大判例

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大阪地方裁判所 昭和43年(ワ)7477号 判決

原告

岸田三郎

ほか一名

被告

鳴門水道工業株式会社

ほか三名

主文

一、被告伊村重美は

(1)  原告岸田三郎に対し金一、〇二九、九一六円および内金九二九、九一六円に対する、

(2)  原告岸田敏子に対し金一一二、六〇〇円およびこれに対する、

昭和四一年一〇月六日から右各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告らの被告伊村に対するその余の請求および被告鳴門水道工業株式会社、被告新藤虎夫、被告武田ヨシミに対する各請求はいずれも棄却する。

三、訴訟費用は原告らと被告伊村との間に生じたものはこれを二分し、その一を原告の、その余を被告伊村の負担とし、原告らとその他の被告らとの間に生じたものは原告らの負担とする。

四、この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告ら

被告らは各自、

(1)  原告三郎に対し金二、〇五五、五〇〇円および弁護士費用を除く内金一、八〇五、五〇〇円に対する、

(2)  原告敏子に対し金二六二、五〇〇円およびこれに対する、いずれも昭和四一年一〇月六日から右完済まで年五分の割合による金員(民法所定の遅延損害金)を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言。

二、被告ら

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決。

第二、当事者の主張

一、原告ら、請求原因

(一)  本件事故の発生

日時 昭和四一年一〇月六日午後七時五〇分ごろ

場所 大阪市東住吉区平野元町六丁目一八番地先路上

事故車 普通乗用自動車(大五ひ、八五七三号)

運転者 被告伊村

態様 原告三郎が小型貨物自動車(以下原告車という)に原告敏子同乗させて運転して西から東へ進行し、赤信号で停止中、事故車が追突した。

受傷 原告三郎は頸椎むちうち損傷、原告敏子は外傷性頸椎椎間板症の傷害をうけた。

(二)  帰責事由

1 被告会社は事故車を所有し管理しているもので、これを運行に供していた。被告伊村は被告会社の従業員の承諾をえて事故車を運転していたものである。

2 被告新藤は事故車の登録名義人であり、自賠責保険契約者であり、被告会社と共同の運行供用者である。

3 被告武田は事故車の所有者であつて、事故当時夫であつた訴外新藤栄、息子の新藤寬との家族で太子ドライクリーニング営業のため、事故車を使用していた。

右営業の担当は栄が外交と経理を、被告武田は洗濯物の受渡と洗濯を、寬が両者の手伝をしていて、事故車は主として栄が運転していたが、被告武田もときどき同乗し、運行による利益は営業による収益という形で被告武田も享受していた。しかして本件事故は、新藤寬が被告伊村を同乗させて運転していき、途中運転を被告伊村と交替してから惹起された。

4 被告伊村は前方不注視、ブレーキ故障にかかわらず事故車を運転した過失がある。

5 被告伊村は民法七〇九条により、その余の被告らは自賠法三条により本件事故より生じた原告らの損害を賠償する責任がある。

(三)  損害

原告三郎関係

41、10、8~43、7、29 新大阪病院へ通院(一七八回)当初レントゲン検査により頸椎異常があり、脳波検査でも異常が認められていて、頸部の疼痛、平衡感覚の障害があり、診療最終時には後遺症として大後頭神経圧痛、筋緊張の他覚的所見があつた。

1 治療費 三三四、六三一円

2 通院交通費 八、九〇〇円

(バス代往復五〇円×一七八日)

3 代りの雇人に対する支払 六七二、〇〇〇円

原告三郎は旋盤加工業を営み、従来三人の職工と共に旋盤等を操作していたが、本件事故後それが不能となり、職工一名を補充雇い入れた。同人は昭和四一年一〇月二〇日から同四三年三月五日まで勤務し、毎月四二、〇〇〇円の支払を余儀なくされた。

4 慰謝料 一四〇万円

前記治療状況、後遺症により仕事上多大の不便を被つた。

5 弁護士費用 二五万円

(着手金五万円、報酬二〇万円)

