度分の所得金額が零円で納付すべき法人税額は無い旨虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて同年度分の法人税三、七〇八、〇九〇円を免れ、

第二、昭和三八年九月一日から同三九年八月三一日までの事業年度において、所得金額が一四、九七八、三五六円、これに対する法人税額が五、五四一、五四〇円であるのに拘らず、前同様の不正行為により、右所得金額中一四、六五二、八八八円を秘匿した上、昭和三九年一〇月三一日前記税務署において、同署長に対し、右事業年度の所得金額が三二五、四六八円、これに対する法人税額が一〇七、一七〇円である旨過少に虚偽記載した法人税確定申告書を提出し、もつて同年度分の法人税五、四三四、三七〇円を免れ、

第三、昭和三九年九月一日から同四〇年八月三一日までの事業年度において、所得金額が一八、〇九一、七〇三円、これに対する法人税額が六、五〇二、五七〇円であるのに拘らず、前同様の不正行為により、右所得金額中一六、四〇六、六四九円を秘匿した上、昭和四〇年一一月一日、前記税務署において、同署長に対し、右事業年度分の所得金額が一、六八五、〇五四円、これに対する法人税額が五一〇、九九〇円である旨過少に虚偽記載した法人税確定申告書を提出し、もつて同年度分の法人税五、九九一、五八〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき、

一、会社登記簿謄本二通

一、被告人の大蔵事務官に対する供述調書三通および検察官に対する昭和四一年一〇月一三日付、同月一七日付各供述調書ならびに第一四回公判調書中の供述部分

一、中谷芳雄の大蔵事務官に対する供述調書三通および検察官に対する供述調書三通

一、梅沢宏の大蔵事務官に対する供述調書および検察官に対する昭和四一年一〇月一四日付、同月一九日付供述調書

一、第九回公判調書中の証人小林健次の供述部分

一、第一〇回公判調書中の証人大内薫、同中川毅の各供述部分

一、昭和四四年一月三一日付検察官、弁護人の合意書面

判示第一ないし第三の事実につき、

一、記録に編綴の順に、順次法人税確定申告書証明書

判示第一事実につき、

一、押収(昭和四二年押第七二九号符号五)にかかる総勘定元帳一冊

一、押収(同符号六)にかかる売上日記帳一綴

一、押収(同符号一一)にかかる入所申込書綴三六綴

一、押収(同符号一四)にかかる入金記録ノート一冊

一、押収(同符号一六)にかかる配車表二綴

判示第二事実につき、

一、押収(同符号三)にかかる元帳一冊

一、押収(同符号四)にかかる売上日記帳一綴

一、押収(同符号九、一〇)にかかる入所申込書綴八八綴

一、押収(同符号一二)にかかる入金記録ノート一冊

一、押収(同符号一四)にかかる配車表二綴

判示第三事実につき、

一、押収(同符号一)にかかる元帳一冊

一、押収(同符号二)にかかる売上日記帳一綴

一、押収(同符号一二)にかかる入金記録ノート一冊

一、押収(同符号一三)にかかる領収証控六冊

一、押収(同符号八ないし一〇)にかかる入所申込書綴一三二綴

一、押収(同符号一四)にかかる配車表二綴

一、銀行預金調査書類

一、第一二回公判調書中の証人梅沢宏の供述部分

ちなみに、以上各証拠によつて認定した各事業年度の犯則損益計算書等は別紙のとおりである。

(法令の適用)

被告人株式会社津守自動車教習所の判示第一、第二の所為はそれぞれ法人税法(昭和四〇年法律三四号)附則一九条により、改正前の法人税法(昭和二三年法律二八号)四八条一項、五一条一項に、判示第三の所為は法人税法(前者)一五九条一項、一六四条一項に該当するところ、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算した金額の範囲内で同被告人を罰金四〇〇万円に処し、被告人中谷春雄の判示第一、第二の所為はそれぞれ法人税法(昭和四〇年法律三四号)附則一九条により改正前の法人税法(昭和二二年法律二八号)四八条一項に、判示第三の所為は法人税法(前者)一五九条一項に該当するので所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文、一〇条により最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で被告人を懲役八月に処し、情状に照らし同法二五条一項により本裁判確定の日から一年間右刑の執行を猶予することとする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 池田良兼)

