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大阪地方裁判所 昭和49年(ヨ)3434号 決定

債権者(両事件)

金子盛平

外四名

右五名訴訟代理人

井野口勤

外二名

債務者(第三四三四号事件)

大阪車輪製造株式会社

右代表者

太田清次郎

債務者(第三三四五号事件)

太田清次郎

外五名

右七名訴訟代理人

山口一男

外一名

主文

一  本件申請をいずれも却下する。

二  申請費用は債権者らの負担とする。

事実

第一  申請の趣旨

一、第三四三四号事件

一 債務者大阪車輪製造株式会社は債権者らから債務者会社に対する株主総会決議無効確認訴訟の判決確定にいたるまで、債務者(第三三四五号)太田清次郎に同会社の取締役兼代表取締役の、債務者(第三三四五号)千田美二、同千田敬、同小笠原清、同瀬川清一郎、同梅岡宣彦に同会社の取締役の職務をそれぞれ執行させてはならない。

二  右職務執行停止期間中、取締役兼代表取締役の職務を行わせるため、弁護士北川新治を、取締役の職務を行わせるため弁護士得本嘉三、同島武男、同小寺一矢、同三瀬顕、同木下肇を、それぞれ職務代行者に選任する。

二、第三三四五号

一 債権者らから債務者(第三四三四号)大阪車輪製造株式会社に対する株主総会決議無効確認訴訟の判決確定にいたるまで、債務者太田清次郎は同会社の取締役兼代表取締役の、債務者千田美二、同千田敬、同小笠原清、同瀬川清一郎、同梅岡宣彦は同会社の取締役の職務はそれぞれ執行してはならない。

二 右職務執行停止期間中、取締役兼代表取締役の職務は行わせるため、弁護士北川新治は、取締役の職務を行わせるため弁護士得本嘉三、同島武男、同小寺一矢、同三瀬顕、同木下肇を、それぞれ職務代行者に選任する。

第二  申請の原因(両事件)

一、債権者らはいづれも債務者大阪車輪製造株式会社(以下「債務者会社」という。)(発行済株式数一、七二五、〇〇〇株、資本金八億六二五〇万円)の株主であり、同社の株式を債権者金子盛平は一六一〇株、同金行克已は四八三〇株、同森田志郎は四四〇〇株、同伊藤皎は七〇〇株、同岡村三郎は八九四〇株を有している。

二、債権者らは債務者会社の株主三三一名(別紙一記載のものより債権者らを除いたもの)と共に申請外弁護士井野口勤、同井野口有市は代理人に選任し、昭和四九年五月一八日付内容証明郵便をもつて、同会社に対し同月二八日開催予定の同社の定時株主総会において累積投票をもつて取締役を選任するべきことを請求した。同内容証明郵便は同月二〇日同会社に到達した。(但し別紙一のうち諏訪信一―一、二〇〇株は株主でないことが後日判明した。)

三、債権者岡村は申請外元山貫一と共に右定時株主総会の日の前日である昭和四九年五月二七日右内容証明郵便では添付が困難であつた累積投票請求者らの前記代理人弁護士井野口勤、井野口有市に対する委任状を所持して債務者会社に行き同社取締役小笠原清に面会したが、同人は累積投票請求について委任の事実について何ら疑問をさしはさむ態度もみせず雑談したので右委任状を呈示する必要がなく終つた。

四、総会当日において債権者岡村は累積投票請求のときの代理人である井野口勤弁護士とともに総会場におもむき累積投票請求のための前記両弁護士に対する委任状と議決権行使のための右岡村に対する委任状を用意して控室で待機していたところ、当日の議決権行使のための委任状(四八三、九一三株)のみについて債務者会社の従業員が右小笠原清の指示に基づき押捺されている印影と株主名簿届出印との照合がなされ債権者らの株数が累積投票請求に充分な数であることが明らかになり、右小笠原もこれを確認したが、累積投票請求の委任状の確認をしようとしなかつた。

五、ところが、右総会において取締役選任が問題となるや累積投票に関し、右小笠原取締役は突如として総会の日から五日前までに債務者会社に委任状の送付がなかつたから右累積投票の請求が無効であると主張した。債権者岡村は委任状を所持している旨主張して異議を述べたが容れられず、結局のところ、累積投票によらないで取締役選任の決議が行われ、債務者太田清次郎、同千田美二、同千田敬、同小笠原清、同瀬川清一郎、同梅岡宣彦が取締役に選任され、代表取締役には同日の取締役会において債務者太田清次郎が選任された。

六、しかしながら右累積投票は債権者ら他三三一名(四七六、〇五三株)の委任にもとづいて代理人である申請外井野口勤、同井野口有市の二名の弁護士によつて請求されたものであり、累積投票請求の対象となつた取締役選任決議当日は委任状も債権者岡村三郎が所持していたものであつて適法であり、累積投票によらない右総会における取締役選任決議は無効であつて、債務者太田清次郎、同千田美二、同千田敬、同少笠原清、同瀬川清一郎、同梅岡宣彦は債務者会社の取締役たる地位を取得しておらず、さらにまた、取締役でない者による取締役会における代表取締役の選任はこれまた無効であり、右取締役でない者、代表取締役でない者による債務者会社の職務執行が行われると同会社に回復しがたい損害を蒙るおそれがあるので、申請の趣旨記載の決定を求める。

第三  申請の趣旨に対する答弁(両事件)

一、本件申請をいずれも却下する。

二、申請費用は債権者らの負担とする。

第四  申請の原因に対する答弁(両事件)

