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大阪地方裁判所 昭和61年(ワ)2374号 判決

原告

山元洋子

ほか三名

被告

阪井田由美子

ほか二名

主文

1  被告阪井田由美子は、(一) 原告山元洋子に対し六五八万九九〇九円、(二) 原告山元美智子に対し三三一万九九三八円、(三) 原告山元勇及び同山元照子に対しそれぞれ一〇五万円並びに右各金員に対する昭和六〇年六月二三日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告らの被告阪井田由美子に対するその余の請求並びに被告石塚孝芳及び被告住之江運輸株式会社に対する請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用のうち、原告ら及び被告阪井田由美子に生じた費用の五分の四並びに被告石塚孝芳及び被告住之江運輸株式会社に生じた費用を原告らの負担とし、原告ら及び被告阪井田由美子に生じたその余の費用を被告阪井田由美子の負担とする。

4  この判決は第1項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、(一) 原告山元洋子に対し四一九二万七六〇八円、(二) 原告山元美智子に対し二四六五万一七三八円、(三) 原告山元勇及び同山元照子に対しそれぞれ三〇〇万円並びに右各金員に対する昭和六〇年六月二三日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生

被告阪井田由美子(以下、「被告阪井田」という。)は、昭和六〇年六月二二日午前二時五〇分頃、普通乗用自動車(登録番号、なにわ五五に二三五四号。以下、「第一車両」という。)の助手席に訴外亡山元照雄(以下、「亡照雄」という。)を同乗させ、自らこれを運転して大阪市東淀川区東淡路一丁目六番三号先道路を西から東に向つて進行中、その進路前方に停車中の被告石塚孝芳(以下、「被告石塚」という。)運転の普通貨物自動車(登録番号、なにわ一一か四〇〇六号。以下、「第二車両」という。)後部に第一車両前部を潜り込ませるような形で激突させた(以下、「本件事故」という。)。

亡照雄は、本件事故により頭部外傷を受け、それが原因で事故後間もなく死亡した。

2  被告らの責任

(一) 被告阪井田

被告阪井田は、本件事故当時第一車両を所有し、これを自己のために運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条により後記損害を賠償する責任がある。

(二) 被告石塚

本件事故現場道路は、高速で走行する自動車が頻繁に通行する自動車専用道路のような形状の片側二車線の道路で、駐車禁止の交通規制が行われており、しかも、本件事故当時は深夜で降雨のため見通しが悪くなつていたものであり、したがつて、このような場所に右二車線のうち一車線を完全に塞ぐような形で自動車を停車させれば、これを早期に発見することが容易でないところから、後続車両の運転者が前方に停車中の車両の存在に気付くのが遅れて本件のような追突事故を発生させるにいたることがありうることは容易に予見することができたはずであるから、第二車両の運転者である被告石塚としては、そのような場所に自車を駐停車させることなく安全な場所までこれを移動させるなどして、本件のような事故を未然に防止すべき注意義務を負つていたというべきであるのに、同被告はこれを怠り、漫然と片側二車線のうち一車線を塞ぐようにして事故現場に第二車両を停車させた過失により本件事故を惹起させたものである。したがつて、同被告は、民法七〇九条により後記損害を賠償すべき責任がある。

(三) 被告住之江運輸株式会社(以下、「被告会社」という。)の責任

被告会社は、本件事故当時第二車両を所有し、これを自己のために運行の用に供していたものであるから自賠法三条により後記損害を賠償すべき責任がある。

3  損害

(亡照雄の損害)

(一) 逸失利益 一億〇六〇五万五二一六円

亡照雄は、本件事故当時三四歳の健康な男子で、株式会社長谷川工務店(以下、「訴外会社」という。)に勤務していた者であるが、同人の右当時の給与月額は四〇万三五二四円、昭和六〇年六月の賞与は七〇万三〇〇〇円であり、また、同年一二月に支給が予定されていた賞与は九八万七〇〇〇円であつたから、同人の昭和六〇年度一か年の給与所得の総額は六五三万二二八八円となる。したがつて、亡照雄は、本件事故に遭わなければ以後就労可能な六七歳までの三三年間にわたつて毎年右と同額の収入を得ることができたものというべきである。そこで、同人が失うことになる収入総額からその三〇パーセントに当たる生活費を控除し、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して同人の逸失利益の本件事故当時における現価を算出すれば、末尾計算式のとおり八七七一万六二一六円となる。

