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大阪地方裁判所 昭和51年(ワ)1812号 判決

原告

原かつ

ほか一名

被告

国際興業株式会社

主文

被告は、原告原かつに対し、金四八〇万八七五七万及びこれに対する昭和四九年一二月一〇日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を、原告原信雄に対し、金一二五万円及びうち金七〇万円に対する昭和四九年六月四日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、これを五分し、その四を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

この判決は、原告ら勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告は、原告原かつ(以下「原告かつ」という。)に対し、金二三七五万円及びこれに対する昭和四九年一二月一〇日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を、原告原信雄(以下「原告信雄」という。)に対し、金六〇〇万円及びうち金三〇〇万円に対する昭和四九年六月四日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二請求原因

一  事故の発生

1  日時 昭和四九年六月三日午後九時四〇分頃

2  場所 明石市魚住町中尾二五九番地の三先道路上

3  加害車 普通乗用自動車(タクシー)(神五五あ三〇五二号)

右運転者 訴外堀井義友(以下「訴外堀井」という。)

4  被害者 原告かつ

5  態様 現場道路南端を東から西へ歩行していた被害者が、西進してきた加害車に追突され、その衝撃により約五メートルはね飛ばされた。

二  責任原因

運行供用者責任(自賠法三条)

被告は、加害車を業務用に使用し、自己のために運行の用に供していた。

三  損害

1  受傷、治療経過等

(一) 受傷

頭部外傷、顔面多発性挫創、胸腹部打撲傷、右手挫創、左大腿挫傷、左下腿骨骨折

(二) 治療経過

昭和四九年六月三日から同年一〇月二九日まで譜久山外科に、引き続き同年一二月四日まで明石仁十病院に、引き続き同月八日まで明石市立市民病院(以下「市民病院」という。)にそれぞれ入院した。

(三) 後遺症

両眼失明、四肢運動麻痺、言語障害、著しい精神機能障害の、後遺障害別等級表一級に該当する後遺障害が残つた。

2  付添介助費・雑費(原告かつ) 二二〇〇万円

原告かつは、前記の後遺障害のため、前記市民病院退院後も、自宅や同原告の子らの家で寝たきりの生活を続け、四六時中付添介助を受けているが、同原告が右のような付添介助を必要とする状態は、同原告が死亡するまで継続し、その間、同原告は、少なくとも一日五〇〇〇円を下らない付添介助費及び雑費(紙おしめ、シツカロール、おむつカバー、ちり紙など)相当の損害を被るものであるところ、同原告は、明治四四年四月一〇日生まれの女性であり、少なくとも市民病院を退院した直後である昭和四九年一二月一〇日以降一七年間存命すると考えられるから、同原告の、昭和四九年一二月一〇日以降の付添介助費及び雑費相当の損害を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、右損害額は二二〇〇万円を下らない。

なお、原告かつが本件事故前から付添介助を要する状態にあつたとの被告主張の事実は争う。同原告は、事故当時まで、主婦として炊事・洗濯を行い、風呂にも一人で行くことができ、その他自分の身の回りの用はすべて自分で足していたものであり、日常生活上付添介助を要するような状態ではなかつた。

3  慰藉料 原告かつ 一〇〇〇万円

原告信雄 三〇〇万円

原告ら夫婦は、本件事故時まで平穏な二人暮らしの家庭生活を営んできたものであるが、本件事故により原告かつに前記の後遺障害が残つたため、原告らは、一生心労と療養経費増大に苦しむ地獄の生活を続けていかなければならないこととなつた(原告信雄は、原告かつが市民病院より退院した当初、昼間は専門の付添人を雇い、夜は自らの手で原告かつの付添介助を行つていたが、右付添介助が原告信雄自身の健康にまで悪影響を及ぼすようになつたため、原告かつは、原告らの子らの世話を受けることとなり、その後は子らの家を転々とする悲惨な状態が続いている。)。これに対し、被告は、日本最大のタクシー会社で、保障能力は十分にある。以上の事情からすると、原告かつの慰藉料額は一〇〇〇万円、原告信雄の慰藉料額は三〇〇万円を下らない。

