大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

大阪高等裁判所 昭和27年(ネ)732号 判決

控訴人(申請人) 金田英太郎 外三名

被控訴人(被申請人) 神戸タクシー株式会社

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人等の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取り消す。被控訴人が控訴人四名を被控訴人の従業員として取り扱い、昭和二十七年一月一日以降毎月、控訴人金田英太郎に対し金九千六百二十三円、控訴人平山栄に対し金九千六百六十七円、控訴人土山功に対し金八千七百八十四円、控訴人家田博之に対し金七千二百十二円を支払うことを命ずる。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張は、控訴人の方で、(一)就業規則第四十九条(ル)項に特に勤務状態の不良な者というのは、水揚成績のあがらない者を指すのでなく、勤務ぶりのよくない者をいうのである。たとえ水揚成績がよくても、出欠常ならぬ者、事故の多い者は、右条項に含まれる。右条項が従業員の怠惰に基因する場合を指すものとするならば、控訴人等従業員を解雇しようとする被控訴人において、控訴人の怠惰の具体的事実を疏明しなければならないのは当然である。被控訴人は右条項の認定基準として(1)昭和二十六年三月から十一月までの運送収入の総計が五十万円以下の者(2)同年十二月の成績等を挙げておるのであるが、この解雇基準が原判決添付表その二記載の平均水揚高との関係で正当かどうかがまず問題である。被控訴人が解雇基準として(1)五十万円の総収入を挙げているのに、これによらず、これを上廻る右表記載の平均水揚高五十九万二千六百九十九円を基準として控訴人等従業員の水揚高の多少を論じ解雇の当否を判断することは、被控訴人に属する人事権の領域に立ち入ることで許されない。原判決において仮処分申請を認容された三名と、控訴人四名殊に控訴人平山栄との間において水揚高に大差はない。原判決添付表その三に掲げる神港タクシー株式会社、神戸相互タクシー株式会社は新しく設立せられた規模の小さい会社であつて、被控訴人は比較的歴史も古く、小さい会社のように乗客争奪に無謀な営業政策を採らないので、水揚高も多少低いのを免れない。又小さい会社には、車体の所有名義はタクシー会社となつているが、実際は名義料を会社に支払い全く自己の責任で経営し、従つて運賃収入が多額に上るものなどもあり、経営状態は千差万別であるから、この点に考慮を払わないで簡単に比較対照することはできない。(二)被控訴人が控訴人等を解雇しようとする真の動機は、控訴人等の組合活動をきらつてこれを排除するにあるのであるから、仮に控訴人等に形式的に懲戒解雇に該当する事由があつたとしても、不当労働行為として無効を免れないのである。(三)就業規則第五〇条に「制裁は運営委員会の決議を経てこれを行う。」と規定しておる以上、決議を経ていない解雇は無効であり、労使の委員会に可否同数となることは常に予期されることであり、可否同数の場合の処置について規定がないからといつて委員会の議に附しただけで充分で決議を経ることを要しないという結論を出すべきでない。労働協約等において決議、協議というのは労使互いに意見を尽し合い、相いはかつて事に応ずる最善の策を講じようとするのがその目的であつて、可否同数などは当初から問題とならない。(四)控訴人等はいずれも現に一定の職を有していないから、仮処分の必要があるのであると述べ、

被控訴人の方で、控訴人四名の平均賃金額が控訴人主張のとおりであることはこれを認める。本件仮処分には保全の必要性が存しない。即ち控訴人四名は解雇に当り三十日分の平均賃金に相当する解雇予告手当を受領し、その後失業保険金の給付を受けたばかりでなく、現在控訴人平山栄は神戸市内のオリエンタルタクシー株式会社に、控訴人土村功は神戸交通株式会社にいずれも自動車運転手として勤務し、控訴人金田英太郎は神戸市内日米商会に、控訴人家田博之は駐留軍関係に勤め、それぞれ少くとも生活を維持するに足りる収入を得ておるから、仮処分を求める必要がないものであると述べた外、いずれも原判決事実記載のとおりであるから、これを引用する。

(疎明省略)

理由

被控訴人が控訴人四名に対してなした本件懲戒解雇が、就業規則第四十九条(ル)項の特に勤務状態の不良な者に該当するものであることは、次に説明する以外、総て原判決の理由に記載するとおりであるからこれを引用する。

