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大阪地方裁判所 昭和59年(ワ)3904号 判決

原告

黒田重治

右訴訟代理人弁護士

塚本宏明

国谷史朗

上田裕康

被告

阪奈信用金庫

右代表者代表理事

植田泰弘

右訴訟代理人弁護士

北村巌

北村春江

松原正大

古田泠子

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(申立て)

一  原告

1  被告は原告に対し、金一四六〇万円及びこれに対する昭和五九年六月一二日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  1項につき仮執行宣言。

二  被告

主文同旨。

(主張)

一  請求原因

1  被告は、昭和五四年一一月一日に枚岡信用金庫(以下「枚岡信金」という。)と東大阪信用金庫(以下「東大阪信金」という。)とが合併(以下「本件合併」という。)して新設された信用金庫であり、原告は、本件合併前の東大阪信金の会員で、その合併前に合計一〇万口(一口の額面金額五〇円、額面合計金五〇〇万円)の出資口数の持分(以下「本件出資持分」という。)を有していた。

2  東大阪信金の定款一三条三項には、総会で他の金庫との合併の決議があってから一か月以内に会員が合併反対の理由でその持分の譲り受けを請求したときは、同信用金庫は合併の日までにその出資持分を譲り受けるという旨の規定があるところ、原告は、東大阪信金に対し、同信用金庫が本件合併の決議をした昭和五四年五月二八日から一か月以内の同年六月八日到達の書面により、合併反対の理由により本件出資持分を譲り受くべき旨の意思表示をした。

3  本件出資持分の譲受価額は、次の各理由により、本件合併がなかったならば有するであろう当時の東大阪信金の財産価額(事業の継続を前提としてなるべく有利にこれを一括譲渡する場合の価額)を標準とした公正な価額によるべきであるところ、その公正な価額は、持分一口あたり金二〇〇円(合計金二〇〇〇万円)を下まわることはない。なお、この点に関する被告の後記反論の主張は争う。

(1) 信用金庫の合併は、その構成員たる会員にとり重大な利害を生ずる組織変更であって、これに反対する会員による持分譲受請求は、その反対にもかかわらず多数決により合併をなすうえで、反対の会員を保護するため、定款において特に認めた補償手段であるから、その譲受価額は、株式会社における合併反対株主の株式買取請求権の場合に準じて、解散における残余財産分配的な清算価額によるべきである。

(2) 信用金庫と性質の類似する団体である中小企業協同組合の自由脱退による持分払戻請求の価額は、脱退した事業年度の終における組合財産によって定めるとされ、かつ、それは財産価額(事業の継続を前提としてなるべく有利にこれを一括譲渡する場合の価額)を基準とした公正な価額による(最高裁判所昭和四四年二月一一日判決・民集二三巻一二号二四四七頁参照)から、信用金庫の持分の譲受価額もこれと同様の基準によって評価されるべきである。

(3) 信用金庫の会員が、通常の自由脱退のため、その持分の譲受人がないことを理由に信用金庫に対し持分譲受請求をする場合にあっては、それが他に譲受されるときの価額を基準に、譲受価額を額面金額たる持分一口あたり金五〇円とすることに合理性はあっても、合併反対の会員による持分譲受請求は、右のような他への譲渡を予定せず、反対にかかわらず合併という組織変更を強いられる会員を信用金庫との関係で直接保護するため認められた、右の通常の自由脱退の場合の持分譲受請求とは性質を異にする特別の請求権であるから、この場合の譲受価額を右の通常の自由脱退の場合と同額とすることには、何ら合理性がない。

(4) 原告は、昭和四七年に本件出資持分にかかる金五〇〇万円の出資をして東大阪信金の会員となったものであるところ、これは当時の同信用金庫の全出資金の0.815パーセントに相当する金額であり、同信用金庫は、この出資金を運用して資産を形成し、これを内部留保してきたのにもかかわらず、本件合併に反対して定款に従いその持分の譲受請求をした原告に対し、右額面のみの金額でしか譲り受けないというのでは、あまりにも不公平である。

