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大阪地方裁判所 昭和62年(ワ)3283号 判決

原告(反訴被告) 大松貿易株式会社

右代表者代表取締役 津田祐司

右訴訟代理人弁護士 梅本弘

同 片井輝夫

右輔佐人弁理士 小谷悦司

被告(反訴原告) ヒットユニオン株式会社

右代表者代表取締役 田辺克幸

右訴訟代理人弁護士 山本忠雄

本訴につき右訴訟復代理人、反訴につき右訴訟代理人弁護士 和田徹

主文

一  被告(反訴原告)は、トレーニングシャツ・パンツ、レジャースーツ、ジャンパー、ユニフォーム、ティーシャツ、ショーツ及びソックスに別紙(三)記載の標章を付したものを製造又は販売してはならない。

二  被告(反訴原告)は、その占有にかかる右標章を付した右物件を廃棄せよ。

三  被告(反訴原告)は原告(反訴被告)に対し、金二三三三万円及びこれに対する昭和五九年九月五日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告(反訴原告)の反訴請求を棄却する。

五  訴訟費用は、本訴反訴を通じて被告(反訴原告)の負担とする。

六  この判決は、第一ないし第三項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(本訴)

一  請求の趣旨

1 主文第一ないし第三項同旨

2 訴訟費用は被告(反訴原告、以下「被告」という。)の負担とする。

3 仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告(反訴被告、以下「原告」という。)の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(反訴)

一  請求の趣旨

1 原告は被告に対し、金五〇〇〇万円及びこれに対する昭和六二年四月一四日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2 反訴訴訟費用は原告の負担とする。

3 仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 主文第四項同旨。

2 反訴訴訟費用は被告の負担とする。

第二当事者の主張

(本訴)

一  請求原因

1 原告は、昭和五三年八月二三日訴外ヒュンメル・スポルトアルティーケルファブリーク・ベルンハルト・ベッケンブロック(後にポニー・ヒュンメル・スポルトアルティーケルファブリーク・ベルンハルト・ベッケンブロック・ゲーエムベーハーとして法人化された。以下両者を含めて「ヒュンメル社」という。)との間で、別紙(三)記載の商標(ヒュンメル社が西ドイツ国内において商標権を有していたもの。以下「ヒュンメル商標」という。)の使用許諾及び技術援助等に関する契約(以下「本件ライセンス契約」という。)を締結した。

2 原告は、同年一〇月一〇日被告との間で、本件ライセンス契約に基づき、ヒュンメル商標の再使用許諾及びヒュンメル社から提供される製造・販売情報の再提供に関する契約(以下「本件サブライセンス契約」という。)を締結した。その対象物品は、トレーニングシャツ・パンツ、レジャースーツ、ジャンパー、ユニフォーム、ティーシャツ、ショーツ及びソックス等である。右サブライセンス契約には、左の約定があった。

(一) 被告は原告に対し、被告の製品販売価格に対する一定率のロイヤルティ(但し、年間最低額(ミニマムロイヤルティ)を、初年度は四〇〇万円、第二年度は八〇〇万円、第三年度は一六〇〇万円、第四年度以降は二〇〇〇万円とする。)を支払う。

(二) 契約期間は三年とし、期間終了日の一四か月前までに、いずれかから内容証明郵便による破棄通告のない限り一年間更新され、以後も同様とする。

3 被告は、同年一一月頃から現在に至るまで、前記対象物品にヒュンメル商標を付したもの(以下「被告商品」という。)を製造及び販売、又は販売している。

4 被告は、本件サブライセンス契約に基づくロイヤルティの支払を昭和五七年五月二日以降しない。原告は、昭和五九年三月一二日付書面をもって被告に対し、昭和五七年五月四日以降のロイヤルティ二〇〇〇万円を支払うよう催告し、右書面はその頃被告に到達した。原告は、右催告から相当期間経過後の昭和六二年一月一九日付の訴変更申立書をもって被告に対し、本件サブライセンス契約を解除する旨の意思表示をし、右書面は同年同月二一日被告に到達した。

