大判例

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大阪高等裁判所 昭和24年(を)4589号 判決

被告人

沓沢皆蔵

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人小橋寿夫の控訴趣意について。

振出とは所論のように手形又は小切手の発行行為を云い、その成立には内部的な証券の作成行為と対外的な証券の交付行為との二段の行為を要し、振出人が法定要件を具備した手形に署名しただけでは、既に受取人が指定されて居る場合でも手形上の権利関係は単に潜在的なものに過ぎないけれども、振出人がその手形を受取人に交付することによつて潜在的であつた権利関係が現実的なものとなり受取人は手形上の権利を取得し、その手形は刑法第二五九条にいわゆる権利義務に関する他人の文書に該るものとなることは異議のないところである。原判決の認定した事実によれば被告人は昭和二十四年八月中旬過頃金額五万円の約束手形(支払期日同年十月三十一日)に畑悦治と共に連署しこれを野村鎌太郎(畑悦治の消費貸借上の債権者)に差入れたと云うのであつて右の事実は原判決挙示の証拠によつて認められる。「手形を差入れた」と云うことはとりもなおさず手形を交付したと云うことであつて、ここに提出行為は完了し野村はその手形を取得すると共に潜在的であつた権利関係は現実的なものとなつたのである。ところで野村はその手形を一覧の上被告人に交付しているのであるが、それは原判決挙示の証拠によると「支払期日に支拡を受け得ないときは更に期日を延期せねばならぬと考え、それには将来支拡期日を訂正する用意に手形の同所欄外上部に予め訂正用の捨印を貰うためであつた」と云うのであるから、手形が法定要件を具備していないとか、手形振出以前に捨印を押捺する約束があつたとか云う理由から手形の記載に不満を抱きその変更を求めて手形を突き返したものではなく一応手形上の権利に取得し、更に二段の行為として将来手形記載の支拡期日が到来した以後の用意は延期用の捨印を求めるため手形を被告人に一時預けたものと見るのが妥当である。それゆえに野村が手形を受取つてからそれに眼を通した時間とか、受取つて返還するまでの時間的経過の関係は問題ではなく、又原判決の証拠の取捨選択にも少しも誤りはない。被告人は手形上の権利義務が発生した後手形を受け取つたのを幸いに自己の署名部分に勝手に抹消したものであるから明らかに文書毀棄罪が成立する。論旨はいずれも理由がない。

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