大判例

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大阪地方裁判所 昭和58年(ワ)5910号 判決

原告

山堀鉄工所こと

山下由二

被告

株式会社理工建設

右代表者

釜田義雄

被告

釜田義雄

被告

西道隆行

被告

中原力

右訴訟代理人

花元直三

主文

一  被告株式会社理工建設及び同釜田義雄は、原告に対し、各自金六二八万円及びこれに対する昭和五八年一一月九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告西道隆行及び同中原力に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告株式会社及び同釜田義雄との間に生じた分は、被告株式会社理工建設及び同釜田義雄の負担とし、原告と被告西道隆行、同中原力との間に生じた分は原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

〈前略〉

四そこで、被告会社を除くその余の被告らの商法二六六条の三の責任について判断する。

1  被告釜田の責任について

いずれも〈証拠〉を総合すると、被告釜田は、昭和五五年六月一八日、自己の全額出資により被告会社を設立し、その当初から被告会社の代表取締役の地位にあつて、被告会社の経理・営業面は勿論のこと、資金繰りについても同被告が独断で行つていたこと、被告会社の経営状態はもともとあまり良くなかつたが、それに加えて、被告釜田は、友愛産業、東商といつた町の金融業者から高利の金を借り、また不注意にも建築工事を請負わせるという甘言に乗せられて、日本寿司調理士学校宛に一〇〇〇万円の融通手形を振出してしまい、この手形が結局詐取され、昭和五八年五月末には右手形を決済せざるを得なくなり、これが原因となつて被告会社は倒産に追い込まれたこと、以上の事実が認められ、これを覆すに足る証拠はない。右認定事実によれば、被告釜田は、被告会社の代表取締役として、不注意にも自ら融通手形を振出してこれを詐取され、その結果被告会社を倒産に至らしめ、ひいては原告をして本件請負残代金の回収を不可能ならしめたものであるから、この点においてすでに悪意又は重過失による職務懈怠行為によつて原告に前記損害を与えたものというべきであるから、原告に対し、商法二六六条の三に基づく損害賠償責任を免れない。

2  被告西道の責任について

(一)  被告西道が、昭和五五年六月一八日の被告会社設立当初から同五七年七月末ころまでの間、被告会社の取締役の地位にあつたこと及び同被告が昭和五八年四月以降、個人で建築請負業を営んでいたことは当事者間に争いがない。

(二)  右争いのない事実に、〈証拠〉を総合すれば、次の事実が認められる。すなわち、

(1) 被告西道は、昭和五五年六月一八日の被告会社設立当初から、被告会社の取締役兼工事部長として勤務していたが、昭和五七年七月末ころ、被告会社の経営状態が悪く、しかも代表取締役である被告釜田と経営方針についての意見が合わないことから、同被告に対して取締役の辞任を申入れたが、同被告から、「代わりの人間が見つかるまで在任して欲しい。」旨の慰留を受けて、これを了解し、翌五八年三月に川村淑雄が入社するまで被告会社に勤務し、同年三月末ころ、取締役を辞任するとともに同会社を退社した。

(2) もつとも被告西道が、被告会社の取締役を退任した旨の登記は結局なされなかつた。

(3) 被告西道は、被告会社退社後の昭和五八年四月から自宅を事務所として西道建設の屋号で建築請負業を営み、そのころ、大和田のパチンコ店ジャンボの改造工事を請負つた。

以上の事実が認められ、他にこれを覆すに足る証拠はない。

(三) 以上に認定したところによれば、まず、被告西道は、ワンマン社長である被告釜田と被告会社の経営方針について意見が合わず、昭和五七年七月末ころ被告会社の取締役の辞任を申入れていたものであり、しかも、被告釜田において前記1に認定のとおり高利の金に手を出したり、融通手形を詐取された時期が、被告西道の右取締役辞任の申入れの時期よりも前であることを認めうる的確な証拠はないから、右取締役辞任申入後代わりの者が見つかり次第辞任することの決まつた被告西道が、被右釜田の前記職務懈怠行為を阻止するため特段の行動に出なかつたとしても、これをもつて、悪意又は重大な過失により、被告会社の取締役として代表取締役の業務執行を監視する義務を怠つたものということはできない。また、前記認定事実によれば、被告西道は、昭和五八年三月末限りで被告会社取締役を辞任しているから、これ以降同人には被告釜田の業務執行を監視する義務がないことはいうまでもない。もつとも、前記認定事実によれば、被告西道の取締役退任登記は結局においてなされなかつたのであるが、これは、真実は退任しているのにその旨の登記が速やかに行われなかつたといういわゆる登記の遅延の場合に当たるから、商法一四条の不実の登記には該当せずまた被告西道は、退任登記をなすべき権利も義務も有せず、たまたま被告会社がその登記を怠つたにすぎないものであつて、本件の全証拠によつても、被告西道が退社登記をしないことに積極的に加功したり、これに了解を与えたりした事実は認められないから、商法一二条の適用により被告会社が、被告西道の取締役退任を知らずに取引した第三者に対して責任を負担することがありうるのはともかく、被告西道個人が同条の責任を負わされる余地はないというべきである。