また、亡照雄は、本件事故に遭わなければ、定年退職時まで訴外会社に勤務して一九八四万七〇〇〇円の退職金の支給を受けることができたのに、本件事故によつて死亡退職したため一五〇万八〇〇〇円の退職金しか支給されなかつたのであるから、その差額一八三三万九〇〇〇円もまた、本件事故によつて生じた同人の逸失利益である。

(403,524×12+703,000+987,000)×(1-0.3)×19.188=87,716,216(円)

(二) 慰藉料 一八〇〇万円

亡照雄は、三四歳の働き盛りで妻子を残したまま死亡したものであつて、同人が被つた精神的苦痛を慰藉するに足りる慰藉料の額は一八〇〇万円が相当である。

(原告ら固有の損害)

(三) 葬儀費用 九〇万円

原告山元洋子(以下、「原告洋子」という。)は、亡照雄の葬儀を執り行い、その費用として九〇万円を支出した。

(四) 慰藉料 六〇〇万円

原告山元勇(以下「原告勇」という。)は亡照雄の父、同山元照子(以下、「原告照子」という。)は亡照雄の母であつて、いずれも亡照雄の死亡により多大の精神的苦痛を被つたものであり、これを慰藉するに足りる慰藉料の額は各三〇〇万円が相当である。

(五) 弁護士費用 四〇〇万円

原告洋子は、本訴の提起及び追行を原告ら訴訟代理人に委任し、その費用及び報酬として四〇〇万円を支払うことを約した。

4  権利の承継

原告洋子は亡照雄の妻、原告山元美智子(以下、「原告美智子」という。)は亡照雄の子であるところ、亡照雄は訴外池﨑時子との間に非嫡出子訴外池﨑昭人を儲け、これを認知していたので、原告らは、亡照雄の被告らに対する前記3(一)、(二)の損害賠償債権を、原告洋子において二分の一、同美智子において三分の一の各割合によりそれぞれ相続によつて取得した。

5  損害の填補

原告洋子は本件事故の損害の賠償として自動車損害賠償責任保険より二五〇〇万円、原告美智子は同様に一六七〇万円の各保険金の支払を受けた。

よつて、民法七〇九条に基づき被告石塚に対し、また、自賠法三条に基づき被告阪井田及び被告会社に対し、原告洋子は前記3(一)、(二)の合計一億二四〇五万五二一六円の二分の一に前記3(三)、(五)を加えた額から前記5の既払額を控除した四一九二万七六〇八円、原告美智子は前記3(一)、(二)の合計の三分の一から前記5の既払額を控除した二四六五万一七三八円、原告勇及び同照子は前記3(四)の各三〇〇万円の損害賠償金並びにこれに対する本件事故の翌日である昭和六〇年六月二三日から各完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。

二  請求原因に対する認否

1  被告阪井田

(一) 請求原因1の事実及び同2(一)のうち被告阪井田が本件事故当時第一車両を所有していたことはいずれも認める。

(二) 同3(一)のうち、亡照雄が本件事故当時三四歳で訴外会社に勤務していたことは認めるが、その余の事実は知らない。なお、亡照雄が訴外会社を定年退職してから六七歳までの間においても訴外会社に勤務していた当時と同程度の収入を得ることはできないはずであり(それよりかなり低額である。)、また、得べかりし退職金については、退職時までの中間利息及び生活費を控除すべきである。