4  弁護士費用(原告信雄) 三〇〇万円

被告は、原告かつの入院中の治療費、付添費については支払を行つたものの、その後原告らの前記各損害についての支払をしないので、原告信雄は、やむなく原告ら訴訟代理人に仮処分申請(大阪地方裁判所昭和五〇年(ヨ)第一二二四号。後記自賠責保険金を受領したため取下ずみである。)、禁治産宣告申立(神戸家庭裁判所明石支部昭和五〇年(家)第二五三号)及び本訴追行を委任し、着手金として二〇万円、報酬として本訴判決認容額の一〇パーセントを支払う旨約し、少なくとも三〇〇万円を下らない弁護士費用相当の損害を被つた。

四  損害の填補

原告らは、自賠責保険金(後遺障害分)八二五万円の支払を受け、これを原告かつの債権に充当した。

五  結論

よつて、被告に対し、原告かつは、二三七五万円及びこれに対する不法行為の日の後である昭和四九年一二月一〇日以降完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金、原告信雄は、六〇〇万円及びうち弁護士費用相当の損害を除く三〇〇万円に対する不法行為の日の翌日である昭和四九年六月四日以降完済に至るまで前同割合による遅延損害金の支払を求める。

第三請求原因に対する被告の答弁

一  請求原因一の1ないし4は認める。

二  同一の5のうち、加害車が現場道路を西進してきたこと及び原告かつが加害車にはね飛ばされたことは認めるが、その余の事実は否認する。原告かつは、現場道路南側の路側帯付近を西から東へ歩行中、突如加害車の進路上に出てきて、加害車に接触したものである。なお、事故の詳しい態様は、後記第四の一に述べるとおりである。

三  同三の1(一)について、原告かつが本件事故により受傷したことは認めるが、傷害の詳細な内容については不知。

四  同三の1(二)について、原告かつが原告ら主張の各病院で治療を受けたことは認めるが、詳細な治療経過については不知。

五  同三の1(三)は不知。

六  同三の2も不知。もつとも、仮に原告かつが現在付添介助を要する状態にあるとしても、同原告は、本件事故前から、初老期痴呆により、一人では外出できないような精神状態となつていた(一人で外出すると、全く方向違いの方へ行き、長時間帰宅しなかつたり、遠方の地で発見されたりしたことがあり、そのため、同原告が外出する際には、近隣の主婦らがなるべく同原告に付き添うことにしていた。)もので、殊に事故発生時頃は、症状が悪化し、主婦であるのに炊事・洗濯が、時には用便までもがおぼつかなくなり、原告信雄の手を借りなければならない状態に陥つていたものであるところ、原告かつが右のように常に他人の付添介助を必要とする状態(後遺障害別等級表にあてはめるとすれば、同表一級に該当する程度の状態)は、本件事故がなくとも同原告が死亡するまで継続するはずのものであつたと考えられるから、原告かつが請求している付添介助費・雑費相当の損害と本件事故との間に因果関係はないものというべきである。なお、仮に以上の主張が認められないとしても、原告かつには、夫である原告信雄と六人の成人した子がいるのであり、右の者らの付添介助を受けうることを考えると、一日五〇〇〇円の割合で算定している、原告かつの付添介助費・雑費の請求は過大である。

七  同三の3は不知。

八  同三の4は、同項記載の仮処分が申請された後取下げられた事実のみ認め、その余は不知。なお、本件においては、原告らは、不当にも原告かつに過失のあることを全く認めることなく本訴を提起するに至つたものであり、従つて、右訴提起が被告の不当抗争によるものとはいえず、また、原告らが行つた仮処分申請などは、全く不必要なものであつたのであるから、仮に原告信雄が弁護士費用相当の損害を被つているとしても、被告に右損害を賠償すべき責任はない。