次に、被告西道の競業避止義務違反の点についても、前記認定事実によれば、被告西道が個人で建築請負業を始めたのは、被告会社の取締役を辞任した後であるから、競業避止義務に違反したとはいえず、また被告西道が建築請負業を始めたことと被告会社の倒産との因果関係を肯認するに足る的確な証拠もない。

したがつて、いずれの点からしても、被告西道には、商法二六六条の三の規定に基づく損害賠償責任はないものというべきである。

3  被告中原の責任について

(1)  まず、被告中原が被告会社の取締役に就任することを承諾していたか否かについて判断するに、〈証拠〉によれば、被告中原は被告会社の取締役として登記されており、甲第七号証の四には、被告会社の創立総会において、被告中原が取締役に選任され、同人はその就任を承諾した旨の記載があり、その末尾には同人の実印が押捺されており(この印影が被告中原の印章によるものであることは当事者間に争いがない)、さらに被告中原力本人尋問の結果によれば、被告中原は被告会社の発起人となることは承諾していたことが認められ、さらに〈証拠〉によれば、同人は被告釜田から被告中原が被告会社の役員であると聞いていたというのであるから、右の点を総合すれば、被告中原は被告会社の取締役に就任することも承諾していた事実が推認されなくもない。しかしながら、他方、〈証拠〉によれば、被告中原と被告釜田とは、かつて被告中原が代表取締役をしていた中原建設株式会社に被告釜田が勤務していたことがあるというだけの関係にすぎず、それ程深いものではなく、また被告会社の設立に関しては、直接に関与したわけではなく、被告会社の発起人の一人である中村要次に頼まれて、実印と印鑑証明書を渡しただけであつて真実は出資をしていないのであり、その後も被告会社の経営には全く関与せず、役員報酬を受け取つたこともなく、被告会社の事務所へは、二、三回しか行つたことがないとの事実が認められ、右事実に照らして考えれば、被告中原の供述するように、被告会社の発起人となることのみを承諾して実印を貸したところ、被告釜田が勝手に取締役として選任されたかのような書類を整えて、その旨の登記をしたという可能性も否定することはできず、結局前掲各証拠のみからは、未だ被告中原が被告会社の取締役に就任することをも承諾していたとの事実を推認することは困難というほかはない。

(2)  次にもし、被告中原が被告会社の取締役であつたとして、被告釜田の任務懈怠行為を阻止しえたかどうかについて判断するに、〈証拠〉によれば、被告会社は設立以来一度も取締役会を開催していないとの事実が認められ、また前記認定事実によれば、被告会社は、被告釜田の全額出資による同人のワンマン会社であつて、常勤の取締役である被告西道の意見さえ、取り上げられなかつたのであるから、非常勤で出資も報酬もない員数合わせのための名目的取締役にすぎない被告中原が、被告釜田に対して取締役会の開催を要求する等しても到底受け入れられないものと考えられるから、被告中原が被告釜田の業務執行を監視是正することは極めて困難であつたというべきである。したがつて、被告中原が取締役をしての任務を尽くしたとしても被告会社の倒産は避けられず、被告中原の任務懈怠と原告の損害との間には、因果関係を認めることはできない。

(3)  さらに、被告中原が被告会社に彦根市松原馬場の公道に通じる道のない土地を売りつけたことが原因となつて被告会社が倒産した旨の主張については、これに沿うかにみえる〈証拠〉はあるが、右〈証拠〉は、被告中原、同西道及び証人朝井博がその本人尋問あるいは証人尋問において、いずれも右土地公道に通じる道がないなどとは述べていないことに照してたやすく信用できず、他に右原告の主張事実を認めるに足る証拠はないから、この点に関する原告の主張は失当である。

(4)  よつて、いずれの点からしても、被告中原には商法二六六条の三の規定に基づく損害賠償責任はないものというべきである。〈以下、省略〉

(久末洋三 三浦潤 多見谷寿郎)

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