(三) 同3(二)ないし(五)はいずれも知らない。本件事故によつて被告阪井田が賠償すべき慰藉料の額は一一〇〇万円が相当である。

(四) 同4の事実は知らない。

(五) 同5の事実は認める。

2  被告石塚及び被告会社

(一) 請求原因1の事実及び同2(三)のうち被告会社が本件事故当時第二車両を所有していたことはいずれも認める。

(二) 同2(二)のうち、本件事故当時現場付近に雨が降つていたこと、現場道路が片側二車線の道路であること、現場道路において駐車禁止の交通規制が行われていたことはいずれも認めるが、その余の事実は否認する。

本件事故は、第一車両の運転者であつた被告阪井田の一方的過失によつて発生したものであつて、第二車両の運転者である被告石塚には何らの過失もない。すなわち、被告石塚は、本件道路を西から東に向かつて走行中、事故現場に差しかかつた際、尿意を催したことから道路端で用を足すため第二車両を道路左端に寄せて停車させ、直ちにその後部の黄色の非常灯の装置を作動させてこれを点滅させたが、降雨が激しいため降車するのをためらつて車内に二、三分間留まつていたところ、突然本件事故が発生したものである。しかも、本件道路は見通しの良い道路で、事故当時は深夜のため交通量も少なく、その上停車場所のすぐ近くの側道に照明灯が設置されていたため現場付近は明るく、遠くからでも第二車両を容易に認識することができる状態にあつたのであり、現に被告阪井田は、第二車両の手前約三〇〇メートルの地点で既に第二車両を発見していたものである。しかるに、被告阪井田は、飲酒の上同乗者の亡照雄との雑談に気を奪われて前方の注視を怠り、かつ法定の制限速度(時速四〇キロメートル)をはるかに超える時速七〇キロメートルもの高速で第一車両を運転していたためみずから本件事故を発生させたものであつて、被告石塚に過失のないことは明らかである。

(三) 同3の各事実はいずれも知らない。

(四) 同4の事実はいずれも知らない。

(五) 同5の事実は認める。

三  抗弁

1  被告阪井田(好意同乗及び過失相殺)

亡照雄は、被告阪井田の経営するラウンジ「さかいだ」の常連客で、本件事故の前日午後一一時三〇分頃同店を訪れて飲酒した後、被告阪井田及び同店のホステス二名を食事に誘い、右ラウンジの閉店後右三名の女性とともにさらに近くの寿司屋で日本酒などを飲んだが、その際には、自分で飲むだけでなく車を運転する被告阪井田にも酒を勧めて酌をし、同被告の飲酒に手を貸しさえした。右食事の後、被告阪井田がホステス二名を自宅まで送り届けるため第一車両に乗ろうとしたところ、誘いもしないのに亡照雄が同車両の助手席へ乗り込んできたので、迷惑ながらも客であるためやむなく同人をも同乗させることとし、そのままホステスらの自宅方向へ走行しはじめたが、その途中亡照雄は、助手席からしきりに運転者である被告阪井田に話しかけるので同被告においてもこれに相槌を打つなどして話を合わせるよりほかなく、そのため同被告は運転に神経を集中することができず、前方への注視を怠る結果にもなつたものである。

このように、亡照雄は、被告阪井田が飲酒の上第一車両を運転するものであることを十分承知しながら、これを制止しなかつたばかりか、勧められもしないのにこれに同乗し、しかも、同乗中も被告阪井田に安全運転を心掛けるよう注意することもなく、かえつて同被告の前方への注意をそらせるような挙動をすらとつたのであつて、これらの事情を斟酌すれば、公平の見地から、本件事故によつて生じた損害のうち六割を減じた額をもつて被告阪井田の賠償すべき損害とすべきである。

2  被告石塚及び被告会社

(一) 自賠法三条但書の免責(被告会社)

本件事故発生の状況は、請求原因に対する認否2(二)のとおりであつて、運転者である被告石塚は第二車両の運行に関し注意を怠らなかつたものであるから、運行供用者である被告会社は、自賠法三条に基づく損害賠償責任を負わないものというべきである。

(二) 好意同乗及び過失相殺

かりに被告石塚が無過失といえないとしても、抗弁1のとおりの亡照雄の第一車両への同乗経緯及びその同乗中の挙動に照らせば、本件事故によつて生じた損害のうち六、七割以上が減額されるべきである。

