大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

大阪地方裁判所 昭和61年(ワ)7038号 判決

原告

佐藤恵子

被告

藤村恭二

主文

一  被告は、原告に対し、金三二万八七五〇円及びこれに対する昭和六〇年四月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二〇分し、その一九を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金六五三万一八九三円及びこれに対する昭和六〇年四月九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

次のとおりの交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 昭和六〇年四月九日午後六時二〇分頃

(二) 場所 大阪市港区南市岡三丁目一一番二八号先路上

(三) 加害車 被告運転の普通乗用自動車(大阪五八ろ二三二七号)

(四) 被害車 原告運転の原動機付自転車(大阪市港い八三〇七号)

(五) 態様 被害車が西進中、対面信号が黄色に変わつたため停止しようとしたところ、加害車が追突した。

2  責任原因(一般不法行為責任)

被告は、加害車を運転中、前方不注意の過失により、本件事故を発生させた。

3  損害

原告は、本件事故により、次のとおり受傷して損害を被つた。

(一) 原告の受傷等

(1) 受傷

頚椎捻挫、腰椎捻挫、左第一中足趾節関節捻挫

(2) 治療経過

昭和六〇年四月一〇日多根病院に通院

昭和六〇年四月一〇日から同年五月一七日まで近森整骨院に通院(実日数九日)

昭和六〇年五月二八日から同年一一月一一日まで桜川整骨院に通院(実日数三四日)

昭和六〇年一一月八日から同月一二日まで東住吉森本病院に通院(実日数二日)

昭和六〇年一一月一四日から昭和六一年三月四日まで小川病院に通院(実日数四八日)

(3) 後遺障害

昭和六一年三月四日症状固定

自賠法施行令二条別表の後遺障害別等級表一四級一〇号該当

(二) 治療費 四三万一一四〇円

(三) 逸失利益

(1) 休業損害 五一九万二三三三円

原告は、本件事故当時、有限会社三恵鉄工所の従業員として月額一五万円の、クリスタルコーヒーこと佐藤一枝経営のコーヒー店の店長として月額二二万円の各収入を得ていたものであるところ、本件事故により昭和六〇年四月一一日から昭和六一年六月五日まで休業を余儀なくされ、その間五一九万二三三三円の収入を失つた。

(2) 後遺障害による逸失利益 二二万二〇〇〇円

原告は、前記後遺障害のため、その症状固定時から一年間、その労働能力を五%喪失したものであるから、原告の後遺障害による逸失利益は二二万二〇〇〇円となる。

(四) 慰藉料

(1) 通院分 五〇万円

(2) 後遺障害分 七五万円

(五) 損害額合計 七〇九万五四七三円

4  損害の填補

原告は、本件事故による損害につき、被告から五六万三五八〇円の支払を受けた。

5  本訴請求

よつて、請求の趣旨記載のとおりの判決(但し、遅延損害金は本件事故発生の日である昭和六〇年四月九日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による。)を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の(一)ないし(五)は認める。

2  同2は認める。

3  同3の内、(一)の(1)及び(3)、(三)、(四)の(2)は否認し、その余は不知。

本件事故は、被害車が停止したため、加害車も急停止しようとしたが、停止する寸前に被害車に接触したものであつて、原告主張のような一四か月間にも及ぶ休業を要する傷害が発生することはありえない。

原告は事故以前から頚部捻挫、腰部捻挫、左肩部捻挫等の既往症を有していたものであつて、本件事故後原告が通院していたとしても、右既往症の治療のためであり、本件事故との間の因果関係はない。

4  同4は認める。

三  抗弁(損害の填補)

本件事故による損害については、原告が自認している分以外に、被告から原告に対し一三万〇二五〇円の支払がなされている。

四  抗弁に対する認否

抗弁は認める。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  交通事故の発生

請求原因1の(一)ないし(五)の事実は、当事者間に争いがない。

二  責任原因(一般不法行為責任)

