大判例

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大阪高等裁判所 昭和25年(う)612号 判決

本籍

神戸市葺合区同井町二丁目二十九番地

住所

大阪市天王寺区一本町七丁目十五番地

化粧品製造業

横山義一

大正七年九月二十九日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について昭和二十五年一月二十一日大阪地方裁判所の言渡した判決に対し大阪地方検察庁検事正代理検事泉政憲から控訴の申立があつたので当裁判所は次のとおり判決する

主文

原判決を破棄する

被告人を懲役四月及び罰金七十万円に処する

但し二年間右懲役刑の執行を猶予する

右罰金を完納することができないときは金千四百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する

理由

大阪地方検察庁検事正代理検事寺西博の控訴趣意について検討してみるのに本件犯罪の動機、罪質、税金逋脱の方法、その逋脱税額その他の犯情に照し原審の科刑は寬に失するの不法あるものと認められるので論旨は理由あり原判決は破棄を免れない。よつて刑事訴訟法第三百九十七條第三百八十一條に従い原判決を破棄しなお本件は当審において直ちに判決をすることができるものと認められるから同法第四百條但書に依り更に判決をすることとし原判決の認定した事実に法律を適用すると被告人の原判示の所為は昭和二十五年法律第七十一号附則第二十一項により改正前の所得税法第六十九條第一項に該当するところ情により同條第三項に従い懲役及び罰金を併科しその所定刑期及原判示脱税額の五倍以下の金額の範囲内において被告人を懲役四月及び罰金七十万円に処し被告人の経歴、家庭の状況犯罪後の措置、態度等を斟酌し刑法第二十五條を適用して本判決確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予するを相当と認めるなお罰金を完納することができないときは同法第十八條により金千四百円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置することとし主文のとおり判決する

検事 米野操 関與

(裁判長判事 富田仲次郞 判事 柵木靱雄 判事 入江菊之助)

参照(検事控訴趣意書)

控訴趣意書

被告人 橫山義一

右被告人に対する所得税法違反被告事件につき昭和二十五年一月二十一日大阪地方裁判所が言渡した判決に対し控訴の申立をした理由は左の通りである

理由

原審判決理由は被告人は化粧品製造を業とする者であるが近時業界の競争激甚となり宣伝顧客維持等に多額の費用を要するに至つた為昭和二十三年一月一日より同年十二月末日迄の所得が合計金百六十万九千五百円であつたに拘らず之に対する所得税を不正に逋脱して之に当てようと企て二重帳簿によりその大部分を隠匿し前記年度に於ける所得は合計二十八万一千円であると虚僞の確定申告書を昭和二十四年一月三十一日所轄天王寺税務署長に提出し仍て之が差引所得の税額九十一万九千七百七十五円を不正に逋脱したものである事実を認め被告人に対し罰金五十万円及懲役四月に処し懲役刑については被告人が昭和二十三年二月頃から化粧品製造業を始めた所謂新興メーカーであつて近時業界の競争熾烈を極め旧来の有名化粧品に圧倒され延ては事業不振の為工場閉鎖も止むなき状勢に向はんとするに及んでその対策に苦慮した結果製品販路の拡張に狂奔し或は宣伝に或は顧客の維持に多額の費用を必要とするに至つた為この非常事態に処して緊急避難的な措置として本件犯罪が敢行されたものであり、犯罪後改悛の情が顯著であり、又逋脱額全部を逸早く納付し国家に対する損害を一応補愼した等の事情を斟酌して二年間その刑の執行を猶予する旨の裁判をした。

然し乍ら原審公判の各証拠を仔細に検討すると被告人の犯情は極めて重く且つ租税犯罪の特質に照し濫りに体刑の執行を猶予したのは相当でないと考へる。即ち動機が惡質である。

一、被告人の検察官に対する供述調書中の「私が所得を秘して脱税した理由、動機は私の様な新興事業者は昔から有名なメーカーに対抗販路を拡帳する為には非常に苦心を要したのでありますが、盛嘉商店は京阪神全部の百貨店に対する卸売であり同店の厚意で私の製品も百貨店方面へ納品される様になりました。然し旧メーカーの有名品に張合う為には多額の宣伝費を必要とし其の出所に窮して苦慮した挙句同商店に対する取引の一部を秘して夫により免れた税を其の方に補てんしたと考え昨年八月頃から只今明示の証第六号同第二号等の二重帳簿を作り実行したのであります」云々の供述記載によつて明白に認められる様に被告人は私利の追及の為には国に対する納税義務をも公然と無視して憚らないのであつて其の行為心情真に惡質と云はねばならない。

二、脱税の方法が惡質である

逋脱犯の構成要件は詐欺又は不正の行為により此の所得を免れ、又は免れんとする行為であるが、この不正の行為とは脱税を可能ならしめる積極的作為を謂うのであつて此の態様は千差万別であるが、其の内最も普遍的に行われるのが二重帳簿の利用であるその理由は秘匿が容易である反面帳簿の押收されない限り摘発が至難である為でそれ故に此の方法による脱税は殊に惡質であると言われる被告人が前記の様な動機に基き盛嘉商店に対する取引について二重帳簿を作成利用したことは被告人の自認する処であり、押收に係る証第六号同第二号帳簿の存在により明かである。

三、二重逋脱犯である

被告人は單に所得税を逋脱したに止らず物品税をも逋脱したものであることは被告人の検察官に対する供述調書中「証第七号は証第四号の売上欄に基く売上記入帳で物品税に関するものであります此帳簿により証第六号に秘匿さられた物品税も逋脱したことになるのであります」云々の供述記載及其等帳簿の存在によつて二百万円に及ぶ物品税を逋脱したことも明白である幸に物品税について告発がなかつた関係上起訴を免れてゐるのであるが又もつて本件の犯情を重からしめる一の事実であらねばならない。租税の本旨が負担の公平にあることは申すまでもない。然るに昭和二十二年申告納税制度が実施せられて以後此種犯罪が逐年累増の一途を辿り今日に於て国家の徴税権の行使に至大の障害を及ぼしつゝあるわ公知の事実であつて其の原因の一つとして脱税者に対する摘発処断の緩慢の為源泉徴税せられる勤労階級或は正当なる申告納税者等えの負担の公平が破壊され、為に正直者は馬鹿を見ると言う不満感を釀成し一般に納税協力の意志を減退せしめている事実を見逃してはならないのである

経済九原則第二項の脱税犯の嚴罰が吾国再建の方策として要請せられている事実を想起する迄もなく此種犯罪に対しては仮借することなく一罰百戒の見地に立つて嚴重処断を為すべきであつて原判決が、敍上の点に深い考慮を拂つたと認められる証跡に乏しく單に被告人の倒人的情状のみ促へ来つて、之が体刑の執行を猶予したのは不当であると信ずるのである

昭和二十五年六月 日

大阪地方検察庁

検事正代理検事

大阪高等裁判所 御中

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