九  同四は認める。

第四被告の主張

一  免責

訴外堀井は、制限速度以内の時速約五〇キロメートルの速度で加害車を運転し、西行車線内を前照灯を減光させた状態で(事故当時加害車に対向して進行してくる車両は少なかつたが、これは現場付近での一時的な現象に過ぎず、現場道路である国道二五〇号線は、本来は交通量の非常に多い道路であり、かつ、右のとおり加害車は高速で走行していたわけではなかつたのであるから、訴外堀井が前照灯を減光させて自車を進行させていたのは、自動車運転者として常識的な運転方法であつた。)、前方を注視しながら進行し、本件事故現場手前にさしかかつた。他方、原告かつは、真暗な現場付近道路の南側路側帯内を西から東へ歩行していたもので、対向して進行してくる加害車の前照灯に照らされることにより、当然同車が接近してくるのに気付きえたのであるから、そのまま右路側帯内にとどまるべきであつたのに、突如ふらふらと路側帯内から加害車の進路上に進み出てきた。訴外堀井は、事故現場の手前で、原告かつが右のように路側帯内から自車前方進路上に進み出ようとしているのを認め、直ちに急制動の措置を講ずるとともに右に転把したが、同原告が更に道路中央へと進み出てきたため、右路側帯北端から一・二~一・三メートルも道路中央寄りの地点で同原告の着物の左袖が加害車の左バツクミラーにひつかかり、本件事故が発生したものである。以上のとおり本件事故は、原告かつの、加害車の接近を当然知りえたのに同車進路上に進み出た一方的な過失によつて発生したものであり、訴外堀井及び被告には何ら過失がなく、かつ、加害車には構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたから、被告には損害賠償責任がない。

二  過失相殺

仮に免責の主張が認められないとしても、本件事故について、原告かつには前記の過失があるから、損害賠償額の算定にあたり大幅な過失相殺がなされるべきである。

三  弁済

被告は、原告らに対し、原告ら自認分以外に、次のとおり合計三二〇万円の支払をした。

1  治療関係費

(一) 譜久山外科分 二〇四万二六二〇円

(二) 明石仁十病院分 一七万一二七一円

(三) 明石市立市民病院分 九八六五円

2  付添費 九六万一一三〇円

3  文書明細書等立替金 一万五一一四円

第五被告の主張に対する原告らの答弁

一  被告の主張一は否認する。訴外堀井には、本件事故現場付近道路において、制限速度(時速五〇キロメートル)を大幅に上回る速度で、前照灯を減光させたまま(事故当時対向車はなかつたのであるから、前照灯を減光させる必要はなかつた。)、かつ、進路前方に対する注視を怠つた状態で加害車を進行させた過失があり、また、加害車は、事故当時急制動措置を講じた場合右に片ぎきする(左前輪のスリツプ痕が残らない)状態にあつたもので、制動関係部位に整備不良の機能障害が存したものというべく、右のとおり、訴外堀井に諸種の過失があり、また、加害車に機能障害が存したために、原告かつの姿を一七・九メートル前方に発見した訴外堀井が回避措置を講ずるも及ばず、本件事故が発生したものである。他方、原告かつの歩行していた現場道路の南側路側帯は、幅が〇・四メートルしかなく、しかも、道路南端は溝になつていたのであるから、同原告は、やむをえず右路側帯よりやや西行車線内にはみ出して歩行していたものというべく、同原告に過失は存しない。

二  同二は争う。

三  同三は不知。

第六証拠関係〔略〕

理由

一  事故の発生

請求原因一の1ないし4の事実及び5のうち現場道路を西進してきた加害車に原告かつがはね飛ばされたことは、当事者間に争いがない(事故の詳しい態様については、後記二の2に認定するとおりである。)。

二  責任原因

1  運行供用者責任

被告は、請求原因二の事実を明らかに争わないので、これを自白したものとみなすべく、そうすると、被告は、後記免責の抗弁が認められない限り、自賠法三条により本件事故による原告らの請求を賠償する責任がある。

2  免責の抗弁

成立に争いのない甲第一一号証の一ないし八、証人橋本悟、同堀井義友(一部)の各証言を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  本件現場道路(国道二五〇号線)は、ほぼ東西に通ずる、歩車道の区別のない道路で、道路の両端に路側帯が設けられ(そのうち道路南側路側帯の幅は〇・四メートルである。)、右路側帯部分を除く道路部分は、センターライン表示により幅員二・九メートルの東行車線と幅員二・八メートルの西行車線とに区分されており、また、道路の両脇には、右路側帯部分に接して溝が設けられている(そのうち、道路南側の溝は、幅〇・五メートルで道路面より相当低く、溝の部分が歩行者の通行の用に供されるべき道路部分でないことは明らかである。もつとも、事故当時、後記加害車と原告かつとの衝突地点(以下「衝突地点」という。)の約〇・六メートル東の地点より西へ約六・四メートルの間の道路南側溝上には、道路面とほぼ同じ高さの溝カバーが設けられていた。)こと、現場付近道路はほぼ直線で、見通しは良好であること。

