大判例

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大阪地方裁判所 昭和42年(わ)4357号 判決

主文

被告人を罰金三〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一、〇〇〇円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は、全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一、大阪府知事の許可を受けないで、昭和四一年六月ごろから昭和四二年六月ごろまでの間、宅地造成工事規制区域として指定されている大阪府三島郡島本町大字桜井四番地所在の山林のうち、別紙(第一)記載のA、B、Cの各点を順次結んだ範囲内の区域を宅地に造成する工事をした

第二、大阪府知事の免許を受けないで、別表(第二)記載のとおり、昭和四一年四月一三日ごろから昭和四二年六月二〇日ごろまでの間、前後一六回にわたり、大阪府三島郡島本町大字桜井四番地に設けた向陽丘建設事務所外二カ所において、高木嘉幸外一五名に対し、自らが造成した宅地合計約三五一三平方メートルを代金合計約三八、九五八、四〇〇円で売買し、もつて宅地建物取引業を営んだ

ものである。

(証拠の標目)(省略)

(被告人および弁護人の主張についての判断)

(一)  本件の宅地造成にかかる土地の所有者は宗教法人である普泉寺であり、宅地造成の権利主体は普泉寺にして、被告人は普泉寺の住職で責任者であるため、たんに事実行為として宅地造成工事をしたにすぎないとの主張について。

なるほど、判示の大阪府三島郡島本町大字桜井四番地の山林が普泉寺の所有にかかるものであること、判示の別紙(第一)記載のA、B、Cの各点を順次結んだ範囲内の土地(以下たんに「本件土地」という)を除く桜井四番地の山林の一部における宅地造成工事について、普泉寺が造成主として大阪府知事の許可を受けていることも明らかであるが、しかしながら、被告人は普泉寺の代表役員であり、現に宅地造成工事を指図して進めたものは被告人自身であつて、被告人の行為によつて行なわれたものである。被告人の主張するように、宅地造成工事は普泉寺の伽藍再建の資金を調達するためになされたものであるならば、被告人は普泉寺の業務として宅地造成工事を行なつたものであるが、行為者は被告人であり、そして被告人が本件の違反行為をしたものであるから、被告人が刑責を問われるも当然のことである。

(二)  本件土地が宅地造成工事規制区域に指定されたのは昭和三八年四月一一日建設省告示四一八五号によつてであるが、土地の造成工事は昭和三六年一〇月ごろに着手され、規制区域に指定された当時には殆ど工事が完成していたのであるから、宅地造成等規制法の対象とされず、従つて同法違反はないとの主張について。

なるほど、被告人は、昭和三六年一〇月ごろから桜井四番地の山林で土砂の採取をはじめ、いわゆる山が削られていつたこと、被告人が土砂の採取跡を宅地に利用できるようにしたいと考えていたことは認められるが、しかし、右土地が規制区域に指定された当時は、ただある程度山が削られて平面になつている場所があつただけで、宅地造成の設計もなければ、その形態すら出来ていなかつたもので、いわんや、当時、本件土地をふくめて桜井四番地の山林において宅地造成工事が完了していたとは到底認め難い。

(三)  被告人は桜井四番地外五筆の土地における宅地造成工事に関し、昭和四一年四月二二日、大阪府知事の許可を受けているので、本件土地につき無許可で宅地造成工事をしたものではないとの主張について。

なるほど、右日時に大阪府知事からなされている許可書において、宅地の所在および番地が桜井四番地外五筆と、宅地の面積が一一、五七〇平方メートルと記載されていることは明らかである。しかしながら、宅地造成等規制法八条一項にもとづく許可申請には地形図等の図面を添付しなければならず(同法施行規則四条)許可にかかる工事区域の範囲は、ただたんに申請書に記載されている土地の地番によるのではなく、図面によつて表示された区域が許可の対象となるものと解さなければならない。しかるところ、被告人が提出の申請書添付の地形図等の図面に本件土地が含まれていないことは明らかであるから、本件土地は右許可の対象区域になつていなかつたものといわなければならない。現に被告人自らも、許可対象区域の宅地造成工事を進行するうち、本件土地が右許可の対象区域に入つていないことは知つていたけれども、工事の都合上、区域外の本件土地に及んで宅地造成工事を進めざるをえなかつた旨供述しているくらいである。したがつて、本件土地についての宅地造成工事には、大阪府知事の許可はなかつたものである。なお、昭和四五年六月にいたり、本件土地についての宅地造成工事に関し、大阪府知事から工事計画変更の承認がなされていることが認められるけれども、このような手続は、行政上の便宜な取扱によるものであり、これによつて本件土地について、当初に遡つて許可がなされていたとするわけのものではない。

