大判例

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大阪地方裁判所 昭和44年(ワ)2722号 判決

原告 株式会社 大阪相互銀行

右訴訟代理人弁護士 松田光治

同 松田定周

被告 白井由雄

被告 沢村和夫

右被告両名訴訟代理人弁護士 長池勇

主文

被告等は原告に対し各自金八〇万円及びこれらに対する昭和四六年六月二四日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は、これを三分し、その一を原告の、その余を被告らの負担とする。

この判決は、原告の勝訴部分にかぎり、各被告に対しそれぞれ金二五万円の担保を供するときは、その被告に対して、仮りに執行できる。

事実

〈全部省略〉

理由

一、次の各事実については当事者間に争いがない。被告両名が、原告との間に昭和三九年四月一日訴外井辺皎久の原告銀行への就職に際し、右訴外人のために原告に対して身元保証人となり、右訴外人の在職中における同人の不注意又は不正の行為により原告に損害を与えた場合は右訴外人と連帯して全額弁償する旨及びこの身元保証の有効期間は昭和三九年四月一日より満五ケ年とする旨を特約したこと、訴外井辺が、昭和四三年八月一六日以来、昭和四四年二月一八日同人が横領行為を自白するまでの間前後約六〇回に亘り、請求原因第二項記載のとおり原告銀行の顧客に対する貸付金、顧客から原告銀行に対する預金および預かり金等の横領行為を重ね、その結果、原告に対し右横領金額と同額の合計金三八〇万六、一二三円の損害を与えたこと、原告は右損害金について、訴外井辺及びその母より合計金一六二万四、一四六円の弁償を受けたが残額を支払わないので、残額金二一八万一、九七七円につき被告両名に対し本訴状をもって右残額金とこれに対する訴状送達の翌日より完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めたこと、その後、訴外井辺が、右損害額残金の内入弁済として昭和四五年九月一八日に金二〇万円を、昭和四六年八月一四日に金二六万円をそれぞれ原告に支払ったこと。

二、そこで被告両名の負担すべき賠償額につき、判断する。訴外井辺が、原告銀行四貫島支店に勤務を始めて約二年後の昭和四三年八月一六日以来昭和四四年二月一八日までの間、約六〇回に亘り合計金三八〇万六、一二三円に及ぶ横領行為を重ねていた事実は、前記のとおり、当事者間に争いがないところ、〈証拠〉によれば、原告銀行が訴外井辺の不正行為に疑いをもつに至ったのは昭和四四年一月に行なわれた本店による集金監査の結果であり、それまでの間同銀行四貫島支店では、毎月一回の抜取検査が行なわれてはいたが、同検査は、毎月顧客一〇人分位を抜粋して帳簿の照合をなすに過ぎないもので、結局、これによっては右井辺の不正を発見するに至らなかった事実を認めることができる。

また、〈証拠〉によると、訴外井辺皎久は、前記不正行為を行った当時、原告銀行四貫島支店において得意先係として勤務していたこと、得意先係は、既得意先の事後管理と新規開拓を主たる業務とするが、顧客に対するサービスとして、右業務に関連して、預金の出し入れ、手形貸付の扱いなどもその業務の一部として行なってきたこと、そして、顧客から預金の依頼を受けたときは、その場で所定の領収書を発行して金を預かって帰り、預入れの手続をするようになっているが、その際、実際の扱いでは、顧客の通帳は預からないのが通例であること、また、手形貸付に際しては、現金を借主のもとへ持参し、引換えに手形を受取ってくることとなっているのであるが、その際借主から貸付金の領収書を徴して貸付係に渡すようになっていなかったため、得意先係が不正な行為をして貸付金が顧客の手に渡らなくても、すぐには原告銀行に分からず、約定の期間が経過することにより初めてその事実を確知できるような仕組であったことなどの事実が認められる。

以上認定の各事実に、原告が、相互銀行として金銭の出納、保管などに関し、特段の管理、監督の機構を備えることが求められていることを勘案すると、原告は、行員の不正防止につき一応の配慮をしてはいたものの、右井辺の多数回に亘る各種集金と原告銀行への入金額の不一致を看過し、また、かなり長期間におよぶ多額な貸付金の流用に気付かなかったもので、右は原告銀行が、行員の不正を予防ないし早期に発見しうる方策を十分に講じていなかったか、もしくは、監督に不十分な点があったものというほかなく、それが前記井辺の不正を容易にし、さらに、これを拡大させる一事由となったものと考えられ、この点で、被告ら身元保証人に対する関係においては、右井辺の不正行為に関し原告銀行にも過失があったものというべきである。他方、被告等本人尋問の結果によれば、被告白井については万一事故が起れば十分な保証のできる見込みがないにもかかわらず、右井辺が同被告の妻の姉の子であるところから、親族間の情誼上断わることもできず、求められるままに保証をしてしまった事実が認められ、また同沢村については、井辺本人と会ったこともなく、その性格も分かっていなかったのに、その不在中、妻が、断わりもなく保証書に同被告名義の記名、押印をしてしまったことを知り、不満に思ったものの、いわゆる親類筋に当るため撤回するのは義理が悪くやむを得ず右事実を黙示的に追認した事実が認められる。

以上のような原告銀行における過失の点、および本件身元保証契約成立の経緯などを斟酌すると、昭和四四年六月二四日当時において、被告両名が、右井辺皎久と連帯して負担すべき賠償額は、同時点における右井辺の原告に対する前記損害賠償債務金二一八万一、九七七円のうち金八〇万円と定めるのをもって相当と考える。しかして、右井辺が、右日時以後二回に亘り計金四六万円の支払いをしたことは前記のとおりであるが、被告らの身元保証契約にもとづく債務は右のとおり井辺皎久と連帯して負担すべきものであるから、右井辺の残債務が被告らの右賠償額以下となるまでは、身元本人たる井辺の支払いは、被告らの債務に消長をきたさないものである。

三、原告は、本訴において、被告らに対し、附帯請求として訴状送達の日の後の日である昭和四四年六月二四日以降の遅延損害金の支払いを求めているところ、訴状送達の日が、被告白井に対し昭和四四年六月一〇日、被告沢村(訴訟代理人長池勇)に対し同年同月二三日それぞれ到達したことは記録上明らかである。

四、よって原告の本訴請求のうち、被告らに対し、各自金八〇万円およびこれに対する昭和四六年六月二四日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において正当であるからこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条本文、第九三条仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岡田春夫)

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