大判例

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大阪高等裁判所 昭和34年(ネ)723号 判決

控訴人 石橋辰蔵

控訴人 勝浦孝一郎

控訴人 榎本昭治

右三名訴訟代理人弁護士 板坂彰

同 大白慎三

同 大白勝

被控訴人 株式会社三和相互銀行

右代表者代表取締役 立林文二

右訴訟代理人弁護士 都馬有恒

主文

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じ被控訴人の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

昭和二九年九月三日訴外青果市場が原判決添付目録記載の家屋を元所有者訴外青果から買いうけたことおよび控訴人石橋が右家屋の階下を占有し、控訴人勝浦が右階下の西側四坪を、控訴人榎本が右階下の南西側二坪を占有していることは控訴人等の認めるところである。

成立に争ない甲第五号証≪中略≫を総合すると、右家屋については、訴外青果が昭和二七年一二月一八日被控訴人に対し、債権極度額金五〇万円、存続期間予めこれを定めず、とする契約にもとずく債務のため根抵当権を設定するとともに、その担保のため債務不履行のときに効力を発生する、存続期間賃借権発生の日から満三年、賃料月金一八、〇〇〇円毎月二八日払とする停止条件付賃借権設定を約し、同月一九日右停止条件付賃借権設定による仮登記がなされたが、昭和二九年一〇月一日右条件成就により昭和三〇年七月一四日右賃借権設定の本登記がなされたこと、昭和三二年一〇月一日の変更契約により右賃借権の存続期間が昭和二九年一〇月一日より満六年と変更せられ、昭和三四年一二月九日その旨の付記登記がなされたことおよび昭和三五年九月三〇日の変更契約により右賃借権の存続期間が昭和二九年一〇月一日より満九年と変更せられ、同日その旨の付記登記がなされたこと、一方控訴人石橋は昭和二八年一〇月二〇日訴外青果に対し金五〇万円を弁済期昭和二八年一一月三〇日の約で貸付け、期限に弁済ないときは同控訴人の一方的意思表示により右建物につき賃料月金三、〇〇〇円、期間の定なしとする賃借権の設定をうけ、これをもつて右債務の弁済に代えうる旨の代物弁済の予約をしたが、期限に弁済なきため昭和二九年五月二五日訴外青果到達の書面で右代物弁済予約完結の意思表示をし、同月二九日右建物を占有するに至つたことを認めることができ、右認定に反する原審証人米谷正義、前顕前沢・松井証人の各証言、甲第二号証の記載は採用しない。

被控訴人は、控訴人石橋がかりに本件家屋につき訴外青果と同控訴人主張のごとき担保契約をなしたとするも、右契約書たる乙第一号証の第三条の記載によると右担保の目的物は本件家屋における営業および賃借権であつて、両者は一体不可分の関係にあるところ、本件家屋は西宮市中央魚菜市場内にあり、同市場使用条例同施行規則細則の適用をうけ、営業については西宮市長の使用許可を要し譲渡性を欠ぐが故に担保としての性質を有しないから、右契約は無効であると主張し、控訴人等は右は時機に後れた主張であるとして異議を述べるが、被控訴人の右主張を判断するについてはすでになされた証拠調のほか特段の審理を必要とせず、これにより訴訟の完結を著しく遅延させるものではないから、控訴人等の異議の申立は採用しない。本件家屋が西宮市中央魚菜市場内にあることは控訴人等の明に争わぬところ、また右契約における担保の目的物が「本件家屋に入居して同所で営業をする賃借権」なることは乙第一号証により明であつて、本件家屋での営業につき同条例により被控訴人主張の許可を要するとしても、右営業と賃借権は法律上必ずしもこれを一体不可分とみなければならぬ理由はない。許可のあるまで営業をなさずして本件家屋を使用することは右条例の目的からみて規制外であることは多言を用しないところである。右担保契約において西宮市長の許可は営業譲渡の有効条件と解すべきであるから、未だその許可なしとすれば控訴人石橋は担保権の実行としては賃借権は取得したるも営業譲渡の効力は発生しておらぬというに止り、これを目的とする担保契約が無効であるとの被控訴人の主張は採用できない。