被告は原告に対し、昭和五七年五月二日から同六二年一月二〇日までの間(四年八か月一九日)のミニマムロイヤルティとして九四一九万円の支払義務がある。

5 原告は、別紙(一)番号1ないし5記載の各商標権(以下これらを合わせて、「原告商標権」といい、その登録商標を「原告商標」という。)を有している。

ヒュンメル商標は原告商標と同一又は類似するものであるから、被告が本件サブライセンス契約の解除後に被告商品にヒュンメル商標を付したものを製造、販売することは、原告商標権を侵害する。すなわち、被告商品のうちトレーニングシャツ・パンツ、ユニフォームについては別紙(一)の2、3及び5記載の商標権を、レジャースーツ、ジャンパー、ティーシャツ、ショーツ、ソックスについては同1及び4記載の商標権を侵害する。

6 (予備的請求1)

仮に被告の昭和五八年四月二五日付原告宛書面を解約申入と解して、右同日付で本件サブライセンス契約が有効に解除されたとしても、被告は昭和五七年五月二日から同五八年四月二五日までの間(三五八日)同契約に基づくミニマムロイヤルティとして一九六〇万円を支払う義務がある。

また、昭和五八年四月二六日以降被告はヒュンメル商標を付した被告商品を製造、販売し、又は販売してきたところ、右同日頃原、被告間において、原告は原告商標の使用を許諾し、被告はその対価として年間一〇〇〇万円の使用料を支払う旨明示又は黙示の合意をした。

仮に右のような合意が成立しなかったとすれば、被告は原告商標権を侵害したことになるところ、その場合の原告の損害は年間一〇〇〇万円を下らない。すなわち、被告がヒュンメル商標の使用を停止しておれば、原告は第三者に対し新たにサブライセンス契約又は商標権使用許諾契約を締結できたはずであり、その場合に原告の得られる利益は本件サブライセンス契約のミニマムロイヤルティを下回ることは考えられないから、原告の逸失利益は年間一〇〇〇万円を下らない。

したがって、昭和五八年四月二六日から同六二年一月二五日までの三年九か月の間に原告が被った損害は三七五〇万円となる。

7 (予備的請求2)

仮に本件サブライセンス契約が昭和五七年五月四日に終了したとしても、同年同月五日から昭和六二年二月四日までの四年九か月の間被告は原告に対し、原告商標権の侵害により年間一〇〇〇万円の割合による四七五〇万円の損害を支払う義務がある。

8 よって、原告は被告に対し、原告商標権に基づき請求の趣旨記載のとおりの商標権侵害行為の停止及び侵害物件の廃棄を求めるとともに、本件サブライセンス契約に基づくロイヤルティ又は不法行為による損害の内金二三三三万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五九年九月五日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1、2の事実は認める。

2 同3のうち、被告がヒュンメル商標中別紙(三)の(1)、(3)の標章を付した被告商品を製造、販売してきたことは認める。

3 同4のうち、被告が昭和五七年五月四日以降本件サブライセンス契約に基づくロイヤルティの支払をしないことは認めるが、同日以降のロイヤルティの支払義務があることは否認する。

4 同5のうち、原告が原告商標の商標権者として登録されている事実は認めるが、その余は否認する。原告商標のうち別紙(二)の各商標と別紙(三)の(1)(2)の各商標とは類似しているとはいえないし、別紙(三)の(3)の商標はその真実の保有者であるヒュンメル社のために便宜上原告名義で商標登録されているにすぎない。

5 同6、7の事実は否認する。

三  抗弁

1 原告とヒュンメル社は、昭和五七年五月四日本件ライセンス契約を合意解除した。本件ライセンス契約が終了したことに伴い、これと密接な関係にある本件サブライセンス契約も右同日をもって失効した。

なお、原告は、昭和五九年一一月二二日の本件口頭弁論期日に本件サブライセンス契約終了の事実を認めたのに、昭和六二年一月二一日陳述の訴の変更申立書で右自白を撤回したが、右の自白の撤回には異議がある。

