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大阪地方裁判所堺支部 昭和43年(ワ)215号 判決

原告

中西光男

被告

月星運輸株式会社

主文

被告は原告に対し金一七三万七六四九円およびこれに対する昭和四六年二月二九日より完済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告―「被告は原告に対し八七六万四二六四円およびこれに対する昭和四三年五月一二日より完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする」との判決

二  被告―「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決

第二請求原因

一  事故の発生

(一)  発生時 昭和四一年二月二日

(二)  発生地 堺市金岡町長曾根町路上

(三)  加害車 大型貨物自動車(以下被告車という)

運転者 訴外宮之脇芳貞

(四)  被害車 貨物自動車(以下原告車という)

運転者 原告

被害者 原告

(五)  態様 信号待ちのため停車中の原告車に被告車が追突

(六)  傷害 原告は右追突事故のため脳振盪、前額部挫創、項部捻挫、右腰部挫創、腰椎上り症の傷害を受け、

昭和四一年二月二日より同年同月一二日まで

金岡病院に入院治療

昭和四一年二月一三日より同年同月二八日まで

右病院に通院治療

昭和四一年三月一四日より同年四月一二日まで

右病院に入院治療

昭和四一年四月一三日より同年七月二六日まで

右病院に通院治療

昭和四二年一月二三日より同年五月二二日まで

泉佐野病院に通院治療

昭和四二年五月二三日より同年八月二二日まで

右病院に入院治療

昭和四二年八月二三日より同年一二月九日まで

右病院に通院治療

昭和四二年一〇月一九日より昭和四三年五月頃まで

阪大病院に通院治療

昭和四三年八月八日より昭和四四年六月四日まで

大阪船員保険病院に入院治療

昭和四四年七月一四日より同年一一月八日まで

右病院に入院治療

昭和四四年一一月九日より昭和四五年三月末日まで

右病院に通院治療

昭和四六年一月七日より同年二月六日まで

右病院に入院治療

昭和四六年二月七日より同年三月末日まで

右病院に通院治療

を受けたが、下肢の運動、知覚障害が後遺症(一一級)として残つた。

二  責任原因

被告は加害車を所有し、訴外宮之脇芳貞を雇備し、自己のため運行の用に供していたものであるから、自賠法三条に基づき、本件事故により原告の蒙つた後記損害を賠償する義務がある。

三  原告の損害

(一)  休業補償

(事故当時の月収)

原告は昭和三三年一月より泉南伊藤運送株式会社に自動車運転者として勤務し、一ケ月平均五万一三四六円の賃金をえていた。

(休業期間および休業による損害)

(1) 昭和四一年二月より同年四月まで(四割分)

六万一六一五円

(2) 昭和四一年五月より同年一〇月まで(一〇割分)

三〇万八〇七六円

(3) 昭和四二年二月より昭和四五年三月まで(一〇割分)

一九五万一一四八円

(4) 昭和四五年四月より同年一二月まで

二三万八二〇七円

(原告は昭和四五年四月より前記泉南伊藤運送株式会社に復職したが、当時原告と同経験を有する従業員は平均月収七万九六八六円を得ていたのに対し、原告は本件傷害のため軽作業にしか従事しえないため、平均月収五万三一六三円しか得られなかつたことによる損害金)

(5) 昭和四六年一月より同年三月まで(退院後の療養のため休業)

二三万九〇五八円

(但し原告の平均月収を七万九六八六円として計算)

以上合計 二七九万八一〇四円

(二)  逸失利益

原告は、前述のとおり前記後遺症のため軽作業にしか従事しえず、次のとおり得べかりし利益を喪失した。その額は二二三万一一六〇円と算定される。

(原告の月収) 四万二五〇〇円―一日一、七〇〇円、一ケ月二五日勤務

(本件事故がなければ受けえた筈の月収) 七万九六八六円

(労働能力低下の存すべき期間) 六〇ケ月

(三)  入院期間中(一五ケ月)の諸雑費

一三万五〇〇〇円

(但し一日三〇〇円として計算)

(四)  慰藉料 三六〇万円

四  損害の填補

原告は被告より本件事故による損害賠償金として次のとおり支払を受けたので、これを前記損害額より控除する。

(一)  昭和四一年二月二八日 六万円

(二)  昭和四一年三月九日 三万円

(三)  同年四月一日 二万円

(四)  同年五月六日 七万円

(五)  昭和四二年六月二日 二四万円

(六)  同年六月二二日 三万円

以上合計 四五万円

五  結論

よつて原告は被告に対し以上合計八七六万四二六四円およびこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和四三年五月一二日より完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三被告の答弁

