大判例

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大阪高等裁判所 平成4年(う)821号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一年六月及び罰金一億五〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金四〇万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

理由

検察官の控訴の趣意は、検察官藤原彰作成の控訴趣意書記載のとおりであり、被告人の控訴の趣意は、弁護人中務嗣治郎作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、これらを引用する。

論旨は、いずれも、原判決の量刑不当を主張するものであつて、検察官は、原判決は、懲役刑の刑期の点及び罰金刑を併科しなかつた点で軽過ぎる、と主張し、弁護人は、原判決は、懲役刑の執行を猶予しなかつた点で重過ぎる、と主張する。

そこで記録を調査し、当審における事実取調べの結果を併せて検討すると、本件四か年分のほ脱所得額が合計一四億八〇〇〇万円余り、ほ脱税額が合計七億四七〇〇万円余りと巨額であるうえ、ほ脱率もうち三か年分は一〇〇パーセント、一か年分は九四・六パーセントと高率であること、ほ脱の手段も、有価証券の取引においては、取引証券会社を多数に分散し、親族、知人ら多数人の名義を借用して取引を行い、不動産売買においては、他人名義で登記していた物件については申告せず、あるいは取引原価を水増しし、架空経費を計上するなどして所得を圧縮するなど、計画的で悪質であること、その動機も、株式の再投資資金や海外での賭博による損失の補填に充てるためであつて、格別酌量すべき点がないことなどの事情に照らすと、その刑事責任は重いというべく、その後の税制の改正により、平成元年四月一日以後の証券会社に委託して行う上場株式等の譲渡による所得に対する課税が見直され、かりに改正税制の下で本件有価証券の取引を行つたとすれば、その税額が本件当時よりも大幅に減少する可能性があること、本件四か年分の本税を全額納付したこと、その他、被告人の資産、経済の状態や家庭の情況など、被告人のために酌むべき諸事情を十分考慮しても、被告人に対し懲役刑の実刑をもつて臨むのはやむをえないところといわなければならない。もつとも、その刑期の点は、右各事情にかんがみると、検察官が主張するように軽過ぎるとは考えられない。一方、罰金刑を併科しなかつた点は、右各事情のほか、その併科の趣旨が、単に犯罪によつて得た不正の利益を剥奪することにあるのではなく、脱税が経済的にも引き合わないことの感銘を得させるところにあること、納税義務者による巨額の所得税ほ脱事犯に関し罰金刑を併科した他の事例と均衡を失することにもなることなどに照らすと、軽過ぎて不当であるといわざるをえず、この点で原判決は破棄を免れない。

そこで、刑事訴訟法三九七条一項、三八一条により原判決を破棄し、同法四〇〇条ただし書に従つて更に判決することとし、原判決が認定した罪となるべき事実(ただし、原判決一枚目裏七行目に「所得金額」とあるのは「所得税額」の、同一〇行目に「須磨衣掛町」とあるのは「須磨区衣掛町」の、同二枚目表九行目に「所得税確定申告書」とあるのは「所得税確定申告」の、各誤記と認める。)は、いずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、各罪とも所定の懲役刑と罰金刑を併科し、なお、情状により罰金刑につき同条二項を適用することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い原判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年六月及び罰金一億五〇〇〇万円に処し、右の罰金を完納することができないときは、同法一八条により金四〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 青木暢茂 裁判官 寺田幸雄)

裁判官 喜久本朝正は退官のため署名押印することができない。

(裁判長裁判官 青木暢茂)

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