(2)(一) ヒュンメル商標を付したヒュンメル社の商品は、西ドイツを中心とするヨーロッパ主要地域はもとよりヨーロッパ以外の国々でも広く知られたものであった。本件サブライセンス契約は、ヒュンメル社に帰属するヒュンメル商標の再使用を許諾し、かつ同社の優れた商品企画力、デザインを利用してヒュンメル社の商品の国産化を行うことを内容とするものであった。

(二) ところが、ヒュンメル社は、昭和五六年一〇月以降に事実上倒産し、同社の営業権は米国のポニー・インターナショナル社が支配するポニー・ヒュンメル社に移転され、さらに同年一二月には日本における権利も含めてデンマーク国のVNスポーツ社に移転された。そして、原告とヒュンメル社との間では、前記のとおり昭和五七年五月四日本件ライセンス契約が合意解除された。

(三) しかるに、原告は、右のような重要な事実を被告に秘し、漸く昭和五七年一一月頃に十分な事情説明もなさずに、本件ライセンス契約終了の事実だけを被告に告げた。被告は、その頃本件サプライセンス契約に基づく商品の生産を中止し、以後は在庫商品を訴外株式会社ダブルスコアーに供給するのみとした。同会社は、原告に別途商標使用料を支払っている。

(四) その頃、原告から被告に対し原告商標権を売りたいとの申出があり、ヒュンメル社の日本における権利も含めてVNスポーツ社に譲渡された事実を知らなかった被告は、ヒュンメル社が日本での商標権を放棄したものと考え、原告との商標権売買交渉を進めることとしたが、双方の条件に開きがあり、昭和五八年六月に交渉は中断した。その後同年九月に被告は、原告商標権の真実の権利者がVNスポーツ社であることを知り、原告との交渉を打切ることとした。

(五) 以上のとおりであるから、被告の行為が形式的に原告商標権を侵害したとしても、原告は本件サブライセンス契約の当事者として前述のような背信的行為をなしたものであり、原告の本件請求は権利の濫用として許されない。

四  抗弁に対する認否

1 抗弁1の事実は否認する。本件ライセンス契約の合意解除は、昭和五八年八月二二日を効力発生日とするものであり、右契約は同日をもって終了したものである。

原告は、はじめ「本件サブライセンス契約は被告からの解約申入れにより昭和五七年五月四日で終了した。」と主張したが、右主張は法律効果又は法律状態に関する陳述であるから、自白には当たらず、したがって右主張を撤回することは自白の撤回に当たらない。仮に右主張が自白に当たるとしても、右は真実に反し、かつ錯誤に基づくものであるから、撤回する。

2 同2のうち、原・被告間で原告商標権の売買の交渉が行われた事実は認めるが、その余は否認する。

(反訴)

一  請求原因

1 被告は、スポーツウェア等の製造、販売等を目的とする株式会社である。

2 原告は、昭和五三年八月二三日ヒュンメル社との間で本件ライセンス契約を締結した。

3 被告は、同年一〇月一〇日原告との間で本件サブライセンス契約を締結した。

4 ところが、原告は、昭和五七年五月四日ヒュンメル社との間で本件ライセンス契約を被告の承諾なく合意解除したため、本件サブライセンス契約に基づく被告に対するヒュンメル社のデザイン、パターン、製造技術、販売情報の再提供をする債務を履行することが不能となった。本件ライセンス契約において使用許諾されたヒュンメル商標は、その出所表示を西ドイツ・ヒュンメル社とし、同社製品の品質保証機能を帯有する商標であって、本件サブライセンス契約の対象となったヒュンメル商標の再使用許諾も、本件ライセンス契約のそれと全く同一の内容を有するものであるところ、本件ライセンス契約の合意解除の結果、原告が直接被告に対し許諾し得るものは、原告名義で登録がされていた別紙(二)記載の登録商標であって(但し、右時点で原告が右商標権を真実譲り受けたものと仮定してのことである。)、ヒュンメル商標と同一のものではないことになった。したがって、本件サブライセンス契約の商標の再使用許諾に関する部分の履行についても、商業的に価値あるグッドウィルを帯有していない単なる形骸のみの原告の登録商標についてのみ許諾可能となっているもので、このような商標の使用許諾が可能であったとしても完全なサブライセンス契約の履行とはいえず、本件サブライセンス契約上の商標使用再許諾義務の履行は不能となった。

