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大阪家庭裁判所 昭和44年(家ロ)145号 決定

後見人職務代行者 斎藤一男(仮名)

被後見人 宮野康司(仮名)

主文

後見人職務代行者斎藤一男に対する報酬を金二〇万円と定める。

理由

調査の結果によるとつぎの実情が認められる。

(1)  被後見人宮野康司(昭和四六年九月二日成年に達したので、後見終了。ただしこの決定書では便宜被後見人と表示する。)の母宮野順子が昭和四二年二月二二日死亡し、同人につき後見が開始したので、同年四月二四日その母方伯父宮野松造が後見人に選任せられ後見事務を行つてきた。

(2)  康司は、同四二年二月下旬から後見人松造方で同居して生活してきたが、後見人による財産管理に問題があり、また後見人家庭と融和を欠くような事情もあつて、同四四年三月一六日に後見人方を出て母の姉斎藤つる・一男夫妻のもとに身を寄せ、約一ヶ月生活をともにした後、肩書住所に移り現在に至つた。

(3)  後見人松造は、康司の身上監護のため同人を迎えて同居するにさいし、居住家屋の増改築の必要があつたことに関連し、その建築資金に康司の預貯金等の一部を流用するなど、財産管理の面で不明朗なことが少なくなかつた。

(4)  一男は、そのもとに身を寄せた康司から、後見人松造の財産管理上に問題があることを聞き、直ちに康司とともに、あるいは年少の同人に代つて、後見人との示談交渉・康司の財産返還請求に、積極的かつ熱心にあたり、当庁後見班阪根調査官の後見監督事務上の助言もあつて、まず後見人の財産流用等にもとづく費消金額二、五七〇、六四〇円を確定し、つぎにその支払い方法については、その頃の後見人の精神状態と支払能力を適切に考慮し、弁済可能な返済方法(元金二、五七〇、六四〇円、期間五年、利息年四分、毎月四二、八四〇円、六〇回分割払い)を定め、同四四年五月末日を第一回として同四六年八月末現在まで引きつづき合計金一、四二一、七七四円を受領し管理してきたものである。なおその弁済を確保するため、当庁調査官にも連絡した上、後見人所有不動産に抵当権を設定しその登記手続を済ませ、債務履行契約につき公正証書を作成した。

(5)  ところで、これよりさき康司は同四四年三月二四日当家裁へ後見人解任(当庁昭和四四年(家)第二二〇三号)の申立をなし、また一男は同四四年五月一三日後見人の職務執行の停止と同代行者選任の申立(当庁同年(家ロ)第一四四、一四五号)をなし、当家裁では、同四四年五月一五日、後見人の職務執行を停止し一男を職務代行者に選任し、その頃これを後見人らに告知した。

(6)  なお一男は、後見人松造が後見事務を執行中である同四二年四月、同後見人が康司所有の預金等を流用するおそれあることを懸念するとともに、自己の業務上資金調達の必要もあつて、後見人から、その保管中の康司の金一〇〇万円を年三分期間五年の約旨で借り受けたが、同後見人の職務執行中はもとより、自己が職務代行者に選任された後も、利息の支払いを履行しなかつた。しかし康司が成年に達し、一男の職務代行者の任務終了に伴い、当裁判所で調査したところ、来年四月の期限に履行を確約し、また代行者として報酬が付与される場合には、報酬金の受領と同時に金一〇〇万円に五年間の利息金一五万円を附加して支払うため約束手形を振出し交付することを確約した。

(7)  一男は、本件記録添付の斎藤康司財産目録明細仕末記(始末記の誤記と認められる。)のとおり、昭和四六年八月三一日に保管してきた康司の財産全部の引渡しを了え、職務執行中に取立て保管してきた金一、四二一、七七四円からさきに支出済みの二〇万円を控除した一、二二一、七七四円に普通預金利息二八、〇六八円を付加した金一、二四九、八四二円を、同年九月一四日に当家庭裁判所で康司に手渡し、職務代行者としての任務を完了した。