一、申請の原因一項の事実は認める。

二、同二項のうち昭和四九年五月一八日付の債権者主張の書面が同月二〇日債務者会社に到達したことおよび諏訪信一が株主でないことは認めるが、後記の如く累積投票請求の効果は生じていない。

三、同三項のうち、昭和四九年五月二七日の午後、債権者岡村が申請外元山貫一と共に債務者会社に来訪し、債務者会社取締役庶務部長小笠原清と面接、雑談した事実は認めるが、その余の事実は不知。

右岡村らが来訪した用件は、債務者会社に対し、同会社のした議決権代理行使勧誘に係る株主の委任状について、翌日の総会の開会前に、同人ら立会のうえで同委任状に押捺されている株主の印影について株主名簿届出印との照合をせよ、との要求を申し入れることにあつた。なお、右面接の際、同人らから累積投票請求についての代理人弁護士に対する委任状を所持している旨を告げられた事実もなく、また、その受任者たる右代理人弁護士から右委任状を同人らに携行させた旨の通知をうけていた等の事実も全くない。

四、同四項のうち、総会当日の開会前、債務者会社の従業員が債権者岡村および前記申請外元山らの要求によつて岡村が所持していた当日の総会の議決権行使のための委任状およびそれ以外の債務者会社の代理権行使勧誘に係る委任状について、押捺されている印影と株主名簿届出印との照合をした事実は認めるが、その余の事実は争う。なお、右岡村が所持していた委任状はいずれも議案に対する賛否の表示がなく、第三号議案(役員選出)についても債務者会社の立てた候補者の選任を承認したのと同様な外観を示していた。

債権者らは累積投票請求のための弁護士に対する委任状を用意していたのに債務者会社は右の委任状の確認をしようとしなかつた旨主張するが、債務者会社はその際、何人からも右の委任状を所持している旨を告げられた事実はなく、また、その確認を求められた事実もない。さらに「債権者岡村は累積投票請求のときの代理人である井野口勤弁護士とともに総会場におもむいた」というのであるから、真実、右の委任状を所持していたのであれば、その際、当然に右代理人弁護士が債務者会社にそれを提出すべきであり、また提出できた筈である。

五、同五のうち、総会において債務者太田清次郎他五名の者が取締役に、同太田清次郎が同日の取締役会において代表取締役にそれぞれ選任されたことは認め、その余の事実は否認する。

債務者会社取締役の小笠原清が総会において、本件の累積投票請求について、法律上の要件を欠いており、適法な累積投票の請求があつたものとは認め難い旨の報告をしたのは、役員選任議案(第三号議案)の先に審議された定款一部変更議案(第二号議案)の審議の際であり、また、債権者岡村が委任状は所持している旨主張して異議を述べたこともないし、委任状を提出したこともない。

六、同六項は争う。

第五  債務者らの主張

一、債権者らの当事者適格の不存在

債務者会社は、その旧定款(昭和四九年五月二八日改正前の第一五条)下においても単独株主権としての累積投票請求権を認めていない。従つて、累積投票によらなかつたことを理由として取締役選任決議取消の訴を提起し、右提訴に関連して取締役の職務執行停止の仮処分を申請するについては発行済株式総数の四分の一以上にあたる株主が申請人となる必要がある。本件申請は明らかに右の要件を欠いた不適法のものであるので当然に却下されるべきである。

二、権利保護の必要性の不存在

本件申請は、債務者会社の第四二期定時株主総会で行われた、債務者太田清次郎他五名の取締役選任決議の取消請求を本案とするものであり、そして、債務者らは右の選任決議について、累積投票によらなかつた違法の瑕疵がある、と主張する。仮りにそのとおりだとして、本案訴訟において右の選任決議が取り消されたとしても、債務者会社においては、昭和四九年の商法の一部改正に伴い、既に、右株主総会において、取締役の選任について累積投票を全面的に排除する旨の定款変更が適法になされているから、右取消判決があつた後の株主総会において債権者らの推す取締役候補者を累積投票の方法によつて選任することはもはや不可能であり、この点において本案で請求されている右選任決議の取消についてはなんらの実益が認められない。

従つて、前記本案請求は訴の利益を欠くものとして当然に却下(または裁量により棄却)されるべきものであるから、右の本案請求を前提とする本件仮処分申請も、その権利保護の必要性ないし保全の必要性)を欠くものとして当然に却下されるべきである。

三、本件累積投票請求の無効

債権者らが主張する昭和四九年五月一八日付の代理人名義の書面による累積投票請求は次の理由により無効である。

1(一)  累積投票請求権は議決権を前提とする株主の共益権の一つに属する。このため、無議決権株主は累積投票請求権を有せず、また、累積投票を請求した株主の全員が株主総会に出席しないばあいは請求の黙示の徹回があつたものと解されている。このように累積投票請求権は、株主の議決権を前提とし、これと密接に関連するものであるから、右請求権の代理行使についても議決権の代理行使の場合に準じ、これと同一の社団的制約に服するものと解すべきである。

(二)  ところで、債務者会社の定款第一三条では、議決権の代理行使についてその代理人資格を債務者会社の株主に限る旨規定している。右の制約は、前述のとおり議決権を前提とする累積投票請求権の代理行使の場合にも及ぶものと解されるところ、本件累積投票の請求代理人はいずれも債務者会社の株主ではなく、右請求権の代理行使につきその代理人資格を有していないものである。従つて、右代理人資格を欠く者に委任してなされた本件累積投票の請求は無効である。

