大判例

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大阪高等裁判所 平成4年(ラ)507号 決定

抗告人(債権者)

株式会社船場池田商店

右代表者代表取締役

池田義夫

右代理人弁護士

田邉満

相手方(債務者)

西成合同労働組合

右代表者委員長

福田徹矢

右代理人弁護士

中北龍太郎

主文

一  本件抗告を棄却する。

二  抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

第一本件抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。

第二当裁判所の判断

一当裁判所も、抗告人の相手方に対する本件仮処分申立は被保全権利を欠くので理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原決定の理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原決定三枚目表五行目の「大阪府地方労働委員会は、」と「その一部」との間に「平成二年一二月二七日と同三年二月六日にいずれも」を挿入し、同七行目の「現在も審理中である」を「現在も審理中である。そのため、平成元年の年末一時金交渉をはじめそれ以降の賃上げ、夏冬一時金交渉はすべて未解決のまま今日に至っている」と改める。

2  同五枚目裏三行目の冒頭に次のとおり付加し、同七行目の「申入書(〈書証番号略〉)」を「別紙添付の申入書一(〈書証番号略〉)」と改める。

「相手方は平成元年以降今日までの長期間一時金、賃上げ交渉が暗礁に乗り上げたまま経過している現状を憂慮し、組合員の窮状を打開するため抗告人の取引先へ直接はたらきかける方針を固めた。そして、」

3  同一一枚目表一〇行目の「申入書(〈書証番号略〉)」を「別紙添付の申入書二(〈書証番号略〉)」と改める。

4  同一一枚目裏七行目の「指導と」と「取引停止」との間に「それが効を奏しない場合の」を挿入する。

5  同一三枚目裏九行目の「ものであって、」と「労働者に」との間に「前記認定のその目的、手段及び態様に照らし」を挿入する。

二抗告人は、「取引先は、取引継続の意思を有しながら、相手方の取引停止要求により今後労使間の紛争に巻き込まれ迷惑がかかるのを恐れ、意思決定の自由を阻害された状況で余儀無く取引を打切った。」旨主張する。

しかし、〈書証番号略〉によれば、大阪府、大阪市は既に昭和五三年ころから物品購入や公共事業における工事契約に際しては法令に違反する行為があり主務官庁から通知のあった業者に対し一定期間指名から留保又は排除する等の厳正な措置を講じていることが認められるところ、前記認定の事実によれば、昭和六〇年相手方組合の結成後労使間で不当労働行為の有無や賃上げ問題を巡って多数の紛争が生じ、すべて未解決のままになっているので、相手方は窮状を打開するため抗告人の取引先で公共性の高い銀行方面へ直接はたらきかけ行政庁の方針にならって申し入れたのであるが、その方法、態様は取引先へ無理矢理押入って要求したのでもなく、集団の力を誇示して怒声、罵声をあげたり、組合旗、腕章、ゼッケンを着用するなど威力を示すこともなく比較的少人数で穏やかに面談しており、その申入内容も申入書(〈書証番号略〉)の記載事項を中心に、不当労働行為を認定した地労委命令を遵守するよう指導するようそれでも駄目なら取引中止を検討して戴きたいというものであって、取引先の自由な意思を阻害したとまでは認められないので、右主張は採用できない。

次に、抗告人は、「使用者の営業妨害を目的として第三者に対し抗告人との取引停止を求めること自体違法な組合活動である。」旨主張するが、取引先に対し商品の納入停止を呼び掛けたとしても一般通念上許容される表現の自由の限度にとどまる限りは違法とは言えないのであって、本件の背景下において前記認定の動機、目的、手段、方法及び態様での申入をもって正当な争議行為の限界を逸脱した違法行為ということはできず、他に右限度を超えて相手方が抗告人の営業活動を妨害したことを認めるべき疎明はない。したがって、右主張も採用できない。

他に原決定を取り消すべき違法な点はない。

三以上によれば、抗告人の本件仮処分申立は被保全権利を欠くものとして却下を免れず、これと同旨の原決定は相当であって本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官吉田秀文 裁判官弘重一明 裁判官鏑木重明)

別紙抗告の趣旨

一、原決定を取消す。

二、相手方は、その所属する組合員又は第三者をして、抗告人の取引先(親会社などの関係会社を含む)に対し、抗告人との取引を行わないこと若しくは抗告人との取引を中止することを要求し、又は右と同様の趣旨を記載した書面を持参又は送付させるなどして、抗告人の営業を妨害してはならない。

三、申立費用は相手方の負担とする。

との裁判を求める。

抗告の理由

一、被保全権利について

(一) 原決定は、債権者の営業権に基づく本件仮処分命令申立てについては、被保全権利の疎明がなく、理由がないことになるとして申立てを却下した。

しかし、被保全権利に関する原判決の判断は誤っており、抗告の趣旨記載のとおりの裁判を求めるものである。

(二) 原決定は、「債務者の役員や組合員が、債権者の取引先等に押しかけて労働組合の集団の威力を誇示したり、或いは取引を停止しなければ、取引先等に対して面談強要若しくは実力により業務妨害といった実力行使があり得ることを示唆して心理的圧迫を加えたということはできず、債権者の取引先等は、債務者の役員や組合員の申入れに対して意思決定の自由を阻害されることなく、取引停止を決定したというべきであるから、債務者の役員や組合員の申入行為が債権者の営業権を侵害する違法なものであったとは認められない。」と、結論する。