そして右各貸借における賃貸人または賃貸人たるべき地位は訴外青果から本件家屋を買いうけた訴外青果市場により承継されたことになるが、不動産の賃貸借につき対抗力を有する賃借権者は、爾後これに物権または賃借権を取得しこれを使用するものに対し直接明渡を請求することができるものと解すべきところ(最髙裁昭和二八年一二月一八日判決同庁昭和二七年(オ)第八八三号参照)、控訴人等は被控訴人主張の右賃借権は昭和二九年一〇月一日条件成就の日から満三年を経過して消滅している、従て賃貸借終了後になされた期間変更の登記は控訴人等に対抗することができない、また被控訴人の賃借権の対抗力は右条件成就の日以後において発生するものであるから、右条件成就以前に本件家屋の占有権および賃借権を取得している控訴人石橋に対し被控訴人は右賃借権を以て対抗することはできないと主張する。案ずるに賃貸借の期間変更につきその登記が付記登記の方法によつてなされることは不動産登記法第五条によつて許容せられ、付記登記されたときはその順位は主登記の順位により、主登記が仮登記にもとずくときはその順位は仮登記の順位によることは同法第七条の規定するところであるから、請求権保全の仮登記の場合といえども本登記のなされたときは、本登記の対抗力は物権の変動の生じたる条件成就の日まで遡及し、本登記の内容の実現と牴触する中間処分は対抗力の致すところにより存在の余地なきに至るはもちろん、この時期以前仮登記までの間になされた中間処分は仮登記による請求権保全の効果として本登記の対抗力と相容れない範囲においてその効力を失うことになる(大審院昭和八年三月二八日判決同庁昭和七年(オ)第二七四六号参照。なお控訴人等挙示の判例は本登記をなした仮登記権利者の対抗力が条件成就の日まで遡及することを判示したに止り、条件成就の日以前仮登記のときまでの仮登記による請求権保全の効力を否定したものではない。)

ところで被控訴人主張の賃貸借の権利変更関係を前記認定事実からみるに、まず昭和三二年一〇月一日期間変更の契約がなされ、昭和三四年一二月九日その旨の付記登記がなされておるのである。

しかし被控訴人の主張によると、被控訴人は訴外青果の債務を引受けた訴外青果市場に対し昭和二九年九月二四日、同月三〇日を期限として債務の支払を催告したが、訴外青果市場はこれに応じなかつたので、不履行の条件成就により同年一〇月一日本件賃借権を取得したというのであるから、右条件成就換言すれば被控訴人の賃借権取得の時は、催告期間の満了した昭和二九年一〇月一日午前零時であるといわなければならないから、民法第一四〇条但書により、右賃借権の期間を計算するに当つては、初日である昭和二九年一〇月一日を算入すべきこととなるから、これを算入して計算すれば、被控訴人が主張する賃借権は昭和三二年九月三〇日をもつて終了することが明らかである。すると被控訴人主張の同年一〇月一日の期間変更契約は賃借権消滅後になされたこととなるから、これが新たな賃貸借契約と認める余地があるか否かの点は別として、変更契約としては無効であると解すべきである。

そうだとすると右変更契約が有効であることを前提としてなされた昭和三五年九月三〇日の変更契約及び右各変更契約を原因としてなされた被控訴人主張の各付記登記もまた無効であつて、被控訴人は昭和二九年一〇月一日取得した賃借権及びその期間変更をもつて控訴人等に対抗し得ざるに至つたものというべきである。

以上の次第であるから、被控訴人が右賃借権をもつて現に存続中なりとし、これにもとずき控訴人等に対し本件家屋の明渡及び損害金(控訴人石橋に対してのみ)の支払を求める本訴請求は理由がない。

次ぎに被控訴人の予備的請求について按ずると、被控訴人が代位権の基礎とする賃借権及びその期間変更をもつて控訴人等に対抗し得ないこと前記認定の如くである以上、被控訴人は訴外青果に代位して控訴人等に対し本件家屋の明渡及び損害金(控訴人石橋に対してのみ)の請求をなす権利を有しないと解すべきである。

すると被控訴人の控訴人等に対する請求は第一次的請求、予備的請求ともに失当であるから、これを棄却すべく、これと結論を異にし、被控訴人の第一次的請求を認容した原判決は失当であるから本件控訴は理由がある。

よつて民事訴訟法第三八六条、第九六条、第八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判長判事 岩口守夫 判事 藤原啓一郎 岡部重信)

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