5 右履行不能により、被告は、次のとおり逸失利益八〇〇〇万円の損害を被った。すなわち、被告は、本件サブライセンス契約第四年目以降年間約二億円程度の売上高を見込めたが、右事情により事実上販売停止に追い込まれた。販売利益は売上高の一〇パーセント程度であり、このようなライセンス商品は八年間程度のライフサイクルを有するので、もし取引が正常な状態にあれば昭和六一年一〇月三一日頃までは右年間販売高を維持できたはずである。したがって、被告は、右履行不能により昭和五七年一一月から同六一年一〇月三一日までの四年間に逸失利益八〇〇〇万円の損害を被った。

6 よって、被告は原告に対し、債務不履行による損害賠償請求権に基づき右損害の内金五〇〇〇万円及びこれに対する本件反訴状送達の日の翌日である昭和六二年四月一四日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1ないし3の事実は認める。

2 同4のうち、昭和五七年五月四日原告とヒュンメル社との間で本件ライセンス契約の解約が合意された事実は認めるが、その余は否認する。右解約の効力発生日は昭和五八年八月二二日である。

3 同5の事実は否認する。

第三証拠《省略》

理由

第一本訴について

一  原告が昭和五三年八月二三日ヒュンメル社との間で原告主張の本件ライセンス契約を締結したこと、原告が同年一〇月一〇日被告との間で原告主張の本件サブライセンス契約を締結したことは、当事者間に争いがない。

二  被告は、原告とヒュンメル社とは昭和五七年五月四日本件ライセンス契約を合意解除し、これに伴い本件サブライセンス契約も右同日をもって終了した旨主張するところ、原告は、はじめ「本件サブライセンス契約は被告からの解約申入れにより右同日で終了した」旨陳述し、後に右陳述を撤回した。被告の主張と原告の当初の陳述とを対比すると、本件サブライセンス契約が右同日をもって終了したとする点では同一であるけれども、その原因となる具体的事実において相違しており、法律効果の点で一致するにすぎないから、原告の右当初の陳述は自白に当たらず、その陳述の撤回は自白の撤回には当たらないものというべきである。

そこで、被告主張の本件サブライセンス契約の終了の有無について検討するに、成立に争いのない甲第一二号証は、ベッケンブロック(同人は、証人馬場智英の証言及び原告代表者本人尋問(第一回)の結果によれば、少なくとも一九八二年五月四日当時ヒュンメル社の代表者であったと認められる。)と原告代表者が署名した一九八二年(昭和五七年)五月四日付合意書であって、「ヒュンメル社と原告とは、一九八三年(昭和五八年)八月二二日本件ライセンス契約をヒュンメル社による同契約第一〇条違反により終了させることを合意した」旨の記載のあることが認められ、これと原告代表者本人尋問の結果(第一回)によれば、原告とヒュンメル社は、昭和五七年五月四日に本件ライセンス契約を同五八年八月二二日をもって終了させることを合意したことが認められる。右事実によれば、本件ライセンス契約は、原告とヒュンメル社との合意によって昭和五八年八月二二日に終了したものとはいえるけれども、被告主張のように昭和五七年五月四日限り終了するというものではないから、本件サブライセンス契約が右同日限り終了したと解することはできない。

右甲第一二号証の合意書にいう本件ライセンス契約第一〇条とは、《証拠省略》によれば、「当事者のうちどちらかが破産、解散又は閉鎖した場合は本契約書に記載されている全ての権利は無効となる。本契約は他の会社の資産として譲渡されてはならない。」との規定であることが認められるところ、《証拠省略》によれば、被告の側では、昭和五七年一一月頃に原告代表者から甲第一二号証の合意書を見せられ、そこにある前記ヒュンメル社による本件ライセンス契約第一〇条違反によりとの文言の記載その他から、以後本件ライセンス契約は昭和五七年五月四日に合意解約により終了し、これに伴い同時に本件サブライセンス契約も終了したとの解釈を取ってきたことが認められる。