一  請求原因事実中、原告主張の日時、場所において、原告車が被告会社の従業員訴外宮之脇芳貞運転の車に追突され、右追突事故により原告が極めて軽度の傷害を受けたこと、被告は原告に対し請求原因第四項記載の金員を支払つたことは認めるが、その余の事実は否認する。

仮に現在原告に身体機能障害があるとしても、原告はもと職業力士で、腰椎辷り症、同圧迫骨折のため角界から引退したもので、右の身体機能障害はこれに基因し、本件事故とは何ら因果関係がない。

第四被告の抗弁

一  仮に被告が原告に対し本件事故による損害賠償義務を有するとしても、昭和四二年六月二日原、被告間において、訴外中西和子を原告代理人として、(1) 被告は原告に対し既払の損害金のほか更に二四万円を支払い、(2) これにより後遺症問題を含め一切が解決すみであることを双方確認し、原告は以後名目の如何を問わず被告に対し請求をしたい旨の示談契約が成立した。よつて被告には原告の本訴請求に応ずる義務はない。

二  原告の本訴請求金額八七六万四二六四円のうち一八三万七〇九一円は、原告の昭和四六年二月二六日口頭弁論期日における請求の趣旨拡張の申立によるものであるが、右申立の時にはすでに本件事故発生の日である昭和四一年二月二日より三年を経過しているから、右拡張部分についての被告の損害賠償責任は民法七二四条により時効消滅しており、被告は本訴において右時効を援用する。

第五被告の抗弁に対する原告の認否および再抗弁

一  抗弁一の事実は否認する。原告は訴外中西和子に示談契約締結の代理権を与えたことはない。また被告が示談契約と称するもののうち(2)の事項については、右中西和子においてもこれに同意したことはない。

二  仮に原、被告間において、右(2)の事項につき示談が成立したとしても、右は訴外宮之脇芳貞等の代理人藤井武の詐欺によるものであるから、原告は本訴においてこれを取消す。

三  更に右示談は、原告の傷害が入院三ケ月、通院三ケ月で治癒するとの予測のもとになされたものであるところ、その後原告の傷害は予測に反する重傷であることが判明し、手術を余儀なくされ、事故後五年以上を経過した昭和四六年四月に至り漸く軽作業に就労可能となり、現在なお一一級に該当する後遺症が残つている。このように、本件では示談当時の予測が完全にはずれており、もし本件示談が維持されるならば、著しく原告に不公平をもたらす。本件事故は被告側の要望により事故届をせず、従つて保険の請求もできなかつた。このような事情のもとでは前記示談契約(2)の事項については拘束力がない。

四  抗弁二の事実は否認する。

第六原告の再抗弁に対する被告の認否

再抗弁事実は否認する。

第七立証〔略〕

理由

一  原告主張の日時、場所において原告車が訴外宮之脇芳貞運転の被告車に追突され、右追突事故により傷害を受けたこと(但し傷害の部位、程度および本件事故との因果関係につき争いのあることは後述のとおり)は当事者間に争いがなく、被告が右訴外宮之脇を雇用し、被告車を所有し、事故当時被告車を自己のため運行の用に供していたものであることについては、被告において明らかに争わないから自白したものとみなす。右事実よりすれば、被告は原告に対し自賠法三条により、原告が本件事故により蒙つた損害を賠償する義務あるものというべきである。

二  被告は、本件事故につき原告との間に示談が成立し、その余の損害賠償債務につき原告から免責を受けた旨主張するので、判断する。

〔証拠略〕によれば、原告は本件事故後金岡病院に入院あるいは通院して治療を受けたが治癒しないので、昭和四二年一月二三日頃より同年五月二一日頃まで泉佐野病院に通院治療を受け、同病院の医師のすすめにより、同月二二日同病院に入院、同年六月七日手術をうけ、その後引きつづき同年八月二二日まで入院、同月二三日より同年一二月九日まで同病院に通院治療を受けたが、その間昭和四二年六月二日原告代理人中西和子と被告会社大阪支店長井上勝太郎および宮之脇芳貞両名代理人藤井武との間に、本件事故による損害賠償として、原告は二四万円の支払を受け、本件事故による損害については同日以後如何なる名目のもとでも損害賠償の請求をなさない趣旨の示談が成立したこと、右示談当時原告は、前記認定のとおり、泉佐野病院において手術を受ける直前であつて、同病院の医師の、三ケ月程度の入院で治癒するとの見通しを信用し、その前提のもとに入院三ケ月、通院三ケ月と見込み、その間の生活費として前記二四万円を算出し、これをもつて本件事故による損害賠償として支払うことを双方了解し、示談が成立したこと、ところがその後原告の病状が予測に反して好転せず、後記認定のとおり入院および通院をくり返えして治療を受けたが全治せず、現在も下肢に機能障害が残り、軽作業が許される程度であることが認められ(前記各証人の証言中右認定に反する部分は措信しない)、一方〔証拠略〕によると、加害車の運転者である同人は、免許取消の処分を受けることをおそれ、本件事故の発生を警察官に届出ず、又本件事故の発生を当時被告会社の本店にも報告しなかつたこと、その結果自動車損害賠償責任保険金の支払請求をすることができず、原告は右保険金の支払を一文も受けていないことが認められる。