右条項において、特に勤務状態の不良な者というのは、従業員の怠慢に基かないで水揚高の少い者を含む趣旨でないことは明らかであるけれども、病気欠勤、担当車体の修理等従業員の勤惰に関係のない原因によつて水揚高が少いというような特別の事情の認められない限り、同一条件の下において十ケ月間の総水揚高が他の者に比し著しく少い者は、一応その者の怠惰に基因するものと推認することができる。被控訴人において控訴人等の怠惰の具体的事実を疎明しなければならないものではない。被控訴人が(1)昭和二十六年三月から十一月までの運送収入の総計が五十万円以下の者(2)同年十二月の成績(総額、日額、粁当を含む)(3)年間成績には稼働月を計算する。以上の基準による成績を総合し重複下位劣等者を以て右条項該当者としたことは当事者間に争のない事実であつて、(1)の昭和二十六年三月から十一月まで九ケ月間の運賃収入五十万円以下だけを基準としたものでなく、(2)の十二月の成績をも基準の一としたものであり、原判決添付表その二記載の十二月の平均水揚高五万九千四百二十七円(原判決添付表その二に五万九千百十六円とあるのは誤算と認める。)を右五十万円に加えた五十五万九千四百二十七円と控訴人四名の同年三月から十二月まで十ケ月間の総水揚高とを比較してみると、右期間中の実働総水揚高に稼動すべかりし日数の水揚高を増加修正した額は、控訴人平山栄は五十万八百七十円(原判決添付表その二に五月の増加修正額八万五千九百円とあるのは八万五千八百円の誤算であり、十ケ月間の増加修正額五十万九百七十円とあるのは前記の誤算と認める。)、控訴人金田英太郎は四十八万六千四百五十円(原判決添付表その二に八月の増加修正額四万三千二十円とあるのは四万三千五十円の誤算であり、十ケ月間の増加修正額四十八万六千四百九十円とあるのは前記の誤算と認める。)、控訴人土村功は四十六万三千二百七十円(原判決添付表その二に三十六万二千三百十円とあるのは誤算と認める。)、控訴人家田博之は四十四万一千百円となり、右五十五万九千四百二十七円の基準より遙かに低いこととなり、原審で仮処分申請を認容せられた平野友紀、長谷川芳一、国松政一と同一視することはできない。右基準は右期間中の被控訴人の従業員二十七名の総水揚高平均五十六万七千二百二十九円(原判決添付表その二に五十九万二千六百九十九円とあるのは前記の誤算と認める。)(これにも稼働すべかりし日数の水揚高を増加修正するときは更に多額となることは明らかである。)に比べて低く、被控訴人の従業員二十七名の総水揚高平均には控訴人四名の分を包含しておるもので、これを除いて計算すればその差は更に大きくなることが明白であるから、被控訴人の解雇基準を不当のものということはできない。

原判決添付表その三に記載せられた神港タクシー株式会社、神戸相互タクシー株式会社の水揚高には運転手が名義料を会社に支払い実際は個人の責任で経営するようなものを除いてあることは原審(第一回)証人沢山健治の証言により疎明せられ、タクシーの経営が各業者とも同一条件の下に行われるものでないことはいうをまたないけれども、他の業者の水揚成績を全然参酌に値しないものということはできない。

控訴人は、本件解雇は不当労働行為であると主張するけれども、成立に争のない乙第七号証、原審(第一回)証人沢山健治の証言により真正に成立したものと認められる乙第六号証の一、二、被控訴人主張のような写真であることについて争のない乙第八号証の一乃至三、右証言、原審証人小田代勝己の証言によると、被控訴人においては他の同業者に比べて一般に水揚成績が低いのでこれを向上させて経営の好転を図ろうとし、毎月各人別の水揚高のグラフを従業員の見易い所に掲示しており、昭和二十六年十月争議解決の際組合側も業績の向上に努力することを約したのにその実が挙らないので、同年十一月十八日被控訴人側から組合に対し水揚成績の悪い控訴人四名を含む十名について更に一ケ月間の成績を見た上で成績が挙らなかつたらやめて貰うより仕方がないと申し入れ、同年十一月末頃成績不良の十名の氏名とその三月から十一月までの水揚高を記載した表とを見易い所に掲示して注意を促したにかかわらず、控訴人四名の十二月の水揚高に大した向上の跡が見られず、右三月から十二月までの控訴人四名の水揚成績は被控訴人のタクシー部従業員の水揚成績の最下位にあつたため、被控訴人はやむなく控訴人四名を懲戒解雇したものである事実が疎明せられ、被控訴人が組合員である控訴人四名を排除することによつて組合組織の弱体化を企図したことを疑うに足りるような事情の疎明がないから、控訴人の右主張は採用できない。

控訴人は、本件懲戒解雇は運営委員の決議を経ていないから無効であると主張するけれども、就業規則第五〇条に制裁は運営委員会の決議を経てこれを行うと規定しておるのは、制裁については運営委員会の議に附し組合側の意見を聞いた上これを行うべきことを定めたものであつて、組合側の同意を必要とするものでないのはもちろん、運営委員会の議に附し組合側の意見を聞いた以上、組合側の反対により決議を経るに至らなかつた場合制裁を行うことができないものと解すべきでない。原審証人沢山健治(第一回)小田代勝己、増元喜久義、堤常吉の各証言を総合すると昭和二十六年十二月二十三日及び同月三十日に開かれた運営委員会において本件解雇が議に附せられたのであるが、組合側は解雇に反対を表明し或いは延期を主張し、決議を経るに至らなかつた事実が疎明されるから、控訴人の右主張も失当である。

そればかりでなく、当審証人沢山健治の証言によると、控訴人平山栄は昭和二十七年十一月頃からオリエンタルタクシー株式会社に、控訴人土村功は同年十月頃から神戸交通株式会社に、いずれも常勤の自動車運転手として雇われ、控訴人金田英太郎は同年八月頃から輸入自動車販売業の日米商会に雇われ、いずれもその生活を維持するに足りる収入を得ている事実が疎明せられるから右控訴人三名については現在仮処分を求める必要もないものといわなければならない。

被控訴人は控訴人家田博之は駐留軍関係に勤めていると主張するけれども、現在なお勤めていることについては当審証人沢山健治の証言によつても疎明されない。

そうすると控訴人四名の本件申請を却下した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条によりこれを棄却することとし、控訴費用の負担について同法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 大野美稲 熊野啓五郎 村上喜夫)

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com