(二)  現場付近道路両側は、衝突地点のやや西方(同地点の約七・四~一八・二メートル西)の道路南側に訴外野口義貞方家屋があるのみで、おおむね農地が広がつており、また、現場付近には街灯設備がなく、夜間の現場付近は、右家屋前の路上が室内のあかりで多少の明るさを有するほかは、ほぼ真暗な状態になること、現場道路はアスフアルト舗装が施されているところ、事故当時路面は乾燥していたこと、現場道路の車両最高速度は、時速五〇キロメートルに制限されていること、

(三)  原告かつは、事故当時青つぽい着物を着、エプロンを付けて、現場付近道路を西から東へ向かい、概して通常人の歩行よりゆつくりとした速度で歩くうち、本件事故に遭つたものであること、

(四)  訴外堀井は、加害車(車幅一・六九メートル、車長四・六八メートル)を時速約五〇キロメートルの速度で運転し、現場道路西行車線内のほぼ中央部分(車体左側面と南側路側帯北端との距離が約〇・五~〇・六メートル存したことになる。)を東から西へ向かい進行中、衝突地点の約五〇メートル程手前で一台の対向車とすれ違つた(なお、右以外には、現場付近において加害車に対向車及び先・後行車はなかつた。)後・前照灯を減光させたまま事故現場の手前にさしかかつたところ、衝突地点の約一六・七メートル手前で、約一八メートル前方、南側路側帯北端より約一メートル北側の地点に、道路中央方向へ斜めに進出しながら自車の方に向かつて歩行してくる原告かつの姿を初めて認めて危険を感じ、直ちに急制動の措置を講ずると共に右転把を行つたが及ばず、野口方の東方、南側路側帯北端より北側約一・三メートル、電柱中尾四〇から約二〇・九メートルの地点(甲第一一号証の五、交通事故現場図〈×〉参照)で自車左前フエンダーからフロントガラス左側端にかけての車体部分を同原告に衝突させ、同原告を約二・五メートル前(西)方にはね飛ばして路上に転倒させ、加害車は、衝突地点より更に約一〇メートル右斜め前方に走行して停止したこと。

(五)  事故当時、加害車の前照灯の照射距離は、減光時において四〇~五〇メートルであつたこと、

以上の事実が認められ、証人堀井義友の証言中右認定に沿わない部分は、前掲各証拠に照らし採用し難く、他に右認定に反する証拠はない。

右認定に基づき、訴外堀井の過失の有無を考えてみるに、訴外堀井は、原告かつの姿を約一八メートル前方に初めて発見したものであるところ、加害車の前照灯の照射距離(減光時において四〇~五〇メートル)、衝突前の同原告の行動状況(現場付近道路上を西から東へ向かい歩行していた。)及び現場付近道路の見通し状況に照らすと、訴外堀井は、前方道路上に対する注視を怠つていなければ、同原告の四〇~五〇メートル手前まで進行した時に同原告の姿を認めることができるはずであつた(右訴外堀井が同原告を発見しえた地点を「発見可能地点」といい、その時点を「発見可能時点」という。)のに、右前方注視を怠つていたために、同原告を発見するのが相当に遅れたものということができる。

