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大阪高等裁判所 昭和34年(ネ)1540号 判決

主文

第一審原告の控訴並びに当審における新訴請求は、いずれも、これを棄却する。

第一審被告黒藪の控訴は、これを棄却する。

控訴費用は第一審被告福本が支出した分は全部同被告と第一審原告との間で第一審原告の負担とし、第一審原告の支出した分はこれを二分しその一を第一審被告黒藪と第一審原告との間で同第一審被告の負担とし、その余は各自の負担とする。

事実

第一審原告訴訟代理人は、昭和三四年(ネ)第一五四三号事件につき、「1原判決中第一審被告福本朝一に対する部分を取消す。2右福本は第一審原告に対して原判決添付目録記載(イ)の家屋を収去してその敷地八坪四合二勺を明渡せ。仮に右2の請求がいれられないときは、3右福本は第一審原告に対して原判決添付目録記載の土地の内西北道路に接して位置する家屋番号第一六六番の木造亜鉛葺平家建店舗建坪五坪一合七勺を収去してその敷地五坪一合七勺を明渡せ。4訴訟費用は第一、二審とも右福本の負担とする。」旨の判決を求め、同年(ネ)第一五四〇号事件について「控訴棄却、控訴費用は控訴人の負担とする。」旨の判決を求めた。

第一審被告黒藪の訴訟代理人は同年(ネ)第一五四〇号事件につき「原判決を取消す。第一審原告の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする。」旨の判決を求め、第一審被告福本の訴訟代理人は同年(ネ)第一五四三号事件につき控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並びに証拠の提出援用認否は、

第一審原告訴訟代理人に於て、第一五四三号事件につき、「第一審被告福本が、仮に、第一審原告の本件土地所有権取得登記(右登記の日は昭和三〇年三月一七日)前にその所有にかかる原判決添付目録記載の(イ)の家屋の保存登記を了し、以て、原判示の如く、その敷地の賃借権を第一審原告に対抗できるとしても、右福本は第一審原告の右所有権取得登記後の昭和三三年五月一四日に、自己所有の右(イ)の家屋の一部(木造亜鉛鋼板葺平家建三坪二合五勺以下(ハ)の家屋と略称する。)を分割して訴外牛場栄一に右(ハ)の家屋を売渡し、同日その登記を了し、右(ハ)の家屋の敷地三坪二合五勺を第一審原告に無断で右訴外人に転貸したから、これを理由として、第一審原告は遅くとも昭和三七年一二月一七日到達の本件昭和三七年一〇月一九日付準備書面を以て右福本に対し本件宅地の賃貸借契約解除の意思表示をした。よつて、当審に於て新たに賃貸借終了に伴う原状回復義務の履行として、右福本に対し本件(イ)の建物の収去並びにその敷地八坪四合二勺の明渡を、仮に、右(イ)の建物の内右牛場に譲渡した部分((ハ)の家屋)の収去並びにその敷地の明渡を求められないとすれば、残余の家屋部分(控訴の趣旨3記載の通り)の収去並びにその敷地五坪一合七勺の明渡を求める。」と述べ、後記第一審被告等の主張事実を争い、第一審被告等の訴訟代理人は、右第一五四三号事件につき「第一審被告福本から訴外牛場栄一に対して第一審原告主張の(ハ)の家屋につきその主張の日売買に因る所有権移転登記がなされていることは認めるが、それは次の如き事情によるものである。即ち、右福本は昭和二一年吉田町復興同志会より本件宅地を借受け、右地上に右牛場と共同して本件(イ)の家屋を建築し、登記簿上は右福本の名義で保存登記をしたが(原判決中、右保存登記の日が昭和二七年一一月二〇日とあるのは、誤りにつき昭和二五年二月一日と訂正する。)、右建築の材料費、労賃等の負担の割合に応じて、当初より右(イ)の建物の東北部分三坪二合五勺(右(ハ)の家屋部分)は、右牛場がこれを建築設計事務所として使用し、残余の部分を右福本が住居として使用していたところ、昭和三三年五月に至り、従前の所有権関係を明確にするため、右牛場の前記使用部分につき前記の如く右牛場への所有権移転登記をした訳である。従つて、右福本と牛場との間には右使用部分たる(ハ)の家屋につき売買がなされたものではなく、当初より右牛場の実質上所有にかかる右(ハ)の家屋について登記簿上も実質と一致させるため、売買名義に仮託して移転登記をしたに過ぎない。それ故に、これによつて第一審原告との間の本件宅地の賃貸借に関する信頼関係は害されたとは考えられない。そして、特に、右の場合、第一審原告は右(ハ)の家屋の敷地三坪二合五勺についての賃貸借契約を解除するというのではなく、本件土地約二〇坪余の全部についての賃貸借契約を解除するというのであつて、右権利の行使は権利の濫用であつて許されない。」と述べ、更に、第一審被告等共通の主張として、「(イ) 本件宅地は終戦後第一審被告等その他の者が出資して結成された吉田町復興同志会の所有であり(但し名義人は同会々長天堀弥太郎であつた)、第一審被告等は同会より本件宅地を半分宛賃借していたのであるが、これは普通の賃貸借ではなく、従つて、同会に対しては賃料は免除され固定資産税のみを支払つていたし(乙第三、四、六号証参照)、又将来は会員たる第一審被告等が各借地を買取る約束になつていた。(ロ) その後同会々長天堀は本件宅地を勝手に訴外前川久三郎に売却したので、第一審被告等は己むを得ず右前川の取立に応じて同人に対して本件宅地の地代を支払つてきた。(ハ) 昭和二八年末頃から右前川は取立に来なくなり本件宅地の地主が誰であるか不明となつた。(ニ) ところが、昭和三〇年八月三一日大阪市長から第一審被告等に対し借地権確認書の提出方を求められたので、第一審被告等は右の事情を説明して地主が誰であるかを教えられて、はじめて本件土地の所有者が第一審原告であることが判明した。そこで、第一審被告等は誠意をつくして第一審原告に本件土地の地主であるか否かを問合せたが(乙第一五、一六号証参照)第一審原告から返事はなかつた。(ホ) ところが、同年一二月二六日になつて、突然、第一審原告は第一審被告等に対して本件土地を過大な価格で買取るよう要求し、第一審被告等は年末でもあるし考えさせてくれ、地代は計算の上支払う旨返事したが、第一審原告は翌日建物収去、土地明渡の要求をして来た。以上の如く第一審被告等としては本件土地を正当に賃借し、転々と代る地主に対して十分誠意をつくして来たのであるが、第一審原告は、第一審被告黒藪が本件建物の保存登記をしていなかつた事を奇貨として、建物収去、土地の明渡を求めるのであつて、本訴請求は権利濫用として許されない。」と述べた。