原告敏子関係

41、10、11~10、14、新大阪病院 通院

42、2、26~5、17平井病院 通院五一回

頭痛、握力低下があり、ことに第四、五頸椎に病的前屈が残り、他覚的症状が認められている。

1 治療費 三六、六九五円

2 慰謝料 四五万円

前記治療状況や後遺症により家事にも不便を感じ、手が頭まで上らず結髪が難かしい。

(四)  損益相殺

原告三郎は自賠責保険金五七万円、被告伊村から金四万円を、原告敏子は同保険金二二三、九九五円をそれぞれ受領している。

(五)  よつて原告らは、被告らに対し第一の一記載のとおり支払を求める。

二、被告会社および被告新藤の答弁

(一)  本件事故の発生は不知。

帰責事由1、2は否認。ただし、事故車が被告新藤の登録名義であつたことは認める。

損害はすべて争う。

(二)  被告会社は昭和三八年二月一二日事故車を購入したが、当時経理上の都合で同社代表者の実兄である被告新藤名義として登録しておいた。その後同社において三年半使用して、昭和四一年八月一二日新藤芳美こと被告武田から求められて、同人所有の乗用車(泉五せ、八四三五号)と交換し、差金一四三、九一二円を同人に支払つた。従つて被告会社および被告新藤は事故車の運行者ではない。

三、被告武田

(一)  本件事故の発生は不知

帰責事由3は否認

損害はすべて争う。

(二)  被告武田の前夫訴外新藤栄は数年前から他の女性と情交関係ができ、被告武田がこのことを昭和四〇年九月一一日に知り、栄に対して離婚を要求し、別居するなど、夫婦間はきわめて不和で、同居に耐えられない状態であつた。その後離婚調停の申立をするなどの経緯があり、昭和四三年四月一三日に離婚届出をした。このように昭和四〇年ごろから、栄と営業上や家事について相談し合う間柄でなくて、事故車のことについては一切関知しておらない。

四、被告伊村の答弁

(一)  本件事故の発生は受傷を不知のほか認める。

帰責事由4は否認する。本件事故は訴外新藤寬運転の事故車に被告伊村が同乗し、途中運転を交替したが、ブレーキ故障のため生じた事故で同人に責任はない。

損害はすべて争う。

損益相殺の金額中、被告伊村が支払つた金額は四二、一七五円である。

(二)  損害について反論

原告三郎は橿原市の自宅から大阪市生野区の自己経営の鉄工所まで継続出勤して働き、そのかたわら新大阪病院へ通院していたもので、職工一人を雇い入れて給与を支給したのは事故と直接の因果関係はない。またその症状も一年程度で固定し、その余は気力の問題であることを考慮しなければならない。

第三、証拠〔略〕

理由

一、本件事故の発生

原告らと被告伊村との間には受傷の点を除き争いがない。〔証拠略〕によると、昭和四一年一〇月六日午後七時五〇分ごろ、大阪市東住吉区平野元町六丁目一八番地先路上において、原告三郎が原告車の助手席に妻の原告敏子を同乗させて運転し、西から東へ進行し、交差点手前で三、四台の先行車に続いて信号まちのため停止したところ、被告伊村運転の事故車が追突し、そのため原告三郎は頸椎むちうち損傷、原告敏子は外傷性頸椎椎間板症の傷害をうけたことが認められる。これに反する証拠はない。