ところで、加害車が発見可能地点から、衝突地点より要制動距離(空走距離を含め急制動により停止するのに要する距離を指す。なお、時速五〇キロメートルの速度で乾燥したアスフアルト路面上を走行する車両の要制動距離は、通常二五~二六メートルと考えられる。)だけ離れた地点(以下「制動可能地点」といい、同地点に加害車が位置していた時点を「制動可能時点」という。)まで進行する間、同原告が現場道路のどの部分にいたのかは、前認定事実によるも直ちに明らかになるものとはいえないが、同原告は、訴外堀井が同原告を発見した時、既に加害車左側面より〇・四~〇・五メートル北側(加害車進路内)まで進入しており、かつ、右の時点から衝突に至るまでの間(約一・二秒)に北方向へは約〇・三メートル移動したに過ぎないところ、加害車が、制動可能地点から訴外堀井が実際に同原告を発見した地点まで進行するに要した時間は、せいぜい〇・七秒程度であつたと考えられることに、同原告が事故前概して通常人の歩行よりゆつくりとした速度で歩行していたことや訴外堀井が同原告を発見した時同原告は加害車の方に向かつて歩行してきていたことをも合わせ、考えると、加害車が発見可能地点から制動可能地点まで運行する間、原告かつが全く加害車の進路上に進入するに至らないままに経過した可能性は極めて乏しく、従つて、訴外堀井が発見可能地点で同原告を発見し、その後同原告の動きを注視していれば、遅くとも制動可能地点まで進行する間に同原告が自車の進路上に進入してきて訴外堀井において急制動ないしはそれに近い制動措置を講ずべき状況に至り、同人が右の措置を講ずることにより同原告との衝突等の事故を回避しえた蓋然性は相当に高かつたものといえる。

以上検討したところによれば、訴外堀井に過失がなかつたとの点の立証は、未だ尽くされていないものといわざるを得ず、従つて、その余の点について判断するまでもなく、被告の免責の抗弁は理由がない。

三  損害

1  受傷、治療経過等

成立に争いのない甲第二号証、乙第一号証の三、四、原本の存在及び成立に争いのない甲第五号証、原告信雄本人尋問の結果によれば、請求原因三の1(一)、(二)の事実(原告かつが本件事故により受傷し、原告ら主張の各病院で治療を受けたこと自体は、当事者間に争いがない。)及び原告かつは、本件事故による右受傷の結果大脳が広範囲にわたり損傷を受けたため、後遺障害として、両眼失明(両眼とも瞳孔の対光反射欠如)、四肢の運動麻痺、言語障害(感覚性及び運動性失語症)、著しい精神機能障害(無関心、無感動が目立ち、発動性が著しく低下。感情面での、多幸的ではあるが新生児に近い未分化さ、環境の変化、人物の弁別をなし得ず、知的機能はほとんど廃絶。)の症状を残存させているものであるところ、右は症状については今後回復の見込みのないことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  付添介助費、雑費(原告かつ) 一一〇一万九三五〇円

成立に争いのない乙第二号証の一ないし一〇、原告信雄本人尋問の結果によれば、原告かつは、前記入院中付添介助を要し、職業付添婦の付添を受けたことが認められるところ、前認定の原告かつの後遺障害の程度・態様に、前掲甲第二、第五号証、原告信雄本人尋問の結果及びこれにより成立を認めうる甲第六、第九、第一〇号証並びに経験則を合わせ考慮すると、原告かつは、前記市民病院退院後も、終生寝たきりの生活を強いられ、身体の移動、排尿・排便(おむつを使用せざるを得ない。)、食事、入浴等の行為を独力では全く行いえず、これら日常生活上の基本的な行為全般にわたり常に他人の付添介助を要する状態が続くものと考えられ、また、成立に争いのない甲第三号証によれば、原告かつは、明治四四年四月一〇日生まれの女性で、昭和四九年一二月一〇日現在六三歳であつたことが認められ、経験則上同原告は、同日以降一七年間(昭和四九年簡易生命表六三歳女子の平均余命年数。ただし年未満は切捨)存命すると予想されるところ、右必要な付添介助の内容・程度に、前掲中第三、第六号証、原告信雄本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、原告ら夫婦の間には成人した子が五名(昭和四九年一二月一〇日現在三八歳ないし二二歳)いるところ、原告かつの市民病院退院後昭和五〇年三月末頃までは主として職業付添婦(午前九時~午後五時)及び夫原告信雄が同原告宅で、その後同年一一月末頃までは主として原告らの長男範明夫婦が同人ら宅で、その後は主として原告らの二女良子夫婦が同人ら宅でそれぞれ原告かつの付添介助を行つてきていることが認められ、今後も、おおむね原告信雄及び原告らの子らなど原告かつの親族により同原告の付添介助が行われていくものと考えられることなどの事情並びに経験則をも合わせ考慮すると、原告かつは、前記必要とされる付添介助のため市民病院退院後死亡するまで平均一日二、五〇〇円程度の付添介助費・雑費(おむつ、おむつカバーなど)相当の損害を被るものと解するのが相当であるから、右金額にもとづき、同原告の、市民病院退院後である昭和四九年一二月一〇日以降死亡することが予想されるまでの一七年間の付添介助費・雑費相当の損害額を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると一、一〇一万九、三五〇円になる。