4  よって、原告は、東大阪信金の一般承継人たる被告に対し、本件出資持分の譲渡代金合計金二〇〇〇万円の内金一四六〇万円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和五九年六月一二日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び反論

1  請求原因1、2の事実は認める。

2  請求原因3は争う。すなわち、本件出資持分の譲受価額は、次の各理由により、額面額たる持分一口あたり金五〇円(合計金五〇〇万円)と評価すべきである。

(1) 信用金庫の会員又は会員となる資格を有するものは、いつでも持分一口あたり金五〇円にて出資者となることができるので、持分を他に譲渡して脱退する自由脱退の場合、その譲受価額は持分一口あたり金五〇円以上となることがなく、したがってまた譲受人がないためその請求により信用金庫がこれを譲り受ける場合にあっても、その譲受価額は持分一口あたり金五〇円とならざるを得ない。そして、合併に反対する会員からの持分譲受請求の場合も、通常の自由脱退の場合とは、定款上その譲り受けの期限が合併の日までとされ、かつ、その譲受請求の持分の数量に限度がないという点に差異があり、その限度で合併に反対の会員を保護してはいるが、その他の点では、その性質に基本的な違いはないから、その譲受価額はやはり持分一口あたり金五〇円になるというべきである。

(2) 信用金庫における通常の自由脱退や法定脱退の場合、会員は、定款上その出資額を限度とする譲り受けや払い戻ししか請求できないのであるから、仮に合併に反対の会員による持分譲受請求の場合に限り、その譲受価額を右以上の金額とした場合には、合併を契機に脱退した会員のみ有利に取り扱われることとなって不公平である。

(3) 本件合併当時における枚岡信金と東大阪信金の各同一出資持分あたりの資産の額は、前者が後者の二倍強に相当するものであったところ、その合併は、各会員の持分がそのまま新設された被告に対する持分になるという平等の条件をもってなされたから、同一出資持分あたりの資産が多い枚岡信金の会員は、資産の少ない東大阪信金との合併により、同一出資持分あたりの資産の額が減少するという不利益を受けたことになり、他方、東大阪信金の会員であった原告は、出資額以上の金額ではその持分を他に譲渡することができなかったのに、本件合併のゆえにその出資額以上の金額によりこれを譲渡し得るということになると、枚岡信金の会員との関係で、不公平である。

三  抗弁

1  東大阪信金は、被告に対し、昭和五〇年七月二一日に、いずれも手形貸付の方法により、弁済期を同九月三〇日と定めて、(1)金五〇〇万円及び(2)金三〇〇万円をそれぞれ貸し付けた。

2  東大阪信金の一般承継人たる被告は、昭和六二年二月二七日の本件口頭弁論期日において、原告に対し、右の各貸金の残元金五三〇万円(右(1)の貸金の元金五〇〇万円と右(2)の貸金の残元金三〇万円)をもって、本件出資持分の譲渡代金債務とを対当額で相殺する旨の意思表示をした。

四  抗弁に対する認否

抗弁1の事実は認める。

(立証)〈省略〉

理由

一被告が、枚岡信金と東大阪信金との本件合併により新設された信用金庫であり、原告が、もと東大阪信金の会員で、合併前に合計一〇万口(一口の額面金額五〇円、額面合計金五〇〇万円)の本件出資持分を有していたものであること、東大阪信金の定款には原告主張の合併反対会員のための持分譲受請求に関する条項があり、原告が、これにもとづき本件合併の決議から一か月以内の原告主張の日に東大阪信金に対し、本件出資持分の譲受請求の意思表示をしたことは、いずれも当事者間に争いがない。

