大判例

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大阪家庭裁判所 昭和50年(家)3488号 審判

本籍 鹿児島県熊宅郡

住所 大阪市

申立人 瀬川信子(仮名)

住所 申立人に同じ

事件本人 梨絵(仮名)

主文

事件本人の後見人に申立人を選任する。

理由

第1申立の要旨

1  日本国籍を有する申立人は韓国人朴元三(昭和一八年一一月一日生)と昭和四四年九月から同棲し、両者の間に昭和四五年八月一八日長女である事件本人が出生し、申立人と朴元三とは同日大阪府堺市長に対し、婚姻の届出をした。

2  朴元三は昭和四八年八月三一日以降行方不明となつた。

3  事件本人は父母の婚姻前に生れた子であるから日本国民である。朴元三が事件本人の出生届をしたことによつて認知の効力が生じ事件本人は韓国々籍も取得して、二重国籍者となつたがその後六か月内に日本国籍を離脱しなかつたので、韓国々籍を喪失した。事件本人には親権者がなく後見が開始した。

4  申立人は事件本人を養育しているので、主文と同旨の審判を求める。

第2調査の結果、当裁判所が認定した事実

1  申立人はその肩書の本籍地に本籍を有する日本人の女性であるが、昭和四二年頃韓国忠清北道清原郡に本籍を有する朴元三(昭和一八年一一月一日生の男性)と知り合い、両名は昭和四四年九月から大阪市生野区で同棲を始め、昭和四五年三月結婚式を挙げ、その後大阪府堺市に新居を構えて移転し、同棲を続けるうち、申立人は朴元三の胤を宿して昭和四五年八月一八日午前九時二六分大阪府堺市、○○産婦人科病院において事件本人(女性)を出産した。

2  申立人と朴元三とは昭和四五年八月一八日の正午頃、大阪府堺市長に対し、婚姻届を提出したが、申立人は、韓国の戸籍簿には登載されずまた、その後六か月内に日本国籍を離脱する手続をとらなかつた。

3  朴元三は昭和四五年八月三一日大阪府堺市長に対し、事件本人が昭和四五年八月一八日、父朴元三、母瀬川信子間の嫡出子として出生した旨の届出をした。然し、韓国の戸籍には登載されなかつた。

4  申立人は昭和四八年二月事件本人を連れて、その肩書住所に移り、朴元三と一旦は別居したが、朴元三が同年六月申立人らの上記住所に同居するに至つた。

5  朴元三は同年八月三一日上記申立人住所を出たまま帰らず、昭和四九年夏頃、大阪市東住吉区に住む朴元三の父、朴丁成を訪ねたが、それ以降行方不明である。

6  申立人は朴元三を被告として大阪地方裁判所に対し、悪意の遺棄を理由として申立人と朴元三とを離婚する旨の判決を求める訴を提起し、同裁判所は昭和五一年七月一五日申立人の請求を認容する判決を言渡した。朴元三は行方不明であるから、同人に対する呼出は公示送達による方法がとられており、同判決は上訴されず、そのまま確定したものと思われる。

7  事件本人は、その出生以来、引続いて申立人によつて監督養育されている。

8  事件本人が日本の国籍を離脱する手続をした事実はない。

9  事件本人は未だ日本国民としての出生届はなされていない。

第3当裁判所の判断

1  事件本人は、韓国国籍を有する朴元三(男性)と日本国々籍を有する申立人(女性)との婚姻前に、日本において、申立人によつて出生した者であり、朴元三が事件本人を胎児認知または出生と同時に認知した事実は認められないので事件本人は日本国民として出生したものといわなければならない。

2  事件本人が出生した後、申立人と朴元三とが婚姻しても、それによつて事件本人の国籍に消長がないことは多言を要しないところである。

3  朴元三が昭和四五年八月三一日事件本人を嫡出子として出生届をした。この届出は認知の届出の効力を有し(法例一八条二項、韓国戸籍法六二条)事件本人は韓国々籍法三条によつて韓国々籍をも取得した。

4  然し、事件本人がその後六か月を経過しても日本国籍を喪失しなかつたので、事件本人は韓国々籍を失つた(韓国々籍法一二条)。よつて事件本人は日本国籍のみを有するに至つた。

5  事件本人の親権については、法例二〇条により、父の本国法である韓国法によることになる。

韓国民法九〇九条一項には、未成年者である子は、その家にある父の親権に服従すると規定されているが、本件において、事件本人が韓国々籍を失い日本国籍のみを有するに至つた以上、父である朴元三が事件本人の家にあるということはできない。よつて朴元三が現在行方不明であるといなとにかかわらず、同人は事件本人の親権者となることはできない。

同条二項には、父が親権を行使することができないときは、その家にある母が親権を行使する旨規定されているが、ここにいう家とは韓国における戸籍を指すものと解すべきところ、事件本人が韓国籍を失つた以上韓国の戸籍簿に登載されるべきものではなく、また現実に申立人ともども韓国の戸籍簿に登載されてもいないのであるから、同項によつて母である申立人が事件本人の親権者となることはできない。

同条三項には、婚姻外の出生子に対し、親権を行使する者がないときは、その生母が親権者となる旨規定されている。事件本人は元来婚外子であつたが、父母の婚姻によつて婚姻中に出生したものとみなされ(韓国民法八五五条二項)、婚姻外の出生子ではなくなつたものであるから、生母である申立人が同項によつて親権者となることもできない。

そうすると、事件本人に対しては親権者がないことになり、後見が開始したものといわなければならない(韓国民法九二八条)。なお、後見開始は前記出生届から六か月を経過した昭和四六年三月一日であると解する。

6  法例二三条一項によれば、後見は被後見人即ち事件本人の本国法即ち日本の法律によることとなる。申立人は事件本人を、その出生以来監護養育しており、事件本人の後見人には申立人をおいてほかに適任者はいないものということができる。

7  よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 常安政夫)

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