大判例

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大阪家庭裁判所堺支部 昭和36年(家ロ)1号 審判

申立人 荒川節子(仮名)

相手方 岩下正一(仮名)

主文

相手方岩下正一を過料金三〇〇〇円に処する。

本件手続費用は相手方の負担とする。

理由

本件の経過は次のとおりである。

申立人と相手方との間の当庁昭和三五年(家イ)第一五七号婚姻予約不履行に基づく慰藉料請求調停事件につき、昭和三十五年十一月十一日に成立した調停によつて、相手方は申立人に対し慰藉料として総額金一五万円を支払うこととし、その支払方法として、内金五万円については昭和三十五年十二月五日限り、残金一〇万円については同三十五年十二月から完済に至るまで毎月金五千円宛(但し同三十六年六月には金一万円、同年十二月には金二万円)を毎月二十四日限り、当庁に寄託して支払うことと定められた。

然るに相手方は、同三十六年一月十四日と三月一日の両日に金五千円宛及び四月十日に金二千円を履行しただけで、その余の義務の履行を怠つた為め、当裁判所は、昭和三六年(家ロ)第一号履行命令事件において、相手方の陳述を聞いた上、同三十六年四月二十五日、同人に対し、同年五月八日までに金七万八千円を支払う旨の履行命令を発したが、同人は右履行期を経過してもその支払をしなかつたものである。

そこで相手方の上記不履行につき正当の事由の有無を検討する。

叙上の本件の経過に、上記慰藉料調停事件及び本件における当庁調査官の調査の結果、並びに申立人、相手方各審問の結果を総合すると、以下の実情が認められる。

相手方は、大阪市の公立中学校教員として月額約二万円程度の給与を得て相手方の母及び弟姉らと同居して生活しているが、相手方の母が軽飲食店を経営し相当額の収入を挙げているような事情もあつて、その生活程度は苦しい方ではない。しかし昨年暮から今年の初めにかけては、相手方の弟の病気などのため生活費がかさみ、そのため相手方及び家族らの生活にはやや余裕がなかつたもののようで、そうした事情から、その頃相手方は申立人に対し、調停で定められた義務の履行を暫時猶予して欲しい旨の通知をしている。

しかるにその後相手方としては生活に困るような格別の事情もないのに不履行を重ね、当庁調査官から履行の勧告を受けても、一応遅滞金全部の履行を約束するものの、その履行期がきてもこれを実行しないこと再三に及び、結局、調査官の厳重な勧告を受けて、漸やく上記のように昭和三十六年一月十四日と三月一日に各金五〇〇〇円、四月十日に金二〇〇〇円を支払つたに過ぎない。相手方の履行状況がこのように調停の趣旨に反し、第一回の支払から履行しないばかりか、履行期も全然守らず、調査官の勧告がなければ履行しないし、また勧告を受けてもなお遅延するような事情にあつた為め、申立人から四月十二日に履行命令の申立があつた。そこで、当裁判所は該命令を発する前に相手方の陳述を求めたところ、相手方は母の病気等のため履行を遅滞しているが、来る五月八日には金七万八千円を友人から借り受けて必ず支払う旨を繰り返えし明言するので、相手方のこのような事情や希望を充分に考慮して、既に期限の到来している残金全額(上記調停の調停条項第二項によつて、相手方は二回以上支払を怠つたことにより、分割弁済の利益を失い残金全額を支払わなければならない)のうち、金七万八千円についてのみ、五月八日に支払うよう履行命令を発した。

しかるに相手方はこの命令に従わなかつたので(僅かに五月十日に三千円、六月十三日に二千円だけ履行した)、同年六月十五日に過料の審判をすべきか否かを決めるため、相手方の陳述を求めたところ、相手方は、不履行の理由として、金七万八千円を借り受ける筈であつた友人の約束手形が旨くおちなかつた為め借用できなかつたからである、と述べるのであるが、そのことの真偽は別としても、さきの陳述において、相手方は当裁判所に対しあれ程固く履行する旨を約束していた点からみて、相手方の今回の不履行は、他に相手方の生活が特に困窮し、または履行を著しく困難ならしめるような特別の事情の認められない以上、著しく信義に反するものといわなければならない。

しかも当裁判所としては、上記陳述を聞いた後相手方の社会的地位や申立人の生活事情を考慮して、可及的速かに任意履行を期待して、なお一週間以内に履行するよう勧告の努力を重ねたものである。しかしながら、相手方は遂にこれを履行せず、七月五日に至つて僅かに金二〇〇〇円を支払つただけで、しかも相手方に対しこのように遅滞していることにつき、了承乃至宥恕を得るための努力をなさず、その他本件履行につき誠意の認められる態度を示さないで現在に至つた。(八月四日現在)

他方申立人は、離婚婦人として日常生活上も経済上もかなり困窮しており、そのため再三当庁へ書面を寄せ、また本人自身出頭して、本件義務の確実な履行を強く求めている。

本件の経過にみられる以上の実情からみて、調停成立直後の不履行は一応やむを得ないとしても、履行命令発令前後の相手方に支払能力がなかつたとは認められないし、また相手方の全般的な履行状況からみて、履行の誠意についても疑なきを得ない。

以上の次第で、相手方が本件不履行について正当な事由があつたものとは到底認めることができないから、過料金三千円に処することとし、家事審判法第二八条第七条非訟事件手続法第二〇七条に則り、主文のとおり審判する。

(家事審判官 西尾太郎)

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