2  同累積投票請求書の別紙(本決定の別紙一と同じ、但し、①②③の記号、持株数についての括孤書の部分を除く。)に株主として記載されている三三六名の全員についてその住所の記載がない。また、右三三六名のなかには①その氏名が債務者会社の株主名簿に登載されていないもの一〇名(別紙一、氏名のうえに①を付したもの、その株式数計九、二八八株)、②既に債務者会社のなした議決権代理行使の勧誘により債務者会社に委任状を送付してきている者六名(同別紙氏名のうえに②を付したもの、その株式数計六、五二〇株)③請求書に記載の株式数が同一名義人の株主名簿に記載の株式数と相違する者五〇名(同別紙、氏名のうえに③を付したもの、その株式数計一一五、一六四株、なお、括孤内が真実の持株数である。)が含まれている。ところで、株主の特定は、その住所・氏名および所有株式数によつてなされるべきものである(商法二二三条一項)。とすると、その全員について住所の記載がないことはともかくとして、少くとも前記①の債務者会社の株主名簿にその氏名の登載されていないものは当然、また同③の株式数の相違するものについても真正の株主とは認め難い。本件累積投票請求は右三三六名の者が合計四七六、〇五三株の債務者会社の株式を有するものとしてなされているのであるが、そのうち、右の①③に該当するものはその株主資格を有しないものというべく、これらの者を除くと、本件の請求者は二八六名となり、その合計株式数は三五一、六〇一株に減じ、債務者会社の発行ずみ株式総数の四分の一に満たない(注、同一人で右①③の両方に該当するものが一名いるがそのものの株式数を考慮しても同一の結果となる)。従つて、右請求書による本件の累積投票請求は商法二五六条の四の要件を具備しない不適法のものである。

3(一)  また、本件累積投票請求は、代理人名義でなされているものであるが、およそ商法上、厳格の書面行為たることを要求されている累積投票請求を代理形式で行なおうとするときは、当該代理権授権の事実を証する書面を少くとも総会の日の五日前に(商法二五六条の三一項)会社に提出することを要するから、右、期日までに代理権限証書の提出のなかつた本件の場合右請求は無権代理のものというべく、法律上請求の効力は生じておらず、また、右商法規定及び同法第二三九条三項の立法趣旨にかんがみ、右法定期日経過後においてはその追完も許されない。

なお、債権者らは、債務者会社が「会日当日、右委任状の確認をしようとしなかつた」と主張しているが、右法定の期日までに代理権限証書の提出がなかつた以上、その後において、会社側において右代理権の存否について調査、確認をする必要もなく、また、その責務もない。むしろ、この法律上の当然の事理を弁えている筈の弁護士たる右請求をした代理人において右法定期日を徒過し、会日当日に至るもなおその委任状の提出のなかつたこと前述のとおりであり、しかも、右請求書に株主として記載されていたもののなかに、債務者会社の株主名簿に登載されていない者や真実の株主であれば当然に知悉している筈の所有株式数の相違しているものが多数含まれていた等の事実を総合して判断すると、右代理人は、右請求時においては勿論、総会日当日においても、なお、法律上有効の累積投票請求をなし得るに足る法定多数の株主からの代理権の授権をうけていなかつたものと推認される。

(二)  仮りに、累積投票請求権の代理行使について総会の日の五日前に委任状の提出の必要がないとしても、その場合は、請求株主からその他の形式、例えば会社あての授権の通知等により会社に対し代理人に対する授権事実の通知があつたときにのみ、右代理請求による累積投票請求の効力を認めるべきである。このことは、社団の法律関係の処理については、その法的確実性がとくに要請されていることの当然の帰結であり、また、もし会社側において、右株主からの通知がないのに代理権を授与された旨の代理人の申出のみを信じ、累積投票を行つたのちにおいて、右代理権の不存在が判明し、取締役選任につき瑕疵が生じたばあいは、右代理人の代理権限を信じたことにつき正当の理由がないため、取締役の責任が生ずるという不当な結果を招くことともなる。そして、本件の場合、債務者会社は前記三三六名の株主の誰からも右代理権授権の通知を受けた事実はない。

4(一)  本件仮処分申請手続において提出された累積投票請求についての委任状のうち、申請外、桂田律子の委任状は、明らかに昭和四九年五月二八日開催の債務者会社の第四二期定時株主総会の後に作成されたものである。右代理人が累積投票請求時には勿論、総会の会日に至るも、なお、その代理権限証書を債務者会社に提出しなかつた理由は、右の事情によるものと推認される。畢竟、本件累積投票の代理請求は右請求に必要の法定多数の株主の授権のないままに行なわれたものである。

(二)  さらに右委任状のうち四五通については債務者会社への届出印鑑と相違する印が押されており、これらのものについては当該株主の授権のあつたこと自体につき多分の疑義がもたれる。右印鑑相違分の合計株式数は別紙二記載のとおり四六、〇七四株であり、本件累積投票請求株主の株式総数四七一、四四五株から右株式数を差引くと四二五、三七一株となり、債務者会社の総発行済株式総数一、七二五、〇〇〇株の四分の一未満となり、前記(一)同様、累積投票請求に必要の法定多数の株主の授権を欠くこととなる。

(三)  仮りに、右(一)(二)の点をおくとしても、前記委任状の作成日付はいずれも昭和四九年四月三〇日であり、債務者会社が、第四二期定時総会招集の通知を発した同年五月一三日以前に既に作成されていたものである。ところで、累積投票の請求は会社が二人以上の取締役の選任を目的とする総会の招集があつたときにはじめて可能となる。従つて、株主について具体的な累積投票請求権が発生するのは会社が二人以上の取締役の選任を目的とする総会の招集通知を発したときと解される。そうすると、本件の場合、右の委任状は第四二期定時総会での取締役の選任について未だ株主に具体的な累積投票請求権の生じていない段階で作成されたものであるから無権利者の授権行為というべく、これによつて受任者に適法の代理権限の生ずるいわれはなく、右の委任状をもつて代理権の授権があつたとする債権者らの主張は失当である。