請求原因2の事実は、当事者間に争いがない。

従つて、被告は民法七〇九条により、本件事故によつて生じた原告の損害を賠償する責任がある。

三  損害

1  原告の受傷等

(一)  受傷及び治療経過

成立に争いがない甲第一号証の六ないし一二、一四ないし一六、一九、二〇、第二号証、第一三号証の一ないし五、乙第一ないし第三号証の各一、二、並びに証人近森清の証言、原告の本人尋問の結果(後記の採用しない部分を除く。)によれば、次のとおりの事実が認められ、原告本人尋問の結果中の右認定に反する部分は、前掲各証拠に照らして採用し得ず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(1) 本件事故は、加害車が時速約二〇ないし二五キロメートルで走行中、前方で被害車が黄信号のため停止しようとしていることに気付くのが遅れ、約三・七メートル後方に至つてようやくこれを発見し、ブレーキかけたが及ばず、前部バンパーを被害車の後部に追突させ、加害車は更に約二・一メートル進んで停止し、停止寸前であつた被害車は左斜め前方に約九・八メートル押し出され、原告が左足をついて転倒せずに停止したものであること

(2) 本件事故直後、原告は左足親指が少し痛いくらいであつたため、警察に対し本件事故を物損事故として届け出たが、被告や警察官から念のためできるだけ早く病院に行つて診察を受けるように勧められたこと

(3) 原告は、本件事故の翌日の昭和六〇年四月一〇日に多根病院で診察を受け、頚部挫傷、左足挫傷であるが、頭、首、肩、腰、左足の各部のレントゲン写真上骨に異常はなく、特に加療の要なしと診断されたこと

(4) 多根病院で診察を受けた後、たまたま原告が家業のコーヒー豆卸の得意先である近森整骨院に寄つた際、柔道整復師及び鍼灸師である同院長に対し本件事故のことを話したところ、同院での治療を勧められ、頚部捻挫、右肩部捻挫と診断され、その日から頚部の牽引や鍼治療を受け始めたが、その翌日の昭和六〇年四月一一日朝急に気分が悪くなり、吐き気がして起き上がれず、右手も上がりにくくなつたため、同年五月一七日まで合計九回にわたり同院に通院した結果、同院長の診断では右肩部捻挫は治癒し、右頭部痛なども軽減に向かつていたと考えられること

(5) 原告はその後桜川整骨院に転院し、後頚部痛等のほかに腰部痛や左第一中足骨内側部の痛みを訴えて、頚椎捻挫、腰椎捻挫、左第一中足関節捻挫と診断され、昭和六〇年五月二八日から同年一一月一一日までの間に三四回通院して治療を受けたが、通院中同院での治療後は非常に症状が良好になるが、日がたつと元に戻りやすい状態にあつたこと

(6) 桜川整骨院での治療と並行して、原告は東住吉森本病院に昭和六〇年一一月八日から同月一二日までの間に二回通院し、悪心、頭、顔面、頚部の疼痛を訴え、頚部、腰部捻挫傷と診断されたが、神経学的には特記すべき異常を認めないとされたこと

(7) 原告は、昭和六〇年一一月一四日から昭和六一年三月四日までの間に四八回、自宅の近くの小川病院に通院し、頚椎捻挫、腰椎捻挫、左第一中足趾節関節捻挫で治療を受けたが、その通院中著しい改善は認められなかつたこと

前掲甲第二号証によれば、小川病院においては原告の本件事故による傷害の症状固定日を昭和六一年三月四日と診断していることが認められるが、前記認定の事実によれば、桜川整骨院での治療の段階で既に症状の改善が困難な状態になつている上、小川病院での治療によつて著しい改善が認められなかつたこと、本件事故の態様、治療経過からみて、原告の受けた衝撃の程度はさほど強いものとは考えられないことなどが認められるから、これによれば、遅くとも本件事故から約七か月を経過し原告が桜川整骨院及び東住吉森本病院での治療を終えた昭和六〇年一一月一二日頃には原告の症状は既に固定していたとみるのが相当である。

