大判例

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大阪高等裁判所 昭和35年(ネ)435号 判決

事実

甲は昭和三二年三月二日乙より請負代金五一万円、材料手間賃共請負人の負担、建築した建物の所有権は乙において代金を完済したとき乙に移転する旨の約定で、本件係争建物を含む三戸建一棟の建築を請負い、甲名義で建築許可を受けて建築に着手し、昭和三二年七月二六日迄に乙よりその主張のとおり請負代金の分割払の完済があつたので、同日乙に対し右建築の許可証を交付して右建物の所有権を移転し、その引渡を完了し、乙は之をアパートとして多数の間借人に賃貸していた。ところが、甲の債権者丙は甲に対する金三三万円余の債権保全のため同人を債務者として大阪地裁に仮差押を申請し、同庁は昭和三四年四月一六日仮差押決定をなし、同庁の嘱託により大阪法務局は未登記の右建物に付職権により甲名義の保存登記をした上(不動産登記法第一二九条参照)、仮差押の登記記入がなされた。そこで乙は丙を被告として、右仮差押決定のなされた日より約二年以前に建物の所有権を取得していたことを理由として、民訴第五四九条による第三者異議の訴を起したが、大阪地裁は次の理由で乙の請求を却けた。

「本件建物に対し丙の申請により本件仮差押の執行がなされた際、乙がその物件の所有者であり、大阪府に対してその建築主としての変更の届出がなされていたとするも、不動産登記法による乙名義の保存登記は未だなされていなかつたのであるから、丙は乙に対し右登記の欠缺を主張するにつき、正当の利益を有する第三者であると解すべく、乙は丙に対し本件建物が乙の所有であることをもつて対抗することができないといわなければならない。従つて丙に対する関係においては、本件物件はなお甲の所有に属するものというべく、本件仮差押の執行にあたりなされた甲名義の保存登記は素より有効である。」

乙はこの判決に到底納得せず、控訴したのであるが、大阪高裁も右地裁の判決理由に次の理由を附加して、乙の請求を却け、原判決を相当と認めた。以下の判決理由の説明中にも、甲乙間において、いかほど所有権の移転に付常識上は疑を持つ余地がないとしても、法律上丙が登記の欠缺を主張するに付この正当の利益を持つことは如何ともし得ないとの趣旨が含まれている。

理由

「証拠を総合すると、請負人甲及び注文主乙は、右建物の完成後乙が請負代金を完済して引渡を受け、建物の建築主の名義を自己に変更した以上、之により同人等としては乙に所有権が移つたことに付何等の疑を持たず、所有権保存登記は右建物を更に他に譲渡するか或は之に付担保権を設定せぬ限り、不必要と信じたことを認定するに十分である。しかしながら、本件建物の建築工事が始まつた後であつても、それが法律上いまだ不動産と見ることのできない間に、乙に所有権が移る旨の特約があれば、登記手続をしなくとも所有権を以て第三者に対抗し得るに反し、本件においては建築が完成した後に始めて乙が所有権を取得する約定であつて、建築材料の所有権ばかりでなく、それが不動産となつた後も一旦甲の所有に属したのであるから、乙において所有権取得登記をしない限り、その所有権を以て第三者たる丙に対抗することはできない。」

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