脱税額計算書

37,9.1

38.8.31

〈省略〉

税額の計算

〈省略〉

脱税額計算書

38.9.1

39.8.1

〈省略〉

税額の計算

〈省略〉

脱税額計算書

39.9.1

40.8.31

〈省略〉

税額の計算

〈省略〉

犯則損益計算書

〈省略〉

右は謄本である。

昭和四六年一〇月一一日

同庁 裁判所書記官 黒井威雄

昭和四六年(う)第一三三〇号

控訴趣意書

法人税法違反 株式会社 津守自動車教習所

同 中谷春雄

右両名に対する頭書被告事件につき昭和四六年九月二〇日大阪地方裁判所が言い渡した判決に対し、控訴を申し立てた理由は左記のとおりである。

昭和四六年一二月二三日

弁護人弁護士 大槻竜馬

大阪高等裁判所第二刑事部 御中

第一点 原判決は判決に影響を及ぼすべき事実の誤認がある。

(刑事訴訟法三八二条)

一、原判決は罪となるべき事実として

被告人株式会社津守自動車教習所は、肩書地に本店を置き大阪府公安委員会指定の自動車教習所を営むものであるが、右会社の代表取締役である被告人中谷春雄は右会社の業務に関し法人税を免れようと企て

第一、昭和三七年九月一日から同三八年八月三一日までの事業年度において、所得金額が一〇、〇二一、三三三円、これに対する法人税額が三、七〇八、〇九〇円であるのに拘らず、公表経理上売上収入金の一部を除外する不正行為により、右所得金額の全額を秘匿した上、昭和三八年一〇月三〇日大阪市西成区西成税務署において、同署長に対し、右事業年度分の所得金額が零円で納付すべき法人税額は無い旨虚偽の法人税確定申告書を提出しもつて同年度分の法人税三、七〇八、〇九〇円を免れ、

第二、昭和三八年九月一日から同三九年八月三一日までの事業年度において、所得金額が一四、九七八、三五六円、これに対する法人税額が五、五四一、五四〇円であるのに拘らず、前同様の不正行為により、右所得金額中一四、六五二、八八八円を秘匿した上、昭和三九年一〇月三一日前記税務署において同署長に対し、右事業年度の所得金額が三二五、四六八円、これに対する法人税額が一〇七、一七〇円である旨過少に虚偽記載した法人税確定申告書を提出しもつて同年度分の法人税五、四三四、三七〇円を免れ、

第三、昭和三九年九月一日から同四〇年八月三一日までの事業年度において、所得金額が一八、〇九一、七〇三円、これに対する法人税額が六、五〇二、五七〇円であるのに拘らず、前同様の不正行為により右所得金額中一六、四〇六、六四九円を秘匿した上、昭和四〇年一一月一日前記税務署において同署長に対し、右事業年度分の所得金額が一、六八五、〇五四円、これに対する法人税額が五一〇、九九〇円である旨過少に虚偽記載した法人税確定申告書を提出し、もつて同年度分の法人税五、九九一、五八〇円を免れたものである。

との事実を認定し、

右認定の証拠として、

判示全事実につき、

一、会社登記簿謄本二通

一、被告人の大蔵事務官に対する供述調書三通および検察官に対する昭和四一年一〇月一三日付、同月一七日付各供述調書ならびに第一四回公判調書中の供述部分(※供述調書ではなくて質問てん末書の誤でないかと思われる)

一、中谷芳雄の大蔵事務官に対する供述調書三通および検察官に対する供述調書三通(※供述調書ではなくて質問てん末書の誤でないかと思われる。)

一、梅沢宏の大蔵事務官に対する供述調書および検察官に対する昭和四一年一〇月一四日付、同月一九日付供述調書(※供述調書ではなくて質問てん末書の誤でないかと思われる。)