二、被告伊村の責任

〔証拠略〕によると、本件事故現場は国道二五号線上の平野元町六丁目交差点西端から約一五メートル西側であり、車道幅一五メートル、両側に一・七メートルの歩道があり、見とおしは良好であること、被告伊村は、西から東へ時速約四〇キロメートルで事故車を進行させ、先行する原告車との車間距離を一〇ないし一五メートルとつていて、やがて同車が制動したのを九メートル余後方で発見し、ブレーキペタルをふんだが、ききが悪く、二度ふみこんだ際にはすでに間にあわず、停止した原告車に追突するに至つたこと、被告伊村は当時高校三年で近所の友人新藤寛から事故車を借りて、事故前まで一〇回位運転したことがあり、ブレーキのききが少し悪く、ダブルでふみこめば十分制動できることを知つており、事故後の制動装置の検査でも、ダブルでブレーキペダルをふめば十分制動効果があつたことがそれぞれ認められる。この認定に反する証拠はない。右事実によると、被告伊村は事故車の制動装置が若干悪いことを十分知つていたのであるから、先行の原告車の動静に機敏に対処してブレーキ操作しなければならないのに、操作の不十分なため制動できず本件事故を惹起した。従つて同被告に過失があることは明らかで、民法七〇九条により本件事故から生じた原告らの後記損害を賠償する責任がある。

三、被告会社、被告新藤の責任について

事故車が被告新藤の登録名義であることは、同被告の自認するところである。〔証拠略〕によると、昭和三七年一〇月ごろ被告会社がニユー関西いすずモータース株式会社から事故車を月賦で購入し、その際使用者名義を被告会社代表者の実兄である被告新藤にしておき、自賠責保険契約者も同被告の名義でしたこと、その後月賦が完済してから、昭和三九年一〇月に被告会社の所有名義としたが、同保険契約は依然として被告新藤名義でなされていたこと、昭和四一年八月一二日被告会社代表者の兄である訴外新藤栄からの申出により、同人所有の乗用車(ブルーバード)と事故車とを交換することにして、右乗用車の月賦残代金から、被告会社が新藤栄に一四三、九一二円を支払つたこと、その際乗用車の車検証では新藤芳美こと被告武田名義になつていたので、領収書は同人の作成名義としたこと、本件事故のころは新藤栄が事故車を自己の営むクリーニング店の営業用としていつも運転していたことがそれぞれ認められる。してみると事故車の運行支配は交換のときから被告会社を離脱し、訴外新藤栄にあつたものというべく、また被告新藤は栄に名義貸しにすぎず、いずれも事故車の保有者でなく、また他に運行供用者たる地位にあつたと認めうる証拠がないので、同被告らはいずれも自賠法三条による運行者責任はないといわざるをえない。

四、被告武田の責任について

被告武田が事故車の運行供用者であることを認めうる証拠がない。ことに〔証拠略〕によると、被告武田の夫である新藤栄は被告武田や息子の新藤寛に手伝わせクリーニング店を営み、栄は専ら事故車を使用して外交、集金を、被告武田や寛は洗濯、アイロンなどを分担していたこと、栄は他の女性関係で被告武田との折合が悪くなり、特に昭和四〇年九月ごろから風波が絶えず、本件事故後に別居し、遂に離婚するに至つたこと、事故車と交換した乗用車(ブルーバード)は被告武田名義となつていたが、これを被告会社へ引渡し、差金を受領し事情について被告武田は栄から何らの相談もうけなかつたことが認められ、被告武田は新藤栄の営むクリーニング店を手伝つていたというにとどまり、事故車を所有し、これを使用していた関係にあるわけでない。被告武田が右営業からの利益を享受していたことは推認できるが、これが直ちに事故車の運行供用者に結びつくものではない。

もしも被告武田が営業主またはこれと同視でき営業全般について責任を持ちうる地位にあれば格別、単に妻として夫の仕事を手伝つている場合にまで、運行支配があるとは到底いえず、これを認めるとすれば夫が営業主、妻がこれを補助している場合、営業用自動車の運行者は共同体的に双方にあるといわざるをえないであろう。従つて被告武田は事故車の運行者としての責任はない。

五、損害

(原告三郎関係)

原告三郎は昭和四一年一〇月八日から同四三年七月二九日まで大阪市生野区新大阪病院へ一七八回通院した。初診時頸部痛、吐き気を訴え、レントゲン検査では第四、五頸椎間に角状こう彎の異常が認められた。六カ月後には漸次軽快しつつもバレーリユウ症候群型の自律神経失調を伴う症状となり、頸部痛、平衡機能障害、全身倦怠感、頭重感が続いた。