四  抗弁に対する認否

いずれも否認する。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

第一被告阪井田に対する請求について

一  被告阪井田の責任

請求原因1の事実(本件事故の発生)及び被告阪井田が本件事故当時第一車両を所有していたことは、いずれも当事者間に争いがないので、被告阪井田は自賠法三条により後記認定の損害を賠償すべき責任があるといわなければならない。

二  損害

(亡照雄の損害)

1 逸失利益

(一) 亡照雄が本件事故当時三四歳の男子で訴外会社に勤務していたことは当事者間に争いのないところ、成立に争いのない乙第二号証及び第三号証の各一、二によれば、亡照雄は昭和四八年五月二八日訴外会社に入社し、本件事故当時、同社大阪支社建築本部工事管理部、甲子園大学新築工事作業所の所長として稼働していたこと及び同社の定年は六〇歳であることがそれぞれ認められる。

右争いのない事実及び認定事実によれば、亡照雄は、本件事故に遭わなければ、事故後も六〇歳に至るまでの二六年間訴外会社に勤務して給与所得を得ることができ、かつ、六〇歳の定年退職時には同社の就業規則等に基づき所定の退職金の支給を受けることができたほか、さらに定年退職後も就労可能な六七歳までの七年間にわたり毎年昭和六〇年度賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計六〇歳ないし六四歳の男子労働者平均給与額(三二九万一〇〇〇円)に相当する収入をあげ得たものと推認するのが相当である。

(二) そこで、次に、亡照雄が本件事故当時訴外会社から支給を受けていた給与の額について検討するに、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第三、第六号証、第七号証の一、二、甲イ第八号証、成立に争いのない乙第二、第三号証の各一、二によれば、次の事実を認めることができる。

(1) 亡照雄が昭和五九年一月から同六〇年六月までの一八か月間に訴外会社から支給された月額給与及び賞与は別紙(ア)のとおりである。昭和五九年一か年における同人の平均残業時間は一か月一八・五時間、公休日出勤の平均回数は一か月一回であつて、毎月支給される給与のうち残業手当と公休手当とは各月の実績に応じて支給されるが、冬季・夏季の各賞与と退職金は、残業手当や公休手当とは無関係にその額が定められる。

(2) 訴外会社では、昭和六〇年五月以後工事中の作業所が増加したことから、これに伴つて、亡照雄の残業時間や公休日出勤の日数も増えるようになつた。亡照雄の昭和六〇年五月分及び六月分の月額給与が、前記のとおり、同年四月分までの分と比較して約一〇万円も増額されているのは、右のような事情に基づく残業手当・公休手当の増加によるものである。

(3) 訴外会社が昭和六〇年七月以後亡照雄に支払うべき月額給与のうち定額支給されるのは二八万一〇〇〇円(内訳は基礎給一五万八〇〇〇円、職能給一〇万五〇〇〇円、諸手当一万八〇〇〇円である。)であり、これに前記昭和五九年度の残業・公休日出勤実績の割合に応じて支給される残業手当・公休手当を加えると、亡照雄の同六〇年七月以後の月額給与額は三三万二九二二円となり、また、昭和六〇年度の冬季賞与として支給されるはずであつた額は七三万六〇〇〇円である。

以上に認定の事実によれば、亡照雄は、本件事故に遭わなければ、昭和六〇年七月から一二月までの半年間に少くとも二七三万三五三二円の給与の支給を受けえたものということができるから、同人の昭和六〇年度一か年間の給与所得の額は、現実に支給された同年六月分までの二七四万四五七六円に右二七三万三五三二円を加えた五四七万八一〇八円であつたというべきである。そうすると、亡照雄は、本件事故がなければ、事故後定年退職までの二六年間にわたつて毎年少くとも右同額の給与所得を得ることができたものである。