さて後見人の職務代行者に対する報酬については、家事審判規則第八六条による同第七五条の準用により、被後見人の財産のなかから相当の報酬を与えることができる旨定められているが、その職務の性質上、民法第八六二条に定める後見人の報酬に準じ、本来後見事務の執行が、未成年者保護等のため、公益的ないし社会福祉的性格の強いものであることに鑑み、無償を原則とみるべきであるが、他方、後見人また職務代行者にとつて時間的労力的にかなりの負担と責務を負わしめるものであるから、後見人(職務代行者を含む)および被後見人の資力、その近親関係・職業・社会的地位・後見事務の難易繁閑その他の事情によつては報酬を与えることができるものと解するのが相当である。従つて、後見人(職務代行者を含む)は、その職務上の身分にもとづき当然に発生する報酬請求権を有するものではなく、家庭裁判所の形成的処分を俟つてはじめて具体的にこれを取得するものである。

そこでいまこれを、上記認定の実情その他本件後見事務監督上知り得た一切の事情によつて検討する。まず一男が、被後見人康司の利益のために後見人に代つて後見事務を適切に遂行し、ことに後見人に関する債権取立に示した熱意と努力は、家庭裁判所の後見監督機能を補完するものとして高く評価されなければならない。この点に関し、被後見人に正当な理解と感謝を欠くかのような言動があつたことは遺憾としなければならない。しかし他面、一男が、後見人松造の職務執行中のこととはいえ、同人から金一〇〇万円を年三分の低利で借り受けた点は、その主観的心情はどうあろうとも、当時同後見人がおかれていた立場とその精神状態を考えあわせると、一男、松造の両名において必ずしも被後見人の利益を十分に考慮した結果といえず、この点に関し、年少の被後見人が不審ないし疑問を感じたことは当然であろう。以上の事情のほか、この後見事務にはかなりの労力と実費を要したにかかわらず、一男においては、これらの費用を請求しない旨を表明していること、康司も、金一〇〇万円の五年間の利息金一五万円を報酬として当然受領されたい意向を表明していたこと、その他両名の近親関係職務代行の期間など諸般の事情をあわせ考えると一男の後見人の職務代行については、同人の善意と努力を正当に評価し、康司において感謝の気持を以て応えるほか、その財産のなかから相当の報酬を付与すべきであり、その額については金二〇万円と定めるのが相当である。

なお念のため付記する。当家庭裁判所がこの九月七日に一男康司の両名を審問したところ、職務代行者の任務終了の直前に至つて、康司のアパート建築の企画に関し両名間に意思の疎通と融和を欠くようなことがあり、審問当日にもなお感情的な対立・しこりの残つていたことが看取された。しかし同月一四日の最終審問においては、両名ともに互いにそれぞれの立場・心情を理解しはじめ、当家庭裁判所で報酬額(これについては、本件職務代行者の後見事務の代行は近親者の情誼・善意に基づくものであり、また、叙上説示の如く後見事務執行の原則的無報酬性にてらし、契約等にもとづき事務を処理した場合や弁護士の報酬と異なり、管理財産の一割などということは根拠がなく、家庭裁判所において法の定めに従い相当額が決定されるものであることを説明した)が定められた場合には、康司はこれを一男に持参して後見事務の代行に対し感謝の気持を現わし(この審問当日も、康司は小声ながら謝意を述べた)、一男はこれを受領するとともに上記のように一一五万円の約束手形を交付するように(なお一男も上記審問当日に該約束手形を持参していたが、報酬額受領のさい新たに振出交付する旨確約)勧告したところ、両名とも快くこれを了承し、勧告どおり実行することを約し、両名間に精神的和解の気運がみられたことはまことによろこばしく、この決定があつた後には、両名とも過去の感情的なこだわりを捨て約旨どおり実行し、これを縁として互いに理解と感謝と寛容の気持をもつて、数少ない近しい親族としての情誼を回復しこれを永続されるよう念願してやまない。

よつて家事審判規則第八六条第七五条に則り、とくに理由を付記して主文のとおり報酬額を定めた。

(家事審判官 西尾太郎)

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