この症状は普通一年経過すると、治療しても効果なく、症状の固定する段階となるが、原告三郎の場合も同様で、最終診断時には大後頭神経痛が他覚的に圧痛等により認められ、その他自覚的に頸部痛、全身倦怠感が後遺症として残つていた。事故後一年間程度は事務的なことは別にして満足に稼働することは無理な状態であつた。〔証拠略〕

1  治療費 三三四、六四一円〔証拠略〕

2  通院交通費 八、九〇〇円

大阪市生野区猪飼野東一の一五に原告三郎の経営する鉄工場があり、同所から新大阪病院までバス片道三〇円であり、通院回数に応じた交通費は一〇、六八〇円であるから、請求金額どおり認める。〔証拠略〕

3  代替の雇人に対する支払 五〇四、〇〇〇円

原告三郎は旋盤を使つて切削加工をしていたが、本件事故後には工場へ出て営業関係や三人いる従業員に対する指示をしていたものの、旋盤の仕事ができず、合田勝之を雇い入れて補充し、同人は昭和四一年一〇月二〇日から同四三年三月五日まで稼働した。その間同人には月額四二、〇〇〇円を支給し、合計六七二、〇〇〇円を支払つた。〔証拠略〕

原告三郎の受傷、治療経過からみても、旋盤のような精密な仕事は無理と考えられ、前記のとおり一年程度はやむをえないものと認められ、その間稼働能力が制限され、その代償たる前記支払額のうち(雇人の給料は旋盤工として高額でもない。)右金額を本件事故と相当性のある損害と認める。

(四二、〇〇〇円×一二=五〇四、〇〇〇円)

4  慰謝料 七〇万円

前記治療経過、症状、後遺症(自賠法施行令別表一二級と認定)その他事故の状況等諸般の事情を参酌して右金額が相当である。

(原告敏子関係)

原告敏子は左記のとおり治療をうけた。

41、10、11~10、14 新大阪病院へ二回通院

42、2、25~5、17 橿原市石川町平井病院へ四九回通院

受傷直後には頸部症状があつたが、少し通院したのみで、頭痛や手の感覚まひがあつてもがまんしていた。その後左手のしびれなどを訴えて病院に赴き、診断の結果、第四ないし七頸椎の神経支配下の損傷があるとされ、ことにレントゲン検査では第三、四頸椎の異常可動、第四、五頸椎間の病的前屈が認められた。治療により自覚症状として頭痛、肩こりは多少軽快したが、握力低下は残存していた。現在でも頭痛や背部痛がある。〔証拠略〕

1  治療費 三六、五九五円〔証拠略〕

2  慰謝料 三〇万円

前記治療経過、症状、後遺症(自賠法施行令別表一四級該当)その他諸般の事情を参酌。

六、損益相殺

原告三郎は自賠責保険金五七万円を、原告敏子は同二二三、九九五円を受領したことを自認しており、また原告三郎は被告伊村から本件請求に関連する治療費として四七、六二五円を受領している。

(内金四万円は原告三郎において自認している。〔証拠略〕)そうすると前記損害額は

原告三郎分

一、五四七、五四一円-六一七、六二五円=九二九、九一六円

原告敏子分

三三六、五九五円-二二三、九九五円=一一二、六〇〇円

七、弁護士費用

原告三郎分 一〇万円〔証拠略〕

八、結論

よつて、被告伊村は、(1)原告三郎に対し金一、〇二九、九一六円および弁護士費用を除く内金九二九、九一六円に対する不法行為日である昭和四一年一〇月六日から、

(2)原告敏子に対し金一一二、六〇〇円およびこれに対する同日から、それぞれ右完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。原告らの本訴請求は右限度において正当として認容し、被告伊村に対するその余の請求、その他の被告らに対する請求をいずれも失当として棄却する。訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用する。

(裁判官 藤本清)

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