一、第九回公判調書中の証人小林健次の供述部分

一、第一〇回公判調書中の証人大内薫、同中川毅の各供述部分

一、昭和四四年一月三一日付検察官、弁護人の合意書面

判示第一ないし第三の事実につき、

一、記録に編綴の順に、順次法人税確定申告書証明書

判示第一事実につき、

一、押収(昭和四二年押第七二九号符号五)にかかる総勘定元帳一冊

一、押収(同符号六)にかかる売上日記帳一綴

一、押収(同符号一一)にかかる入所申込書綴三六綴

一、押収(同符号一四)にかかる入金記録ノート一冊(※符号一四ではなくて符号一二の誤ではないかと思われる。)

一、押収(同符号一六)にかかる配車表二綴(※符号一六ではなくて符号一四の誤ではないかと思われる。)

判示第二事実につき、

一、押収(同符号三)にかかる元帳一冊

一、押収(同符号四)にかかる売上日記帳一綴

一、押収(同符号九、一〇)にかかる入所申込書綴八八綴

一、押収(同符号一二)にかかる入金記録ノート一冊

一、押収(同符号一四)にかかる配車表二綴

判示第三事実につき、

一、押収(同符号一)にかかる元帳一冊

一、押収(同符号二)にかかる売上日記帳一綴

一、押収(同符号一二)にかかる入金記録ノート一冊

一、押収(同符号一三)にかかる領収証控六冊

一、押収(同符号八ないし一〇)にかかる入所申込書綴一三二綴

一、押収(同符号一四)にかかる配車表二綴

一、銀行預金調査書類

一、第一二回公判調書中の証人梅沢宏の供述部分

を掲げた上、該当法条を適用して被告人株式会社津守自動車教習所を罰金四〇〇万円に、被告人中谷春雄を懲役八月(一年間執行猶予)に処した。

しかしながら原判決は経験法則を無視し、証拠の価値判断を誤り、尽くすべき審理を尽くさず、もつて事実を誤認したものである。

以下各勘定科目に従つてその理由を説明する。

二、(一) 検察官の主張と被告側の主張との間において金額的に差があるのは売上高及び交際接待費である。

(1) 売上高に関する検察官の主張と被告側の主張を対照すると次のとおりである。

〈省略〉

右によつて明らかなように本科生に関する売上除外額については訴訟過程において迂余曲折があり被告側には若干不満もあつたが、国税査察官の調査社撰のため本勘定に計上しているのに売上除外となつていること明白なもの及び検察官から入所者に発せられた照会回答の結果、入所取止め返金分軽免許所有者のため割引した分などいずれもその回答が得られたもののみに限定して合意書面を作成したのである。被告側とすれば右合意書面以外に官公庁関係者、会社幹部の知人等の割引分がなお存在していることの主張を続けたかつたが、その立証のためには長期間を要する見込みであり、検察官は速成科についても後日合意を遂げる意向であつたので訴訟促進に協力する意味もあつて、本科生の売上除外に関する当初の主張を撤回し、合意書面作成に至つた次第である。

その後速成科の売上については昭和四六年三月二四日第一四回公判期日において検察官自身もその主張にかかる除外率に問題があるので主張どおりを固執するものではなく、弁護人との間で合意書面作成の意図のあることを明らかにされ、同年五月一三日大阪地方検察庁において、弁護人との間に合意書面作成のための会合をしたが、その結論に至らず、同月一九日の第一五回公判期日において、検察官は速成科の売上除外について立証のため、証人中谷卓郎を申請したところ、原審はこれを却下した。

速成科の売上除外に関する検察官の主張は国税査察官の調査結果をそのまま主張されたもので原審の審理過程において検察官自身がその不合理に気づき、合意書面作成の必要性を述べられるほど理屈に合わないものである。

即ち国税査察官は、昭和四〇年一月から同年八月までの八ケ月間の速成科の売上除外額に関する正確な資料が入手されたところからこの間における本勘定計上額に対する比率三五一パーセントを算出した上、右比率を関係者の供述により売上除外を始めたと認定される昭和三八年一月から昭和三九年一二月までの間の本勘定計上額にあてはめて売上除外額を推定計算したものである。

