大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

大阪地方裁判所 昭和45年(ワ)153号 判決

原告 株式会社幸福相互銀行

右訴訟代理人弁護士 毛利与一

右同 島田信治

右同 高畠光典

被告 相互信用金庫

右訴訟代理人弁護士 浅井稔

右同 西垣剛

被告 足立政敏

主文

一、原告の被告相互信用金庫に対する請求を棄却する。

二、被告足立政敏は原告に対し金一七万八、九四七円およびこれに対する昭和四六年五月二七日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

三、訴訟費用中、原告と被告相互信用金庫との間に生じたものは原告の負担とし、原告と被告足立政敏との間に生じたものは同被告の負担とする。

四、この判決は、第二項に限り、原告において金六万円を担保に供するときは、仮に執行することができる。

事実

〈全部省略〉

理由

第一(被告金庫関係)

一、被告金庫が原告から昭和四一年一二月一三日原告主張のとおり転付命令により金三四万四、〇〇〇円の弁済を受けたこと、原告はその主張のとおり訴外匠苑に対し本件預託金債務を負担していたこと、被告金庫が本件預託金債務につき、原告主張のとおり、訴外匠苑を債務者、原告を第三債務者とし債権仮差押、債権差押及び転付命令の送達がなされたことは、当事者間に争いがない。

〈証拠〉によると、原告主張のとおり、訴外秋山を債権者、訴外匠苑を債務者、原告を第三債務者として本件預託金債務につき債権差押命令、債権取立命令が送達されたことが認められる。

以上認定の事実にもとづいて考えると、被告金庫の前記転付命令は、債権差押命令の競合する場合に発せられたことになり、実体上無効のものといわざるをえず、その無効の転付命令にしたがって支払われた転付金二〇万円は、少なくとも訴外秋山の配当相当額金一七万八、九四七円の限度で法律上の原因がないことになる。そして、被告金庫の同額の受益と原告のこれに伴う損失、これらの因果関係など不当利得債権の発生の要件は、以上認定事実によりすべて認められる。

二、そこで、抗弁について検討する。

不当利得において、現存利益が存するか否かを決するに際しては、たんに受益者側における利得の行方を事実的に追求するだけでなく、受益者側の事情、損失者側の事情、その他諸般の事情を考慮に入れて、社会観念上、現存利益が存するとみるべきか否かといった判断にしたがって決せられなければならない。このような観点から本件事実をみる。〈証拠〉を総合すると、被告金庫は同足立と被告主張のとおり手形割引、手形貸付等の継続的取引関係にあったこと、被告金庫は前記転付命令の基礎となった前記額面金二〇万円の約束手形を被告足立の依頼により割引し、被告足立は同手形の不渡により買戻債務を負担していたこと、昭和四一年一二月一二日現在で被告金庫は同足立に対し債権として金八二万三、一七四円、債務として金六九万七、〇八三円を有しており、当然、被告足立の右手形買戻債務も被告金庫の債権として右債権額中に含まれていたこと、被告金庫は翌月原告から前記転付金三四万四、〇〇〇円(過払金一七万八、九四七円を含む)を受領したので、これを右債権額から控除し、債務額と差引勘定して金二一万七、九〇九円を被告足立に支払って清算すべきことになったので、同月一四日同被告にこれを支払って継続的取引の一切を清算したこと、被告足立は目下のところ、必ずしも支払能力がないわけではないが、右過払分の一括返済の資力はないこと、が認められる。そのうえ、原告銀行々員間の連絡不行届により、前記転付金の支払がなされたのであって、過払については専ら原告に過失があったことは当事者間に争いがない。

以上認定事実にもとづいて考えると、原告の支払に際しての過失、被告金庫における清算手続が自動的であること、過払分が自動的な清算手続を通じて被告足立に移行したとみられること、被告足立の支払能力などを考慮すると、社会観念上もはや被告金庫には民法七〇三条にいう現存利益は存しない、というべきである。

三、以上の次第で、原告の被告金庫に対する本訴請求は、その余の争点につき判断するまでもなく、失当として、これを棄却すべきである。よって訴訟費用については民訴法八九条を適用し、主文のとおり判決する。

第二(被告足立関係)

請求原因事実は民訴法一四〇条三項、一項にしたがい被告足立において自白したものとみなされる。

右事実にもとづき考えると、被告足立の受益と原告の損失との間に被告金庫の転付金受領、清算金支払といった行為が介在するので、受益と損失との間の因果関係があるのか否かについて一応疑問が生じる。不当利得における損失と受益との間の因果関係は、その間に社会観念上連絡が認められるときには、これを認めるべきであると解するのが相当である。因果関係が直接的であることは、社会観念上因果関係があるとされる典型的で代表的な場合ではあるが、因果関係はこれに限定されないと解すべきである。いうまでもなく、不当利得の制度は厳格法の適用から生じる不公平な結果を公平の観念にしたがって是正することを予定された制度であるから、直接の因果関係という厳格な法概念をもってこれを律するとき、その予定された制度本来の精神が生かされない結果となるからである。このような観点から請求原因事実をみるとき、なるほど被告足立の受益と原告の損失との間に被告金庫の行為が介在しているけれども、その介在した被告金庫においては、前記過払分を含む転付金が張簿上当然に計算され、自動的に清算金が算出されて被告足立が清算金を受領したのであって、前記転付金中の過払分は被告金庫をたんに通過したにすぎない関係にあると考えられる。このような場合においては、被告足立の受と原告の損失との間に社会通念上連絡があると認められ、両者間に因果関係があると判断すべきである。そして前記争いのないものとみなされた請求原因事実に照して考えるとき、その余の不当利得債権の発生要件はすべて充たされる。

それゆえ、被告足立は原告に対し右不当利得金一七万八、九四七円およびこれに対する請求の日である本件訴状送達の日の翌日である昭和四六年五月二七日から完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。よって、原告の被告足立に対する本訴請求はすべて理由があるので、これを認容し、訴訟費用については民訴法八九条、仮執行宣言については同法一九六条をそれぞれ適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 東孝行)

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com