以上のとおり本件示談は、その成立当時原、被告とも泉佐野病院入院当時の医師の見込みをもとに、精々入院三ケ月、通院三ケ月程度をもつて治癒しうるものと信じ、かかる前提のもとに前記示談が締結されたもので、従つてその示談金額も僅か二四万円で、示談前に原告が四回にわたつて受領した一八万円を合算しても、本件示談後大幅に増大した原告の損害との間に著しい不均衡が存在するものというべく、これらの事実を綜合して判断すると、本件示談によつて原告が免除した被告等の損害賠償義務は、右事実関係のもとにおける損害についてのみであつて、その後新たに生ずるかもしれない不測の損害についてまでその賠償義務を免除したものと解すべきではない。従つて原告は本件示談成立後継続して発生した損害のうち、本件示談の前提となり対象となつた損害については右示談により定めるもののほかは請求できないが、本件示談成立後継続して発生した損害で示談当時予想せず、従つて示談の対象とならなかつたと認められる損害については、前記権利放棄条項の存在にもかかわらず、これを請求しうるものというべきである(原告は前記示談は訴外藤井武の詐欺によるものである旨主張するが、これを認めるにたる証拠はない)。

そうすると、原告は本件示談の対象となつている泉佐野病院における入院、通院期間中の損害についてはこれを請求しえないが、同病院での治療後に発生した損害についてはこれを請求できるものというべきである。

三  更に被告は請求の拡張された部分につき消滅時効の抗弁を主張するので判断するに、昭和四六年二月二六日口頭弁論期日における請求の趣旨の拡張は、本件損害賠償の金額を追加請求したもので、別個独立の請求権を行使したものでないことは明らかであるから(又訴状においても特に一部請求である旨の表示はない)、訴状で請求された請求部分と同時に拡張部分についてもともに、本訴提起により時効は中断されたものと解すべきである。

よつてこの点に関する被告の抗弁は理由がない。

四  よつて原告の損害につき検討する。

(一)  原告の傷害の部位、程度について

〔証拠略〕によれば、原告は本件事故により脳振盪、前額部挫創、項部捻挫、右腰部挫創の傷害を受け、昭和四一年二月二日より同月一二日まで金岡病院に入院したことが認められる。

さらに〔証拠略〕によれば、原告は前記傷害のため昭和四一年二月二日より同月一二日まで金岡病院に入院中、腰部に痛みを感ずるようになり、同病院退院後それが一層ひどくなつたため、同病院においてレントゲン検査をうけた結果、第一腰椎陳旧性圧迫骨折、陳旧性腰椎辷り症が発見され、その治療のため、原告は昭和四一年三月一四日より同年四月一二日まで金岡病院に入院、同月一三日より同年七月二六日まで同病院に通院、昭和四二年一月二三日より同年五月二一日まで泉佐野病院に通院したが、病状が好転しないため同月二二日同病院に入院し、同年六月七日手術施行、同年八月二二日退院、同月二三日より同年一二月九日まで同病院に通院、昭和四二年一〇月一九日より昭和四三年五月頃まで阪大病院に通院治療、昭和四三年八月八日より昭和四四年六月四日まで大阪船員保険病院に入院、同年七月一四日より同年一一月八日まで同病院に入院、同年一一月九日より昭和四五年三月末日まで同病院に通院、昭和四六年一月七日より同年二月六日まで同病院に入院、同年二月七日より同年三月末日まで同病院に通院したが現在なお、下肢の運動、知覚障害が後遺症(一一級)として残つていること、前記傷害はいずれも陳旧性のものではあるが、原告は本件事故前には右傷害についての自覚症状、神経症状はなく、本件事故後前記の神経症状が生ずるに至つたことが認められる。