しかしながら、甲第一二号証の合意書の前記文言は、右合意書のその他の文言をも参酌すると、直ちに右のような解釈を導くものとは解し難いのみならず、のちにみるとおり、ヒュンメル社は、昭和五七年五月四日当時は、破産もしくは解散をしていないことはもとより、日本での営業権ないしライセンス契約上の地位を他に譲渡するといったこともなく、引き続き営業を継続しており、ただ原告との本件ライセンス契約は昭和五八年八月二二日には終了させ、その後は日本での営業、新たなライセンス契約の締結等はしない予定であったにすぎないことが認められるから、甲第一二号証の合意書の前記文言も本件ライセンス契約の終了時期が昭和五八年八月二二日であると解することの妨げとはならない。他に本件ライセンス契約が昭和五七年五月四日に終了したものと認めるべき証拠はない。

ただ、右にみたとおり、本件ライセンス契約は昭和五八年八月二二日をもって終了したものというべきところ、サブライセンス契約は、ライセンス契約とは別個独立の契約であるとはいっても、ライセンス契約を前提として存続する契約であるから、ライセンス契約が終了すれば、これに伴って当然に終了するものというべく、したがって、本件サブライセンス契約も昭和五八年八月二二日をもって終了したものというべきである。

三  被告が昭和五七年五月二日以降本件サブライセンス契約に基づくロイヤルティの支払をしていないことは、当事者間に争いがない。

したがって、被告は、昭和五七年五月二日から同五八年八月二二日までの間本件サブライセンス契約に基づくロイヤルティの支払義務を免れないところ、前記争いのない本件サブライセンス契約の約定によれば、被告が右期間に支払うべきミニマムロイヤルティは年間二〇〇〇万円であることが認められるから、右期間のロイヤルティは合計二六一九万一七八〇円となる。

被告の権利濫用の抗弁は、右のロイヤルティの支払義務の不履行につき帰責事由がない、あるいはロイヤルティの支払請求も権利の濫用であるとの主張とも解することができるが、右主張の理由のないことは、のちに右抗弁に対する判断として述べるとおりである。

四  被告が被告商品にヒュンメル商標のうち別紙(三)の(1)、(3)の標章を付したものを製造、販売してきたことは、当事者間に争いがない。また、《証拠省略》によれば、被告は被告商品に別紙(三)の(2)記載の標章を付したものも製造、販売している事実を認めることができる。

五  原告が別紙(一)番号1ないし5記載の原告商標につき商標権者として登録されていることは、当事者間に争いがない。

被告は、右商標登録は、その真実の保有者であるヒュンメル社のために便宜上原告名義でなされているにすぎないと主張するので検討する。

《証拠省略》を総合すれば、原告とヒュンメル社が本件ライセンス契約締結のための交渉をしている段階において、当初はヒュンメル社が自らヒュンメル商標の日本での商標登録出願をすると口頭ではいっていたのに原告が催促しても一向にその手続をとらず、他方原告の調査の結果類似商標が多数登録済み又は出願中であることが判明したため、ヒュンメル商標を付した商品のわが国での製造販売を急ぐ必要から、とりあえず原告がその名義でヒュンメル商標の出願をしたこと、ヒュンメル社もその後右措置を是認していたこと、別紙(一)の番号4、5の商標は右の経緯で原告名義で出願がなされ、登録になったものであること、別紙(一)の番号1ないし3の商標については、本件ライセンス契約締結前に既に登録済み又は出願中であった他人の商標であるが、原告は、ヒュンメル商標がこれらの商標に類似すると判断されて日本での使用が制限され、或いはヒュンメル商標の登録出願が拒絶されるおそれがあると考え、これらの商標の商標権者と交渉して譲渡又は分割譲渡を受け、原告名義の登録を了したものであること、これらの原告名義の商標登録の費用はすべて原告が負担したこと、ヒュンメル社は、原告との間で本件ライセンス契約の解約を合意した後、原告商標に関するすべての権利を放棄し、原告が日本において右商標について完全な権利を有する旨言明したこと、ヒュンメル社の日本を除く各国の商標権等を譲り受けたデンマーク国のVNスポーツ社も、日本でのヒュンメル商標及び原告商標について原告が商標権及び登録出願によって生じた権利の帰属者であることを認めていること、以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