(四)  右の委任状には、単に「商法第二五六条の三による累積投票によることを請求する件」とのみ表示されていて、何時の株主総会におけるものであるかの特定が全くなされていない。およそ、議決権行使の代理権の授与については総会毎にこれをなすことを要する旨定めている商法二三九条四項の立法趣旨にかんがみ、代理権の授与は開催日時等によつて特定されたある総会における議決権行使についてのそれとしてなされるべく、右の特定をしない代理権の授与は無効であり、また、右の特定は委任状のうえにもその旨の表示を要する。右、議決権行使の代理権の授与に関する法律上の制約は、議決権を前提とし、これに密接に関連する累積投票請求権行使の代理権授与の場合にも適用があるので、総会の特定されていない委任状による代理権の授権自体無効である。

(五)  さらに、右委任状には、前記の累積投票請求の件の前に「商法第二三七号(「号」は条の誤記と思われる)による株主総会を招集する件」と明記されている。右委任状の表示に従い、委任者の意思を合理的に判断すると、少数株主権にもとづく商法二三七条の臨時株主総会の招集を請求し、あわせて同総会において取締役の選任につき累積投票によるべきことを請求する権限を代理人に与えたものと解される。そうすると、右の委任状による累積投票請求は、本件の場合の、債務者会社がその定款規定にもとづき招集した第四二期の定時株主総会における取締役の選任には適用のないものであり、本件累積投票請求代理人らは、右臨時株主総会のために用意された委任状を冒用して本件のばあいの代理権限を仮装しているに過ぎず、真正の代理権限を欠いているものである。

なお、前記二箇の授権事項が各別の総会についての権限行使をあわせて委任したものであるとすれば、一枚の委任状で数個の総会の代理権を授与したこととなり、そのような授権行為自体、商法二三九条四項の包括授権の禁止に牴触する無効のものというべきである。

四、累積投票請求の失効

仮りに、本件累積投票請求が有効であると仮定しても、なお、本件申請に係る全役員の選出は有効適法のものである。即ち、債務者会社の第四二期定時株主総会の議案審議の順序は、第二号議案として定款一部変更の件、第三号議案として取締役選任の件とされていた。右第二号議案は、昭和四九年四月二日施行の商法改正に伴い取締役の選任について累積投票を全面的に排除するための定款変更であつたが、右第二号議案が総会において原案どおり承認可決され、その後に次いで第三号議案の取締役選任の件に移つたものである。定款変更の効力はその議決により即時発効するものであるので、本件累積投票請求は右定款変更の発効と同時に失効したものというべく、その後に行なわれた通常の選出方法による取締役の選任にはなんらの違法がない。

以上、いずれの見地からしても、債権者らの取締役選任無効の主張はその理由がなく、右主張にもとづく本件仮処分申請は当然に排斥されるべきである。

五、保全の必要性の不存在

債権者らは債務者太田清次郎の取締役および代表取締役としての職務の執行により債務者会社において回復し難い損害を蒙るおそれがあると主張しているがそのような事実は全くない。

債務者千田美二、同太田清次郎は各自、会長、社長として債務者会社の枢要の地位にあつて多年の経験を活かしてよくその重責を果しており、また債務者千田敬(専務、労務担当)、同小笠原清(常務、庶務・経理担当)、同瀬川清一郎(常務、営業資材担当)、同梅岡宣彦(製造・企画担当)もそれぞれ同会社の重要な部門を担当しており、これら全役員が一丸となつて、現下の未曾有の不況下において同会社が直面している重大な局面に対処し、社運を担つて各自日夜を分たぬ懸命の努力をはらつてその経営責任を全うしており、いずれも同会社にとつては全くかけがえのない須要の人物であり、一日たりとも余人をして代らしめることを許されない現況にある。万一、債権者らの本件仮処分申請が認容されるような不測の事態が生ずれば、瞬時にして債務者会社の機能は停止し、日ならずしてその倒壊を招くことは必至であり、かくては同会社自身は勿論、五三〇名余にのぼる従業員やその家族に回復し難い損失を与え、さらには同会社と緊密の取引関係にある多数の企業に甚大な損害を及ぼし社会・経済上の由々しき問題を惹起することは火をみるよりも明らかである。

従つて、本件仮処分申請は却下されるべきである。

六、本件申請の権利濫用

1  本件申請の背景

(一) 怪情報の流布

昭和四八年以降、各方面から債務者会社の株式の買占めについての種々の怪情報がしきりに同会社等に入つてきている。その二、三を拾うと、

(1) 申請外片木泰三(債務者会社の株主、日興証券投資信託販売株式会社営業部長)より、「政財界の黒幕的存在として著名な某氏が買占めている。私に委せれば仲介の労を取る」との話があつた。なお、右片木は、後出の昭和四八年の債務者会社に対する新株発行差止仮処分申請事件で申請人側について中心的役割を果した人物である。

(2) 申請外後藤光蔵(債務者会社の株主、右新株発行差止仮処分事件の申請人)が債務者会社を訪ね「二〜三〇万株程度集めている。外国法人に高く売ろうかと思つているが、貴社で考えてみてはどうか」と述べた。