しかし、この判断は誤っている。抗告人の取引先等は、相手方の役員や組合員の取引中止等の要求によって、今後とも抗告人と取引を続けては労使間の紛争に巻き込まれ、迷惑がかかることを恐れるなどの心理的圧迫を受け、抗告人との間では従来どおり取引継続の意思があるのに、余儀なく取引打切りに至ったものであって、意思決定の自由を阻害され、取引停止を決定したというべきものである。原決定も、「取引先や関連の金融機関は、債権者と債務者との間の労使紛争に巻き込まれて自らの営業に支障の生ずることをおそれ、債権者との取引を停止することは十分考えられ、債務者においても、取引先が債権者との取引を停止することがありうると予想して申入れをしていたというべきである」と認定し、更に、相手方も銀行等が、「労使紛争に巻き込まれて自らの営業に支障の生ずることの予測」があることを推測し、申入書及び地労委命令を交付したうえ、「三和銀行信濃橋支店と取引のある債権者は、大阪地労委が不当労働行為を行ったと認定して救済命令を出したのにこれを遵守しない。公共性のある銀行がこのような反社会的な企業に対しては毅然たる態度を示すべきではないか。三和銀行の行員寮のレストランに債権者が肉を納入している件についても一度調査してもらいたい。まず債権者を強力に指導してもらいたい。それでも態度を改まらなければ肉の発注を中止することも考えていただきたい。」との申入れをした。」との事実を認定している。このような原決定の認定から見るならば、原決定のような結論に至る道理はないと言わねばならない。

しかも、債務者が直接の取引先である、みどりフード株式会社、萬興業株式会社、永楽興業株式会社を訪れず、親会社の銀行等を訪れた理由は、不特定、多数の預金者・取引先を顧客とする銀行は、労使紛争に巻き込まれることを最も懸念する業態であり、銀行関係の取引先については過去に労組による一円預金などの嫌がらせを受けた苦い記憶が生々しく、心理的にも揺さぶり易いと相手方が考えたのは当然である。直接の取引先としては取引継続を望んでも、親会社の懸念と取引停止の意向を無視しすることはできなかったと言わねばならない。

(三) 原決定は、「(債務者の役員や組合員は取引先に対し、不当労働行為の是正についての指導を行ったうえで、債権者の態度によっては取引停止の措置を検討するように申入れ、直接的な表現で取引停止を求めていないが、債権者との取引を停止した取引先等に対しては、債権者に対する指導の有無を問わず、以後申入れをしていないことに照らし、債務者の申入れの目的のひとつが債権者との取引を停止させることにあったということができる。)」と認定している。これによれば、三菱銀行、三和銀行はこの労使紛争により自らも影響を受けるおそれがあることを認識するであろうこと、従って相手方が訪れた取引先は、そのような影響を受けないためにも取引を打切ったのであると推認する事ができる。原決定も取引の打ち切りについてはそのように認定している。そうだとすれば、相手方の取引先に対し面会を求め、申入書等を交付し、面談のうえ取引先からの指導と取引の打切りを求めたことは、抗告人の営業活動に著しい支障を来したといわなければならない。

抗告人の労使紛争について、その取引先が、取引先であるという理由で、その解決のために何らかの尽力をなし得ることは殆ど考えられず、申入書等を交付し面会を求めた相手方の目的は、取引先に抗告人との取引をやめたほうがよい旨を告知し、その反応により抗告人を困惑させ、その圧力を背景として交渉を相手方に有利に取り運ぼうとするものであった。取引先に対する本件文書の配布や面会要求、抗告人に対する指導と取引停止の要求の行動については、組合活動としての限界を超えたものといわなければならない(同旨、東京地判昭和六〇年一二月二三日・労判四六七号、ヤーマン事件)。

(四) 抗告人は、原審において「その従業員である債務者の組合員が労働契約上使用者である債権者の利益を配慮すべき誠実義務を負っているところ、取引先等に商品のボイコットを働きかける行為は誠実義務に違反する」と主張したが、これに対し、原決定は「確かに債権者の従業員である債務者の組合員は労働契約上債権者に対して誠実義務を負い、債権者の取引先に対し、正当な理由がなく取引停止を求めたり、或いは虚偽の内容を告げて取引停止を求めれば、誠実義務に違反することになるが、本件の場合、債務者の組合員は、大阪地方労働委員会がなした救済命令を前提としてこれを債権者に遵守させて長期化している労使紛争を解決しようと考え、取引先等に対して取引停止の申入れをしたものであって、労働者に保障された争議権の行使として正当な行為であるから誠実義務に違反するということはできない。」とする。

原判決のいうように、銀行等に威圧を加えたどうかが問題ではなく、第三者に対し、結果的に会社との取引停止を求め、使用者の業務阻害を目的とした違法な組合活動を展開すること自体正当な組合活動とは認められない。

以上によれば、相手方役員や組合員の申入行為が債権者の営業権を侵害する違法なものであり、被保全権利は存在し、かつ、その疎明も十分であるといわねばならない。しかし、債権者が主張しているように、組合の「顧客に対し債権者との取引停止を求める」申入れは、原決定が認定するような争議権の行使である争議行為ではなく、組合活動に過ぎず、本件のような誠実義務違反、業務阻害は許されない。

二、保全の必要性

原決定は、保全の必要性について何ら判断を示していないが相手方は次ぎ次ぎと、抗告人の最良の顧客を狙って面会、面談を求め、抗告人との取引停止を要求しており、抗告人は相手方の取引停止要求闘争に対抗する手段がなく、原状のままでは座して死を待つのみであり、保全の必要性は極めて高い。

よって、抗告の趣旨とおりの決定を賜りたい。

別紙申入書一、二〈省略〉

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