(立証省略)

理由

当裁判所は第一審原告の第一審被告福本に対する本訴請求は失当としてこれを棄却すべく、第一審被告黒藪に対する本訴請求は正当としてこれを認容すべきものと判定した。その理由は後記一、二、三を附加する外は原判決理由の通りであるから、ここにこれを引用する。(但し、原判決六枚目裏七行目から七枚目表六行目までを削り「権利自白の効果はその対象たる権利関係又は法律効果の存否の判断の基礎となる事実について主張も立証もない限り確定的である。しかしかような事実が主張されると裁判所はその事実に基づき法律判断をする義務を負う。そして権利自白も単なる法律上の意見にすぎなくなる関係上その主張自体から前提的な権利関係又は法律効果が否定される場合は勿論のこと、証拠上認定される主張事実からかような権利関係又は法律効果が否定される場合にも裁判所はこの権利自白に反する判断をすることが可能である。従つて一旦権利自白が成立した後でも事実自白と見得る部分を除き当事者は何時でも自由にこれを取消すことができる。本件においてこれを見るに一審原告は本件土地は元訴外人の所有であつたところ代物弁済を原因として所有権の移転を受けたと主張したのに対し一審被告等は一審原告の所有権者なることを認めるとしたものでその自白は専ら事実から推論した結果のみにつきなされ、事実については何等の自白をなされていないのでこのような権利自白は通常の事実自白と異なり取消すことを許すのが相当である。」を挿入し七枚目裏二行目同第一五、一六号証とあるのを削除し、八枚目表三行目信託的に右天堀の個人名義に登記していたこととあるのを信託的に右天堀の所有に帰せしめ且つ同人名義に登記していたことと改め、又同じく八枚目表の四行目に同年八月二〇日とあるのを昭和二一年八月二〇日と訂正し、八枚目表終りから四行目及び一〇枚目終りから五行目に各昭和二七年一一月二〇日とあるのを昭和二五年二月一日と訂正する。)