(3) 日本証券投資株式会社山田(自称)より、「貴社の株式四五万株を担保に融資するが、このことを貴社は承知しているか」との話があり、その後、債務者会社において念のため右会社に照会してみたところ、該当者はおらず何者かが仕組んだ仮空情報であることが判明した。

(4) 東光証券本社(東京)に対し、匿名の者から「某宗教団体が多数の債務者会社の株式を所持しており、外資への売却を考えているが、他によいはめ込み先はないか」との話があつた。

右の各情報は、いずれも信憑性の乏しいものであるが、債務者会社の株式を買い占め、機を狙つて利食い転売を画策しているグループがいて、それらの者が怪情報を飛ばして債務者会社に対し間接的に株式の高値買い取りをアピールしたものと推察される。

(二) 債権者らの不穏の動向

(1) 債権者岡村三郎(債権者らの推す取締役候補者)は第四二期定時総会の後、申請外元山貫一とともにしばしば債務者会社を訪ね、自ら自動車マフラに関し高度の技術をもつ研究者であると称し、債務者会社の技術担当役員として迎え入れることを強く要求した。しかし、債務者会社において念のためその人物調査をしたところ、その住所地(松戸新田五六八)には住民登録もなされておらず(なお、本件申請書に記載されている同人の住所地―大阪市天王寺区内文昌堂ビル石原興業内―には、他にも同一場所を住所地として届出ている多数の株主がいて、これらの者は一団のグループをつくつているものと考えられ、岡村もその一員と思われる。)興信所調査によると要警戒人物と報告されている。また、その自動車マフラ(パーコーン)に関する技術についても債務者会社においてその方面の権威筋である申請外東洋工業株式会社に照会して調べたところ、コスト面、形状、耐久性、浄化能力、白金ロジュームの使用の問題等の悉くに難点があり、その実用化はきわめて困難であり、しかも現在、既によりシンプルで安価なものが開発されて市場に出回つており、右パーコンはとうてい市場性がなく、企業として取り上げる価値の全くないものであることが判明した。

(2) 申請外元山貫一は債権者岡村の債務者会社への来訪に常に同道して岡村の役員迎え入れをしつように要求していたものであるが、同人は「既に多数の株主から合計四八万株の株式を、一株四千円で買い取る契約ができている。今更、手を引けない。」と述べ、また、「もし、この申し入れを断わり、岡村を役員にしなければ株主権をフルに行使して、検査役の選任申請や臨時株主総会の招集要求等々のあらゆる法廷斗争を行う用意がある」と豪語し、その住所、職業をたずねても答えず、「警視庁に聞けば分る」とうそぶき債務者会社を威怖させていた。

(3) 債権者金子盛平、同金行克已は、他の株主八名とともに、昭和四八年八月、なんらの法律上の事由もないのに債務者会社に対し、大阪地方裁判所に対し新株発行差止の仮処分申請(同庁昭和四八年(ヨ)第一〇二二号事件)をしたが、申請理由なしとして却下された事実である。

(4) 不公正な累積投票請求の委任状集め

債権者ら提出の本件累積投票請求についての委任状について、委任者の多くは、委任状の交付先を言わず、また、委任者自身、一体何を委任したのかも知らない等の不審の点が多い、右の事実と前述の、四八万株買取云々の申請外元山貫一の発言内容とを考えあわせると、これらの委任状は高値で株式を買い取るとの誘いに乗つた一部株主が、その取引条件として誘引者より要求された白紙委任状に盲判を押して交付したものである疑いがきわめて濃い。また、その受任者たる代理人弁護士を知つている者が一人もいないことも右の右の消息が推認できる有力の証左と考える。

2  本件申請の権利濫用

以上、述べた一連の本件の背景および債権者らの不穏の動き等から察するに、債権者岡村の債務者会社への送り込みは同会社の株式を買占め、機を狙つてその利食い転売を画策している債権者らを含む特定グループの者による、自動車マフラの新技術の開発を宣伝材料としての株価つり上げの一手段であり、本件申請もその路線にそつた予定されていた法廷斗争の一つである。

およそ、会社法上の訴権は、いわゆる共益権に属し、その行使は会社の利益のために行使されるべく、株主個人の利益のために行使することは許されない。しかも、債権者らは会社の株主たる地位にもとづく個人利益のためでなく、前述のとおり、株主たることと関係のない純個人的利益を追求するために本件申請をしているものであるから、明らかに権利の濫用であり、本件申請は、訴訟法上、正当の利益を欠くものであるから当然に却下されるべきである。

第六  債権者らの主張

一、当事者適格不存在の主張について

債務者らの第五の一の主張は争う。本件債権者はその持株数に関係なく本件仮処分の申請および適法な累積投票の請求を無視してなされた株主総会の決議無効確認または取消の訴を提起できる。

二、権利保護の必要性の不存在の主張について

同二の主張は争う。債務者会社の第四二期定時株主総会における累積投票排除の定款変更は、債権者のなした累積投票請求については適用がなく、かつ、右累積投票請求に対応する取締役選任がなされていない。従つて、債務者会社としては累積投票により取締役選任を行う株主総会を開催する義務がある。

三、本件累積投票無効の主張について

1  同三の1(一)(二)の主張について

(一) 債務者会社の定款一三条は「株主は、総会において、他の株主に委任してその議決権を行使することが出来る。但しこの場合は、総会ごとに委任状を本会社に差出さなければならない。」と定めているが、その趣旨は株主総会における議決権行使の代理資格を株主に限定するものではなく、株主が他の株主に議決権の行使を委任することができる旨を再確認したものに過ぎない。