ところが原判決が証拠として引用している第九回公判調書中の証人小林健次の供述部分及び弁第一号証(社団法人大阪自動車学校協会作成の年度別運転免許交付状況表)ならびに原審証人中谷卓郎の供述によれば昭和四〇年は、速成科入所生の数が頂点に達した時であつて、売上除外にあたつて終始一定の比率を保つていたことのない限り収入が多く従つて売上除外もなし易い時期の資料が偶々存在したからといつてこの間における右資料により算出した除外率を他の全期間に適用して事実を認定することは真相から遠ざかること甚しいものである。

さらに原判決が認めた推定計算の合理性の有無を検討するために昭和三七年九月から昭和三八年八月までの訴因第一関係に右の三五一パーセントの除外率を適用して計算してみよう。(検察官冒頭陳述書四六頁参照)

〈省略〉

右によれば原判決認定にかかる速成科の総売上は昭和三七年一二月分一九二、〇〇〇円に対し昭和三八年一月分から一躍五二三、八三六円となり、何人が見てもその合理性を疑わざるを得ない。

かりに昭和三七年一二月以前から速成科の売上除外が行なわれていたとすれば必ずしも不合理とはいえないとしても、かように認定すべき証拠がないばかりか、もしその期間中にも売上除外がなされていたとすれば財産増減法によつてこれを把握できる筈であるが、検察官からはその主張も立証もなされていないから、結局前記除外率の全面的適用は到底許されないものといわねばならぬ。

この点に関する被告側の主張は次のとおりである。

〈省略〉

右表における公表金額の上昇傾向、総売上に対する除外率及び前記年度別運転免許交付状況表などを総合して考察すると、被告側の主張は極めて常識に合致するものであつて、原審第一五回公判期日において、検察官申請証人中谷卓郎の取調が却下された際、当然被告側の右主張が採用されるものと考えられたのである。中谷芳雄の質問てん末書(検甲第四号)によれば、社長印等は全部自分が預り金銭の出入等殆ど全部自分に任されていたこと、売上除外は自分が行ない、入金記録ノート(符号第一二号)に公表受入分をA、売上除外分をBとして中谷の丸印が捺印しあるものがそれで、除外金は手元で保管し残りを被告人中谷春雄に手渡していたとなつているが、原審証人中谷卓郎は第八回第九回公判期日において売上除外については中谷芳雄と両名で二交代制で勤務していたので自分も売上除外を行ない、これを被告人中谷春雄に手渡していた旨供述しているばかりではなく、符号第一二号の昭和四〇年一月八日、一月二三日、二月二日、二月九日、二月二六日などの筆蹟は中谷卓郎のものであり一月二五日、二月二七日、二月二八日などの筆蹟は中谷芳雄のものであつて、両者の区別が明白であり、又符号第一三号の領収証控においては、表紙及び扱者欄に捺印のあるものが売上除外分で、捺印のないものが公表受入分であるところ、表紙及び扱者欄に捺印のある領収証即ち売上除外の領収証中に中谷卓郎の筆蹟(例えば昭和四〇年六月八日宮田洋治宛の二五、九五〇円分)があることからも、前記証人中谷卓郎の本科及び速成科に関する売上除外の供述は十分に措信できるものである。

而して中谷芳雄は査察官の質問に対し、売上除外額を正確に算出することは困難であると答えている(検第五号)また速成科の売上除外率が全期間にわたつて公表受入分の三五一パーセントであることや、そのような計算方法をもつて推定されても止むを得ないというようなことはどの関係者の供述からも出てこない。

しかもその推定計算が不合理であることは前述のとおりである。

然るに原判決は速成科の売上除外に対する被告側の主張の当否を判断しないまま、検察官主張どおりの金額を認定しているのであつて、右は経験則に反して、証拠の価値判断をしたため事実を誤認したものである。