二そこで先ず、信用金庫の会員によるいわゆる通常の自由脱退(会員の意思にもとづく合併反対以外の理由による任意脱退)のための持分譲受請求(信用金庫法一六条一項後段。以下同法を単に「法」という。)の場合におけるその譲受価額について考えるに、それがいかなる金額であるべきかについて、法に直接これを定めた規定は存しないけれども、信用金庫は、中小企業や勤労者などを対象とし、それらの者の金融の円滑と貯蓄の増強に資する目的で、大蔵大臣の事業免許を得てその監督のもとに預金や貸付等の事業を行う協同組織による地域的な金融機関であって(法一条、四条、九条、一〇条、五三条等参照)、その加入については、所定の資格(法一〇条)を有するものは、正当な拒絶理由のない限り、出資額の払込みによりその会員となることができ(法七条、一三条、独占禁止法二四条参照)、しかもその出資一口の金額は定款により定まるが、会員平等の原則からその額は均一でなければならないとされている(法一一条)から、会員がその出資持分を他に譲渡する場合の譲渡価額は、たとえ当該信用金庫の全財産の価額がその総出資額を上回るものであっても、右加入の場合の出資額を上回ることは考えられないから、当然その出資額が限度となるというべきであり、したがってまた、前記譲受請求の場合の譲受価額も、それが他への譲渡を第一次的に予定した金額である以上は(法一六条一項参照)、同様に右出資額を限度とすることになるというべきである。

三進んで、東大阪信金の定款の規定にもとづく合併反対会員による持分譲受請求の場合におけるその譲受価額について検討するに、

1 法あるいはその付属法規のうえでは、会員が自由脱退する場合において、それが合併反対の理由によるときは、定款の定めるところにより政令による保有制限持分の限度(第一六条二項、法二一条、施行令五条一項参照)を超えて譲り受けることを許容する規定(施行令五条二項)が存するだけで、その他の点において、これを通常の自由脱退の場合と区別して扱うべき規定は存しないし、また、〈証拠〉によると、東大阪信金の定款のうえでも、通常の自由脱退による譲受請求の場合は、その譲受時期を請求の日から六月以後に到来する事業年度末とし、またその譲受持分につき政令による前記保有制限持分を限度とする旨を定める(定款一三条一、二項)のに対し、合併反対を理由とする自由脱退の場合には、その譲受時期を合併の日までとし、また、譲受持分につき前記保有制限持分にかかわりなく持分の全部を譲り受ける旨を定める(定款一三条三項)にとどまり、その他の点において、これを通常の自由脱退の場合と区別して扱うべき規定は存しないことが明らかである。

そうすると、会員がその意思にもとづき任意に脱退する場合に、その理由が合併反対によるものであっても、それが自由脱退であることに変わりはない以上、これによる譲受請求についての譲受価額も、通常の自由脱退の場合と同様に、他への譲渡を第一次的に予定した金額とするほかなく、したがってその金額はやはり出資額を限度とすることになるというべきである。

なお、〈証拠〉によると、東大阪信金の定款では、法定脱退(持分全部の喪失の場合を除く。)の持分払戻の場合(法一八条)にあっても、その払戻しの額は出資額を超えることができない旨を定めている(定款一六条但書)ことが認められるから、右定款においては、出資持分の価額が出資額を上回ることを全く予想していないものとみることができ、このことからしても、合併反対会員の自由脱退による持分譲受請求についての譲受価額も、その出資額を限度とするということができる。この点につき、〈証拠〉中には、出資額の限度でしか持分払戻しをしないとすると、資本勘定のうち利益留保部分は、信用金庫の存続する限り出資者に直接還元されないことの不都合を指摘する所見がみられるけれども、これをいかに扱うかは、要するに当該信用金庫がその定款により自主的に決すべき事柄であるというべきであって、内部留保の充実により(法五七条参照)その健全な運営を確保するため、定款において右のごとき定めをなすことも、法の趣意には反しないものと解することができる。