(三) さらに前掲乙第三号証の一、二によれば、亡照雄が六〇歳の定年の時まで訴外会社に勤務しておれば、定年退職時に一九八四万七〇〇〇円の退職金の支給を受け得たことが認められ、また、亡照雄が退職後も六七歳までの七年間に毎年少くとも前記平均賃金に相当する収入をあげ得たものであること前記のとおりである。そこで、亡照雄が失うことになる右収入の総額からホフマン式計算法によつて年五分の割合による中間利息を控除してその本件事故当時の現価を算出し、これより同人の生活費(その割合は収入の三割とみるのが相当である。)を控除すれば別紙(イ)のとおり七五三〇万七七三七円となるところ、本件事故後、亡照雄の死亡退職金として訴外会社から一五〇万八〇〇〇円が遺族に支給されたことは原告らの自認するところであるから、その差額七三七九万九七三七円が亡照雄の逸失利益となる。

2 慰藉料

亡照雄が三四歳の働き盛りの若さで本件事故によつて死亡したことは前記のとおりであつて、その他本件証拠上認められる諸般の事情を斟酌すれば、同人の受けた多大の精神的苦痛を慰藉するに足りる慰藉料の額としては一二〇〇万円が相当である。

(原告ら固有の損害)

3 葬儀費用

成立に争いのない甲第一号証によれば、原告洋子は亡照雄の妻であることが認められるので、亡照雄の葬儀は同原告において執り行い、相当の葬儀費用を支出したものと推認することができるところ、そのうち八〇万円が本件事故と相当困果関係に立つ損害というべきである。

4 慰藉料(原告勇及び同照子)

成立に争いのない甲第二号証及び弁論の全趣旨によれば、原告勇は亡照雄の父、原告照子は同人の母であり、いずれも本件事故により亡照雄に先立たれ多大の精神的苦痛を被つたことが認められるところ、これを慰藉するに足りる慰藉料の額としては、各一五〇万円が相当である。

5 弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告洋子が、本訴の提起及び追行を弁護士である原告ら訴訟代理人に委任し、その費用及び報酬の支払を約したことが認められるところ、本件事案の内容、審理経過、認容額等の諸事情に照らすと、本件事故と相当因果関係に立つ損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は、一〇〇万円と認めるのが相当である。

三  権利の承継

原告洋子が亡照雄の妻であることは前記のとおりであり、前記甲第一号証によれば、原告美智子は同人の子であることが認められるところ、甲ロ第一号証の一によれば、亡照雄は訴外池崎時子との間に儲けた婚外子昭人を認知していることが認められるので、原告洋子は前記二1、2の亡照雄の被告阪井田に対する損害賠償債権の二分の一を、原告美智子は右債権の三分の一をそれぞれ相続により承継したものである。

四  好意同乗減額

成立に争いのない乙第一号証の三ないし九によれば、次の事実が認められる。

1  被告阪井田は、大阪市北区で飲食店ラウンジ「さかいだ」を経営し、自ら接客に当たるほかホステスを雇い入れて稼働させていたが、自己の出勤の用に使つていた第一車両を利用して閉店後右ホステスらをその自宅まで送り届けるようなこともあつた。

2  亡照雄は同店の常連客であつたところ、本件事故の前日午後一一時三〇分頃に一人で来店し、被告阪井田とともにウイスキーの水割りを飲んでしばらく時を過ごしていたが、間もなく閉店時刻となつたので、同被告及び同店のホステス二名を食事に誘つて、同店閉店後午前一時頃四名で歩いて近くの寿司屋に赴いた。

3  その寿司屋において、被告阪井田は焼酎や日本酒を、亡照雄は日本酒を飲み、午前二時半頃まで同店で飲食していたが、やがてそれぞれ帰宅することとなり、被告阪井田とホステス二名が第一車両を駐車させてある近くの駐車場まで歩いていつたところ、亡照雄も後から付いて来て誘われもしないのに第一車両の助手席に乗り込んできた。

4  被告阪井田は、亡照雄がどのようなつもりで第一車両に乗り込んで来たのかよく分らなかつたが、常連客でもあり、また、当時かなり強く雨が降つていたようなこともあつたので、強いて同乗を断るわけにもいかず、ホステス二名を自宅まで送る途中、適当な場所で降ろしてタクシーを拾えるよう便宜を図つてやろうと考え、そのまま第一車両を発進させた。