(二) 定款一三条は累積投票請求には適用がない。

仮りに、定款一三条が、代理人資格を株主に限定したものであるとしても、同条は総会における議決権行使に制限を付したものであつて、累積投票請求に適用はない。

株主総会における議決権行使において株主に代理人資格を限定する合理的な理由としては第三者による総会荒しの予防が考えられるが、累積投票の請求において何人が代理人になろうとも累積投票の請求に混乱が生じることはない。

(三) しかも、代理人資格の限定によつて弁護士を累積投票請求の代理人より排除する合理的根拠はない。法的専門家として最もすぐれている弁護士に委任して累積投票を代理請求させることは、少数株主権の保護を貫徹させる最も合理的な方法であると考える。

2  同三の2の主張について

(一) 累積投票の請求書に株主の住所の記載がなくても、株式の氏名によりその同一性を特定できるから、右請求書に住所の記載の必要はない。

また、右請求書に株数を表示する必要もない。株主の氏名を表示して右請求さえあれば、会社は株主名簿によりその株数を確知できる。その株数が法定数に足りているかどうかは会社において右名簿と株主台帳に照らして計算するべきである。

(二) 別紙一に記載されているもののうち、①、②、③の記号を付されたものにつき、債務者ら主張の事実のあることは認める。

しかし、①の記号の付された、その氏名が債務者会社の株主名簿に登載されていないものは、左の如き誤記である。但し委任状の印鑑は、左記正の欄に記載した者の届印と同じである。なお、トの諏訪信一は諏訪真一との重複であるが、諏訪真一の持株数は別紙一記載のとおり一、一五〇株である。

誤正

イ 赤川史郎  赤川史朗

ロ 杉本寛見  杉本寛美

ハ 南口キシ  南口キミ

ニ 足立利夫  名神塗料株式会社代表取締役

足立利夫

ホ 石黒達  石黒喜久子

ヘ 北村マツ  北村まつの

ト 諏訪信一  諏訪真一

チ 本吉せつ子  本吉節子

リ 今田トシ  今田タネ

ヌ 塩谷正昭  塩谷正明

(三) 別紙一に記号②の付されたものは累積投票請求時には債権者等代理人に委任していたが、総会議決権行使の委任状を債務者会社に誤つて送付したものである。

(四) 別紙一に記号③の付されたものについて、累積投票請求者の実際の株数と累積投票請求の際の内容証明郵便記載の株数とが異なるのは、多数の株主から短時間に委任状を揃えかつその株数を申出させたため、やむを得ない誤記である。

誰しも自らの株数を即座に思い出せない。まして債務者会社においては増資や無償配付による株式の増加がたえずあつて、二、三年の間に変動が大きかつたから尚更である。

右誤記は無理からぬことであつてこれにより右誤記者の請求が無効にはならず、各株主の真実の持株数によつて請求されたと見るべきである。

右内容証明記載の株数と実際の所有株数との差異の内、実際よりも多く誤記したものは極く僅かであり、実際よりも少く誤記した場合が殆んどである。この場合委任の全部を無効にするという理由はない。因みに右会社株主中に、右誤記した請求者と同一の氏名、誤記した株主数と同一の株数を有する者はない。そうである以上住所の記載がなく右誤記があつても、右委任並びに請求は有効である。

3  同三の3(一)(二)の主張について

(一) 累積投票請求に商法二三九条三項の準用があるとする法的根拠はない。のみならず株主総会の決議権の代理行使についても代理関係のあることが明確で、総会における決議の成否を円滑にすることが妨げられない場合には右法条の適用がない。例えば株主の法定代理人、株主たる法人の代表者、官公庁を代表する公務員、破産管財人、株主の共有者により株主の権利を行使すべく指定された者等である。本件は弁護士に対する委任でありかつ後記の如き諸般の事情があるから右に準じて考えられるべきである。

(二) 本件の累積投票請求において代理人が委任状を送付しなかつたのは、前記の新株発行停止仮処分申請事件の原因となつた昭和四八年五月二六日の債務者会社の株主総会以来債権者らの少数株主と債務者会社との間には感情的な対立があり、両者の間の信頼関係は破壊されていたので、委任状を右請求の段階で内容証明郵便によらないで同会社の手許に送つてしまうことは委任事実を証明する証拠を湮滅されるという疑念があつたからであり、それもこれまでの同会社のやり方から無理からぬことであつた。そして、申請の原因四項記載の如く議決権行使のための委任状のみについて、その押捺されている印影を株主名簿届出印との照合がなされ、債権者らの株数が累積投票請求に十分な株数であることが確認されたので、債務者会社は右請求に際し少くとも弁護士井野口勤、同井野口有市に右代理権のあることを認めたものである。

(三) 仮りにそうでないとしても弁護士が代理人として出す書面による意思表示には代理権を証する書面を添付しなくても、当時真正に委任を受けておりさえすれば、かつ、後日これを相手方の求めに応じ示しさえすれば、本人の意思表示として有効とされる慣習がある。

少くとも大阪弁護士会所属弁護士間においてそうである。

(四) 仮りにそうでないとしても、本件前に申請した債務者会社に対する前記新株発行停止仮処分申請事件の債権者ら代理人と同一の代理人が、累積投票請求書中において累積投票についての委任状を保管している旨書き添え、かつ、総会前日および当日に適式の委任状を提出しているのに対し、債務者会社または同会社の顧問弁護士において、前記の如く右委任状の呈示を求めず、さりとて委任状の呈示がないことを咎めもせず、正当なる代理人として処遇する外形的態度をしておき乍ら、総会々場において、突如委任の無効を主張することは著しく信義誠実の原則に反し、許されない主張である。