右事実によれば、原告は原告商標の真実の商標権者であると認められる。

六  被告が使用するヒュンメル商標と原告商標との類否について判断する。

1  まず、ヒュンメル商標のうち別紙(三)の(1)、(2)の標章の「hummel」という文字は、ドイツ語で「まるはなばち」を意味する語であるが、わが国における外国語の普及度に照らすと、右各標章は「フンメル」又は「ヒュンメル」と発音されるものと一般に理解されるであろうと考えられるから、右各標章からは「フンメル」及び「ヒュンメル」の称呼が生じる。

一方、原告商標のうち別紙(一)の番号1、2の商標からは「ヒンメル」との称呼が生ずるが、これは、前記の「ヒュンメル」との称呼と相紛らわしい。したがって別紙(三)の(1)、(2)の標章は別紙(一)の番号1、2の標章に類似する。また、別紙(一)の番号3の標章から生じる「フンメル」の称呼は別紙(三)の(1)、(2)の標章から生ずる「フンメル」の称呼と共通するから、これらも互いに類似する。

そして、被告商品のうちトレーニングシャツ・パンツ、ユニフォームについては別紙(一)の番号2、3の指定商品に属し、レジャースーツ、ジャンパー、ティーシャツ、ショーツ、ソックスについては同1の指定商品に属するものと認められる。

2  次に、ヒュンメル商標のうち別紙(三)の(3)の標章は「はちの図形」の標章であるが、これは原告商標のうちの別紙(一)の番号4、5記載の標章と全く同一である。そして、被告商品のうちトレーニングシャツ・パンツ、ユニフォームについては右番号5の指定商品に属し、レジャースーツ、ジャンパー、ティーシャツ、ショーツ、ソックスについては同4の指定商品に属するものと認められる。

3  したがって、被告が被告商品にヒュンメル商標を付したものを製造、販売することは、原告商標権を侵害し、又は侵害するものとみなされる(商標法三七条)。

七  被告は、被告の行為が形式的に原告商標権を侵害するとしても、原告には本件サブライセンス契約の当事者として背信的行為があったから、原告の請求は権利の濫用として許されない旨主張するので検討する。

《証拠省略》を総合すれば、以下の事実を認めることができる。

1  ヒュンメル社が有していたヒュンメル商標は、本件ライセンス契約締結当時、スポーツウェア等の商標として西ドイツのみならず北欧その他ヨーロッパ諸国においてもこれによる商品売買が展開されており、被告は、成長性のあるブランドであると判断して、原告と本件サブライセンス契約を締結した。

2  ヒュンメル社は、本件ライセンス契約締結当時ベッケンブロックの個人企業であったが、その後昭和五四年に米国のポニー・インターナショナル社とベッケンブロックの双方が出資して法人化し、ヒュンメル社はポニー・インターナショナル社の子会社となった。そのとき、本件ライセンス契約はそのままヒュンメル社と原告との間で効力を維持されることが確認されている。ところが、ヒュンメル商標は種々の事情から西ドイツ及び米国での十分な展開が困難とみられたため、昭和五六年一二月にポニー・インターナショナル社は、子会社であるヒュンメル社が有するヒュンメル商標の商標権及び各国でのライセンス契約上の権利等をデンマーク国のVNスポーツ社に譲渡する契約を同社との間で締結した。しかし、右契約においては、日本でのライセンス契約上の権利は譲渡の対象から除外され、ポニー・インターナショナル社において、原告との間で本件ライセンス契約を終結させるべく努力すべきものとすることが約されていた。

3  原告は、昭和五六年一二月ないし同五七年一月頃ポニー・インターナショナル社からのテレックスで前記VNスポーツ社への商標権等の譲渡の事実を知り、ヒュンメル社の代表者であるベッケンブロックとの間で本件ライセンス契約を解消する方向での交渉を進め、前記のとおり、昭和五七年五月四日に同五八年八月二二日をもって本件ライセンス契約を終了させることを合意した。

