大判例

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大阪高等裁判所 昭和31年(ネ)455号 判決

控訴人 一井徳之助

右訴訟代理人弁護士 仙波種春

森坂安太郎

被控訴人 松原旭呂三

右訴訟代理人弁護士 加藤正次

右訴訟復代理人弁護士 松田道夫

平尾義雄

森昌

主文

原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

右部分についての被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、(イ)被控訴人が、控訴人にたいし、本件家屋を、昭和二四年七月ごろ賃料一ヶ月二百円で、その後、同五百円となり、昭和二七年一二月より、賃料一ヶ月九百円で、後払の約のもとに賃貸し、(ロ)控訴人が、昭和二八年九月一日以降、右賃料の支払をしていないこと、(ハ)被控訴人より控訴人にたいし、昭和二九年四月一三日付書面で、昭和二八年九月一日以降、昭和二九年三月三一日まで、の延滞賃料合計六、三〇〇円を、同書面到達後三日間内に支払うべく、もし、その履行のないときは、賃貸借契約を解除する旨の催告、並に条件付賃貸借契約解除の意思表示をし、該書面が、同月一四日控訴人に到達したこと、(ニ)及び控訴人が昭和二九年八月以降、本件家屋二階全部を、訴外山下政美に転貸していたことは、当事者間に争がない。

二、先づ控訴人は、その主張のような必要費償還請求権により右賃料債務に対し相殺したと主張するから、この点を判断する。当審における控訴本人の供述ならびに、右供述により真正に成立したと認める乙第二号証の二≪中略≫を総合すると、控訴人は、本件家屋の雨漏はなはだしきため中島宗次によつてこれを修理した手間及び瓦代等として昭和二七年一一月二日及び四日三、八二〇円、昭和二八年一〇月二二日六、五〇〇円を支出したことを認めることができる。

被控訴人は、その主張のごとき事情よりして本件家屋について、控訴人は、被控訴人にたいし本件家屋の修繕を求めえない。したがつて、またその費用の償還請求をなしえないといい、

本件家屋の賃料が昭和二四年七月賃貸当初は、賃料一ヶ月二百円、その後五百円となり、昭和二七年一二月より九百円と値上げされたことは、当事者間に争がなく、本件家屋が木造瓦葺二階建階下三間(六帖、二帖、二帖)二階二間(六帖、四帖半)の家屋で三戸一棟の内一戸であることは、検証の結果に照らし明らかであるから、右賃料がかなり低廉なものであることは明らかであるが、その他に被控訴人主張の特段の事情は認められず、以上の理由で当然家屋の修繕の費用負担がすべて借家人にあるものと解しがたく、控訴人主張のごとき家屋自体の維持保存のためにも必要な費用のごときは賃料額にかかわらず特約なきかぎりその費用を償還すべきであり、かかる義務を負担してもそれが被控訴人の所有家屋の維持保存にも必要である以上、公平を失するものではない。

しかして、成立に争いのない甲第一号証≪中略≫によると、控訴人は、昭和二九年四月一五日ごろ、被控訴人の賃料六、三〇〇円の催告にたいし、その妻一井敏子をして回答書を被控訴人方に持参せしめ、一三号台風時において控訴人が右のような修繕のため費用を支出しているから右賃料はすべてこれにより相殺する趣旨の回答をしたものと認められる。右認定に反する原審もしくは当審における被控訴本人の供述は信用しがたく、他に右認定を覆すに足る証拠はない。したがつて被控訴人主張の延滞賃料は、右相殺により消滅したものと認むべきであるから、右催告にもとづく契約解除は効力を生じない。

三、被控訴人は控訴人が昭和二九年八月本件家屋二階を訴外山下政美に無断転貸したことを理由として昭和二九年一〇月二六日の口頭弁論期日において本件賃貸借を解除する旨意思表示をし、右転貸は、当事者間に争がないけれども、当審における控訴本人の供述(第一、二回)によると、控訴人の妻一井敏子が訴外山下政美の母と近隣知合いで、右政美が住居について困つていた関係上結婚するまでの一、二ヶ月の極く短期間ということで部屋を貸したが、昭和二九年一二月には結婚して転出したので、家主にとくべつな不利益を与えていないことを認めることができるから、賃貸借契約を終結させるに値するほどの信義違反を認めえず、したがつて右理由による解除はその効力を生じないものと認めるのが相当である。

四、よつて賃料の支払義務について判断する。

控訴人が、被控訴人にたいし昭和二八年九月一日以降賃料の支払をしていないことは、当事者間に争いがない。しかしながら、同年四月一日以降昭和二九年一二月末日までの賃料については控訴人主張のごとく供託せられていることは、当事者間に争いがなく、当審における証人一井敏子≪中略≫によると、控訴人の妻一井敏子は昭和二九年五月二八日被控訴人方に同年四月、五月分の賃料一、八〇〇円を持参提供したが、被控訴人は、すでに弁護士に依頼しあり、訴訟するとの理由により、その受領を拒絶したので、その後は提供しても拒絶されるものとして供託した事実を認めることができるから、右供託は有効に弁済の効力あり、したがつて、昭和二九年四月一日以降契約解除の意思表示のあつた昭和二九年一〇月二六日までの賃料債務もまたすでに消滅に帰したものである。しかして右解除以降については、被控訴人は解除の有効なことを前提として損害金の支払を求めるのであつて、解除の効力がないこと前説明のとおりであるから、この部分の請求も理由なきこと明らかである。

五、そうすると、被控訴人の本件家屋明渡並びに賃料、損害金の一部の請求を認容した原判決は不当であるから、原判決中右認容部分を取り消し、右部分についての被控訴人の請求を棄却すべきものとする。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条を適用し、主文のように判決する。

(裁判長判事 沢栄三 判事 斎藤平伍 中平健吉)

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