この種事件において、被告側が検察官の主張立証とは別の主張立証をなし、裁判所がその証拠調を行ないながら判決においてその当否の判断が示されないのは、極めて不親切なもので、このような裁判に対しては納得することは到底できない。

(2) 簿外の交際接待費に関しては、検察官は三ケ年を通じ月額平均一〇万円年額一二〇万円を主張し、被告側は月額平均二〇万円、年額二四〇万円を主張していたところ、原判決は検察官主張額の年額一二〇万円だけを認め、被告側の主張はすべて排斥した。

弁護人はこの点について、使途の性格上物証が得られないため、証人大内薫及び被告人中谷春雄の質問によつて立証したわけである。

原判決が証拠として採用している大内薫の供述によれば、仝人は被告会社の顧問として月平均一〇万円を、被告人中谷春雄から簿外において受領し、これを納税協会、防火協会、交通安全協会など被告会社の渉外的な面における交際接待に使用し残額を自己の収入とすることにしており現実にこれら交際接待に使用した額は月約五万円となつていたものであり、(第一一回公判)被告人中谷春雄もこれに符合する供述をしているのである。(第一四回公判)

検察主張額は、被告人中谷春雄の検面調書(昭和四一年一〇月一七日付)を証拠とするものであるが、これは、教務担当者中川毅及び指導の係長に対するもの、従業員に対する冠婚葬祭費、退職金、梅沢、中谷中川、水谷ら四、五名に対する簿外手当として支出したものであると供述しているので、大内薫に対して手渡したものが含まれていないから、弁護人の主張するものはこれと別個のものであることが明らかである。

被告人中谷春雄は、これより前の昭和四一年二月一七日査察官の質問に対し、簿外交際費は月額約一五万円であつたと答えていたが(同日付質問てん末書参照)検察官の捜査段階に至つて、突然梅沢宏、中谷芳雄とともに逮捕され、大阪拘置所に拘禁され、被告会社の事業継続が不可能となつてしまつたため、早期釈放を得たいので適当に検察官の誘導に合わせて前記のように供述を変更するに至つたもので他の証拠との関連を考慮しないで、被告人の自供でありかつ信用性に乏しい前記検面調書のみによつて簿外交際費月額一〇万円と認定した原判決は、明らかに経験則に反しており法律的にも自白のみによつて事実を認定した違法があり、その結果事実を誤認するに至つたものである。

(二) 原審で被告側において検察官の主張とは別個に主張した簿外支出の勘定科目及びその内容は次のとおりである。

〈省略〉

而して右のうち原判決が認容したものは

労務対策費、営業妨害対策費、交通事故補償金

であり、主張を認容しなかつたものは

賞与手当、修理費、寄附金

であるから以下主張が採用されなかつた各勘定科目について順次その不当なることを説明する。

1 簿外の賞与手当の支給については、役員役付者賞与支給明細書記載のとおりであつて、この明細表は、公表支給額及び簿外支給額の内訳と総支給額を記入したものである。

被告人中谷春雄から簿外手当が支給されていたことは、同被告人が検察官の面前で供述しているとおりであるが、その相手方、金額を明確にしていなかつたのは、これらの支給については簿外であるため所得税の源泉徴収手続をしておらず、いわゆる能率増進をはかるための裏給与であるから、その相手方、金額を供述すれば迷惑をかけるばかりでなく、その裏付捜査をされれば、その間自己の身柄拘束が長くなることをおそれたからである。

原審で、被告人中谷春雄のこの点に関する供述がなされた際(第一四回公判)裁判官も検察官も何らの疑念を抱かれた様子もなく、支給の相手方の一人である証人梅沢宏はこれに符合する供述をしているので、弁護人としては、当然その主張を認容されるものと思い、さらにその上、他の多数の相手方まで証人として申請する必要なしと思料し、この点についての補充立証をしなかつたわけであるが、その後裁判官の更迭があり、原判決は結局において右主張を認容しなかつたのである。