5  発進後しばらく走行して本件事故現場手前(西方)約二九〇メートルの地点まで進行してきた際、被告阪井田は前方に第二車両が停車しているのを認めた。それまでの間、助手席に乗つていた亡照雄は運転中の被告阪井田の方を向いてしきりに話しかけ、同被告もこれに受け答えしていたが、前方に認めた第一車両が信号待ちの車両で間もなく発進するものと軽信したため、特にその動静に注意するようなこともなく、時折亡照雄の方を向いたりして雑談を続けていたところ、第二車両の直前約九メートルの地点まで来てようやくそれが引き続き停車中の車両であることに気付き、あわてて急制動の措置をとつたが間にあわず、本件事故を惹起させるに至つた。

以上に認定の事実関係によれば、亡照雄は、被告阪井田が深夜まで飲酒した上第一車両を運転しようとするものであることを熟知しながら、勧められもしないのにこれに乗り込み、さらに、深夜降雨の中を高速で運転している被告阪井田にしきりに話しかけてその注意をそらせたものであり、それが本件事故発生の一因にもなつたといわざるをえないので、損害の公平な分担という見地から右の事情を斟酌し、過失相殺に準じて前記二1ないし4の損害額の三割を減ずるのが相当というべきである。

五  損害の填補

請求原因5の事実は当事者間に争いがない。

六  結論

以上に説示のとおり、被告阪井田は、自賠法三条に基づき、原告洋子に対し前記二1、2の合計八五七九万九七三九円の二分の一に前記二3を加えた四三六九万九八七〇円から三割を減じ、さらに前記五の既払額二五〇〇万円を控除した上これに前記二5を加えた六五八万九九〇九円、原告美智子に対し、前記二1、2の合計額の三分の一から三割を減じた上前記五の既払額一六七〇万円を控除した三三一万九九三八円、原告勇及び同照子に対しそれぞれ前記二4から三割を減じた一〇五万円の各損害賠償金並びにこれに対する本件事故の翌日である昭和六〇年六月二三日から各完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

第二被告石塚及び被告会社に対する請求について

一  請求原因1の事実(本件事故の発生)及び同2(三)のうち被告会社が本件事故当時第二車両を所有していたことは、いずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、本件事故の発生につき第二車両の運転者である被告石塚に過失があつたか否かについて検討するに、本件事故当時現場付近に雨が降つていたこと、事故現場道路が片側二車線の道路であること、現場道路において駐車禁止の交通規制が行われていたことはいずれも当事者間に争いのないところ、成立に争いのない乙第一号証の一ないし九によれば、次の事実が認められる。

1  本件事故現場道路は東西に通じる府道大阪高槻線であり、東行及び西行の両車線とも二車線(一車線の幅員は各三・〇メートル)であつて、その外側には幅員〇・七メートルの路側帯が設けられており、現場付近ではかなりの距離にわたつてほぼ直線状となつている。右道路における車両の交通量は、昼間は相当頻繁であるが、深夜は比較的閑散としている(事故当日の午前四時頃の東西車線の通行車両の数は五分間で二〇台である。)。

2  被告石塚は、前記日時頃、東行車線の左(北側)車線(以下、「本件車線」という。)を東に向つて走行中、たまたま事故現場付近に差しかかつた際、尿意を催したことから道路端で用を足すべく右車両を本件車線のやや左寄りに停車させたが、第二車両が車幅約二・二メートルの三・五トン積み貨物自動車であつたため、本件車線のほぼ全部が右車両によつて塞がれるような状態となつた。

3  被告石塚は、停車後直ちにサイドブレーキをかけるとともに、車両の前後に取り付けてある黄色の非常灯の点滅装置を作動させたが、当時相当に激しく雨が降つていたため、降車するのをためらつて二、三分間車内に留つていたところ、突然第一車両が第二車両に追突し、本件事故が発生するにいたつた。