(算式)二、五〇〇×三六五×一二・〇七六=一一、〇一九、三五〇

ところで、被告は、原告かつはもともと本件事故前から回復の見込のない初老期痴呆により常に他人の付添介助を要する状態にあつたのであるから、同原告の付添介助費・雑費相当の損害と本件事故との間には因果関係がない旨主張し、乙第四号証を提出するとともに、証人橋本悟、同牧和正の各証言を援用するところ、右各証拠(乙第四号証は証人牧の証言により成立を認めうる。)及び原告信雄本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、原告かつは、本件事故前、外出した際時々道に迷い、ときには見当違いの方向へ行き遠方の地で発見されるなどし、そのため、一時期明石市内の光明会明石病院で診察・投薬を受けていた(原告信雄は、同病院の医師より、原告かつの症状は老人ぼけであるとの説明を受けている。)ことがあり、また、同原告が外出する際には、原告信雄や近所の主婦らがなるべくこれに同行するよう配慮していたこと、しかるところ、原告かつは、事故当日の午前中一人で外出し、友人の家に立ち寄つた後、そのまま夜まで自宅(ただし当時のそれであり、原告信雄の現住居である。)へは戻らず行方不明になつてしまい、本件事故発生の前、前記のとおりエプロンを付けた着物姿で、右自宅よりかなり離れた事故現場付近道路上を歩いていたもので、事故発生の直前、同道路センターライン上付近を西から東へ歩行しているところを、自動車を運転し、東行車線内を東進してきた訴外橋本悟に発見され、同人より、危ないから道路端に寄るように忠告されたが、特段の応答もすることなく道路中央部分を歩行し続け、その後少なくとも一旦は道路南側へ寄つたものの、ほどなく加害車が現場付近にさしかかつた際、再び道路中央へ進出し本件事故に遭つたものであることが認められ、以上の事実からすると、原告かつは、被告主張のごとく、本件事故前からいわゆる老人性痴呆の状態に陥つていたものと考えられないでもないが(もつとも、ひと口に老人性痴呆といつても、その症状に程度の差があることはいうまでもない。)、前掲乙第四号証、原告信雄本人尋問の結果によつて認められる原告かつは、昭和四六年頃から事故当時まで原告信雄と二人暮らしの生活を続けていたもので、その間、原告信雄は、昼間は訴外財団法人関西電気保安協会に勤務しており、原告かつがその留守を守つていたことを考えると、原告かつの行動に事故前から異常な点があつた等の前認定事実のみによつては、いまだ同原告が事故前から日常生活上の基本的な行為について他人の付添介助を要する状況にあつたとも、将来同原告が右のように付添介助を要する状態にたち至る蓋然性が高かつたとも推認することはできず、(なお、前記認定の原告かつの本件事故前の行動からすれば、本件事故がなくとも、同原告に外出の際付添介助を必要とする場合が生じていたであろうと考えることができるが、その程度・回数を明らかにすべき資料は存しないから、前記付添介助費の算定に当つて右点を考慮するに由がない。もつとも、この点は、原告かつの慰藉料額を定めるに当つて考慮する。)また、乙第四号証中報告の前記主張に沿う記載部分は、原告信雄本人尋問の結果に照らしたやすく採用し難く、他に右主張を裏付けるに足る証拠はないから、結局、被告の前記主張は採用しえない。

3  慰藉料

(一)  原告かつ 九〇〇万円

本件事故の態様、原告かつの受傷・後遺障害の内容・程度、治療経過、年齢その他諸般の事情(後記過失相殺の事情は除く。)を考え合わせると、同原告の慰藉料額は九〇〇万円とするのが相当である。