一 第一審原告は、第一五四三号事件につき、第一審被告福本はその所有の本件(イ)の家屋の一部((ハ)の家屋)を分割して、昭和三三年五月一四日右(ハ)の家屋を訴外牛場栄一に売渡し、同日その登記を了し、以て、右家屋の敷地三坪二合五勺を右牛場に転貸したから、これを理由に、右福本に対する本件宅地の賃貸借を解除した旨主張するので考察するに、右福本から右牛場に対して第一審原告主張の日右(ハ)の家屋につき売買に因る所有権移転登記がなされていること、第一審原告がその主張の如く無断転貸を理由として本件宅地賃貸借解除の意思表示をしたことは当事者間に争がないが、原審における証人牛場栄一の証言及び当審における第一審被告福本の供述によると、本件(イ)の家屋は右福本とその友人である右牛場とが共同出資してこれを建てたもので、その出資の割合に応じて(右の割合は明確でないが、右福本の方が若干多いと認められる。)、実質上右両名の共有にかかり、(ハ)の家屋部分は従前から右牛場がこれを建築設計事務所として使用していたもので、而して昭和三三年五月一四日に従前の右実質上の共有物件(本件(イ)の家屋)を分割することとなつて、右牛場が右(ハ)の家屋部分を取得し、これにつき売買名義による所有権取得登記をなしたものであることが認められ、仮にこれによつて右登記当時右(ハ)の家屋の敷地部分につき転貸借関係が生じたとしても、当裁判所が引用した本件宅地に対する吉田復興同志会及び第一審被告福本の関係についての原審認定事実、第一審被告福本の本件賃貸借の宅地坪数八坪四合二勺の内転貸借坪数は三坪二合五勺に止まる事実、転貸借地上には前記の如く当初より右牛場の使用する家屋が存在し、転貸借によつて当該土地の使用者についても又右土地の客観的な利用状況についても何等の異動変化のない事実、右家屋の所有名義を本訴けいぞく中に右牛場にかえたことも前記の如き当初よりの事情によるものである事実、第一審被告福本に於て、右家屋の所有名義を右牛場にかえた外は、従前本件宅地の賃借人として非難するに値する行為をなしたと認められず、又将来、不誠実な行為に出ることが予測される十分な根拠が見当らない事実にかんがみると、右転貸借により本件宅地賃貸借の信頼関係を破壊するものとは認められないから、これを理由とする第一審原告の解除の意思表示は無効で、賃貸借終了を原因とする第一審原告の右福本に対する請求(当審における新請求)はその余の点を判断する迄もなく失当である。

二 次に第一審被告黒藪は第一五四〇号事件につき第一審原告の本訴請求は権利濫用で許されないと主張するので考察するに、本件宅地は吉田町復興同志会が買受け、信託的に同会々長天堀の所有とされ、その名義の所有権取得登記がなされたこと、右黒藪は昭和二一年一〇月四日頃右宅地の半分を賃借し、その頃右賃借地上に家屋を建築居住してきたこと、右天堀が右宅地の所有権を前川久三郎に譲渡し、右黒藪は右前川に賃料を支払つてきたが、その後所有者が不明であつたため、右黒藪は右賃料を支払うことができず時日が経過していたところ、第一審原告は昭和三〇年三月一六日本件宅地の所有権を取得して翌一七日その登記を了したことは前記のとおりで、而して原審における第一審被告福本の供述により成立の認められる乙第三、四、六号証、成立に争のない甲第二、三号証の各一、二乙第一五、一六号証、当審における右黒藪の供述によると、右黒藪は本件賃借宅地をいずれ買受けることとなつていたもので昭和二五年頃からは吉田町復興同志会に対して賃料を支払わずその代り固定資産税を負担していたこと、本件宅地の所有者が第一審原告であることが判明してからは、第一審原告に対して賃料支払その他の交渉の申入れをなしたが、第一審原告に於てこれに応ぜず直ちに建物収去、土地の明渡を求めたことが認められるが、他方、第一審証人森本及び豊田の証言によると、第一審原告は本件宅地を関口政次に対する貸金の担保物件にとつていたが、貸金の弁済なきため代物弁済としてその所有権を取得したこと、その際債務者より本件宅地として現地指示をうけた土地は更地であつた隣地であつて、第一審原告は本件宅地上に右黒藪の所有家屋があることを知らずその後に右詐欺事実を知り、右黒藪の申入れに応ぜず不法占拠を理由として本訴請求に及んだことが認められ、以上の事実関係によると第一審原告に於ては、ことさらに、第一審被告黒藪に損害を与えることを目的として本件宅地の所有権を取得したものではなく、他の者の欺罔行為によつて本件宅地を更地と思つて担保にとり、その担保価値を実現せしめるために本訴請求をするもので他に特段の事由の主張立証のない本件ではこれを以ていまだ必ずしも権利濫用であるとはなし難い。よつて右黒藪の権利濫用の抗弁は採用できない。

三 以上、不法占拠を理由とする第一審原告の第一審被告黒藪に対する本訴請求を認容した原判決は相当で右黒藪の本件控訴は理由がないからこれを棄却すべく、又不法占拠を理由とする第一審原告の第一審被告福本に対する本訴請求を棄却した原判決は相当で第一審原告の本件控訴は理由がないから棄却すべく、又賃貸借終了を原因とする原状回復義務の履行として右福本に対し建物収去、土地明渡を求める当審の新訴請求も又理由がないからこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九五条を適用して主文のとおり判決する。

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