債務者らが弁護士に対する委任状の添付や書類の記載上の小さな不備を盾にとつて本件請求の授権の事実そのものの存否を争う態度は、却つて債務者会社が少数株主権の行使を何とかして圧殺しようとする真意を推定させるのである。

4  同三の4(一)ないし(五)について

(一) 債権者ら代理人弁護士は累積投票請求につき請求者の委任を受けている。右弁護士らは請求者全員に個別には会つていないが、代理の者をしてその趣旨を説明させ、委任状を累積投票請求時までに交付を受けていたものである。

(二) 一部委任状に印鑑相違があつてもそれによつて累積投票請求が無効とならない。委任状に押捺の印鑑と債務者会社届出印とが異つても、真実委任があれば委任が無効とはならない。累積投票請求の委任は会社届出印を用いなければならないと法的に強制されてはいない。

総会の当日、債務者会社は会社発行の当日の議決権行使のための委任状と届出印とが異なる委任状(五二、〇六六株)についても委任の有効を認め議決権は行使させた程である。

(三) 総会招集通知発送前における累積投票請求の代理の委任は有効である。累積投票の代理の委任が総会招集の通知が発せられた後でなければならないとの根拠はない。累積投票請求が総会招集の通知が発せられた後でなければならないとする実質的根拠は複数の取締役を選任するかどうかは総会招集があつてはじめて明らかになるからであると解されるが複数の取締役の選任があるであろうことは任期満了による取締役全員の改選の場合などはほぼ事前に予想することができる。そのような場合、総会招集通知発送前に一定の者に累積投票請求の代理を予め委任することは何ら差支えない。むしろ総会招集通知の到達後、累積投票の請求までには法律または定款の定めがあつて時間的余裕が極めて少いことを考えあわせると、少数株主権としての累積投票請求権を実効あらしめるためには、請求の準備行為としての請求の代理権の授権行為を事前に行うことを認めなければならない。

(四) 総会の特定のない累積投票の請求の代理の委任は有効である。累積投票請求の代理に商法二三九条四項の準用があるかどうかは疑問である。同項は株主が招集通知に記載された議題ないし議案の要領を見たうえで議決権行使の委任を期待したものであるが、累積投票請求において請求者側には理事者側の候補者以外の候補者を当選させたい場合に累積投票請求をなすのであるから理事者側の候補者を見るまでもなく、累積投票を請求するかどうかを決定することができる。したがつて商法二三九条四項は、累積投票請求の代理に準用さるべきでない。たとえ準用があるとしても議決権行使の委任状につき総会の特定がないからといつて委任状を全く無効と解する必要はなく、作成後最初の総会におけるものと解すべきものであるのと同様、累積投票の請求の代理についても直近の総会に対する授権と解すべきである。

(五) 商法二三九条四項は臨時総会招集累積投票請求に適用がない。商法二三九条四項が包括授権を禁止したのは議決権の行使についてであり、議決権の行使を議案等を見た上で決定させ理事者等の専横を防止しようとするところにある。前項で累積投票について述べたように臨時総会招集、累積投票請求については、議決権の行使に伴うような包括授権による理事者等の専横の危険はない。特に、前項で述べたように代理権の行使を委任後直近の臨時総会の招集、累積投票の請求に限定すれば濫用の危険は全く考えられないものである。

四、累積投票請求の失効の主張について

同四の主張は争う。

債務者ら主張の株主総会においてその主張の如く定款の一部変更が可決されたことは認める。しかし、本件累積投票の請求は右定款変更の可決の当日より五日以上前に行い、この請求は総会当日には請求としてすでに有効に効力を生じていたものである。

従つて、当日の定款変更で累積投票によらないものと定めても新たな定款の規定には遡及効はなく、債権者らが右請求時において効力を有する定款に従つて請求したことにより既に発生した累積投票によることの効力を奪うことはできないものである。

五、本件申請の権利濫用の主張について

同五の主張は争う。

債務者らは怪情報の流布、債権者らの不穏の動向と称して債権者らが格別の反社会的行為を行つているかの如く印象づけようとしているが、債務者らが自ら承認している如く情報の出所が明らかでなく信憑性の乏しいものである。

債権者らとこれに同調する一団の株主は債務者会社の収益性に着目し、債権者らも債務者会社の重要な株主団として会社経営に積極的に参加しようとしているものであり、特に債権者岡村三郎は技術面において債務者会社に強い興味をもつているものである。

債権者らは株主として会社経営の高度化を願つているものであり何ら不正に株価のつり上げを狙つているものではない。

債務者らは債権者らがあたかも純個人的な利益を追求しているようにいうが、右に述べたように株主として会社経営に興味をもつことを同会社は極端な態度で拒絶しようとする。かえつてこれは現在の会社経営陣への介入を峻拒しなければならない何らかの理由を推測させる。

理由

一債権者らの当事者適格について

債務者会社の定款(昭和四八年五月二六日改訂のもの)第一五条には、取締役の選任は累積投票によらないものとすることおよび発行済株式総数の四分の一以上の株式を有する株主が累積投票を請求した場合はこの限りでない旨定められていることは、文書の趣旨形式により成立したと認められる疎乙第四号証(書証番号は第三四三四号のものによる。以下同じ。)によつて認めることができる。