(二)  原告信雄 一〇〇万円

原告信雄は、本件事故のため妻である原告かつが受傷し前記の後遺障害を負つたことにより、原告らの子らと共にきわめて強い心痛を受けていると解されるばかりでなく、前記のとおり、原告かつの病院退院後の一時期現実に同原告の付添介助を行い、今後も原告らの子らと共に右付添介助に携わることになるものと予想されるところ、原告かつの受傷・後遺障害の内容・程度及び同原告が必要とする付添介助の内容・程度等をも合わせ考慮すると、原告信雄は、本件事故により、原告かつが生命を害された場合に比し著しく劣らない程度の精神的苦痛を受けているものというべく、従つて、原告かつの近親者として、被告に対し、固有の慰藉料請求権を有するものであるところ、その額は、右の諸事情等に照らし一〇〇万円とするのが相当である。

四  過失相殺

前記二の2認定の事実によれば、原告かつは、現場付近道路を西から東へ歩行中、前方西行車線上を対向して進行してくる加害車を認めることができたはずであり、従つて同車との接触等の事故を避けるため、少なくとも同車が自己の側方を通過し終わるまで道路南端付近から道路中央方向に出ないようにするべきであつたのに、漫然と道路中央方向へ斜めに進出した過失により、加害車の進路を塞ぐ形となり、同車に衝突されるに至つたものであることが認められるところ、右原告かつの過失の内容・程度と前記訴外堀井の過失の内容・程度、現場付近の道路状況等諸般の事情を考え合わせると、過失相殺として、本件事故により原告らに生じた損害の各三〇パーセントを減ずるのが相当と認められる(被告は、事故の態様等に鑑み大幅な過失相殺がなされるべきである旨主張するが、原告かつの道路中央方向への進出が前示のとおり比較的緩やかなものであつたこと、現場道路の西行車線幅員が二・八メートル、南側路側帯の幅が〇・四メートルであることからして、道路南側を通行する歩行者が加害車の進路上に入る可能性は、一般的に高かつたといえることなどの事情を考え合わせると、訴外堀井の前記運転上の過失が本件事故発生に占める比重は、相当大きかつたものといわざるを得ない。

なお、前掲乙第一号証の三、四、第二号証の一ないし一〇、成立に争いのない乙第一号証の一、二、第三号証の一ないし五、原告信雄本人尋問の結果によれば、被告は、原告らに対し、原告かつの治療関係費(二二二万三、七五六円)及び付添費(九五万八、八七〇円、ただし原告かつが市民病院を退院するまでの分)として合計三一八万二、六二六円の支払をしたことが認められる(なお、被告の弁済の主張のうち、右の金額を越える分(付添費・文書明細書等立替金)の支払の事実については、これを認めるべき証拠がない。)ところ、右支払分相当の原告かつの損害が本訴請求外のものであることは明らかであるが、これも前記損害と共に右過失相殺の対象となるものというべく、そこで、右支払分を含めた全損害につき前記割合により過失相殺をすると、被告が原告らに対し賠償すべき債権額は、原告かつにつき一、六二四万一、三八三円、原告信雄につき七〇万円となる。

五  損害の填補

請求原因四の自賠責保険金受領の事実は、当事者間に争いがなく、また、そのほかに原告らは、前記のとおり原告かつの治療関係費、付添費として合計三一八万二、六二六円の支払を受けているものであるところ、右受領金員は、全額原告かつの損害賠償債権に充当されたものというべきであるから、同原告の前記債権額より右既払分合計一、一四三万二、六二六円を差し引くと、同原告の残債権額は、四八〇万八、七五七円となる。

六  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、原告信雄が被告に対し、本件事故による損害として賠償を求めうる弁護士費用の額は、五五万円とするのが相当であると認められる。

七  結論

よつて、被告は、原告かつに対し、金四八〇万八、七五七円及びこれに対する本件不法行為の日の後である昭和四九年一二月一〇日以降完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を、原告信雄に対し、金一二五万円及びうち金七〇万円に対する本件不法行為の日の翌日である昭和四九年六月四日以降完済に至るまで前同割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告らの本訴請求は、右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木弘 大田黒昔生 畑中英明)

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