2  ところで、原告は、右の点につき、(1)東大阪信金の定款による合併反対会員の持分譲受請求は、その不利益を補償する手段であるから、その譲受価額は、株式会社における合併反対株主の株式買取請求の場合に準じて、残余財産分配的な清算価額によるべきであり、(2)信用金庫と性質の類似する団体である中小企業協同組合の自由脱退による持分払戻請求の価額は、財産価額を基準として評価されるから、信用金庫の持分の譲受価額もこれと同様の基準により評価されるべきであり、(3)合併反対会員の持分譲受請求は、通常の自由脱退の場合の持分譲受請求とは性質を異にする特別の請求権であるから、両者の譲受価額に差異があって当然であり、(4)東大阪信金は、原告の本件出資持分にかかる出資金を運用して資産を形成し、これを内部留保してきたのに、その持分の譲受請求に対して、出資額の限度の価額でしか譲り受けないというのは不公平であるとそれぞれ主張する。

しかしながら、(1)資産状態に関係なく、定額の出資金の払込みによりその構成員たる会員となることができ、したがってその持分の譲渡価額も出資額を上回ることのない信用金庫と、資産状態により、構成員たる株主の地位の表象たる株式の価額が変動する株式会社とを同列に扱うことはできないから、信用金庫の合併反対会員による持分譲受請求の場合と、株式会社の合併反対株主による株式買取請求の場合とで、その対価の評価方法に差異を生じても不合理であるとはいえないし、(2)中小企業協同組合は、信用金庫とその団体としての性質に類似する点はあっても、その自由脱退の場合の脱退会員の持分の処理には差異があって、前者では、その持分は払戻により処理され、その価額は組合財産により定めるとされ(中小企業等協同組合法一八条、二〇条。なお、前項後段の信用金庫の法定脱退の場合と同様の理由により、定款で、出資額を限度とするなど、持分の一部の払戻しを定めることもできると解される。)、他への譲渡は予定されていないのに対し、後者では、前記のとおり、他への譲渡を第一次的に予定しているから、両者を同一の基準で評価すべきであるとは直ちにはいえないし、(3)合併反対会員の持分譲受請求と、通常の自由脱退の場合の持分譲受請求とで、その譲受価額に区別を設けるべき合理的理由を見出し得ないこと前記のとおりであり、(4)前記会員平等の原則からすれば、原告が古い時代に多額の出資をなしたからといって、その故に、持分譲受請求の場合の譲受価額を他より有利に評価することはできないから、原告の右各主張はいずれも採用することができない。

3  以上によれば、原告の本件出資持分の譲受価額は、その出資額たる金五〇〇万円を限度とするというべきであるところ、この価額がそれ以下であることを窺わせるような特段の事情を認むべき証拠は存しないから、結局その譲受価額は右出資額たる金五〇〇万円であるということができる。

そうすると、原告のした本件出資持分の譲受請求により、東大阪信金は本件合併の日である昭和五四年一一月一日までにこれを右の金五〇〇万円で譲り受けたものと認めることができる。

四ところで、東大阪信金が原告に対し、昭和五〇年七月二一日に、いずれも手形貸付の方法により、弁済期を同年九月三〇日と定めて、(1)金五〇〇万円及び(2)金三〇〇万円を貸し付けたことは当事者間に争いがなく、また、東大阪信金の一般承継人たる被告が、昭和六二年二月二七日の本件口頭弁論期日において、右の各貸金の残元金五三〇万円(右(1)の貸金の元金五〇〇万円と右(2)の貸金の残元金三〇万円)をもって、本件出資持分の譲受代金債務と対当額で相殺する旨の意思表示をしたことは訴訟上明らかであるから、原告の本訴請求債権である右譲受代金債権は、その全部が右相殺により消滅したというべきである。

五よって、原告の本訴請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官辻忠雄 裁判官藤井一男 裁判官野島香苗)

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