大判例

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大阪簡易裁判所 昭和38年(ハ)537号 判決

原告 大林伝二郎

被告 学校法人 関西大学

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は請求の趣旨として被告は原告に対し金五万八千百円を支払えとの判決を求めその請求の原因として

一、原告の実子大林正志は被告大学の昭和三八年度の法学部学生募集に応募し受験の結果同年二月二八日合格確定し同年三月五日所定の入学手続を了え同日入学金等学費計金五八、一〇〇円を原告より被告に納付した(以下納付金と略称)

二、ところが右正志の都合により同年三月二二日右入学を取消し原告より被告にその旨通告し右納付金の返還を求めたが被告は之に応じない

三、然し学生が学費を支払ふことは学校から授業その他学生としての待遇を受けることに対する報酬であつて双方が互に対価的に債務を負ふ旨の契約に基因する従つて相手方の履行が完了した時その報酬を支払ふべきところ原告は之が前払いをしたことになる仍つて何等の履行無き前に解除すれば当然前払金の返還を受くべきである現に関西学院では前払いを受けてない

四、被告は右納入金は返さない契約になつているといふがそれは何等の話合いが有つたので無く学校の一方的意思に依り強要されたものであつて学生殊に親の立場では只管入学願望のあまり無条件に承認させられたものである。

要するに被告学校は対価的に受取つた右納付金を与ふべき何物をも与へず所得することは不法利得であつて信義誠実に反するものといふべきである仍つて右納付金の返還を求める為め本訴に及ぶ旨申立て立証として甲第一、二号証を提出し乙号各証の成立を認めた

被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め答弁として

一、原告主張の(一)の事実中その金員を原告が納付したとの点は争ふ原告の息子正志から受領したもので有る被告学校学則第四条に依り学費の納入者は入学を許可された学生になつているその他の原告主張中右納付金の返還方請求を受けたが被告は之を拒絶したことは認めるが其の他は争ふ

二、原告主張の納付金を分けると

(1)  学費の中には(イ)入学金(ロ)維持拡充費(ハ)授業料(ニ)校費体育実習費(ホ)実験実習費がある

(2)  其の他(イ)学友会入会金(ロ)学友会費(ハ)教育後援会費(ニ)生協出資金

右(イ)(ロ)(ハ)(ニ)はいづれも被告学校とは別個独立の団体であつて被告学校はこれ等団体に依嘱されて前示会費の受入事務を代行しているものである。

三、原告の納付金返還請求に応じられない理由は

(1)  被告学校は学校教育法施行規則第三条第四号第四条第一項第七号に則り関西大学学則を制定して文部省の認可を受けている原告の納付した前示(ニ)(1) の費用は右学則第四三条の定めるところに因るものであつて同第四六条には「すでに納めた学費その他は事情の如何にかかわらず之を返還しない」旨を定めている右学則は自治法規として法的規範力を有する。

四、尚被告は入学合格者に対しては合格発表の即日速達郵便を以つて入学許可通知書学則其の他参考資料を網羅した学部要覧及学費納入用紙等を送付するのであり然もその送付した学則には前記の通り一旦納入した学費は事情の如何に拘らず之を返還しない旨の記載があり学費納入用紙の領収書となる紙片の注意書にもその旨附記して注意を促している従つてこれ等の事情は原告及その息子に於ても十分知悉している筈である仍つて原告の本訴請求は失当であると述べた。〈立証省略〉

理由

一、仍つて審按するに原告の請求原因を要約すると原告主張前示

(一)  記載の如く原告の実子正志が昭和三八年三月被告大学に入学し右正志に於て被告主張前示(二)記載の如き内容の金五八、一〇〇円を納付したところ同年同月二二日入学を取消したから右納付金の返還を求めるといふのであつてこの事実については当事者間に争が無い

(二)  被告は右納付金は右正志が納付したもので原告から請求すべき理由が無いと述べているから考へて見るに右金員の納付者が正志名義であること及この納付について親権者たる原告の同意があつたことについては当事者間に争が無い然し入学を取消しこれが返還を請求することは納付の時には全く考へてない別個の権利として法定代理人たる親権者として行使すべきであるが本件は原告本人請求になつているから訴の形式が妥当で無いそうすると事実上出金した原告が民法第四二三条による代位訴訟なりや否やこの点については後に判断する

(三)  原告は右納付金は大学の施設を利用する対価であるから入学を取消せば当然返還を受くべきであると主張している前示納付金中にはいろいろの種目が含まれていて一律に言へないが仮りに右正志又は原告に於て之が返還請求権が有つたとしても之を抛棄することは自由であつて公序良俗に反するものでない成立に争無き甲第一号証乃至同第八号証ノ一二並証人大江久五郎同内田兼俊同坂部正武の証言によると被告大学は文部省の認可を受けた法的根拠を有する学則があつて本件のような納付金は如何なる事情があつても返還しない定則になつていて右正志は勿論原告に於ても十分知悉し得心のうゑ納金した事実が認められる従つて之が返還請求権は抛棄されたものと言ふべきである

一、原告の言い分によるとかような学則は大学が一方的に制定し入学生や両親の弱点を利用したものであるから公序良俗に反し無効であるといふのである然し原告の実子正志も亦一方的に入学を取消すことは結局違約である勿論取消し違約することは自由ではあるが約則は守らねばならぬ違約金を徴収することは一般に行はれている事であり殊に被告大学の如きは物的人的に広大な設備が為されているのであるから入学金その他の費用について違約者からこれを徴収することは決して公序良俗に反するものとは思はれぬかような学則は私立大学共通のものであることが前示証拠により明かである。

要するに前示代位によつても本訴請求はその主張が不十分であるから認容し難く訴訟的にも実質的にも原告の本訴請求は理由無く例へ正志から提訴しても同じであらふ

原告としては何となく被告が不当利得していて原告が不利益を蒙つているように思ふであらうが法的規範の下で生活するうゑには大局から見て当然の事であり止むを得ないことである

叙上説示の如く原告の本訴請求は理由無きものとしてこれを棄却し訴訟費用の負担に付民事訴訟法第八九条を適用し主文の如く判決する。

(裁判官 梨岡時之助)

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