そして、申請の原因一項の事実は当事者間に争いがないから、本件債権者らの総持株数が債務者会社の発行済株式総数の四分の一に満たないことは明らかである。

債務者らは債権者らの持株数が債務者会社の発行済株式総数の四分の一に満たないことを理由に債権者らの当事者適格がないと主張するが、株主は株主総会の決議が適法に行われることについて利益を有し、債務者らの右主張を基礎づける明文の根拠もなく、また、株主は他の株主に対する招集手続の瑕疵を理由として株主総会決議取消の訴を提起できるとする判例(最高判昭四二・九・二八民集二一・七・一九七〇)の趣旨をも考え合わせると、本件において債権者らは当事者適格をもつものと解するのが相当である。

二権利保護の必要性について

債務者会社の昭和四九年五月二八日に行われた第四二期定時株主総会において、同会社の取締役の選任について累積投票を全面的に排除する旨の定款変更が取締役選任の議題の前に適法に行われたことは、疎乙第四号証および文書の趣旨形式により真正に成立したものと認められる疎乙第一号証によつて認めることができる。

しかし、もし債権者らが本件で主張する累積投票請求が有効であれば右定款変更によつて右累積投票請求の効力が失われるものではなく、また、有効な累積投票請求を無視したことにより右総会における取締役選任決議が取消されれば、債務者会社は、累積投票請求の効力が存続しているのであるから、右定款変更にかかわらず株主総会を開いて累積投票の手続によつて取締役選任を行わなければならない。従つて、本件仮処分の被保全権利の保護の利益がないことを理由として本件仮処分申請について権利保護の必要性ないし保全の必要性がないとの債務者らの主張は採用できない。

三累積投票請求の効力について

(一)  申請外弁護士井野口勤、同井野口有市が、債権者らを含む別紙一記載の株主の代理人名義で、債務者会社の昭和四九年五月二八日開催予定の第四二期定時株主総会で取締役選任について累積投票によることを請求する旨の書面を同月一八日発し、右書面は同月二〇日に債務者会社に到達したこと、右書面における株主の表示方法は別紙一のとおり(但し①、②、③の記号および株数についての括孤書の部分は除く。)であること、別紙一に①の記号を付されたものは債務者会社の株主名簿に記載がなく、②の記号を付されたものは、右請求前に債務者会社の行つた議決権代理権行使の勧誘により債務者会社に委任状を送付していたこと、③の記号の付されたものについては、真実の持株数が括孤内記載のとおりであることおよび別紙一のうち諏訪信一(一二〇〇株)が債務者会社の株主でないことは当事者間に争いがない。

(二)  債務者会社の定款第一三条には、「株主は、総会に、おいて、他の株主に委任してその議決権を行使することが出来る。但しこの場合は、総会ごとに委任状を本会社に差出さなければならない。」と定められていることが疎乙第四号証によつて認められ、右規定が、議決権行使の代理人の資格を債務者会社の株主に限定する趣旨であることは明らかである。この規定は有効ではあるが、株主でない弁護士が株主の議決権行使について代理人になれないという不合理な結果をもたらすからその適用範囲は議決権行使の代理だけに限定するべきであり、累積投票請求の代理資格にまで及ぼすべきではない。従つて、本件累積投票請求が代理人である前記弁護士らによつてなされ、同弁護士らが債務者会社の株主であることについての主張立証はなくても、以上のことは本件累積投票請求の効力を妨げるものではない。

(三)  累積投票の請求については、株主総会の五日前までに書面により請求すればよく、請求を受けた会社は右書面を総会の終結に至るまで株主の閲覧に供することを要し、総会において議長は議決に先だち累積投票の請求があつたことを宣告することを要する。従つて、累積投票の請求は会社および他の株主から見て、有効であることが明白な形式を備えていなければならない。そのためには、まず請求者の特定が明確になされている必要があり、それには、累積投票請求書上に、少くとも請求者の姓名、株数が正確に表示されている必要がある。株主の住所の記載もなされることが望ましいが、同姓同名で持株数が同じの株主がいない場合は必らずしも必要ではない。

また、累積投票請求が代理人によつてなされる場合には、その委任状の中で累積投票を請求する総会を特定し、同請求を委任する旨および委任年月日を明示し、委任者の姓名を正確に記載し、かつ、会社に登録した印鑑を押捺することを要する。そして、右委任状も累積投票を請求する書面と共に会社に送付し、会社もこれを前同様閲覧に供しなければならない。

(四)  これを本件についてみると、別紙一に①および③の記号を付したものは、株主としての特定が不充分であり、これらのものによる累積投票請求は、この点において既に効力を生じないものと認めざるを得ない。また、②の記号を付したものについては既に債務者会社宛に送付した委任状による委任を明確に解除しなければ、累積投票請求と矛盾するので、やはり累積投票の効果は生じないと認めざるを得ない。累積投票請求によつて前の委任を解除したと認めることはできない。

そこで、別紙一記載のものから①、②、③の記号を付したものを除いた二七二名の総持株数は三四六、七三一株となり、債務者会社の発行済株式総数一、七二五、〇〇〇株の四分の一にあたる四三一、二五〇株に満たない。

そのうえ、本件累積投票請求に際し前記の如き内容の委任状提出の手続が行われていないことも当事者間に争いがない。

(五)  従つて、債権者らの本件累積投票請求はその他の点を判断するまでもなく無効であり、その結果本件仮処分の被保全権利について疎明がないことに帰する。そして、保証をもつて疎明に代えるべき性質のものではない。

四結論

よつて、本件仮処分申請はいずれもその他の点を判断するまでもなく失当として却下することとし、申請費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり決定する。 (菅野孝久)

別紙一および二〈省略〉

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