(四)  本件土地について、被告人は砂防法による届出をしているので、もともと宅地造成等規制法に定められた許可を受ける必要はなかつたとの主張について。

本件土地をふくめ周辺の土地が砂防指定地域であつたこと、被告人が砂防法に定められた許可あるいは届出の措置をとつていたことは、これを窺うことができるが、被告人主張のように、砂防法による届出があれば、宅地造成等規制法八条一項にもとづく許可申請の必要がないとの理由はいずこにも見当らず、もともと宅地造成等規制法は、宅地造成に関する工事等について災害の防止のため必要な規制を行なうことを目的とし、砂防法とはその規律の面を異にしているわけであり、たとえ被告人が砂防法に定められた規制を遵守していたにせよ、宅地造成等規制法にもとづく許可の必要を免れしめるものではない。

(五)  造成した宅地の売買は、普泉寺所有の余剰の土地を宅地に改造して売買処分したものであるから、土地所有者が資金調達その他の必要上土地を他にいわゆる切売すると同様のことであつて、これをもつて宅地売買の取引業を営業として行なつたものということはできないとの主張について。

宅地建物取引業法にいう宅地建物取引業とは、利益を得る目的で反覆継続して宅地若しくは建物の売買若しくは交換又は宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の代理若しくは媒介をする行為をすれば足りるのであつて、自己所有の宅地建物であつても、利益を得る目的でこれを反覆継続して多数人に売買する場合には宅地建物取引業を営んだものと解するを相当とする。本件において、被告人は判示のように造成した宅地を利益を得て多数人に反覆継続して売買しているものであるから、その目的が被告人の主張のとおりであつたとしても、宅地建物取引業を営んだものといわなければならない。

(法令の適用)

判示第一の所為につき、宅地造成等規制法二四条三号(八条一項の規定に違反)(罰金刑選択)

同第二の所為につき、一括して宅地建物取引業法二四条二号(一二条一項の規定に違反)(罰金刑選択)

併合罪加重(以上の各罪につき)、刑法四五条前段、四八条二項

罰金不完納の場合の労役場留置につき、同法一八条

訴訟費用の負担につき、刑訴法一八一条一項本文

(量刑の事情)

本件土地についての宅地造成工事は、他の土地についてなされた知事の許可の範囲を越えてなされたものであつて、もともと全体の宅地造成工事について無許可であつたわけでないこと、宅地建物取引業の違反についても、とくに実害が発生している形跡もなく、もともと宅地造成ならび造成宅地の売買をはじめるについての動機には考慮に値いするものがあること、宅地造成工事の杜撰さから他に被害を及ぼしたことも窺えるが、その後回復に努めていること、被告人には他に格別の前科歴もないこと等諸般の情状に鑑みるならば、被告人に対し主文の量刑をもつて相当と考える。

よつて主文のとおり判決する。

別紙(第一)

A点  大阪府三島郡島本町大字桜井四番地の宅地造成区域西端におけるコンクリート擁壁角(神内一一号電柱の北西一一、三メートルの地点)。

B点  右造成区域北西地点にある貯水槽南東角の部分から北東へ九・八メートル延長した線と、同区域北西部分における桜井四番地の境界線上のコンクリート擁壁とが交わる地点。

C点  右造成区域の中央やや西寄りに存するコンクリート擁壁の南端から北西へ二一・六メートル延長した線と、右擁壁西側に存する二段目の宅地障壁の南面西端から南東へ一九メートル延長した線とが交わる地点

別表(第二)

〈省略〉

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