また、前掲甲第一三号証の一ないし五、乙第二号証の一、二並びに証人近森清の証言によれば、原告は、いずれもゴルフの練習中の怪我のため、近森整骨院で昭和五八年一一月二日から同年一二月二九日まで頚部捻挫の、昭和五九年一月一二日から同年七月三〇日まで腰部捻挫の、同年八月六日から昭和六〇年一月三〇日まで左肩部捻挫の、同月一八日から同年二月二六日まで腰部捻挫の各治療を受けていることが認められる(原告本人尋問の結果中のこの認定に反する部分は、前掲各証拠に照らして採用しない。)が、同時にこれらの既往症はいずれも右各治療により治癒していることも認められるから、本件事故後の治療が右既往症のための治療であるとの主張は採用しがたい。

(二)  後遺障害

前掲甲第二号証によれば、原告は小川病院において、本件事故による後遺障害として頭痛、頚部痛、腰痛、両側上肢の倦怠感、左足底内側の疼痛などの自覚症状が残つたとの診断を受けていることが認められるが、同時に同病院においてこれらの症状は他覚的に把握しがたいので、今後の見通しは不可能とも診断されており、前記認定の本件事故の態様、治療経過などを考え合わせれば、原告の右症状は、補償を要する程度の後遺障害とは認めがたいといわざるを得ない。

従つて、原告の後遺障害による逸失利益及び後遺障害に関する慰藉料の請求は認められない。

2  治療費 二八万二五八〇円

成立に争いのない甲第三、第四、第六号証及び原告本人尋問の結果により真正な成立が認められる甲第五号証によれば、原告の多根病院、近森整骨院、桜川整骨院及び東住吉森本病院における治療費として、合計二八万二五八〇円を要したことが認められる。原告の小川病院における治療については、前記のとおり症状固定後の治療であり本件事故との相当因果関係がないから、その治療費を本件事故による損害と認めることはできない。

3  休業損害 四九万円

(一)  原告は、本件事故当時原告がコーヒー店の店長であると同時に、有限会社三恵鉄工所の従業員として勤務していた旨主張し、原告本人尋問の結果及びこれにより真正な成立が認められる甲第一〇ないし第一二号証には右主張に沿う供述ないしは記載が認められるが、他方において、前掲甲一号証の一四によれば、原告は昭和六〇年一二月一九日の警察での取り調べにおいて自己の職業としてコーヒー豆卸業経営で月収約二〇万円であるとのみ供述していることが認められること、原告本人尋問の結果によれば、右会社の代表者は原告の父であることが認められる上、右会社での担当業務の内容、給与及び休業に関する原告の供述は迫真性に乏しく、にわかに採用しがたいことなどから、原告の右主張を認めることはできないといわざるを得ない。

(二)  前掲甲第一一号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告はその母が代表者となつているコーヒー豆の製造販売業「クリスタルコーヒー」を母から任されて経営していたことが認められるところ、本件事故により原告は配達等の仕事が出来なくなつたため、その代わりにパートの従業員を一人月七万円で雇用せざるを得なくなつたことが認められるから、原告の休業による損害は右金額と対応すると考えるのが相当である。そうすると、原告の休業期間は前記のとおりその症状固定時までの約七か月間とするのが相当であるから、この間に原告が失つた収入額は四九万円となる。

4  慰藉料 二五万円

本件事故の態様、原告の傷害の部位、程度、治療経過、その他諸般の事情を考えあわせると、原告の慰藉料額は、二五万円とするのが相当である。

5  総損害額 一〇二万二五八〇円

四  損害の填補

請求原因4及び抗弁の事実は、当事者間に争いがない。

よつて、原告の前記総損害額から右填補額合計六九万三八三〇円を差引くと、残損害額は三二万八七五〇円となる。

五  結論

よつて、被告は、原告に対し、三二万八七五〇円及びこれに対する本件事故発生の日の翌日である昭和六〇年四月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告の本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 細井正弘)

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com