右事実と証人米田篤の証言および前記鑑定の結果を併わせ考えると、原告にはもともと腰椎分離症に由来する腰椎辷り症があり、そこに本件事故による第一腰椎の圧迫骨折を伴う外傷が加えられて悪化し、種々の神経症状が発生するに至つたものと認めるのを相当とする。

以上の事実関係よりすれば、本件事故が陳旧性腰椎辷り症の悪化およびこれに伴う神経症状の原因をなしていることは明らかであるが、他方原告が事故前から有する腰椎分離症に由来する腰椎辷り症が他の一因となつていることも否定できない。ところでこのように傷害が単に事故を唯一の原因として発生したのではなく、被害者自身の有する潜在的な病気、体質的な要因と複合して発生したような場合には、その傷害に基づく損害全部を事故による損害ということはできず、事故が右傷害の発生に寄与している限度において、相当因果関係が存するものとして、その寄与度に応じて被告に損害賠償責任を負わせるのが、公平の理念に照らして相当と考えるところ、本件においては、本件事故と原告の体質的要素とのうち、いずれが主たる原因ともいえない関係にあることが認められるから、原告の前記腰椎辷り症に基づく損害については、本件事故が五割程度寄与しているとして、同損害の五割の限度で被告に賠償させるのが相当である。

(二)  よつて右損害額につき検討する。

(1)  休業補償

原告は本件事故直後より昭和四六年三月までの休業補償を請求するが、前述の理由により、前記示談の対象となつている泉佐野病院における通院治療の終わる昭和四二年一二月九日以前の損害についてはこれを請求することができないが、その後の損害については、被告においてこれを賠償する義務がある。そしてその金額は、〔証拠略〕によれば、次のとおり算定される。

(イ) 昭和四二年一二月一〇日より昭和四五年三月まで

一四二万二六八六円

但し原告の平均月収を五万一三四六円として計算

(ロ) 昭和四五年四月より同年一二月まで九ケ月間

二三万八七〇七円

原告は昭和四五年四月より前記泉南伊藤運送株式会社に復職したが、当時原告と同経験を有する従業員は平均月収七万九六八六円を得ていたのに対し、原告は本件傷害のため軽作業にしか従事しえず、平均月収五万三一六三円しか得られなかつたことによる損害金

(ハ) 昭和四六年一月より同年三月まで三ケ月間

二三万九〇五八円

但し原告の平均月収を七万九六八六円として計算

(2)  逸失利益

原告は前記後遺症により次のとおり、五二万二〇九六円の将来得べかりし利益を喪失した。

(収益) 月七万九六八六円

(労働能力喪失率) 二〇%(一一級)

(労働能力低下の存すべき期間) 三年

(右喪失率による毎年の損失額) 一九万一二四四円

(年五分の中間利息控除) ホフマン複式(年別)

計算による。

(3)  入院期間中の諸雑費

前記認定のとおり原告は大阪船員保険病院に、昭和四三年八月八日より昭和四四年六月四日まで、同年七月一四日より同年一一月八日まで、および昭和四六年一月七日より同年二月六日まで、それぞれ入院した期間(四五一日)中支出した諸雑費については、一日二五〇円として一一万二七五〇円と算定される。

(4)  慰藉料

前記のとおり原告の請求しうる慰藉料は、昭和四二年一二月一〇日以降の分として、前記認定の傷害の部位、程度、その入院治療の経過、治癒の程度、ならびに本件事故における被告の過失等諸般の事情を考慮すれば、原告の精神的苦痛を慰藉すべき額としては、一〇〇万円をもつて相当と認める。

五  以上のとおり原告は本件示談外の損害として、合計三五三万五二九七円相当の損害を蒙つたところ、前記認定のとおり被告の体質的要素を斟酌し、その半額である一七六万七六四九円が本件事故と相当因果関係に立つ損害と認むべきところ、原告が本件示談成立後の昭和四二年六月二二日被告より三万円を受領したことは、原告において自認するところであるから、これを前記一七六万七六四九円より控除すると、残額は一七三万七六四九円となる。

六  結論

以上の理由により被告は原告に対し、本件事故による損害賠償として一七三万七六四九円およびこれに対する昭和四六年二月二九日付原告準備書面送達の翌日であることが記録上明らかな昭和四二年二月二九日より完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務あるものというべきである。

よつて原告の本訴請求は右の限度において理由があるから認容し、その余は失当として棄却し、民法九二条但書を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 高橋水枝)

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