4  被告阪井田は、法定の制限速度(時速四〇キロメートル)を超える時速約七〇キロメートルの速度で第一車両を運転して本件車線上を西から東に向つて走行し、本件事故現場にさしかかつたものである(なお、被告阪井田が、事故現場手前約二九〇メートルの地点で第二車両が前方に停車しているのを認めながら、これが信号待ちの車両で間もなく発進するものと軽信したため特にその動静に注意することもなく、助手席の亡照雄と雑談を交わしながら漫然と走行しえたことから、第二車両の手前わずか約九メートルの地点に到るまでこれが引き続き停車中の車両であることに気付かず、同地点であわてて急制動の措置をとつたが間に合わず、第二車両後部に第一車両前部を激突させたことは前記のとおりである。)。

5  事故当時前記のとおり雨が降つてはいたが、ほぼ直線状の本件事故現場付近の道路の形状及び閑散とした車両の通行量から、前後の見通しはきわめて良好であり、しかも、第二車両の停車位置は、東行車線の左(北側)に一定間隔で設けられている照明灯のすぐそばであつた。

以上に認定の事実関係からすれば被告石塚が本件車線上に第二車両を停車させたことにより、本件車線の通行が妨げられる状態となつたことは否定することができないけれども、右停車状況は、車両の停止後二、三分しか経過しておらず、しかも運転者が車両を離れていたわけでもなかつたので、未だ「駐車」(道路交通法二条一項一八号)というには当たらず、また、第二車両の右(南)側にはなお幅員三・〇メートルの東行車線が存在しており、かつ、事故当時交通量もまばらであつたところから、見通しの良好な東行車線上を西の方より走行してくる車両が南側の車線上を走行することにより、第二車両との接触・衝突を回避して同所を通過していくことはきわめて容易な状況にあつたといわなければならない。したがつて、このような状況の下において、路側の照明灯のすぐそばに第二車両を停車させるとともに、停車後直ちに非常灯点滅装置を作動させて、同車両が停車中であることを後続車両が容易に認識しうるような方法を講じた被告石塚としては、本件のような追突事故を未然に防止するのに必要にしてかつ十分な措置をとつたものということができ、そのような措置をとつてもなお、本件のような追突事故が発生することまで予見することはとうてい不可能であつたというよりほかはない。そうすると被告石塚には本件事故の発生につきなんらの過失もなかつたものといわなければならない。

三  さらに、第二車両が本件車線を走行してきて事故現場に停車し、被告石塚において小用を足した後直ちに発車して再び走行を続ける予定であつたことは前記のとおりであるから、同車両の停車状態も自賠法三条、二条二項にいう「運行」に当たり、本件事故は同車両の運行によつて生じたものといわなければならないけれども、第二車両の運転者被告石塚に過失がなく、同被告が右車両の運行に関し注意を怠らなかつたことは右のとおりであるから、運行供用者である被告会社もまた、本件事故につき損害賠償義務を負わないものというべきである。

第三まとめ

以上の次第で、原告らの被告阪井田に対する請求は、前記第一に説示の限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却し、原告らの被告石塚及び被告会社に対する請求はその余の点について判断するまでもなく失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤原弘道 山下満 橋詰均)

(別紙)

(ア) 給与支給実績

昭和59年1月~12月 487万6943円

うち、賞与124万5000円。

月額給与平均額は30万2661.9円。

同60年1月 31万7292円(うち交通費7300円)

2月 31万7975円(同上)

3月 31万7975円(同上)

4月 31万7975円(同上)

5月 41万0935円(同上)

6月 40万3524円(うち交通費7600円)

6月賞与70万8000円

合計278万8676円(うち交通費4万4100円)

交通費を除く、昭和60年1月~6月の給与合計額は、274万4576円。

(イ) 逸失利益計算式

547万8108×16.3789=8972万5383(円)……………………〈A〉

1984万7000×0.4347=862万7490(円)………………………〈B〉

329万1000×(19.1834-16.3789)=922万9609(円)……〈C〉

〈A〉+〈B〉+〈C〉=1億0758万2482円……………………………〈D〉

〈D〉×(1-0.3)=7530万7737円

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