4  原告は、ヒュンメル社がポニー・インターナショナル社の子会社として設立されたことやヒュンメル商標の商標権がVNスポーツ社に譲渡された事実を漏れなく遅滞なく被告に知らせていたわけではなかったが、被告側の担当者にある程度の事実経過を報告していた。被告は、昭和五七年一一月頃に至り、同年五月に既に原告とヒュンメル社との間で本件ライセンス契約解約に関する合意がなされた事実を明確に知り、その後は本件ライセンス契約が同年五月四日に終了したとの前提に立って、本件サブライセンス契約に基づくロイヤルティの支払を拒むとともに、原告との間で原告商標権及び原告名義で出願中のヒュンメル商標の買取りについての交渉を進めた。しかし、右商標買取りの交渉は原・被告間で条件が折合わず、その後VNスポーツ社と連絡を取った被告が日本でのヒュンメル商標の権利者はVNスポーツ社であると判断し、昭和五八年九月頃右交渉は打切られた。(右のうち、原・被告間で原告商標権の売買の交渉が行われたことは、当事者間に争いがない。)

5  原告は、本件サブライセンス契約締結後三年位の間は右契約に基づきヒュンメル社のデザインによる商品のサンプル等を提供し、昭和五七年当時もヒュンメル社からサンプルの送付を受けていたが、被告の側から技術的には自社の方が上だからヒュンメル商標だけ使用できればよいとの申出があり、その後はヒュンメル社からのサンプルの提供等はしていない。

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

右認定の事実によれば、ヒュンメル社の有していたヒュンメル商標権等はVNスポーツ社に譲渡されたけれども、日本での権利はなおヒュンメル社に留保されていたものであり、ヒュンメル社自体昭和五七年五月四日時点で営業活動をすべて停止したわけではなく、原告はその後も昭和五八年八月二二日までは本件サブライセンス契約に基づく義務を履行することが可能であったというべきである。また、原告がヒュンメル社との間で本件ライセンス契約の終了を期限つきで合意したのは、ヒュンメル社側の原告としてはやむを得ない事情によるものであり、右合意の事実は期限到来の半年以上も前に被告に知らされているのであるから、原告の側に契約当事者として背信的な行為があったものとは認められない。

したがって、被告の権利濫用の主張は失当である。

八  以上によれば、原告が被告に対し、原告商標権に基づき被告商品にヒュンメル商標を付したものを製造、販売することの禁止及び右標章を付した右物件の廃棄を求める請求並びに本件サブライセンス契約に基づくロイヤルティの内金二三三三万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五九年九月五日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める主位的金員請求は、いずれも理由がある。

第二反訴について

一  請求原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。

二  被告は、原告が昭和五七年五月四日ヒュンメル社との間で本件ライセンス契約を被告の承諾なく合意解除したため、本件サブライセンス契約に基づく商標再使用許諾義務の履行が不可能となり、またヒュンメル社のデザイン、パターン、製造技術、販売情報の再提供をする債務の履行も不可能となったと主張する。

しかし、前記のとおり、原告とヒュンメル社間の本件ライセンス契約は昭和五七年五月四日に終了したものではなく、その後もヒュンメル社は存続し、被告がヒュンメル商標を使用するのに妨げとなる事実はなかったし、ヒュンメル社のデザイン等の供給も右時点で不可能となったわけではなく、その後被告が右供給を受けなかったのはむしろ被告の方で技術的に必要としていなかったことによると考えられるのである。昭和五八年八月二三日以降は、前記のとおり、本件サブライセンス契約が終了しているから、同契約に基づく原告の義務は存在せず、その履行不能ということもあり得ない。

したがって、被告の履行不能の主張は失当である。

三  よって、被告の反訴請求は、その余の判断に進むまでもなく理由がない。

第三結論

以上の次第で、原告の本訴請求(金員請求については主位的請求)はいずれも理由があるからこれを認容し、被告の反訴請求は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 露木靖郎 裁判官 小松一雄 青木亮)

〈以下省略〉

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