原判決は右主張事実を認定し得る証拠があるのにこれを認定せず事実を誤認したものである。

かりに、原審において取調べられた証拠では右認定に不十分なりとすればこの点についての尽くすべき審理を尽くさないで事実誤認に陥つたものというべきである。

2. 簿外の修理費とは、被告会社の経営する自動車教習所の地盤が格別軟弱なため他の教習所に類例を見ないような瀕度において練習コースの修理をしなければならず、その修理のため公表以外に簿外からこれを支出したものを主張するものである。

その修理の内容及び簿外支出の内訳は原審において適法に取調がなされた弁第三号証ないし弁第一〇号証によつて明らかである。

原判決はこの点に関する主張を認めない理由を明らかにしていない。

原判決は、このような修理自体を否定するものであるのか、修理は否定しないで簿外支出を否定するものか、簿外支出の事実は認めるが、経費として認容しないという趣旨なのか、全く不明であるが、これらの一々について考察して、いずれもそれが不当であることを述べることとする。

被告側主張のコースの修理自体が行なわれたこと及びその修理費が簿外で支払われていることは、前記弁第三号証ないし弁第一〇号証、原審証人梅沢宏、同中谷卓郎、同浜田新吾及び被告人中谷春雄の各供述によつて優に認定することができる。

そこで残された問題はかような支出は税法上いわゆる損金として認容さるべき修繕費に属するか、経費として認容されない資本的支出に属するかを判断しなければならない。

原判決がこの点について如何なる判断を示されるか期待していたものであるが何らの判断も示されないままで主張が排斥されているのは甚だ遺憾である。

弁護人は、右支出は当然に損金として認容されるべき修繕費に属するものと主張し、かりにそうでなくて資本的支出とするならば、少くともこれに見合うべき減価償却額は損金となるであろうし、破損した既設のコースの舗装を剥ぎ取つて新しい舗装をした段階では、損金として既設分の除却損を認めるのが税法の立て前であると主張する。

まず弁護人が本件コースの修理費を損金たるいわゆる修繕費に属するものであると主張する根拠はこれを法人税法基本通達に求めることができる。

即ち、法人税法基本通達七-八-三は

地盤沈下した土地について地盛りを行なつた場合には次に掲げる場合を除き、沈下した土地を沈下前の状態に回復する部分に対応する地盛り費用の額は損金の額に算入することができる。

〈1〉 土地の取得後直ちに地盛りを行なつた場合

〈2〉 土地の利用目的の変更その他土地の効用を著しく増加するための地盛りを行なつた場合

〈3〉 地盤沈下により評価損を計上している土地について地盛りを行なつた場合

と規定しており、本件コースの修理費については右基本通達の類推適用があつて当然と考えられ、しかも〈1〉〈2〉〈3〉の除外例には該当しないものといえるので、損金たる修繕費として取扱うのが至当である。

本件以後の事業年度分のコース修理費につき、所轄税務署が修繕費として損金認容をしているのはけだし当然のことである。

かりにもし、修繕費としての取扱が認められないとすれば、亀裂の場合は評価損を計上すべきであり、また破損した既設のコースの舗装を取り除いた場合は、その除却損を計上すべきであつて、原審はこれらの点について尽くすべき審理を尽くさず、もつて事実を誤認したものである。

3.簿外の寄附金

被告会社では、従業員幹部の研修を黄檗山万福寺に依頼して行なつており、そのような関係から、管長晋山式祝、屋根瓦葺替工事、一切経版木蔵新築協賛金、管長自叙伝出版記念印刷費僧堂建築費として同寺に簿外で寄附したものであることは被告人中谷春雄の供述によつて認めることができる。本件の支出を通常事業に直接関係ありとする見解に立つならば、福利厚生費として損金に認むべきであり、そうでないとする見解に立つならば寄附金の損金算入限度額(法人税法施行令七三条一項)において損金として算入さるべきである。

原判決は右支出の事実を認めないという趣旨なのか、右支出の事実は認めるが損金としては認めないという趣旨なのか、全く判示していないが、これは要するに審理不尽による事実誤認というべきである。

三、以上原判決が誤認した各勘定科目に関する事実についてその理由を述べたが、原判決は検察官の損益計算法の立証方式に則り所得額の算定を行なつたもので、検察官が財産増減法による裏付を明らかにしないため損益計算法に誤があつてもこれを検算によつて是正することができない欠陥を内包するものである。

被告人中谷春雄としては殆どの書類を押収されているので貸借対照表を作成することはできないが、原判決の認定するような多額の所得による社内留保は財産増減の上からみて考えられないと言つているので、検察官の手許に貸借対照表があるとすればそこに現われた所得は恐らく被告人主張程度の額のもので、損益計算書との間に相当の不突合が存するものと推測される。

第二点 原判決の刑の量定は重きに失し不当である(刑訴法三八一条)

原判決は検察官の脱漏所得合計四四、八〇五、八七〇円、脱税額合計一六、五三七、〇〇〇円(検察官は合意書面を作成しておきながら訴因変更手続はとつていない)の起訴を脱漏所得合計四一、〇八〇、八七〇円脱税額合計一五、一三四、〇四〇円と認定しながら被告人中谷春雄に対して、同被告人が罰金刑の処断を懇願しているに拘らず検察官の求刑どおりの懲役八月(執行猶予一年)に処した。

右懲役刑は脱税額一五、一三四、〇四〇円程度の規模のほ脱事犯に対しては類例を見ない位重いものであり、又被告会社に対する罰金刑四〇〇万円は脱税額の二六・四パーセントという高率であつて、これまた他に類例を見ない位重いものである。

法人税法違反事件では、これによつて生じた不正所得は法人に帰属し、行為者たる被告人の利益に直接つらなるものではなく、多くの場合、行為者は法人のために不正行為をなすものであるから法人に対しては多少重い罰金刑を科し、行為者たる個人に対しては、前科前歴などがなくて、いわゆる堅実なる企業を経営している場合で、本人が罰金刑を望むならば、これまた罰金刑で処断することは理に叶つた方法であると考える。

一般に中小企業の経営者は、経済的にも思想的にも国家社会における安定勢力を構成するものであつて、真剣な生活態度をもつて事業に生命をかけている人が多いので、これらの層の経済事犯に対する刑罰の適用については再犯のおそれのない限り、大所高所に立つて将来その人をして希望をもつて国家社会に稗益せしめるような配慮を必要とするものと考える。

株式会社水野組に対する法人税法違反被告事件(大阪高等裁判所昭和四二年(う)第三五三号)の検察官控訴趣意書に神戸地方裁判所、大阪地方裁判所、東京地方裁判所における法人税法違反事件量刑比較表が添付されているが、これによれば、東京地方裁判所判決の特徴としては、利益の帰属者たる法人に対する罰金額は他の裁判所の判決に比して重く行為者たる個人に対する処罰は他の裁判所の判決に比して比較的に軽く、かつ、かなり大規模の脱税事件でも罰金刑によつて処断されている例を見受けることができる。

本件の情状については原審弁論要旨三の1.2.3.4.で述べたとおりであつて、被告人中谷春雄を是非とも懲役刑をもつて処断しなければならないという理由はなく、その上、仝被告人は罰金刑で処断されることを懇願しているのであるから、原判決がこれに懲役八月(一年間執行猶予)に処したことは被告会社に罰金四〇〇万円を科したことと共に量刑重きに失するものである。

まして第一点掲記の事実誤認の主張が認容されるときは、それに応じて当然量刑の軽減がなさるべきである。

以上の理由により原判決はこれを破棄した上、さらに審理を尽くすため大阪地方裁判所に差戻すか、若しくは貴裁判所において適正な御自判を頂きたく本件控訴に及んだ次第である。

別紙一覧表第一(神戸地方裁判所言渡し)

法人税法違反事件量刑比較例 (昭39.4以降言渡し分)

〈省略〉

別紙一覧表第二(大阪地方裁判所全言渡し)

自 39.3.1

至 41.10.30

〈省略〉

別紙一覧表第三(東京地方裁判所全言渡し)

法人税法違反事件量刑比較例(昭39.1.1以降受理分)

〈省略〉

犯則損益計算書

〈省略〉

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com